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政略結婚



彼とのお茶会は最悪の一言に尽きた。


「白百合妃様が夜会に出たんだって?!どのようなお召しものだった?!ダンス?!ダンスもしたのか!どうして俺は見てないんだ!!」

「お召しものはパステルカラーのドレス。型としては淑女を表すようにあまり肌を出さないタイプですわね」

「なんと!」

「どうして見ていないかと言われれば、アレス様はその時お勤めでございましたから」

「白百合妃様が出ると知っていれば都合をなんとしても付けたのに!!」



そのセリフにミレッタはきゅっと唇を噛む。

無意識に出ている言葉なのだろう。言葉の暴力性にアレスは全く気が付いていない。




ミレッタとアレスは貴族外にほど近いカフェテリアのテラスで、夜会欠席の埋め合わせであるお茶会をしている。

テラスは程よい日当たりで風も心地よく、このカフェテリアの紅茶もラズベリータルトも絶品だというのに、どうしてこうも悲しい気持ちにならなければならないのだろう。


貴族の定番のデートスポットであるこのカフェテリアだが、2人はアレスの夜会欠席の埋め合わせ場所としてまぁまぁな使用頻度だ。

店員も2人の状況をそれなりに察しているのかこちらが呼びかけるまでは必要以上に近づいても来ない。

きっと店員たちは「またか」とあ呆れているに違いない。


ミレッタは止まらないアレスの白百合妃への賛美と、店員への同情ですぐにでもこのお茶会を取りやめてしまいたかった。


「アレス様」

「なんだ?」

「夜会、私も出ましたのよ」

「知っている。だから貴女に白百合妃様のことを聞いているじゃないか」

「・・・・私のことは聞かないの?」

「・・・何がだ」


アレスは全く分かっていないようだった。

ここまで察しが悪い貴族も珍しい。それとも恋に狂った男とはこういうものなのだろうか。


ミレッタはその優秀な頭脳で考えてみたが答えはずっと出ないままだ。


「私の夜会での様子は聞かないのですか。と聞いておりますのよ」

「なぜ聞く必要がある」


あんまりだ。



「私に興味はないの?」

「貴女とは婚約者だろう」

「えぇ」

「それも政略結婚となる」

「そうね。でも貴族ですから珍しいことではありませんわ」

「それは私も理解している」

「政略結婚と私の夜会への興味、どう繋がりますの?」


あぁダメだ。この質問は自分の首を絞めることになる。

悲しい気持ちになるだけだと知っているはずなのにミレッタは聞いてしまう。


「政略結婚であるため、通常なら破棄されず、私達は夫婦になるだろう」

「そうですわね」

「で、あるなら今後貴女の夜会の姿を見る機会は幾分にもある」

「・・・・」

「それに引き換え、白百合妃様はめったに夜会にはでない。それにずっと王宮にいられる保証もない。いつか誰かに下賜されるかもしれないお方だ。

そんな方の夜会の姿は貴重だし、その時はぜひとも我が目で拝見したいじゃなか」

「あの方がいつ下賜されるかもしれない存在なのかも、夜会やお茶会への参加も極わずかということも知っております」

「それなら気持ちがわかるだろう」

「・・・もし、白百合妃様が出席なされると事前に分かった場合、その時は誰と参加いたしますの?」

「?それはもちろん君だろう?参加するパートナーは婚約者が一般的だ」



ミレッタはふるりと首を振る。



「ミレッタ?」

「私は婚約者です。確かに政略の意味合いの婚約者ですわ。そしてゆくゆくはアレス様と夫婦となります。確かにそうなったら様々な場面で、夜会で茶会でと、夫婦で呼ばれることでしょう。でもそこに白百合妃様はおられるかもしれないし、いないかもしれません」

「あ、あぁ」

「白百合妃様がお出になるから私と一緒に参加するだなんてっ!こんな不誠実なことをござますか!」

「ミレッタ」

「アレス様が白百合妃様を想われているのは知っています。

ですが、だからといって私を、婚約者をないがしろにしないでいただきたいわ。

それになんです?そのおっしゃりようだと白百合妃様が出ない場面ではまるで私とは一切参加しないと宣言しているよう。

政略結婚の相手は蔑ろに、不幸に、他の参加者たちから白い目に見れても構わない。そういうことですか」


捲し立てるミレッタに狼狽えるアレスだが、その言葉に頭に血が上る。


「誰もそんなことを言っていないだろう?!」

「いいえ!今までのアレス様の私への行いが全てです!その全てが私のことは2の次3の次で構わないと!同僚に無理を言ってまで夜会の日に勤務を交換してもらって、いつ離宮から姿を現すかわからないあの方を待っているその姿が!!」

「っ!」

「どこまで、どこまで私を馬鹿にするつもりですか!!」

「違う、ミレッタ、違う」


言い訳をしようとするアレスだが、文官として王宮に勤めているミレッタはその頭脳も口数もアレスよりもずっと働く。

口を挟ませる隙は与えない。


「侯爵家の身分で、成人をしていて、婚約者がいる私が毎度1人で夜会に参加しているその惨めさを知らないでしょう?

