第四十三話、シーツと夕日と麦わら帽子
「あ、足が痛い……」
絆創膏を貼っても、
痛い物は痛い。
「大体、なんでヒールなんだ。
お仕事するメイドに
ヒールはいらないだろう」
アークとやらの趣味だな。
妹になんてもの着せるのだ。
ココは全然見つからない。
本当に居るのかな。
『探せ』
というからには
きっといる。
酷いではないか。
見つけてほしいのは
こっちなのに。
ジワと涙が溢れる。
もうすぐ日が暮れる。
沢山の人、魔獣、魔族。
その中で、私だけ1人。
何者でもない、
誰ともつながらない。
家族も、仲間もいなくて。
前にも後ろにもなにも無くて。
当然だ。
私は、
私の持ってる宿命は。
両手を握りしめて
また足を踏み出す。
探し出す、絶対に。
お前が、それを願うのなら。
満たしてやろうではないか。
ルシちゃんは優しいからな。
足元がふらつく。
地面がボコボコしていて、
ヒールが取られて、
「うわっ!」
ズルっと、足が滑る、
身体が後ろに投げ出された。
ドサッと白い何かに包まれた。
「へ?」
白い、白い、白い、白い。
白い布の塊だ。
「は? え?」
白いそれは、私を抱いたまま、
歩き出す。
「へ? な? 誰だ?」
「さぁ、誰でしょう」
明るい、弾んだ、
聞き覚えのある声。
「お前、ココだな」
「さぁ、どうでしょう」
白い布をすっぽりとかぶっていて、
「ココ、こ、これ」
「お姫さま抱っこ、といいます」
「違う、ココの格好」
「ゆうれい、の仮装だよ」
「シーツかぶってる風にしか見えん!
手抜きにもほどがある!
大体、こんなのどうやって見つける?
無理ゲーにもほどがある!」
「ムリゲ? なにそれ?」
「知らん! 勝手に頭に浮かぶ」
「あぁ、アスナの知識」
「てか、前見えてないだろ!
見えないのに歩いてる!
「大丈夫。僕、耳いいから」
「お、降ろせ! こ、怖い」
「あぁ、じゃあ」
バサリと布が翻って、
私も布に包まれる。
「こっちのほうが、良い?」
白い布の中で、
ココの顔を真近に見る。
にっこり、笑って
私を抱きかかえて、
「と、どこに行くんだ?」
「こんなに可愛いメイドさん、
連れていきたくなるじゃない?」
「へ?」
「しっかり、つかまっててね」
「うわっ! 飛んだ!
いまジャンプした」
「だからつかまってね」
「前を見ろ! バカー!」
◆◆◆◆
「はい、つきました」
何かに座らされて、
バサリとシーツを外されると。
そこに、夕日が広がっていて。
世界が全部赤かった。
沈みかけた太陽が、
広い世界のすべて染めて。
「これは……」
「見たいかなーって、君が」
ココが隣で笑っている。
いつも白い顔が、
赤く染まっていて。
「ココ、お前」
「気に入った?」
小高い丘の上
森を抜けた先。
一番夕日がよく見える所を
選んで、わざわざ、お前は。
世界が綺麗だ。
こんなに綺麗なのに。
私は。
「僕を見つけてくれてありがとう」
「見つけてない。お前が勝手に出てきたんだ」
「出てきたく、させたのは君だよ」
どんな理屈だ。
こいつは本当、わからない事を言う。
「はい、景品」
ポスっと頭にかぶせられる。
「あ……麦わら帽子」
おっきな、ココが作った。
「やっと出来たんだ、どう?」
「良く、できてるな」
「僕、手先は器用なの」
「あの……」
「なに?」
「あ、ありがとう……」
どうしてか、
サラッと言えない。
ただの言葉なのに、
ココに伝えるのには、
勇気がいる。
「隣……座ってくれ」
そんなに大きくない、
座っていた切り株を、
半分あけて。
「うん」
ココがにっこり笑って、
隣に座る。
身体が肩に触れて、
ドクンと心臓が鳴る。
「ねぇ、今日の服」
ココがこっちを向いて、
「とっても可愛い。
スカートが似合ってるし
靴もよくあってる
君が素敵に見える」
お……
お前はどうして
そう言う事を
いえるんだ。
ふふっとココは笑って。
「今、君の顔が赤いのは、
夕日のせい?」
「……ルシアと」
「ん?」
「ルシアと、呼んでくれ」
私の名前を呼んでくれ、
お前に呼ばれたい。
「可愛いよ、ルシア」
あぁ、どうしてこう。
お前は、私の心を、
ざわつかせる。
「そうだ、あの……」
「ん?」
声を出すのに勇気が要って、
中々だせない。
「なに?」
「わ、私と、踊ってくれないかな?」
「え?」
「踊りたい、ココと」
「それは、僕を誘ってくれてるの?」
「他になんだというんだ」
「うん、嬉しい。でも、ごめんね」
「え?……」
ココが夕日に目を向ける。
もうすぐ沈み終わる、
終わりかけの夕日。
「時間だ。僕、もう行かなきゃ」
ズガンと心臓が締めあがる。
そんなに、そんなに悲しい顔で、声で。
「なんでだ! ルシちゃんは踊りたい!」
「ごめんね、僕は帰らなきゃ。
眠らなきゃならない」
その細い目が、
どれだけの悲しみを
背負っているか、
私は知らない。
なのにこんなに、
身が引き裂かれる。
「お、お前は私と居たくないのか!
ルシちゃんがこんなに頼んでいるのに」
「僕もルシアと居たいよ。
でも、ダメだ。今は居れない。
僕は凍らなきゃならない」
優しい声なのに、
頑なで、冷たくて。
「お、お前が探させるからだ!
初めから私を捕まえてれば!
踊る時間くらいは!」
「ごめんね。でも、
探してくれて嬉しかった。
見つけてくれて嬉しかった」
「嫌だ、嫌だ嫌だ。
お前と居たい。
帰ってほしくない」
「また明日会えるよ
今度、また踊ろう」
「今度なんて来ない!
明日も来ない!
今じゃなきゃ、
今じゃなきゃダメなんだ!
私は……」
私は……
「お前を冷たい氷の中に帰したくないんだ!」
私の叫びの中、
夕日は光を失い、
一片も残さず赤色は消えて。
漆黒が落ちてくる。
「時間だ」
その無慈悲で頑な言葉に、
すべてを砕かれる。
「おいで。
君を会場に帰して、
僕は部屋へもどる」
頑固に突っ立ったままの私を、
ココが手を伸ばして、
優しく抱きしめる。
「ごめんね。分かって」
それがどんなに悲しいか
辛いか。
「僕は君を傷つけたくないんだ」
涙がこぼれる。
そのまま抱きかかえられて、
離れる家路に
強制的につかされる。
ココに運ばれながら、
その胸でずっと泣いていた。
麦わら帽子は、
それを隠すのに、
役に立った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「おやめください!
あなた氷を溶かそうとしてる!
今、キツネは彼じゃない
氷狐には勝てません!」
「カルア、
言いたい事は、それだけか?」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




