美味しいけど、あまり行きたくないレストラン
「ウサギさん、ウサギさん。レストランを開いたから、今度食べ来てよ。ご馳走するよ!」
クマさんが、友達のウサギさんに声を掛けました。
「それは素晴らしい。近いうちにお腹を空かせて行くからね!」
ウサギさんは次の日、朝ご飯を抜いて、森にあるクマさんのレストランへと向かいました。
「ここかな?」
クマさんに貰った地図と睨めっこしながら、ウサギさんは素敵なコテージ調のレストランの扉を開きました。
「やあウサギさん! 来てくれてありがとう! 今日は腕によりをかけて沢山ご馳走するよ♪」
クマさんがウサギさんのテーブルに沢山ご馳走を運んで来ました。
から揚げ、焼き魚、お漬物、温野菜、お味噌汁、枝豆…………次々と運ばれてくる料理に、ウサギさんはとても喜びました。
「はい、ご飯」
クマさんからご飯を受け取り、ウサギさんは最初にから揚げに手を伸ばしました。
「いただきまーす!」
「待った!」
ウサギさんの伸ばした手が、クマさんの声で止まりました。
「ど、どうしたのクマさん?」
「最初に野菜を食べると体に良いってテレビでやってたよ?」
「そ、そうなの……?」
ウサギさんはから揚げに伸ばした手を引っ込め、温野菜を取りました。
「もぐもぐ……美味しいよクマさん!」
「それは良かった♪ おかわり沢山あるからね!」
ウサギさんはお皿の温野菜を食べ終え、から揚げに手を伸ばしました。
「あ、待った待った」
「……ん?」
再びウサギさんの手が、から揚げの前で止まりました。
「レモンあるから、かけなよ。その方が美味しいよ?」
「いや、ボク、レモンは……」
「体にも良いんだって。かけてみなって。ね?」
ウサギさんはクマさんに言われるまま、から揚げにレモンをかけました。
「どう? 美味しいでしょ♪」
「う、うん……」
確かにレモンをかけたから揚げは美味しかったのですが、ウサギさんは何処となく変な気分になりました。
続いて焼き魚を食べ、お味噌汁を飲み、ご飯が無くなると、クマさんが声を掛けました。
「ご飯おかわりする?」
「いやあ、沢山食べたからそろそろお腹が──」
「あ! そう言えばスパゲッティも作ってたんだ! 待ってて!」
クマさんがキッチンからお皿に盛られたミートソースのスパゲッティを持ってやって来ました。しかし既にウサギさんのお腹はいっぱいです。
「はい♪ あ、お茶碗出して。おかわり入れるから」
「もうお腹が……」
「明太子もあるから。ね、あと半分」
クマさんの気迫に負け、ウサギさんはお茶碗を差し出しました。そして戻されたお茶碗には、ご飯が山盛りに盛られておりました。
「…………」
「枝豆食べたかい? 採れたてだから美味しいよ? ほら! 酢の物をあるよ♪ 酢は体に良いから食べてよね」
ウサギさんの目の前に枝豆と酢の物が置かれました。ご馳走された手前断り切れず、ウサギさんは何とかご飯に手を着けましたが、箸の進みはかなり遅いです。
「……も、もうダメ…………」
なんとか、おかわりのご飯を食べきったウサギさん。既にお腹はパンパンです。もうこれ以上何も入りません。
「デザート。今日朝一で買ってきたブドウ! あそこのフルーツは新鮮で美味しいんだよね! あ、あとこれも食べな。チョコはどうだい? カカオも健康に良いんだよ?」
食べ過ぎてぐったりとするウサギさんの目の前に、ブドウとお煎餅、それにチョコレートが置かれました。
「ゴメン……もう無理…………」
ウサギさんは口を押さえながら答えました。
「あ、そぅ……。あ、ジュースあるよ?」
ミカンジュースが置かれました。
「……うぷ」
その日は食べ過ぎてお腹が苦しいウサギさんでした。
それから暫くして、今度はお金を払って食べに来たウサギさん。クマさんは笑顔で出迎えました。
「やあ、何にするかい?」
「ピザを貰おうかな? 飲み物はアイスミルクがいいな」
「かしこまりました」
クマさんはキッチンでピザを焼き始めました。が、何故かニンジンやタマネギ、肉や魚までもが一緒に並んでいます。
「お待たせしました」
運ばれてきたピザ、アイスミルク──そして焼きうどん、生姜焼き、コロッケ、煮物、お漬物、明太子、そうめん、焼き海苔、納豆、温野菜。
「ウサギさんにサービス♪ いっぱい食べてね♪」
ウサギさんは所狭しとテーブルに並んだ沢山の料理達に戸惑いました。そして悪夢が蘇りました。
「い、いただきます…………」
出来たてのピザを手に取り、ウサギさんが口を開けました。
「待った待った。最初は野菜から野菜から……」
ウサギさんは口を開けたまま止まりました。そしてピザを置き、温野菜から食べました。
「明太子安かったんだ。焼き海苔巻いて食べなよ。今ご飯持ってくるから」
「煮物味染みて美味しいよ?」
「このそうめんは美味しいんだ。たまに買って食べるけど、やっぱりここのそうめんが一番さ」
「お、ご飯おかわりしなよ? 納豆もお漬物もあるよ?」
「野菜もっと食べる? 沢山貰ったからまだまだあるよ?」
「ご飯出しな。モロヘイヤあるから納豆に入れて食べなよ。ほら」
ウサギさんは美味しい料理達に囲まれ過ぎて、二度と来たくないと思いましたが、結局口には出せぬまま、笑顔でお腹を抱えてレストランを後にしました…………
(´・ω・`)