表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/68

02.幼馴染と再会し、一緒に国を出る


 俺は悄然としながら、故郷の町へとやってきていた。

 ここはミョーコゥという、王都から南西に140キロ、徒歩で1日くらいかかる、田舎町だ。


 オチブレン殿下から追放され、国外追放を言い渡された。

 その後【すぐ】王都へ急いで戻り、それから【1時間後】。


 ここ、ミョーコゥへと戻ってきたのである。


「…………」


 ため息すら出ない。

 俺の気持ちは沈み切っている。


 正直、もう辛くて仕方なかった。

 俺はこれから孤児院へいき、国外追放された旨を伝えないといけない。


 どんっ。


「いってーな! どこ見て歩いてやがる!」

「あ、えと……」


 冒険者の男がぶつかってきたのだ。

 ミョーコゥは田舎町だが、ダンジョンが近くにあるので、結構人は来るのである。


「人にぶつかっといてなんだその態度はよぉ!」

「…………」


 すみません、という気力すらなかった。

 そのときだった。


「何やってるのっ?」


 涼やかな、女性の声が響き渡った。

 その声の主を、俺は知っている。今一番会いたい人であり、同時に、一番会いたくない人の声だった。


「な!? あ、あんたは……フレアさん」


 冒険者の男が彼女……フレアを見てつぶやく。

 フレア・サリエル。


 18歳。俺の幼馴染だ。

 ふわっとした髪質の金髪に、ハシバミ色の瞳。


 顔のパーツは神が作ったのではと思うほど整っており、胸は大きく、腰はくびれている。

 いつも優しい笑みを浮かべている彼女が、きっ、と冒険者の男をにらみつけていた。


 ずんずんと近づいてきて、フレアが男に注意する。


「彼に何をしてるの?」

「あ、いや……フレアさん。こいつがぶつかってきてさ。謝りもしねえからよ」

「それはいけないわね。でも、この人に何か特別な事情があったと思わないの? こんな暗く沈んだ顔してるのに?」


 フレアは男相手だろうと、物事をはっきりと言う。

 ……顔を見られちまった、頭のいいフレアのことだ、多分、俺に何かあったのだと事情をすぐに察して、助けてくれたのだろう。


「す、すまねえフレアさん……」

「わたしに謝らなくていいわ。彼に謝って。それと、リク、あなたもぶつかってすみませんでしょ」

「「すみません……」」


 よろしい、とばかりにうなずくと、男が去っていった。

男が見えなくなったところで、フレアは笑顔を俺に向けてくる。


「おかえり、リク。1年ぶり?」

「そうだな……そんなもんだったかな」


 気まずくて彼女の目を見れなかった。

 殿下のパーティに所属してから今日までの一年、ほとんど休みなしだった。


フレアに会いに来なかったことを、責められるだろうか……。

けれど彼女は微笑んで、ぎゅっとハグしてくれた。


「久しぶりにリクに会えてうれしいよ。元気そうだったら、もっとうれしかったんだけどね」

「フレア……」

「何かつらいことあったんだよね? つらかったね」


 彼女の体温を感じ、優しい言葉を聞いて、俺はもう駄目だった。

 つらい気持ちが一気に外に出る。


 情けなく涙を流す俺のことを、フレアはただだまって、頭をなでながらハグしてくれた。

 温かい……ああ、やっぱり、フレアのこと、俺は……。


    ★


 フレア・サリエル。

 サリエル孤児院の院長である、ダリューン・サリエルの一人娘だ。


 ダリューンさんは夫婦で、このミョーコゥの街で孤児院を経営していた。

 奥さんに先立たれた後、ダリューンさんはひとりで子育てをし、そして孤児院を回していた。


 そんなある日、俺は孤児院の前で捨てられていたらしい。

 ダリューンさんに拾われた俺は、彼とフレア、そして孤児院のみんなとともに生活した。


 サリエル孤児院はかなり貧乏だったが、俺たちは協力しながら、貧しいながらも楽しく暮らしていたのだ。

 特に仲が良かったのがフレアだ。


 彼女とは同い年で、本当の兄妹、いや、姉弟のようにずっと一緒にいた。

 その後、【とある出来事】がきっかけで魔法の才能に目覚め、王都にある王立魔法学校に通うようになるまで、俺はフレアとともにサリエル孤児院で過ごした。


 学校に通っている間、宮廷魔導士になってからもずっと、俺は彼女と文通を続けていた。

 俺は稼いだ金を全部、この孤児院に送金していた。


 それは俺を育ててくれたダリューンさんへの恩義もあるし、孤児院のみんなを援助したいって気持ちもあるけど、一番はフレアのためってことが大きかった。


 フレアは俺のことを子供のころから支えてくれた。

 魔法学校へ通うかどうか悩んだ時にも、背中を押してくれた。


 どんな時でも俺を励ましてくれた。

 そんな彼女のことが……俺は好きだった。


 だから、俺は国外追放されるって言われたとき、一番に浮かんだのはフレアの顔だ。

 もうフレアに会えなくなる、それが何よりもつらかったのだ。


    ★


 俺たちは街にある酒場にいた。

 孤児院に帰る前に、フレアには先に話を聞いてもらいたかった。


 俺は【今日】あったことを素直に話した。