アレス様の同僚の方が楽しそうに婚約者様とダンスをしているのを、1人見ている私の虚しさなんて、白百合妃様に夢中なあなたは気づいてもいなかったでしょう?!

騎士ならば白百合妃様に恋をするのは仕方がないこと。

王宮勤めで騎士の婚約者を持つ人間の間では有名な話です。

けれど、それは我慢しろとか、婚約を解消するとか、婚約者が辛い思いするとは違いますわ」


「ミレッタ、貴女は・・・」


ハラハラと涙を流すミレッタ。

アレスは初めて見る彼女の涙に息を飲む。


「家訓を知っています」

「!」

「その家訓があるから、私は政略結婚でもきっと幸せになれるのだと思った。学生の時、アレス様の人柄に触れて貴方ならこの人生を生きていけると思ったの。

家だけではなくって、私自身の貴族の繋がりを強固すればいつか貴方の強みになるかもしれないって、文官を志したわ。

・・・あの方に恋をする覚悟はしてたわ。家族にも言われたし、同僚にも言われている。けど、みんな言ったのよ「憧れのようなものだ。本気で恋をしているわけじゃないんだよ。」って。

上等な常套句よね。でも実際殆どの騎士はそうだったし、白百合妃様にたとえ恋をしていても、婚約者との仲を確かに深めてた。

なのに、どうして?どうして本気で恋をしてしまったの?

実ることのない恋だから?可愛らしく、美しいから?身分が私よりも上の存在だから?」



何も言えなかった。いや、ここで何をいっても言い訳でしかないことを理解していた。

なにより自分の態度がミレッタを泣かせるまで苦しませていたことに初めて気が付いた。


「アレス様、王宮内での軽口はほどほどになさいませんと。

騎士と文官。どんなに職務内容が違っていても、職場が離れていても私の耳に入ってしまっているのです」

「ミレッタ、俺は・・・いや、私は」

「どうか、なにも言わないで聞いてくださいまし」


そう言うとミレッタは何度か深呼吸をして息を整えた。

バクバクとアレスは自信の心臓の音が大きく鳴り響いてるように聞こえる。


「どうか、婚約を解消してください」

「・・・・」

「お互い仕事に身を捧げたくなった。など理由は適当で問題ないでしょう」

「いいや、解消はできない」

「いいえ、きっと解消はできますわ。アレス様の今までの厚顔無恥ぶり、家の者皆知っております」

「それは」

「貴方は騎士らしく誠実に謝罪を行った。と思っていたかもしれませんが、あまりに数が多すぎます。夜会のたび、茶会のたびにエスコートではなく謝罪に来るような、他の方へ恋煩いしているような不誠実な騎士は私には不要です」


自分の全ての行動が自分がイメージしていた結果と真逆になっている。

アレスは騎士で、おおざっぱなところがあり、人の考えを察するのには疎い。

けれど、面と向かって誠実に謝りさえすれば、何も問題が起こらないと考えていた。


「・・・これは政略結婚で」

「えぇ。けれどもそこまで重要性の高い政略ではありません。特に我が家は。貴方の領で取れる質の高い蜂蜜やミード、それにバラは魅力的ですが先々代より我が領と取引はしていますから。まぁ、これまでどおり。となるだけです」

「お、おれは、夫婦になって、一緒に」

「きっとアレス様は夫婦になっても一緒に夜会なんて出ませんわ」


これまでがそうだったのだから。



「私が何を想い、何を願い、誰のために、貴族の大事な職場であり戦場の夜会に1人でも赴いていたのか。ドレスには、化粧には、髪型には、宝石は、誰のためだったのか。その全てに貴方は【必要ない】と言ったのです。とんだ侮辱だわ」



途中から俯いたアレスは気が付かなかったが、淑女として名高いミレッタが自分を落ち着かせ、貴族として堂々とふるまう姿は見るものを魅了させていた。

そして彼女の華奢な首元を彩る、侯爵令嬢が身に着けるには少々小ぶりなナックレスが自分の瞳の色だということも最後まで気が付かなった。



「追って、家の方から正式に婚約解消のお話をさせていただきます。アレス様もご家族にこの旨あらかじめご報告しておいてくださいませ」



そう言って彼女は帰ってしまった。



絶品の紅茶は冷めきって、ラズベリータルトは手を付けられていない。


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