第四十話、谷間と太ももとモフモフ
「混乱魔法で、
アスナの意識が眠って、
ルシファルスの意識だけが
残ってる、と」
「しかも、記憶は無いって」
「ニーナが怖がって近寄らない、
魂自体切り替わってるみたいだねー」
「一応、先生には報告したけど」
「詳しく見せる訳にもいかねぇよなぁ」
授業前の教室。
腕と足を組んで、
椅子に座った私を、
男達が取り囲んで、
なんかいってる。
青髪と、白服と、黒翼。
青いのと、白いのと、黒いの。
「ねぇ、アスナ……」
「アスナじゃない! ルシファルスだ」
「だよね、ごめん。ルシ……ルシファ──」
「『ルシア』でも良いぞ」
「へ?」
青い奴の口に
人指し指を突き立てて、
「ル・シ・ア、さぁ、言え」
「ル……、ルシア」
「うん、完璧だ!
お前は良い子だなぁ」
笑って顎を撫でてやると、
青いのは顔を赤くする。
青かったり、赤かったり
忙しい奴だ。
「可愛く『ルシちゃん』でも、いいぞ」
「へ? え?」
「おい、ラウル……お前って
どこまで知ってる?」
と、黒翼が聞く。
「アーク様から大体は聞いてる」
「そうか。なら良い。それで……」
「どうしたの?ジル」
「アスナ、あんな胸あったか?!」
黒いのが、私のシャツからはみ出す胸を指していう。
なんかこいつ、雑い。
「サイズは変わって無いはずだけどー」
白いのが目を細めて言う。
なんかこいつ、ふわふわしてる。
「アスナ、いつもは下着付けてるし、
シャツもあんなに開けないからねぇ」
「本当はあんなにあるのか?」
「僕に聞かれてもー」
おいこら、
全部聞こえてるからな。
「あんな、足長かったか!」
「アスナ、いつもズボン履いてるし、あんなにスリットも入ってないし」
「じゃあ、なんでこんな恰好なんだよ、ちくしょう!」
「ジル、喜ぶか悲しむか、どっちかにして」
白いのがため息ついて、
黒いのが、喜んでねぇ!と、叫ぶ。
「服は濡れてたから、自分で着替えてもらったんだけど」
と、青いのが言う。
「無理矢理、着せる訳にもいかないし」
「だからって、こんなに谷間、見して……」
「なぁ、黒いの」
「あ?」
「そうか、胸が気になるのか、じゃあ」
振り向いたその顔を
両手で掴んで、
引き寄せる。
「いっ!」
ぞんぶんに、
胸に顔を、
押し付る。
「ほーら、好きなだけ触れ、
ルシちゃんは寛容だからな」
「な! や、やめろ、おい」
黒いのはすぐに離れて、
しかめた顔でこっちをみる。
「なんだ胸ばっかり見てるから
触らせてやったのに」
「べ、別に見てねぇ!」
「触りたいなら、触ってもいいぞ」
「おい、お前、何言って」
「ただし、私も触るからな」
と、私は、黒いのの胸をつく。
「お、おい……」
「お前の胸とか」
ビクと、ついてる体が震える。
「目とか、舌とか、羽根とか、
あぁ、もちろん、そこもだから──」
「ちょ! ちょ! ちょーーと、
ストップ! ストップ」
青いのが指をはねのける。
なぜ止める。
「え? 記憶ないんだよね?」
「ない、名前しか覚えてない
なぜ止めるんだ、青いの
なぜ笑ってる、白いの」
「おいココ! 笑うんじゃねぇ」
「あー、いやー、うん。
すっごい面白い」
「足にキスしてくれても良いぞ」
「は?」
組んでる足の靴を脱いで。
「親指、くわえたら、
好きなだけ触って良い」
「いっ……」
「さ、どうするんだ? 黒いの。
ルシちゃんはいつでもウェルカムだ」
黒いのが押し黙って、
口を歪ませる。
「なに迷ってるの? ジル」
「迷ってねぇよ!
おい、ココ!
こいつ、なんでこんな性格なんだよ!」
「僕に言われてもー」
「僕は、ラウルって言います。
あなたの恋人です」
「堂々と嘘つくんじゃねぇ、ラウル!」
「僕はココだよー、君の友達」
「ラウルと、ココと、黒いのかー」
「おい! 俺も名前で呼べ!」
「あ、授業はじまるよ」
ドタバタと周りが騒がしくなって、
授業とやらが始まった。
◆◆◆◆
「アスナ、すごかったね、全部正解したでしょ」
授業が終わって、
外を歩きながら、
ラウルとやらが言う。
「ルシアだ。いいかげん覚えろ
ルシちゃん泣いちゃうぞ」
「あっ、ごめん、ル……ルシア。
先生の質問にも全部答えてたし、すごい」
「歴史は分かる。属性構造も頭に入ってる」
記憶は無いが、知識はある。
「たぶん、アスナの知識じゃないね」
ラウルが、何故か苦笑いしてる。
「おい!」
「なんだ黒いの」
「ジルだ! 名前でよべ!
ラウル、お前それ、どうする気だよ」
「だって、部屋に置いとく訳にもいかないし。
授業も、世話もあるし」
「だからって、お前、
受け入れすぎなんだよ」
「まぁ、二回目だし。
なんか懐かしいっていうか。
ねぇ?」
ラウルが聞いてきて、
「そうだ。黒いのが騒ぎすぎなんだ」
私が頷く。
「お前がいうな!元凶!
おいラウル、
こいつが何だか知ってんだろ?
どんだけ危険か」
「別に今は何か危ないわけじゃないし」
「そうだ。こんなに可愛いルシちゃんを捕まえて、危険とか言うな」
「自分で言うな、元凶!
