西九州新幹線は税金の無駄遣いである⁉︎
博多を中心に各県へと伸びて行く九州の鉄道ネットワーク。
これが、2022年の9月23日に大きく生まれ変わろうとしています。
西九州新幹線の開業です。
これまで在来線特急「かもめ」が担っていた博多〜長崎の輸送を、9月からは新幹線「かもめ」と在来線特急「リレーかもめ」が担うようになります。
従来に比べて30分の所要時間短縮され、博多と長崎がより近くなるでしょう。
「な訳あるか!」
「たかだか30分の時間短縮(笑)のくせに乗り換えだけ増やしやがって!」
「元々2時間で博多から長崎まで行けただろうが!」
「その上料金も上がるんだろう⁉︎」
「百害あって一利なしじゃないか!」
「佐賀県だっていらないって言ってるぞ!」
「俺はこれから高速バスを使う!」
と、そんな電車博士からの喚き声が聞こえてこない気がしないでもないですね。
もしかして、JR九州やJRTTが、それに気付いてないとでも思っているのでしょうか?
彼らはプロです。そんな欠点が分からないはずがありません。
ということで、今回は西九州新幹線部分開業にあたっての以下の問題点3つと、それにJRはどのように対処しているのか、見ていこうと思います。
あらかじめ断っておきますが、このエッセイでは未開通区間問題についてはほとんど取り上げません。そこを分かった上で読んでください。
目次
①30分短縮しても乗り換えがあるからプラマイゼロ
②そのくせ料金は上がる
③そもそもの短縮効果が小さい
①30分短縮しても乗り換えがあるからプラマイゼロ
西九州新幹線が開業した後は、武雄温泉駅で新幹線と在来線の乗り換えが発生します。
一般的に列車の乗り換えには、所要時間にして30分程度の心理的な抵抗が存在すると言われています。つまり、西九州新幹線が部分開業したところで直通できないなら意味がない、という話ですね。
それに対して、JR九州の対応はこうです。
『対面乗り換え』。
西九州新幹線を語る上で外せない単語ですが、これを分かっていない人は意外と多い気がします。
ということで、対面乗り換えが何たるかを説明してみることにします。
たとえば博多から長崎に向かうとして、リレーかもめで武雄温泉まで向かいます。
武雄温泉より先、嬉野温泉や長崎県に行くお客様はここで強制的に降ろされます。
そして降りた武雄温泉駅10番のりばの反対側、11番のりばには新幹線かもめが待っています。
武雄温泉より先に向かうお客様が新幹線に乗り込んだことを確認し次第、新幹線は発車します。
武雄温泉駅では、リレーかもめが到着した後に新幹線かもめが、新幹線かもめが到着した後にリレーかもめが発車するようにダイヤが組まれます(これに関しては、前例となる九州新幹線鹿児島ルート、並びに日豊本線特急にちりん号を基にした推測でしかありませんが、十中八九そうなるでしょう)。
博多駅のように階段を昇り降りしたり、新鳥栖駅のように改札をいくつも通ったり、電光発車標とにらめっこしたりする必要はありません。
惰性で向かい側の列車に飛び乗ればいいんです。
武雄温泉駅に到着してから、発車するまでにかかる時間はたったの3分から5分。普通の新幹線の(全列車停車駅における)停車時間と考えれば、そう長い時間だとも言えないでしょう。
新幹線による時間短縮がチャラになってしまう、というのはかなり言い過ぎなのかもしれません。
この方法は、2004年の九州新幹線鹿児島ルートの部分開業時に新八代駅における鹿児島本線との連絡に使われた、JR九州が開発した手法であり、後に国土交通省などに表彰されています。
ミニ新幹線に代わる新在交流の形として、JR東日本(新潟駅)やJR北海道(新函館北斗駅)が真似するほど有用と認められています。つまり、対面乗り換えはそれだけの実績を残しているということです。
身近に「乗り換えが不安だ〜〜〜」と言っている人がいれば、ぜひ「心配ないさ〜」と教えてあげてください。
ちなみにですが、西九州新幹線部分開業後の博多駅在来線のりばでは、リレーかもめの行き先は『長崎』もしくは『武雄温泉(長崎)』という風に、「長崎に行きたい人はとりあえずリレーかもめに乗ってね」と案内されると思います。
*
「乗り換え方法云々じゃねえ! 途中に乗り換えがあると車内で寝れないじゃないか!」
浮いた30分間、家や宿の布団で寝ろ。その方が健康にいいぞ。
②料金が上がる
正直、これは避けては通れない課題です。
これまで在来線特急を使っていた人が新幹線開業と在来線特急廃止を機に、値上げを嫌ってバスやマイカーに流れる、という例も無くはないのです。
これに関しては、西九州新幹線の料金案が先日発表されましたので紹介しておきます。
例)着発駅〜着発駅:現行料金合計¥→新幹線料金合計¥(±差額)
博多〜長崎:5060→5520(+460)
佐賀~長崎:3970→4100(+130)
