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第四十四話、鎖とドームとメイド服

 自分の部屋に帰って、

 靴を脱いだ。

 この靴は歩きにくいからだ。


 麦わら帽子も脱いで、

 机に置く。


 さぁ、行こう。


 ドアに手をかけた時、

 ボンっと隣で音がした。


「おやめください、ご主人様」


「カルア」


「キツネの所に行く気でしょう?

 彼はもう凍っています」


「知ってる」


「朝まで溶けません」


「知ってる」


 知識はある。

 分かってる。


「あなたが!

 朝までキツネの側に

 居るだけなら止めません」


 その顔が、あまりに必死で


「でも、あなた、氷を溶かそうとしてる!」


 あぁ、良くわかってる。

 私なら溶かせるからな。

 私なら連れ出せるからな。


「やめてください、今、キツネは彼じゃない」


「知ってる」


「あなたは今、本来の力の10分の1だって出せない! 氷狐には勝てません!」


「カルア」


 私が名前を呼ぶと、

 カルアは、やっと黙って。


 その顔に真っ直ぐ手を伸ばす。


「言いたい事は、それだけか?」


 私の顔と、手の平と

 順々に目をやって、

 ギリと歯を食い締める。

 その悲観した顔をゆっくりと下げ。


「はい……以上です」


「じゃあ、行ってくる」


「行って、らっしゃいませ、ご主人様」


 扉を閉める前に、

 カルアは小さく舌打ちして


「っ……キツネが」

 と呟いた。



  ◆◆◆◆



 冷気が肌を撫でる。

 メイド服だ、寒い。


 浴室が凍り付いてる。

 真ん中に大きな氷柱があって、

 中でココが凍り付いていた。


「ココ……」


 手を伸ばして、氷柱に触れる。


 冷たくて痛い。

 こんなに冷たい中に

 いるなんて。


「ルシちゃんは我慢しないぞ」


 辛くないはずないんだ。

 一秒だって、

 こんな中にいたくないはずだ。


「お前を、ここから出せるなら

 なんでもするからな」


 こんなつらい所に、

 お前を居させない。


 それが出来る力がある。

 なら、迷う必要なんてない。


 両手を氷に付ける。

 心に青い炎が混じる。


「こんな冷たい所に、

 1人で寝かせないからな!」


 チカと青い光が手から漏れて、

 どんどん増える。


 壊したくないものばっかり

 壊させて、

 希望ばっかり捨てさせて、

 壊したい物が壊れないなんて、

 人ひとり起こせないなんて!


「そんなの、許さないからな!」


 バキと破壊音が鳴る。

 両腕が痛んで、

 心臓が跳ね上がる。


 頭が痛んで、

 目がちかちかする。


 ココを泣かせない。

 こんな所で、1人で、

 1秒たりとて、


「泣かせないんだー!」


 青い光が爆発して、

 氷柱が弾けとんだ。

 私の身体も吹っ飛んで、

 派手に壁に当たった。


 意識が飛びそうになって、

 なんとか保つ。


 ココは?


 氷柱があった場所に、

 彼は立っていて。


 あぁ、良かった無事だ。


 ふらふらと立ち上がって、

 手を伸ばす。


 身体が痛い、

 意識が飛びそう。


 伸ばした手に、

 ココの手が重なった。


「ココ……」


 ココが顔を上げる、

 にっこり笑って、


「やぁ、僕は氷狐。覚えてる?」


「あ……」


 つながった手に力がこもる。

 青い炎と氷結音が混じって、


 手と手の間から生まれた膨大なエネルギーが、浴室を吹き飛ばした。


 私の身体は投げ出されて、

 意識がとんだ。



  ■◆□◆



 ガラガラと、がれきが降ってくる室内で、

 氷孤だけが立っていた。


「すごく熱い物と、冷たい物が急激に混じるとね、爆発が起きるんだよ」


 宿舎の壁は半分がはじけ飛んで、外の夜の闇がのぞいていた。


「その時のエネルギーは、僕のは僕に返り、君のは君に返った」


 氷狐はがれきの上を歩いて、

 床に倒れる私に近づく。


 気を失って、動けない、私の顔を撫でる。


「僕は氷で死ぬ事はないけど。君は違う、青い炎は『すべてを焼く』からね」


 笑いながら、私の身体を抱き上げる。


「さぁ、いこう。今度こそ二人で」


 メイド服姿の私を抱いて、

 崩れた壁から氷狐は出て行った。


 がれきと、砕けた氷で

 埋め尽くされた部屋だけが残った。



  ■◆□◆



 揺り起こされて、

 目を開ける。


「さぁ、起きて、ルシファルス」


 氷狐がこっちを覗き込んでいて、身体を起こそうとして、

 上手くいかない。


 両手を後ろで縛られていて、

 外れない。


「僕はね、本当はこんな事したくないんだよ。でも仕方ない」


 チャラと金属音がする。

 わざわざ鎖で、両手を縛って。


 何とか身体を起こす。

 膝で立って、氷狐を見る。


 薄暗い、多分、月明りだ。

 周りを見渡すと、ぐるりと一周、氷の壁に覆われていて、

 ドームのように天井でつながる。5メートルくらいの狭い空間。


「誰も来ないよ。

 この壁は僕にも壊せない。

 朝には溶けるけど。

 君にだって、手を使えないと、

 絶対に無理」


 にっこり笑顔で。

 勝ち誇った顔で。


「分かるね、朝まで二人だよ」


 そんな余裕のある顔をして、


「僕の事、覚えてない?

