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恋する騎士



「お、見ろよアレス。白百合妃様だ」


ソルドラドの弾んだ声につられ、アレスは弾かれるように白百合妃を覗き見た。


アレスとソルドラドは王宮直轄騎士団に所属しており、主な職務は離宮外苑の警護となる。

必要となれば王都防衛のために剣を振るうが、近衛兵とは違い外苑警備隊は警備待機という雑談しても問題ない時間が多い。


花形騎士である王族直轄近衛兵騎士団の1つではあるが、正直華やかさは皆無だ。

だが、極まれにではあるが、普段は離宮に引きこもっている白百合妃の姿を直接見ることができる数少ない部署のため、彼女見たさに騎士団内では中々人気のある部署でもある。


もっとも、王宮、及び離宮に面する場所を警備するには貴族の子弟であること、

妻もしくは婚約者がいることが必要となるわけだが。




白百合妃。彼女は前王の最後の寵姫で最も愛された女性。

彼女は領地を持たない男爵令嬢であったが、たまたま王城で働いている父親に会いに来ていたところ、息抜きと政務から抜け出た前王に見初められたとのこと。


当時イルガス王国では王太子、つまりは現王に第1子が誕生したばかりで国中が祝福に溢れていた。


そんな中今まで出会ったことのない天真爛漫な少女に。例えるならばまるで妖精のような可憐な令嬢と前王は出会ってしまった。

その可憐さに彼は一目で真実の愛に目覚めたそうだ。

当時の王、御年78歳。対する現白百合妃、当時はリリラ=ルクス男爵令嬢は学園を卒業したての16歳。

年の差62歳にしてその場で婚姻を迫ったらしい。



今まで賢王として名を馳せていた王のまさかの暴挙に側近たちは目を見開いた。


まだ少女の域を脱しない可愛らしい令嬢は、慌てふためく男どもを後目に



「身に余る光栄でございます」



可憐な笑顔で承諾したという。



その声を聞き、歓喜を抱かない男はいるだろうか。

あぁこれが彼女の声なのか。愚かな男と人は笑うだろう。

だが、私には、最上の甘味のように彼女の妖精のような声が老いた身体に、心に染みわたったのだ。


これは王の日記の有名な一文だ。



しかし、王太子がおり直系の孫まで無事に生まれて国としては盤石であるが、身分は一国の王と男爵令嬢。

更に圧倒的な年の差だ。


身分や年齢差から到底認めることはできないと側近たちが反対したが、王を止められる存在の正妃や側室たちはすでに亡くなって、懸命な側近たちの言葉は王の耳には届かなかった。

