表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喪失  作者: 田島 学
3/7

三章

男が怒りを滲ませながら、全員を見渡している。

まるで、ここにいる全員が同罪だとでも言わんばかりだ。

男の娘と同じサイトを使っていた事に驚いていたが、集塵部屋を利用していたからこそこんな目にあったのだ。

自分が犯人であればきっと殺される。もし、そうでなければどうなるのだろう?

きっと、おいそれと返してはくれないだろう。他の2人はどう思っているのか。

自殺のために来ているのにこんな事に巻き込まれてしまっている。

男が犯人を殺した後に、他の2人をどうするのかが気になった。

犯人と同じように殺すのだろうか?

そうなった場合、自殺の願いは叶わなくなる。

自殺よりも苦しむ羽目になるかもしれない。

死ねれば、他殺だろうが関係ないと思えるだろうか。

そんなどうでも良い事を考えてしまう。

「どうしてこの中に犯人がいると分かるんですか?」

女が消え入りそうな声で聞く。そちらに男が視線を送ると同時に口角が上がる。


「娘が待ち合わせていたのは4人の者達でした。年齢性別は分からない。

その中で、今でもあのサイトに存在しているハンドルネームが1つありました。

もしかすると、こいつが犯人かも知れない。

だが、そんな考えは直ぐに否定しました。

そんなふざけた事があるはずがないと思ったからです。

この者が犯人だとすると、この時待ち合わせた他の者はどうしたのか?

まさか、全員が殺された訳は無いだろうと。

調べると、この者は過去にもサイトで知り合った人と出会っている様でした。

その待ち合わせの日時と場所を全て記録しました。

その情報を頼りに、新聞やネットで死体が見つかっていないかを調べました。

すると1件だけ、同じ場所で死体が見つかったという記事がありました。

死体の数は3人とありました。警察は状況から自殺と断定している様でした。

その記事を見た時、私の手は震えました。死体の数が1つ足りなかったからです。

この者が怪しいのは明らかでした。ただやはり、まだ確証を得ません。

どうすればこいつの犯行を立証出来るのか?私はひたすら考えました。

頭の中には、もう犯人を見つけ出す事しかありませんでした。

幸い私には時間があります。残りの人生を復讐のために使おうと思いました。

それ以外に私の存在意義を見出せません。

そして、一つの考えが浮かびました。

犯行をこの目で見届ければ良いのでは無いかと。

私は、犯人が集塵部屋に現れるのを待ちました。きっと現れると思いました。

殺人の衝動を抑えきれずにまたやってくると。

娘を殺したのに飽き足らず、また自分の欲望を満たすために。

待っている間、私の怒りも少しずつ育っていきました。

まるで、犯人の衝動に呼応するように。

犯人が現れた時の感情は忘れられません。

あれほど胸が躍ったのは久しぶりでした。

性懲りも無く、同じハンドルネームで現れました。

すぐに、犯人に餌をまくためにスレッドを立ち上げ自殺者を募りました。

面白い程に、犯人はスレッドに食いついてくれました。

自殺の決行を何度もけしかけられ、それをなだめるのに苦労しました。

少なくとも他に2人は必要だと思っていたので、そこまで犯人を待たせなければいけない。

無事にメンバーが集まり、決行する事になりました。

死に場所などは、全て私が準備しました。

犯人を突き止めるためならば、何だってする覚悟でした。

だから、他のメンバーに対する罪悪感もありませんでした。

そもそも、自殺を考えている人たちです。死ねて本望でしょう。

多少痛い思いをするかも知れないが、仕方ありません。

当日、私は伊藤という男を雇いました。私の身代わりになってくれる者です。

金を払い、自殺までの段取りを伝え、それを遂行する様に依頼しました。

伊藤には、メンバーの中に人殺しがいる事を伝えませんでした。

計画の内容はこうです。

あらかじめ、伊藤には人数分の睡眠薬を渡しておき、他のメンバーに飲ませます。

薬が効き始める前のタイミングで練炭をたく。

伊藤は他の者が眠りにつくのを待つ。

全ての者が眠りについたと同時に伊藤だけその場から逃げ去れば、後は勝手に死んでくれる」

男が笑いながら話す。最初に感じた、紳士的な雰囲気はもう無くなっていた。

目の前にいるのは、ただの復讐に取りつかれた男だ。


「当日集まったのは、2人ずつの男女でした。

どの方も若く、伊藤が一番の年長者でした。

私は、彼らが死ぬまで影をひそめて見守りました。

この中に娘を殺した犯人がいると思うと、直ぐにでも全員を私の手で始末したい。

その欲望を押さえるのに必死でした。

そして、彼らが自殺に向かう時間が訪れました。

予定の時刻を過ぎても、伊藤からの連絡はありませんでした。

想定していたとはいえ、まだ信じられませんでした。

踏み込んだ時に犯人に見つかれば、自分も殺されてしまう。

そう考えると、足が重くなり身動きがとれません。気づけば夜が明けていました。

意を決し、現場に踏み込むと4つの死体が転がっていました。

全員が腹部を刃物で刺され、その死体の中に伊藤もいました。

2人の女と伊藤ともう1人の男が横たわっている。

私の疑問が確信に変わりました。

娘を殺した犯人の姿を、この目で確認する事が出来た。

その時、私は笑っていました。

喜びと怒りが同時に沸き上がり、自分を制御する事が出来なくなっていました」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