 殿下にパーティを追放されたこと、冤罪で国外追放を食らったこと。


「なるほど……そのあと、国王陛下に報告しようとしたけど、取り合ってもらえなかったのね」

「ああ、殿下が門番に言ってたらしい。俺が来ても、城に入れるなってよ」


 結局国王陛下に報告することはかなわなかった。

 あと10日で国を出ないと、俺は捕まってしまう。


「俺はもう、ここには戻ってこれない。だから、お別れを言いに来たんだ、フレア。君に」


 するとフレアはちょっと考えて、納得したようにうなずくという。


「わかった。じゃあ、わたしもついていくね」

「うん。さみしいだろうけど手紙くらいは……え? ちょ、フレア? 今なんて?」

「わたしもリクと一緒に国を出るわ」

「は? へ? え、えええええええ!? な、なんで!?」


 どうしてフレアが付いてくるんだ!?


「なんでって、わたし、リクのこと好きだもん」

「す、すき……え!? す、好き!?」

「うん。好き。大好き。リクが国を出るならわたしもついていきます。国外のいいとこで二人で暮らしましょ」


 え、ええ!?

 そんな……ちょ、え、ええ……?


「どうしたの?」

「あ、いや……脳が、ついてけなくて」

「そう? なんで、わたしはリクのこと家族としてもそうだけど、男の子としても好きだよ。わたしたちの……ううん、わたしのために、いつも一生懸命なリクが好き」


 フレアは微笑むと、俺の手にふれて言う。


「孤児院のために、全額寄付してくれてさ。もういいって言っても聞かないんだもん。頑固ものめ」

「す、すみません……」

「ううん、謝らないで。本当に助かってるし。でも、もういいのよ」


 あのね、とフレアが続ける。


「こないだね、ダリューンおとうさんに、ミョーコゥの冒険者ギルドのギルドマスターにならないかって打診が来たの」

「は!? え、ええ!? す、すごいじゃんか!」


 確かにダリューンさんは若いころ、すごい冒険者だったと聞く。

 孤児院を経営するにあたって、引退したらしいけど……。


「でも、どうして? そんな話が?」

「実はお父さん再婚することになったんだ」

「ええええええ!? 聞いてないんだけど!!!」

「お父さんシャイだからね。このこと知ってるのも娘のわたしだけよ」


 そ、そうなのか……。


「新しいお母さん、すっごく仕事できるひとでね、正直お父さんより役に立ってるんだ」


 確かに、ダリューンさんはかなり不器用な人だ。

 さらに金勘定も苦手ときている。正直、孤児院の経営はむいていないと思っていたんだよな……(死んだ元奥さんのほうが経営得意だった)。


「リクからの仕送り金と、新しいお母さんのおかげで、孤児院は貧乏から脱出したわ。リクの仕送りももう必要ない、わたしにも好きなことしなさいって」

「そう……だったのか」


 俺がいなくても、よくなったってことなのか……。

 うれしい反面、悲しくも……。


「こーら、なに勝手に落ち込んでるんだ、リクト・ガードマン」


 つん、とフレアが俺の額をつついてきた。


「いくらお母さんがすごい経営者だったとしても、元となるお金がなきゃ孤児院は貧乏なままだったよ。立ち直れたのは、リクの支援があったからだよ。本当に、感謝してる。わたしも、孤児院のみんなも」


 でも、とフレアが続ける。


「もう大丈夫だから。もうリクは頑張らなくていい。これから好きに生きていいの」

「好きに……」

「ねえリク、わたしのこと嫌い?」

「いや……好き」


 ……驚くことに、すんなり言えた。

 今まで言おうと思ったことはたくさんあったけど、照れくさくて言えなかった言葉。


 いや、こわかったんだ。

 フレアのこと好きだけど、向こうは俺のこと、家族としてしか見てくれてないんじゃないかって。


 告白して拒まれたら怖いから、俺はずっと思いを伝えられないでいた。

 でも今は、彼女から好きって言ってくれた。

 だから、俺は迷いなく好きって言えたのだろう。


「ならほら、一緒になりましょ? ね? わたしはあなたの隣にいるのが、一番幸せなの。だから、好きにしていいって言われたとき、まっさきにあなたの顔が浮かんだ。あなたが帰ってきたら、告白するつもりだったんだ」

「そ、か……」


 フレア……。

 一番好きな人が、俺のこと、好き。


 こんなにうれしいことはない。


「いつも頑張ってるリクをいじめる国なんて、さっさとおさらばしてやりましょ!」

「ああ……そうだな。フレア……俺と一緒にきてくれ」


 フレアは笑った。

 俺と再会したときに見せたときとは違って、本物の笑顔。


 俺が愛して、俺がほれこんだ、女性の……最高の笑顔だ。

 こうして俺は、国外追放されることになったが、最愛の幼馴染とともに、国を出ることにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 殿下の名前からしてww
[気になる点] フレアのセルフの件で 「ならほら、一緒になりましょ? ね? わたしはあなたの隣にいるのが、一番幸せなの。だから、好きにしていいって言われたとき、まっさきにあなたの顔が浮かんだ。あなた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