この上げ幅に関しては、筆者個人としては「かなり頑張ったな」という感想です。博多〜長崎が500円足らずの値上げで30分の短縮なら、かなり良い方なのではないかと。
ですが、金銭感覚は人それぞれですのでこれ以上言うのはやめておきます。
ただ、新幹線化=値段跳ね上げみたいなイメージだけで判断してしまうのは非常にもったいないなと感じます。
P.S.割引運賃に関しては、2022年5月上旬時点でプレスリリースが出ていないので、なんとも言えません。これに関してはマジでごめんなさい。また、これは限りなく最終決定に近いだけの案に過ぎないので、今後変更になる可能性はあります。それもごめんなさい。
③そもそもの短縮効果が小さい
西九州新幹線は、九州島内のみの完結した運用を最終目的とした路線ではない。山陽新幹線に乗り入れて、長崎と大阪をつなげることが真の目的。
それが大体の推測であり、そのためにフリーゲージトレインだのフル軌格だの話し合っている、というのは間違っていないと思います。
事実として、フリーゲージトレインを最初に蹴ったのはJR九州ではなくJR西日本で、JR九州からすれば、JR西日本が求めないFGTを導入する意味はないので追随したに過ぎません。それほどに西九州新幹線の新大阪乗り入れは重要なことなのです。
だったら、大阪まで繋がる目処が立っていない現状の新幹線に意味はないのでしょうか?
実際、現行の特急かもめの博多〜長崎間の所要時間は2時間。十分速いといえるでしょう。
それを大枚はたいて30分短縮して、そんな公共事業に意味はあるのでしょうか?
筆者が導いた答えは『YES』。
30分の短縮もしっかりと効果があると思います。
新幹線開業による話題性とか、知名度の上昇とかそういう話ではありません。
2時間が1時間半になる、これは重要な意味を持つのです。
それは、『長崎市が福岡市の通勤圏に入る』ということです。
現行ダイヤでは、かもめ2号が5:58に長崎を出発すると、博多に着くのは7:59。かなり始業ギリギリです。
これが、新幹線が開業するとどうなるでしょうか。
通勤時間帯の長崎から博多までの所要時間を1時間半と仮定すると、長崎を6:00に出発して博多到着は7:30。ここから通勤電車や地下鉄、バスに乗り換えて職場等に向かう時間があります。
ほら、新幹線通勤、できるでしょう?
N700S8000番代の自由席を見てみると分かると思いますが、最近のJR九州の特急電車にしては珍しく背面テーブルを備えた、東海仕様のN700Sの車内設備に準じた設計となっています。指定席が800系の座席に準じた背面テーブルの無い仕様になっているにもかかわらず、です。
これは、(コロナ禍による収入減に伴う予算不足もあるとは思いますが、)ほぼ間違いなく定期利用者を狙った設備でしょう。
JR九州もおそらく、所要時間短縮による通勤需要に目をつけているはずです。
鉄道の販売戦略において、『4時間の壁』というものがよく取り沙汰されています。鉄道に興味のある皆さんなら一度は聞いたことがあるかと思いますが、改めてざっくりと説明しますと、旅行する時の移動手段を選ぶ際に飛行機に対して鉄道が有利になるボーダーライン、それが鉄道で4時間以内に行ける範囲である、というものです。
筆者は、この4時間の壁に加えて1時間半の壁も考慮すべきだと考えます。
ここまで見てきた方ならわかると思いますが、1時間半の壁というのは家から鉄道で通勤通学ができる範囲、あるいは職場・学校等から見た校区のような範囲のことです。
つまり、この範囲の内側なら鉄道を使ってもらえる可能性が高いということになります。
福岡市からみたその範囲が、これまで北九州・佐賀・熊本・鹿児島までだったのが、西九州新幹線開業を機に長崎まで含むようになる。かなり凄い話だと思いませんか?
正直、税金投入額に対してこの効果は割に合わないとは思いますけどね。それでも全くの無意味ではないということです。
「新幹線通勤なんて、そんなブルジョワなことする奴いないだろw」と言うのなら、平日の朝か夕方に県の中心駅の新幹線ホームに行ってみてください。意外と自由席埋まってますよ?
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ということで、西九州新幹線部分開業による問題点について、いくつか見てきました。
こう考えてみると、ここで挙げた問題点は意外と杞憂なのではないかと、筆者はそう思うわけです。
何より、新しい新幹線の開業は話題を呼びますからね。新幹線そのものの利用が伸びるのもさることながら、観光地、あるいは居住地としての長崎に注目が集まるようになるでしょう。
少なくとも、「未開通区間問題が解決しません」「じゃあ廃線!」とはならないと思いますよ。
ということで、今回はここまで。
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