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第五十九話、勝つ為なら、なんでもする

 ニーナは、風が苦手だ。

 その上、風使いには

 毒は効きづらい。


 私はラウルを見上げて、

 ふうと息を吐く。


 相性最悪。長くは、持たない。

 なら、


「ニーナ」


 大きな狼の姿のニーナ。

 私はその顔を撫でて。


「ラウルが、遊んでくれるんだって」


「ガウ?」


 私の声はラウルまで届いて、

 ラウルが、へ? と首を傾げた。


「コレは、鬼ごっこ、だよ。

 ラウルの風に当たらずに、

 ラウルにタッチできたら、

 あとで、チューしてあげる」


「ガウ……ガウ!」


 ニーナが嬉しそうに飛び跳ねる。


「ちょ! なにそれ卑怯!」

 ラウルが向こうで声を上げた。


「何言ってるの?

 勝つ為なら、なんでもする」


 そうだ、手段は選ばない。


「さぁ、ニーナ。

 存分に、遊んできなさい!」


「ガウ!」


「え? ちょ!」


 ラウルが戸惑って、下がる。


 知っている。

 あなたは優しい。


 敵意を持ってるならともかく、


 喜んでじゃれてくる相手を、

 無慈悲に傷つけられるほど


 あなたは冷酷ではない。


「ラウルは、

 感情で左右されるからね!」


「やりづらい! すごくやりづらい!」


 ラウルの周りを狼が跳ねる。

 渦巻く風を、正確に避けて。


 だが、長くは持たない。

 だから、一気に決める!


 大きく息を吸い込んで、

 両手を握りしめる。


「ルシア」


『あぁ、分かった』


「出来る?」


『まかせろ』


「じゃあ、代わって」


 ドクンと心臓が鳴って、

 思考が切り替わる。


 主導権がパチリと入れ替わる。


 遠くで見ていたジルが

「おい! 今、アスナの胸、

 膨らまなかったか?」

 と、ココに聞いて、


「なんで、こんな時に

 胸ばっかり見てるの?」

 と、呆れられた。


 ラウルは跳び跳ねるニーナに、

 とにかく困っていた。


 風は避けるけど

 隙あらば、突進してくる。


 楽しそうに、嬉しそうに。


「こんな事で、負ける訳には

 いかないんだ!」


 右手に風を集める。


「ごめんね、ニーナ」


 飛び掛かるニーナの胸に、

 それを叩き込む。


「ギャン!」


 ニーナの体が

 跳ね上がって、飛んだ。

 その陰から、私は飛び出した。


「は? え?

 間合いを詰めて来た?」


 ラウルに掴みかかる。

 この一瞬を狙ってた。


「ち、力なら、僕のほうが!」


『ほう、お前は私を殴れるのか?』


「え? ルシア?」


 ラウルの体が止まる。

 そこを逃さず、首に抱きつく。


「へ? え?」


『さぁ、私を見ろ。良い子だ』


「は? あ……」


 戸惑う、ラウルの顔に、

 その唇に私の口を押し付けた。


 ラウルの体がビクリと揺れて、

 すべての風が勢いをなくす。

 その体が、抵抗をなくした。


「な、な、な、なんだあれ!」

 ジルが震える声で叫ぶ。

「なんで、キスしてる?」


「あー、多分テイムだと……」

 ココが笑いながら答える。


「テイム?」


「うん、たぶん」


「テイム?」


「だからそうだって」


「この状況でか!

 さっき正々堂々とか……」


「テイムは、ビーストテイナーの力だ、って言って、ラウルも認めてたし」


「いや、だからって」


「マナスはテイムも増幅させる。

 ルシアにアレをやられたら」


「ラウルが……

 かからねぇ、訳がねぇ……」


 私が体を離すと、

 ラウルの目は光を失い、

 その顔に自我がなかった。


『座れ、ラウル』


「……はい」


 その言葉に、

 ラウルが膝をつく。


 完全にテイムに支配されて、

 その一切の意思を失った。


『ルシちゃんの勝ちだ』

 得意げに声を上げる。


 ジルはそれを眺めながら。

「なんか……エグいな」


『おいそこー! 外野が

 エグいとか言うなー!』


「なんか、ズルいよね」

 ココも答える。


『ズルいとか言うなー!

 ルシちゃんは勝った!』


「ルシアちょっと代わって」

 私が声をだす。


『ん』


 体を取り戻して、

 思考も取り戻す。


 私はニーナに駆け寄った。


 少し離れた所で、

 狼の姿でうずくまってる。


「ニーナ、大丈夫?」


「……ガウ」


 少し、声に力が無い。

 風にあてられてる。


「ありがとう。

 おかげで勝てたよ」


「ガウ?」


「うん、ニーナのおかげ。

 今は休んで」


「ガウ」


 ニーナが力なく、

 頭を持ち上げる。


 その鼻先が、私の口に触れた。


「え?」


 へへ、とニーナが笑って、

 金色に光り出す。


「ありがと、ニーナ。

 ゆっくり休んで」


「ガウ……」


 目をつぶったニーナが

 金色の光を散らして消えた。


 傷ついて小さくなると、

 しばらく出てくれない。


 ふう、と息を吐いて、

 ジルとココが歩いてくるのを、

 目にした時だった。


「いやー、やっぱり、

 お前は、すごいな!」


「え?」


 その声で、振り返る。

 嫌な予感が、背中をはい回る。


 まさか……


「すごいぞ、アスナ。

 そこまで出来ると、

 思わなかった」


 金髪で軍服でニコニコ笑って、

 近づいてくる。


「お、お兄様……」


 アークが、何故かそこに立っていた。


「なんで……いらっしゃるんです?」


「まぁ、いろんなツテがあるんだよ」


 笑って、真っ直ぐ、

 ラウルに近づく。


「友好的に来られると、

 ラウルは弱いよなー」


 その顔を覗き込む。


「おーい、ラウル。

 俺が分かるなー」


 その頬をペチペチ叩いて、


「少し、辛いが、我慢しろよ」


 アークが両肩を掴んで、

 力を込めた。


「あああぁ!」


 ラウルが悲鳴を上げて

 跳ね上がった。


 バキバキと電気のような閃光が

 ラウルの体に流れていく。


「お兄様! 何を!」


 閃光が体に吸収されて、

 ビクンとラウルが力をなくす。


「あ、あ、あ、あ、あ、」


 見開いた目、

 断続的漏れる声。


 表情が一切ない。

 目が、どこも見てない。


 アークが立ち上がって、

 こっちを振り返った。


「何って、テイムだよ。

 上書きした」


「へ? え?」


「お前のテイムを相殺して、

 更に上書きしたんだよ。

 立て、ラウル」


 アークの言葉に、

 無言でラウルが立ち上がる。


 風が流れを変える。

 そのすべてが、ラウルの方を向く。


 見た目で分かる、

 すごい力が、風が、

 そこに溜まりだす。


「お……お兄様!」


「さぁ、アスナ!

 ステージ2だ!」


 アークは両手を広げて、

 言い放つ。


「完全復活、して見せろ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 『次回予告』


「お前、立ってるのさえ、

 やっとなのに」


「そうだね。だから

『彼』と、代わろう」


「は?」


「『彼』なら、風に耐えられる。

 力も強いし、戦える」


「お前、何言ってる?」


 毎日更新!


 今日も

 お仕事お疲れ様!

 モフモフー

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