すでに王は彼女に陶酔していたのである。


結果として王の独断でリリラ=ルクス男爵令嬢は寵姫、白百合妃として王へ嫁ぐこととなった。


それはそれは国を騒がせたのものだ。

人恋寂しい王が未熟な小娘のハニートラップに引っかかってしまった。

賢王の治世は最後に汚名を残してしまったがそれでも構わないと前王は言う。



白百合妃は確かに前王に愛されていた。

彼女も自身の立場を理解している賢さがあったため、決して表舞台に立つことはない。

ただ前王の荒れた心を慰める存在が彼女だった。



そんな前王に深く愛され、寵姫となった白百合妃は、現在も多くの騎士の憧れの存在である。


王がそうだったように、騎士とは守らなければ呼吸もできないほどの美しく、儚い姫君に一方的な恋をする生き物なのだ。





「やっぱ可愛いすぎるだろ、白百合様。」

「不敬だぞ、アレス」

「ソルが上司に密告でもしなきゃ、この不敬はばれないから大丈夫だ。

いや、ほんと、可愛い。憧れのお姫様って感じだよな。あれで一児の母っていうのが信じられん」



そう、彼女はなんと前王との間に王子を設けている。

前王との子供の名前は カール。

白百合妃の面影を強く引き継いだ愛らしい顔だちの若干8歳の王弟だ。


年齢もあり、世継ぎも確定している。

白い結婚だと誰もが思っていたが、死期を悟った王が冥土の土産へと彼女に手を出したそうだ。

たった1度の交わりであったが、前王の執念か、王族としての種の強さからなのか彼女はその1度で子を孕んだ。


王は本当に寵姫を溺愛していた。

それこそ彼女が望めば全てを与えるとも言っても過言ではないほどに。

幸い妊娠が発覚したのも前王の死去後だったため、彼は彼女が妊娠していたことも、息子を生んだことも知らずに済んだのだ。

もし、生きている間に生まれてしまえば、前王はカールを王座に着かせようとしたかもしれない。

本来は喜ばしいはずの彼の存在は、国の大きな懸念材料となってる。




「あぁ、まあなぁ。カール王子も顔は良いよな」

「だから不敬」

「やーかましぃ。不敬も何も、ただの雑談だろ?」

「雑談とはいえ誰が聞いているかわからない場所でいうことではないだろう」

「それはそうか。お前が大丈夫でも他のおっかた~~い人間の耳にでも入ったら減俸じゃ済まされないか」


アレスはやれやれとため息をつく。

だが、その瞳は白百合妃から視線を外さない。


「カール王子、白百合妃様に良くご尊顔が似ておられる」

「・・・・別にそこまでしなくてもいいだろ」

「誰が聞いてる変わらない。だろ?」

「・・・・そうだな」


あぁ、それに。とアレスは会話を続ける。


「最近、白百合妃様が良く部屋からお出になるな」

「寵姫はもともとは活発な方だったと聞いている。

最近は天気も良いし、カール王弟の情操的にも室内に引きこもっているよりずっと健康的だ。」

「だ、な。離宮の室内からお出になられれば俺たちも白百合妃様のご尊顔を見る機会が増えるから素晴らしいことだ」



彼女の姿を一目見たら恋をしない騎士はいない。



騎士団内では有名な話だ。

アレスも例に漏れず白百合妃に叶わない恋をしている。

だが、憧れのような恋をするにしても、アレスが白百合妃へ抱いている恋の熱量は褒められるものではない。

ソルドラドは眉を顰める。



「いい加減にしないと、彼女が怒るぞ」

「彼女?」


「ミレッタ様だ。お前の婚約者だろう」

「あぁ」


僅かに顔をしかめるアレス。


「ただの政略結婚の婚約者様だな」

「俺たちは腐っても貴族だ。政略結婚は珍しくもないだろ」

「そりゃ、お前はな?政略だが領地が隣同士で小さいことからの知り合いの相手だろ?」

「あぁ。俺はフィルシィが生まれた時から知ってる。早く彼女と一緒になりたいよ」

「幸せそうで何よりです」

「アレスはどうなんだ?」

「オレは・・・」


アレスはそういうと顔をソルドラドに向ける。

ソルドラドが確認すれば白百合妃はすでに離宮へ戻ったらしい。

そこにはカール王子と数名の侍女しか残っていなかった。


「そこに愛はないわなぁ」

「なぜ?」

「なぜって、政略だから」


ソルドラドはアレスの気持ちがわからない。


「政略だから愛してはならないとう決まりはない。そもそもこれからの人生を共にいる存在だ。

嫌い、疑い、叶わない恋を一生胸に秘めて生き続けるぐらいなら政略でも自分の相手を愛するべきだ」

「お前の言葉は耳が痛いよ」

「そもそもミレッタ様のどこが嫌なんだ?語学が堪能な人物として外交サポートもできる優秀な文官だ。

地頭はもちろん良いし、侯爵家で身分も高いし、淑女としても評判だ。」

「あぁ。そうだな。彼女は俺よりもずっと優秀だ」


それに、と


「何より美人だろ」


クール美人系だな。インテリだし。と続けると「それだ!!!」と響く声。


「声は潜めろ。俺まで報告書ものになる」

「すまん」

「いや、構わないさ。で?なにがソレなんだ」


「単純な好みの問題だ。オレは美人より可愛い系が好き。完璧な淑女よりも守ってあげたくなる姫君が良い」

「ミレッタ様も見た目は綺麗だが、可愛い所があるんじゃないか?」


そういうと、アレスは黙り込んでしまった。

顎に手をあて、しばらく考え込む。


だが、結局彼に「婚約者の可愛いところ」は見つからなかったようだ。


「ダメだ。何度考えても可愛いところが見つけられん」

「・・・・そうか。ま、無理にとは言わんさ」


よほど相性が悪いのだろう。

ミレッタからのアレスの評価はわからないが、アレスからのミレッタの好感度を上げるのはなかなか難しいように思えた。


「誰にでも好みはあるからなぁ」



呟きが聞こえたのかアレスは深く頷き、


「ほんっと、白百合妃様、俺に下賜してくれないかな」

「不敬」

「わかってるって。この場だけの話だ」



そのようなやり取りをしている内に交代の時間となる。

いつもと同じ、平和な男同士の暇つぶしの会話だ。

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