第七話、ペガサスモフモフスリスリ
「×××××!」
聞き取れない音階の叫びがして、
目の前に壁が現れた。
透明な壁は固く、
ペガサスの前足をはじき飛ばす。
羽根を翻して、ペガサスが距離をとる。
ふんと一息ついて、
どうやらもう、攻撃してこないようだ。
「まったく」
ジルが呟いて、私の体を放す。
必死で気が付かなかったけど、
今、抱きしめられてたわ。
「助かった、ココ」
ジルが向いた方には、
両手をこっちに向けたココがいた。
「気にしないで。
でもそれ、すぐ壊れるから、離れて」
壁は、氷でできていて、
すぐ砕けて、粒になった。
ココが両手を振って、
ちべたいちべたい。言いながら笑う。
「ココ、ありがとう」
私が言うと、いいのいいの、と
目を細くして、
「僕が止めなきゃ、ジルが能力使ってた。
でも、小屋で風を使うの、
校則違反なの。
彼らも苦しいし、掃除も大変。
でも僕のなら平気」
あぁ、風は魔獣にとって毒だから。
「おい!こら、お嬢さま!」
ジルが叫んで、私の胸ぐら掴む。
背中が壁に当たって、鈍い音を立てる。
「あぶねぇだろうが!
ペガサスに後ろから近づかないのは、
常識だろうが!」
「ご、ごめん、知らなくて」
「は? 知らないで済むと思ってんの?
蹴られたら、普通に死ぬし、
あいつらも怖ぇから攻撃するんだよ
魔獣怖がらせて楽しいかよ」
おっしゃる通りです、はい。
「ジル、やめろよ!
アスナは掃除、久しぶりで」
「あ? 毎日掃除すりゃ
良いだけだろうが!」
その通りです。
なんで掃除しなかったのアスナちゃん。
「ごめん。ジル。私、気を付けるから」
「……は? それですむとーー」
「あと、ありがとう」
「は?」
「助けてくれて、ありがとう。
かばってくれて、嬉しかった」
素直に口に出すと、
ジルは少し黙ってから舌打ちを返した。
「……まぁ、別に。もういい。
お前、ちょっとペガサスに謝ってこい」
え?
「触って、いいの?」
「触るな、謝るだけだ。
こいつらは、こっちの言葉が通じる。
礼節と作法を重んじる」
つまり謝罪ですね!
まかせて下さい!
私は、真っ白のペガサスの正面に回る。
大きさは馬と同じくらい。
……十分でかい。
ペガサスは明らかに怒っていて、
フンと息をつく。
知ってる、この感じ。
ミスした同僚と一緒に
謝罪したお得意様!
私は一歩、ペガサスに近づく。
「この度は!
こちらの不注意により!
不安な思いをさせまして!
本っ当に、申し訳ありませんっ」
そして、もう一歩、近づいて、
膝をつく。
「ちょっと、アスナ、
そこは掃除してない!」
グニャリと、糞だらけの地面に、
膝がめり込む。
「今後! このような事のないよう!
再発防止につとめますので、どうか!」
両手を汚れた地面について、そして
「お許しくださいっ!」
地面に、頭をこすりつける!
これが、ジャパニーズ土下座!
地面が汚れてようが、
人前だろうが、
氷の上でも、燃えたぎる鉄板だろうと。
頭をつける! それが土下座!
誠心誠意、心からの謝罪!
クラスメイトの動揺が聞こえる。
誰かが名前を叫ぶ。
でも頭を上げない。上げていいのは、
謝罪相手から許された場合のみだ。
ペガサスの鳴き声がして、
ツンツンと肩を叩かれた。
ペガサスの穏やかな顔が、
わたしの首に刷り寄ってくる。
「許して、くれるの? ありがとう」
「すげぇ、あのペガサスが懐いた」
「あぁー、触りたいのに、
両手が汚れて出来ないー。
真っ白のモフモフを汚したく無いー」
「アスナすごいよ!
下級生に懐くペガサス初めて見た!」
ペガサスが甲高い声で鳴いて、
羽根を広げて飛び上がる。
キラキラした細かい何かが、
小屋の中に降り注いでいく。
ココがタオルを濡らして、
額と手を拭いてくれた。
ペガサスが屋根の上で
一つ鳴き声を上げる。
不思議と、その意味が分かった。
「掃除して……いいのね。みんなー、
ペガサスが掃除して良いってー!
いまのうちに終わらせよー」
おー! と歓声があがった。
「今回はジルの負けじゃない?」
「なんで嬉しそうなんだよ、ココ。
別に勝ち負けじゃねぇし」
「ジルが何やっても、無理だった
ペガサスを、動かせたのに?」
「何が言いたい?」
「さぁて、ねぇ。僕も掃除してこよーと」
みんなで小屋を綺麗にして、
新しい藁を敷き詰めて。
掃除の終わった小屋は、
見違えるようで。
「おーい。早く掃除終わったから、
上級生がペガサスに乗せてくれる
ってー」
クラスメイトの声に一番に反応する私。
「モフモフ! もっふもふ、ペガサス!
背中に乗って、もっふもふ、するー!
すーりゅー!」
今日も私はしあわせです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「それで、私が負けたら?」
「お前が俺に、キスするんだ」
「ふーん……は?」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




