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ミレッタ


「ミレッタすまない。今夜はどうしても警備に努めなければならないんだ」

「・・・えぇわかっております。アレス様。

夜会の時ほど王宮と離宮は厳重に警戒しなければなりませんもの。

エスコートしていただけないのは、とても寂しいですが、こうしてお忙しい中あってくださるだけで私幸せですわ」

「ありがとう、理解してくれる婚約者を持ってオレは幸せだ」

「まぁアレス様ったら」


なんて芝居掛かったセリフなのでしょうか。

毎回毎回同じセリフの繰り返しで飽きてしまいそう。


今夜は王妃様の生家である公爵家が主催する夜会。

爵位も近く、敵対派閥ではないため我が侯爵家も夜会に招待されております。

夜会は貴族の夜の仕事場。なので普段ならば王宮で勤務している私たちも、その日は都合をつけ夜会を優先することがしばしば。

そして、それはその時間帯、普段よりも王宮が手薄ということを意味します。



だから警備にあたる騎士は普段よりずっと忙しい。

私は同じく王宮で文官として働いていますが、婚約者がいること、侯爵家という身分から割と優先的に夜会への参加は許可されます。

でももう、ほかの子に優先的に行けるようにしまいましょうか。

仕事だとわかってはいますが、アレス様はかなりの確率で仕事を理由に一緒に夜会へ参加してくれませんから。

たった一人で夜会への参加はそれはとても寂しい。

ダンスはひとりきりでは踊れません。



「けれどもアレス様、前回の夜会も不参加ではございませんか」

「あぁ」

「私、アレス様と夜会に参加してファーストダンスしたいですわ」

「申し訳ない。仕事なんだ」

「えぇ、えぇ、もちろん貴方は騎士様。守ることが大事なお役目です。けれど、けれども、こうも毎回あなたではなりませんの?」

「どういう意味だ。ミレッタ」


あぁ言葉を間違えた。アレス様はきっと仕事を侮辱されたと思ったに違いありません。


「ほかの騎士様たちは、騎士様同士で都合をつけ、他の方達と比べれば回数は少ないですが婚約者と夜会に出ております。

貴方様ぐらいですよ。ほぼすべての夜会を欠席し、婚約者をひとりにさせていますのは」



彼の表情を伺い見て、また言葉を間違ったことを理解する。

けれども、私だって鬱憤が溜まっています。



彼は知らないでしょうね。婚約者にエスコートされない寂しい女の気持ちなんて。


だって、彼は・・・・


「もし、貴方様に勤務が偏っているようであればそれは問題です。そのような勤務状況は改善しなければなりません。

王城で働いている勤務について管理する部署には私、知り合いがおりますの。

ですので、アレス様だけに負担がよるような、そんな勤務状況でしたら私その方に相談することも可能ですわ」

「必要ない」

「あら?では、たまたま、偶然、夜会の日に限って、アレス様が勤務となっておりますの?月も日も違いますのよ」

「ミレッタ、君は、怒っているのか?」

「まぁ!」


とても驚いたようにパンと扇を広げる。


「大事なお勤めですもの。そのことに怒ったりはいたしませんわ。

私も王宮で文官として働いている身。分野が違えど、その大変さはわかっているつもりです」

「だったらっ!」

「けれども!私たちは婚約者同士なのですよ!その意味、その事実、蔑ろにしてもらっては困ります!!」



そう言ってしまえば彼は何か言いたげですが、黙ってしまいました。


「支度がございますので、私はこれで。近々埋め合わせとして一緒にお茶をしてくださいね」



もう成人しているというのに、自分の言いたいことだけ言って立ち去る私に、きっとアレス様は幻滅するでしょう。

悔しくて、悲しくて仕方ありません。

私は婚約者がいる令嬢として、婚約者と一緒に夜会に参加して楽しみたいだけなのに。



----------------------------------------------------------------------


そんなやり取りが夜会が始まる4時間ほど前にございました。

彼の良い所はあらかじめ不参加の意を手紙て伝えて、当日も謝罪に来ることぐらいでしょうか。

でもそれも頻度が多ければ意味がありません。

ここ数年では、彼が私を伴って夜会にでるのは年1度程度。執事が謝罪をしに来る彼を門前払いしようとしているのを何とか留めている状況なのですが。


私は会えて嬉しい気持ちと、結局毎回同じ謝罪の言葉に憂鬱した気持ちに交互に襲われて夜会の前に疲れてしまいます。



「あぁ、ミレッタここにいたのかい」

「叔父様」

「今回もアレス君は警備勤務か」


母の兄である叔父はため息を吐きながら赤ワインを口に含む。

その姿の優美なこと。さすがは公爵様です。


