第四十五話、革と胸とボンテージ
「もう3日、アスナは目を覚まさない」
医務室で、
アスナを見下ろして、
ジルが言う。
「コウモリ羽根の……彼は? カルア」
ココが聞いて、
「2日目には消えたから、あとは自分で修復するだろ」
ジルが答える。
「彼に借りが出来た」
「俺は貸しがあるから、トントンだろ」
ガチャと扉が開いて
「あれ? 2人とも来てたの?」
ラウルが入ってくる。
「お前、なに持ってる?」
「ルシアの、着替え。
部屋から集めてきた」
服をテーブルに乗せて、
汚れ物の袋を手に取る。
初日に着ていた、
メイド服なんかが入ってる。
「先生はなんか言ってたか?」
「混乱魔法で狭くなってた心に、
2人分の魂がせめぎ合ってるって」
ラウルの言葉で、
室内が静かになる。
「アスナは、戦ってんのか」
ジルが呟いて、
「ルシアも戦ってる」
ラウルが答える。
「アスナが勝ったら、
アスナが戻ってくる」
「ルシアはどうでも良い、
みたいな言い方はよせ」
「あ?」
「なに」
「やめてよ、二人とも
どっちも大事だから」
ココが二人を止める。
ピリピリした空気が、
室内にたまっていく。
「ラウル、お前、あの魔族に肩入れしすぎだからな」
「ジルがルシアを嫌ってるだけだよ」
「世界を滅ぼす悪魔を、どう受け入れられんだよ」
「ルシアは悪魔じゃないし、世界を滅ぼしてもいない」
「まだ、な。いずれする」
「ルシアだって、したくてするんじゃない!」
「したくなきゃ、殺していいのかよ!」
「殺してないだろ!」
「やめてって、だから!
これ以上は僕が怒る!」
ココが叫んで、
二人を離す。
みんな、何もできないのが辛いのだ。
眠り続ける姿を
見ている事しか
出来ないのは辛い。
「このままで良い訳ねぇからな」
「わかってるよ」
「アスナは取り戻す」
「ルシアも目を覚ましてほしい」
「……ねぇ、なんか、廊下騒がしくない?」
ココが振り返る。
確かに、ざわざわしてて。
「ちょっと、僕、見てくるよ」
と、ココが外にでる。
「だから、関係者以外は入れませんよ!」
遠くからハイズ先生の声がする。
「うるさい!良いからさっさと通しなさい!」
続けて、女の人の声がして
「ん? 今のって」
ジルが首をかしげる。
ドアが壊れんばかりに
勢いよく跳ね開いて、
そこから、
黒髪で黒い羽根の
女の人が入ってきた。
黒革の、ベルトだらけの
胸元の空いた服。
「アークの妹! いるんでしょ? どこ?」
「あの……どなたでしょうか」
ラウルが聞くと、
ふんと息を吐いて、
「シルビィア・ブレーナム」
名前を言った。
「え? ブレーナムって……」
ラウルがジルの方を見ると、
顔がひきつっていて、
「あ、姉貴……」
「お、お姉さん? ジルの?」
「それ、が、アークの妹?
3日、目覚めない。と聞いた、間違いない?」
「はい、それは、そうです」
勢いに負けて、ラウルが答える。
ハイズ先生が廊下から追い付いてきた。
「困ります、ブレーナムさん」
「シルビア、と呼びなさい」
「シルビアさん、学園から依頼も出してないのに治療は出来ません」
「患者がここに要るのに、除術師が治療して何が悪い」
ピシリとした言葉が、医務室に響く。
「ね、ねぇ、ジル。除術師って」
「魔獣や魔族からかけられた魔法なんかを解く治療屋だ」
「あ、だから混乱魔法を解きに……」
「どこから情報が漏れたのか」
ハイズ先生が必死に止めようとしてる。
「本人の同意の無い除術は出来ません」
「そうやって、何人が人間に戻れなくなったと思ってる?」
「だからって」
「命より大事な規則がある訳ないでしょ!」
ビリビリと肌で伝わる緊張感。
「先生、無理だ。
姉貴はそう言ったら
何言っても聞かねぇ」
「でも、ですねぇ」
「こっちは、あなたを倒してから、治療したって良いわ。
リアムザは、風が効く」
ピシ、と空気が固まって、殺気が走る。
先生は、数秒黙ってから、
ゆっくり息を吐き出して。
「わかりましたよ」
両手をあげて、笑みを作る。
「あなたが、第3者なら、何をしても止めますが、生徒のご家族と戦う訳にもいかない。私はここに居なかった事にします」
「ありがとう」
シルビアがふぅと息を吐いて、緊張感が抜けた。
「あなた方で決めて下さい。後でアーク様に報告だけはしてください」
そう言って、医務室から出ていく。
「さて、ジル」
「はい」
「手伝うか、去るか、今すぐ決めなさい!」
ビクとジルが背筋を伸ばして、
「お、手伝いいたします」
聞いたことの無い、
口調で言った。
「じゃあ、今すぐ彼女を運んで」
「あの……どこに、ですか?」
ラウルが恐る恐る聞いた。
「広くて、周りに誰もいない所」
■◆□◆
「ねぇ、ジル」
「なんだ」
「お姉さんに、ルシアの事言った方が良いんじゃ」
アスナの体を担架にのせて、
運びながら、ラウルが聞く。
シルビアに聞かれないように、こっそり。
「ダメだ、絶対に」
「なんで? 何かあったら……」
「姉貴が、ルシファルスの事を、知ったら、アスナを殺すからだ」
「へ?」
「沢山の人が救われるなら、ひと1人殺すくらい躊躇は無い。それが姉貴だ」
ラウルが押し黙る。
「俺だって、アスナじゃなきゃ、そうしてる。俺らはそう育った」
ジルが悔しそうな顔をした。
少し先で、
「急ぎなさい!」
とシルビアが叫んでいた。
「本当に僕たちだけで大丈夫?」
「除術には風を使う。ココは近づけない」
「あとさ、ジル」
「まだ、なんかあんのかよ」
「ジルがおっぱい好きなの、お姉さんの影響?」
「は?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「あ、姉貴、これなんだ?」
「この子が飲み込んでた苦痛」
「こんなに!
僕が、許さない!」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




