第三十二話、個室と絶望と大切な物
生徒の荷物は、
一か所に置いていた。
その中で、ココの荷物だけ
バラバラにされて、
沢山のつららが突き刺さっていた。
「酷い……」
「おい、あれ見ろ」
ジルが指す壁には、
「あ、麦わら……帽子」
壁に氷で貫かれた麦わら帽子が、
執拗にズタズタにされて、
凍り付いていた。
なんでまた、こんな事……
「お前、ラウル、見てねぇ?」
ジルに聞かれて、
「ラウル? 一緒に帰ってきたんじゃないの?」
「一緒に帰って来た。
でも今、どこにもいない」
嫌な予感が、はい回る。
ジルが舌打ちをして、
「今、先生が氷狐を捜索してる。生徒は部屋で待機しろって、言われてるが」
ジルの声が低くて、
怒りに震えてるのが分かる。
「俺が探し出す。半殺しにしてでも連れてかえるから、お前は待ってろ」
「私も行く!」
ココを、探さないと。
ラウルも。
「ダメだ。部屋にいろ」
「ヤダ、私も!」
「わかんねぇのかよ! なんで『コレ』がこうなんてんのか!」
壁に貼り付けられた、麦わら帽子。
「え?」
なんで、麦わら帽子が、
ズタズタなのか。
「ココが、大事にしてたからだ!」
え?
「アイツ──氷狐は、逃げてる訳でも、戦ってる訳でもねぇ」
どうせ朝には、ココに戻るから。
「ただの嫌がらせだ。夜のうちに、ココの大事な物をかたっぱしから、壊す」
大事な、物を……
「ラウルも、その一つだ。なら、アイツが一番壊したいのは」
壊したいのは、
「お前だろうが!」
ビクと体が震えて、
両手を抱きしめる、
──またすぐに会いにくるからね。
そう笑った顔を思い出す。
ココと同じ顔、同じ目。
「だから、部屋にいろ。お前が、なんかされたら、俺はココに顔向けできねぇ」
「うん……わかった」
ジルが私の頭をポンと撫でて、
「大丈夫だ。必ず連れて帰るから」
そう言ってくれた。
「うん」
私は頷いて、
部屋へ歩き出す。
氷狐の笑った顔を思い出す。
頭が勝手に、ココだと認識する。
同じ笑い方、同じ声。
なんで同じなの。
ちょっとくらい違えば、
混乱しないのに。
部屋の鍵を握りしめる。
私だけ1人部屋で、
そして一番遠い。
同じような部屋が並ぶ廊下。
割り当てられた部屋の
二、三個手前に来た時だった。
廊下に、
一枚の白い羽が落ちていて。
「え?」
立ち止まる。
見覚えがあって、
思わず、そこの扉を見る。
半開きで、奥にまた
何枚かの羽が見えて。
「まさか」
ふらふらと、扉を押して、
中に入る。
空き部屋であるはずの、
暗い部屋。
奥に、白い羽が飛び散っていて、
真ん中に倒れているのは、
「ラウル?」
思わず駆け寄って、
そして、違った。
あるのは、
むしり取られた羽だけで、
半分はクッションで。
「これは……」
気づいて立ち上がった時、
「そう。罠だよ」
耳に冷たい息がかかって、
ビクンと震える。
反射的に振り返ると、
ココが──氷狐が、笑って立っていた。
「あ……」
パチと、部屋の電気が付く。
入って来た入口が閉められて、
バキバキと氷で覆われていく。
「さぁ、もう逃げられない」
にっこりと、氷狐が笑う。
「ゆっくり、もてあそんであげる。朝までね」
ココと同じ、キツネ目で。
「……ラウルに、何したの?」
「別に殺しちゃいないさ。外で凍ってる。すぐに見つかるし、朝には溶けるよ。ちょっと羽根貰ったけどね」
「どうして……こんな」
「『彼』を絶望させたいからさ」
と、氷狐が自分をさす。
多分、『彼』はココの事。
「君を好き勝手して、君を泣かして、傷つけるのは、『彼』が、一番嫌だからだよ、やめてくれと、懇願するほどに」
明るい声で、楽しそうに。
「『彼』が生きる事に『絶望』すると、僕の復活も早くなる。だから壊す。彼が好きなもの、大事なもの、固執するもの、守りたいもの、生きる意味、全部」
「そうやって……ずっと」
ずっと、ココを傷つけて。
1人泣かせて。
だから辛くても、
毎晩自分を凍らせて。
「酷い……」
「いいね。君のそういう顔、大好き」
氷狐が手を伸ばして、
私の頬を触る。
冷たい。
ココの手は、それでも暖かかったのに。
「あぁ、やっと君に触れられる。ずっと触りたかったんだ。そして、ルシファルスの贄だなんて、あぁ」
私の両肩を掴んで、耳元で呟く。
「なんて、素晴らしい」
冷たい吐息に、ゾクリと体が跳ね上がる。
「楽しみだよ。君をボロボロにして、もてあそんで、その横で目覚める彼の、絶望」
私の髪をスルリとなでて、
「もちろん、これから君と遊ぶのも、とても楽しみだよ」
髪に口をつけて笑う。
私は……ココを、助けたい。
歯を食いしばる。
「私が……」
「ん?」
「私が、
何も出来ないと思ったら、
大間違いだ!」
「は?」
「ニーナ!」
目前に巨大な狼が飛び出す。
氷の壁が出来て、ガチンと衝突音がなる。
氷が砕けて、氷狐が距離をとる。
「ガウ……ガルルルル」
私の横に、
金色の大きな狼が、
ニーナが立って威嚇する。
「ははっ、魔獣を、服に忍ばせてた、って?」
「ココを、返してもらう!」
氷狐を睨んで叫んだ。
ココを取り戻す!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「社会人なめんな。応用力が違う」
「ははっ、いいねぇ、良い顔だ、泣かせたい」
「さぁ、ココを、返して!」
「大好きだよ、アスナ」
「私も……好き」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