「えぇ、今回も同じお言葉を頂きましたわ。ねぇ叔父様。アレス様ってそんなに忙しいと思います?」

「いいや?」

「私も思いません。だって、同じく離宮外苑警備のソルドラド様は今婚約者様と踊っていますし」

「ラダン伯爵家の子だね」

「はい、アレス様とは同期と聞いております。彼が参加できてアレス様が参加できない。なんてことあり得ませんもの」


ふっと小さく笑う音がした。

見ると、叔父様が薄く笑っています。


「もしかすると彼を参加させるために、仕事を変わりにしているのかもしれないよ」

「そうだとしても、毎回ということはあり得ませんわ。私、もうアレス様と踊れる自信がございません」

「おや、君は小さいころからダンスがとても上手だったじゃないか」

「でも私、アレス様のダンスができないわ」

「そんなことはない」


私をなだめるような声に若干腹が立ってくる。


「いいえ、私はアレス様とだけは上手にダンスがきっとできないわ」


彼とダンスをしたのはもうずっと前だ。

もしかしなくても今年はまだダンスをしていないのかもしれない。

彼はエスコートをしてもある程度の挨拶周りが済んでしまったら「仕事がある」と言って、いなくなってしまうから。

結局私はずっと壁の花になるしかない。



悲しくなって私は持っていた白ワインを少しはしたなくはあるが、飲み干した。

アルコールで喉が熱くなるのを感じる。


叔父様は困ったように笑っていたけれど、お父様に呼ばれて離れてしまった。


-------------------------------------------------------------


夜会も中盤に差し掛かり、そろそろお暇しようと考えていた時、


「ミレイ嬢」

「あら、エルラド様」

「ミレイ嬢は今日も壁の花かい?」

「えぇ、例に漏れず婚約者のアレス様は騎士のお勤めですの」

「そうか。それは立派なことだ」


私に声を掛けてきた彼はグール・エルラド様。

私と同じ部署で働いてる先輩です。


公爵家の次男という立場に整っている顔立ちは、いつだって女性の人気の的です。ですが彼は婚約者を設けず、いわゆる自由恋愛派です。


けれどもお付き合いはとても誠実とのこと。

彼とお付き合いしたことがある方々は皆さま円満破局と言ってましたし。


・・・・破局に円満ってあるのかしらね?

まぁ、私には婚約者が一応おりますので関係がないことです。



「踊らないのかい?」

「今日はそういう気分じゃありませんわ。エルラド様のお声がけがなかったらお暇しようとしていたところですの」

「それはタイミングが悪かったね」


少し困り顔で謝るその姿は確かに様になっています。

が、私は仕事で良くかかわっていますので、彼が全く「悪かった」なんて思っていないことなんてお見通しですわ。


「構いませんわ。本日はお酒も言うほど入れておりませんし、帰ったら日記でもつけるぐらいですから」

「君は仕事でも文字を扱ってるのに、こんな夜会の日まで文字を書くのかい?」

「あら?私は文字が大好きですし、どんな日でも文字をしたためたいですわ」

「私は帰ったら酔っていて文字なんて書けないなぁ」

「もう、そんなだらしのないことこのような場で言わないでくださいまし」


明日遅刻でもしたら文官長から大目玉ですよ。


そういうとエルラド様はケラケラと笑う。

これはきっと私が思っている量よりも多くお酒を飲まれていますわ。

彼がこれ以上飲まないように給仕に一言声を掛けておこうかしら。



「・・・ミレッタ嬢」

「はい?」

「観てごらん。珍しい方がきている」



そういうと彼は一点をまっすぐ見つめる。

その横顔の美しいこと。


一瞬見惚れそうでしたが、エルラド様がチラリと私を見、そして視線を戻す。

私は彼にならい、視線を向けた。




そこには普段夜会には参加しないはずの白百合妃様が、留学中の他国の王子を踊っていた。

少年の面影が残っている王子は、照れくさそうにしながらも軽やかにダンスをエスコートする。


白百合妃様もとても楽しんでいるようにみえた。



「彼、白百合妃様が初恋の人だそうだよ」




エルラドの声が遠くに聞こえる。



可愛らしく麗しい白百合妃の品の良いドレスが翻り、シャンデリアの光を浴びて魅了する。

それは夜会に参加している誰にも平等だ。

いいや、きっと私の婚約者がこの場にいたらきっと誰よりも魅了されてたはずだ。

ミレッタはもはや婚約者の心を奪い返せる自信が結局のところない。



アレスが白百合妃に恋をしているのを知っているミレッタは、あの王子の初恋が実ってしまえばいいのに。

そう、願ってしまった。


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