第四話、コウモリ羽根、ぷにぷに触り放題
「おや、驚きました?」
「え? 今、どうやって入ってきて?」
「どろんと、現れました。こうやって」
スーツの男は、黒い煙と消え、
すぐにベッドに座って現れた。
「なに? 魔法?」
「そういうのと、ちょっと違いますが、
あなたの世界では同じですね」
「あなたの、世界? って、
まさか、私をここに連れてきたのって」
そうですよ。
と、頷いて、男がまた消える。
すぐに目の前に浮いた状態で現れた。
ノータイムだ。
「あなたの魂を連れてきて、
その体に入れたのは私です」
黒い翼を羽ばたかせて、男が浮いていた。
「コウモリ羽根……悪魔みたい」
「使い魔という意味では同じですが、
そっちの世界ではむしろ、
ガーゴユルに近い」
「ガーゴイル!」
「ですがまぁ、私は私です」
「名前は?」
「カルアです。
ご主人様に付けてもらった、
大事な名前です」
「カルアさん、羽根触っていいですか」
「ダメです。風使いの柔羽根と違って
そこまで感じませんが、でもダメです」
あぁ、やっぱり。
私がため息つくと、
カルアはまた消えて、
ベッドに座って現れた。
「あなたそればっかりですねぇ、
もっと聞くことあるでしょうに」
スーツの長い脚を組んで、
余裕たっぷりでカルアは笑う。
何食べたらあんな足伸びるのか。
「私の魂を連れてきたって、どうして?」
「その体から魂が逃げたからですよ。
だから適当な魂、
召喚して突っ込みました」
「逃げた? アスナちゃんが?
そんな家出みたいに?」
「まぁ、失われた禁書の呪術で、
私も予想外でした」
まったく。手の平をうえにあげて、
やれやれ、と首を振って見せる。
腕も細くて長い。
「魂が失われた体は腐るんですよ。
それは困る。
その体はご主人様の大事な贄なので」
「贄? 生贄? え? 食べられるの?」
「何をするのかは、私も知りません。
食すのか、儀式に必要なのか、」
ドロンと煙を巻いて、カルアは消え、
すぐ目の前に現れる。
カルアの手が頬に触れて、
グイと顔が近づいた。
「あるいは蹂躙するのか」
耳元で囁かれ、ゾクッと背筋が震える。
細い指も、吐息もヒンヤリして冷たい。
またカルアは消え、ベッドに現れた。
「まぁ、でも。
必要になるのはまだ先ですから、
だから、それまで楽しんでください」
「ご主人様って誰?」
「それは、また。嫌でもわかります」
ふむ。
私は少し考える。
神様のプレゼントかと思っていた。
社畜として使い捨てられ、
過労死した私にご褒美をくれたと。
でも違った。
「自分がどうなるか怖いですか?
でもあなた死ぬ所だったんですから。
別にいいでしょ」
吐き捨てるカルアの元に、近づく。
ベッドに腰かけて、
長い足を組む男に、笑いかける。
「ありがとう」
「なんですって?」
「私、神様にお礼言いたかったの、
こんな素敵な世界に連れてきてくれて、
ありがとうって」
「神じゃなくて、悪魔ですが」
「とにかく、ありがとう、カルア」
笑って言うと、カルアは顔をしかめて、
視線をそらした。
「あなたの、その正直に相手に伝える所、
いつかトラブルを生みますからね」
「え? なんで」
「まったく、これ以上厄介なのは、
隠しきれなくなるんで、マジ勘弁です」
はぁ。露骨なため息。疲れた顔。
あれ、なんか覚えがある。
そうだ、社畜時代、
同僚がへまして、それを隠してた時。
発注量間違えて、足りない分を、
他の納品先から流用して、
──お前、今はヘマするなよ。
これ以上は無理だから、マジ勘弁な
今、思えば、ミスを正直に言えないの
ブラックだわ。
つまりだ。
「ねぇ、カルア。
アスナちゃんの魂が逃げたのって、
結構マズいの?」
「は? なんですって?」
声が怒っている。
「魂が逃げたのって、
ご主人様には話したの?」
「ご主人様は今は連絡とれません」
「じゃ、ミスはミスなんだ、
魂が逃げられたのって」
カルアが顔をしかめる。
さっきまで、余裕のある顔で
笑ってたのに。
「私がそのご主人様に対面した時、
『アスナ・クラウジットではありません、
本物は逃げました』
って言っても大丈夫なの?」
カルアが数秒黙って、
組んでいた足を下した。
下を向いて、疲れたボクサーみたいな
恰好で盛大にため息をつく。
「……なにが望みですか」
「え、なに?」
「……私に、なにをしてほしいのか、
と、聞いています」
あぁ、話が早くて助かる。
悪魔は交換条件が基本だから。
「私にも忠誠を誓って」
「は?」
カルアが顔を上げた。
驚いたような、嫌そうな顔で。
「あなたのご主人様には、黙ってるし、
私は真面目にアスナちゃんとして
生きるから
だから、私にも忠誠を誓って」
もう一度いうと、息を吸い込んで、
盛大にため息をついた。
「分かりましたよ」
ドロンとカルアが煙になって消える。
そして、私の横に現れ、乱暴に
これまたひどく乱暴に、
ベッドに突き飛ばした。
「きゃあ!」
ベッドに座りこんだ格好の私、
その手を取って、カルアが跪く。
嫌そうに、悔しそうに、
その手に口をつける。
「あなたに、忠誠を誓いましょう。
せいぜい、好きに使いやがれください」
はぁ。おまけに盛大にため息をついて、
私の手を放す。
跪き、頭を垂れた姿を見下ろして、
私は笑った。
「じゃあ、触らせて!」
「は?」
「コウモリ羽根! 触らせて!
良いでしょ?」
カルアは少し考えて、嫌そうな顔で、
「どうぞ」
と、跪いた格好のまま、
羽根を前に伸ばしてきた。
おぉ! 前にも届くんだ。
大分伸びるし大きい!
これが! コウモリ羽根!
固そうに見えるけど、
産毛生えててやわらかい、
フワフワ……ていうよりぷにぷに
「すごーい、やわらかいー、
ぷにぷにー、なんかサラサラする」
「あんまり……強く、触らないください」
「ぷにぷにーー、サラサラー、すべすべ」
「もう……いいでしょ……やめてください」
「ほんのりあたたかくて、
やわらかくて、薄くて」
「あの……聞いてますか?」
「いいねぇ、気持ちいい、あー、良い!」
「ちょっと……ちょ、あの。
柔羽根と違って感じにくいですが、
それでも……それ以上やると」
「あー、これは良いわ、気持ちいい……」
「あぁもう!」
カルアが私の両腕掴んで、
ベッドに押し倒す。
「へ?」
「あなたがいけないんです。
私はちゃんと忠告しました」
カルアの顔は苦しそうで、息が荒い。
あ、もしかして、顔は赤くならないの……
「責任は取ってもらいます、
ご主人様」
ちょ、ちょっと待って!
あーーーーー!
カルアの顔が近づいて。
首元に口が触れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「ちょ! うえ、服きてない!」
「我慢するこっちの身にも
なってください」
「信じらんない!最低!」
「なんとでも言ってください」
毎日更新!
今日も皆様、
お仕事お疲れ様!モフモフー