おい、ココもなんか言え」
ジルの後ろのココがいて
「えー、仕方ないよ。
今は何もできないし」
と、笑う。
ボロボロの、おっきな麦わら帽子かぶってる。
「麦わら、帽子?」
「ん? 気になる?」
「なんでボロボロなのに、かぶってるんだ?」
「あぁ、君がくれたんだ。
だから、かぶってる」
「わからない
ボロボロなのに」
「ボロボロかどうかは
問題じゃないんだ」
なんか思い出しそうで。
「今度、ルシちゃんも
かぶりたい」
「いいよ。そうだ、僕が作ってあげるよ」
「作って……?」
「君も欲しいんだろ?
麦わら帽子」
欲しい。かぶりたい。
おっきな麦わら帽子。
「嬉しい?」
「嬉しい! 最高だ!」
「それは良かった」
ココがふんわりと笑う。
なんか、安心する。
「おい、本当に連れてくのかよ。
このまま、記憶戻ったら、どうなるか」
ジルがココに耳打ちする。
「じゃあ、どっかに縛り付けたい?」
すぅ、とココの顔から笑顔が消える。
「言っておくけど。
僕は止めるからね。
そんな事はさせない。
僕と……戦う?」
吐息を白く吐いて、
赤い目でジルを見る。
「お前……」
「さ、早くいこうよ。
ペガサスの掃除でしょ?
みんな先に行ってる」
小屋に着いたが、
まだペガサスが数匹
中に残っていて。
「全然出てってくれない」
と、先に入っていた誰かが言った。
「あー、俺がやるわ」
ジルが言ったが。
「いや、まかせろ」
と、私は言う。
「は?」
ペガサスどかせば良いんだな。
「ルシちゃんに、まかせろ」
「おい、アスナ!」
ペガサスに向かって歩く。
小さく息を吸う。
両手を握りしめて。
口にだす。
「おい、ペーガソス」
いままでより、
幾分か低い声が出る
ビクとすべてのペガサスが顔を上げた。
「お前らの住処を綺麗にしてやる」
真っ直ぐ前を睨んで、
心から声を出す。
「だから、早く、ここから……
のけっ!」
キァーと鳴き声が響いた。
バサバサと羽根が舞い上がる。
甲高い悲鳴を上げて、
ペガサスが飛び立った。
数匹のペガサスが、
一気に外に飛んでいく。
空になった小屋に
ハラハラと、羽が落ちてくる。
「すげぇ……威圧排除だ。
ペガサス相手じゃ
上級生でもあんまりできない」
だれかが声を上げている。
魔獣は強い奴には従う。
なら、強いと教えてやれば良いだけだ。
「ダメだよ」
言われて振り返る。
「それじゃ、ダメだよ」
ココがやんわりと言ってくる。
「なんでだ。
動かせたのに」
「彼らが怖がってるからだよ」
と、上を指して言う。
屋根の上から、
怯えてこっちを伺う、
ペガサス。
「アイツらが悪いんだ」
「でも、怖がらしちゃダメ、
みんな怖がったら、
ご飯食べなくなっちゃうんだ」
「お前、なんで、魔獣と人間を一緒にするんだ?」
なんで、魔獣を『彼ら』と呼ぶ?
『みんな』と、呼ぶ?
「僕の半分は魔族だからだよ」
と、笑って言う。
「僕も半分人間じゃない。
でも、僕は僕だよ
だから、彼らは彼ら」
意味が分からない。
「もちろん、君も君だよ」
と、にっこり笑う。
安心する。
「ほら、一緒に謝りにいってあげる。
地面に降りた所に、
話しに行こう」
手を引かれて、
ますますなにか
思い出しそうで。
あぁ、なにか大事な事を
忘れてるんだと。
ペガサスを前にしながら思った。
「お、おいー、このふかふかした感触はなんだ!」
「ペガサス、気持ちいい?」
「この、ふわふわを撫でた時の湧き上がるトキメキとドキドキはなんだ? ルシちゃんは知らないぞ! こんな感覚!」
「あー、アスナは『モフモフ』って呼んでたけどー」
「モフモフ! これが! モフモフ! モフモ──」
「微妙に残ってるんだ、前の感覚」
◆◆◆◆
「じゃあ、明日また、迎えに来るから。
本当に一人で大丈夫?」
「平気だ、気にするな」
「そう、じゃあ」
ラウルを見送って、
ドアを閉める。
自分の部屋、
記憶は無いが、
使い方は分かる。
ボンっと、隣で音がして、
スーツでコウモリ羽根の
男が現れた。
「お久しぶりです。ご主人様」
「お前は?」
「私はカルア。あなたのしもべ、
忠実なる下僕。
あなたの為に生き、
あなたの為に死ぬ者」
「しもべ?」
「どうぞこちらへ」
椅子に促されて、
座る。
上着を取ってくれて、
靴を脱がしてくれて。
カルアが跪いて、
私の手をとる。
その手の口をつけられて、
何かを思い出しそうになる。
なんか、懐かしい。
「カルア」
「はい、なんでしょう」
「足……くわえる?」
組んだ足、素足のそこを指して。
ビクンと、カルアの身体か跳ね上がる。
やけに嬉しそうな顔をして。
「よ、よろしいので?」
「構わないぞ。好きなだけ、キスしていい」
「もったいない、お言葉……」
カルアがおずおずと手を伸ばして、
私の足に触れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「ハロウィンパーティー?」
「その件ですが」
「誰?」
「私はメリッサ。アーク様の侍従です」
「そうか、メイドだな」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