 やだなぁ、いっぱい

 いじめてあげたのにね」


 氷狐が左手を上に向ける、

 バキバキと氷の爪が現れる。


「でも、僕がいじめたいのは君じゃない。君の悲鳴は聞き飽きた」


「……何?」


「贄の方を出して、アスナ・クラウジット」


 氷狐は笑って言う。


「彼女と遊びたい」


「お前なんかに……」


「まぁ、ゆっくり思い出して、

 君の悲鳴を久しぶりに聞いてみよう。

 朝までたっぷり、時間はある」


 氷の爪が近づいてくる。

 その前に、ボンっと

 スーツで、コウモリ羽根の男の姿が現れた。


「させません」


「お前……カルア。使い魔がまた」


「私が、そんな事させません」


 氷の手が胸倉をつかむ。


「お前に何ができる? 消える事しか能のない、コウモリが」


「そうですね、私は消える事しかできません、ですから!」


「あ?」


 ボンと音を立てて、

 メイド服の、ご主人様の姿が消える。


「は? な?」


「私が、消しました」


「は?」


『私は』胸倉を掴まれたまま、

 氷狐に笑いかける。


「あなたが部屋から運んできたのは、私です。驚きました?」


「は? お前、いつから」


「爆発の時、入れ替わりました。

 ご主人様は吹き飛ばされて、

 がれきに埋もれ、

 あなたは、目立つ所に倒れていた私を抱えた。私、どんな姿にもなれるんで」


 さすがに、メイド服姿のご主人様の姿になるのは

 抵抗ありましたが。

 仕方ないです。


「ひと2人分くらいは形、作れます。本体のある方しか動かせませんが」


「さっきの……」


「ええ、こっちを本体にして、ご主人様の姿は消しました。驚いたでしょう」


 ははっと、氷狐が口を引きつらせる。


「最っ悪だ! 気分が悪い!」


「この氷の壁は、あなたにも壊せない。残念でしたね、あなたは朝までなにもできません」


「お前、分かってる? その方法だと、お前は逃げられないよね」


「……死間は使い魔の、ほまれです」


「あああぁ! 気分が悪い!」


「あなたには! 渡しません!

 ご主人様も! あの子も!

 私がお守りします。

 私の、モノです」


「良いだろう!

 氷でお前は簡単には死なないが

 苦痛はそのままだ。

 お前が、どれだけ耐えられるか

 ためしてやろう!」


「やれるものなら、やってみせてください」


「お前が『殺してくださいと』懇願するのと、

 朝がくるの、どっちが先かな」


「私は、しぶといですよ」


「×××××!」


 氷のドームの中に、

 氷結音が響いた。


  ■

      □


    ◆


  □

   

    ◆


  ◆◆◆◆


『そこ』を見つけた時には、

 もう日が昇っていて、

 氷のドームも半分溶けていて。


「カルア!」


 彼は溶けかけた壁に

 背中を預けて、

 グタリと倒れこんでいた。


「あぁ……ご主人様」


 そのボロボロの身体で、

 片目だけ開けて。


「お前! その傷!

その怪我! ひどい……」


「探して、くださったので?」


「当然だ! お前、私の代わりに!」


「着替える暇もなく、

 夜通しで……

 足が痛かったでしょう」


「私の事は良い!

 お前は、痛くないのか!」


「痛いですよ。激痛です。

 痛くて、苦しくて

 今にも狂いそうです」


「じゃあ、もう話さなくて良い」


「でも、今、最高に

 気分が良いんです」


「は?」


「あなたを、お守りできたから」


「お前……」


「あっち、キツネが寝てます、

 起きたら伝えてください」


「なんだ?」


「『私の勝ちです』と」


「お前、こんな時に!」


「泣かないでください。

 私は大丈夫ですので」


「私が……私のせいで……」


「お慰めしたいのですが、

 ちょっと、眠くて……」


「ね、寝るな! ダメだ!」


「起きたら……

 頭……踏んでくださいね」


「お前! それ、

 死亡フラグだからな!」


「あぁ、あの子の知識ですね

 あの子にも伝えてください」


「え? 誰だ?」


「『大丈夫だ』と……

 あの子、心配するんで…… 」


 その言葉に

 心臓が反応する。


 ドクンと血がざわめく。


「え?」


──大丈夫だ、倉田。


 知らない記憶、

 知らない映像。


「どうしました? ご主人様」


──俺の事は心配すんな。

 

 これは誰だ。

 お前は誰だ。


──金曜日に何残業してんだよ。


──俺がやるからお前は帰れ。


──良い男捕まえて、幸せになれよ。


 先輩!


「ご主人様? どうしました?」


 ダメだ。

 今、出てこられたら、

 体が持たない!


 ダメだ、ダメだ、

「ダ──あなたが!」


 やめろ! 出てくんな!


「あなたがそんな事いうから!」


 ダメだ……体が……


「私は! あなたを失いたくなかっ──」

 

 ブツリと意識が切れて、

 私の身体が後ろに倒れて行った。


「ちょっと! ご主人様!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 『次回予告』


「あの……どなたでしょうか」


「シルビィア・ブレーナム」


「あ、姉貴……」


「お、お姉さん? ジルの?」


 毎日更新!


 今日も

 お仕事お疲れ様!

 モフモフー

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