屋根裏から下りてくるモノ
「昔、天井裏から好きな女を覗いてる男のラブソングがあってな」
「あぁ、聴いたことがある気がします。――けれど、もし今回の依頼がそうだとするのなら私たちではなく警察に相談すべきなのでは?」
新米エクソシスト・腹井真白に瀬尾は「まぁな」と頷いてみせる。
一回り歳の離れた美少女、しかし話してみれば結構しっかりしているようだ。そんな彼女に、瀬尾は「オジサン扱いされなくて良かった」と密かに安堵しながら続ける。
「『誰かに見られている気がする』なんて言って、屋根裏を業者に見せたはいいが出てきたのは蜘蛛の巣と埃ばかり。到底、誰かが隠れられるような状況ではなかったらしいが依頼者はどうしても納得がいかないらしく……知り合いの伝手を辿って、こうやって俺たちに依頼を持ってきたってわけだ」
説明したものの、瀬尾はその内容に猜疑心を抱いていた。
彼はエクソシストを生業としているが、その勤務態度はあまり熱心ではない。悪魔だの幽霊だのが実在するとは思っていない、よくある被害妄想だ……そんな風に考えているのを隠しつつ、腹井真白を連れて依頼者の自宅へと向かう。
◇
「間違いないんです! 屋根裏からずっと、誰かが私を見ているんです! あぁ、今だって……お願いです! なんとかしてください!」
ヒステリックに叫ぶ依頼者の女を、瀬尾はとにかく宥めてみせる。
しかし、一方の腹井真白は屋根裏に続く階段にじっと目を凝らすと――
「――瀬尾さん。私たち、屋根裏に上る必要はないみたいですよ」
そう言って、腹井真白は屋根裏へと続く空間を指さす。
「屋根裏の下……この場合は天井『表』とでも言うのでしょうか。私の目には今、そこに張り付いている男の姿が視えるので……どうも彼は屋根裏から、うつ伏せの状態のまま少しずつ下ってきているようです」
――瀬尾が口にしていた歌が流行るよりも、はるか昔。投身自殺をした男がいて、その落下場所はちょうどこの家の屋根にぶつかるような形だった。
瀬尾はそれを、後になって知ったという。