漫才脚本「練習の練習」
ボケ「どうも~!」
ツッコミ「よろしくお願いしま~す!」
ボケ「俺はね、漫才には大事なことがあると思うんですよ」
ツッコミ「まぁ、たくさんあるでしょうね。例えばボケの斬新さとか、ツッコミの切れ味とか」
ボケ「練習を振る上手さとかね」
ツッコミ「練習を振る上手さ!?」
ボケ「漫才の流れは、ボケ役が何らかの練習を振り、ツッコミ役がそれに乗り、そこから話をぶわっと広げていく。これこそ、鉄板だと思うんですよ」
ツッコミ「確かに、鉄板ではありますけどね」
ボケ「だから俺は、この場を借りて練習を振る練習をしたいんです!」
ツッコミ「あのー……一応、本物の舞台に立たせて頂いているんですけどね? 俺達」
ボケ「今から俺は練習を上手い感じに振るよう全力を注ぎますんで」
ツッコミ「とことん我が道を行くよね、君は」
ボケ「君は俺の振りに、上手い感じで乗ってください。当然、乗る方も上手くならないとバシっと決まりませんからね。俺のスパルタ猛練習に、きっちり付いてくるように!」
ツッコミ「なんか不愉快だけど、面倒だから承諾するわ」
二人、一度後ろを向き、最初の挨拶と同じ程度の勢いで振り返る。
ボケ「どうも~!」
ツッコミ「よろしくお願いしま~す!」
ボケ「俺ね、寿司屋に憧れててさぁ」
ツッコミ「はー寿司屋さん。確かに、いなせなカッコよさはありますね」
ボケ「俺、今からお寿司屋さんやるから」
ツッコミ「はいはい」
ボケ「君は、まな板の上でのたうち回る鯛をお願いします」
ツッコミ「……ん?」
ボケ「へーい! らっしゃい!」
ツッコミ「コッココッ……! ピチピチ」
ボケ「うちの寿司は天下一品! どんなネタでも、美味しく握ってみせやしょう!」
ツッコミ「ピチピチピチ!」
ボケ「……客が来ねぇ」
ツッコミ「でしょうねぇ!」
ボケ「ですよねー。いくら俺の振りが上手くても、肝心の鯛がねぇ。もうちょい活きのいい奴演じてくれるかと思いきや、それはまさに死んだ魚の目の如く」
ツッコミ「違う! 配役! 配役の問題!」
ボケ「え?」
ツッコミ「客が必要なら、俺に客の役を振るべきだったの。演者がいなかったら、一生来るわけないだろうよ」
ボケ「なーるほどぉ!」
ツッコミ「なるほどじゃねぇのよなぁ。あー、なんか頭が痛くなってきた」
ボケ「え? じゃあ俺今から獣医さんやるから、君はチンパンジーを……」
ツッコミ「誰がチンパンジーだ! アイム、ヒューマン! ベリー! ヒューマン!」
ボケ「鎮静剤、打ちます?」
ツッコミ「結構ですぅー。今度は真面目にお願いしますよ」
ボケ「了解ですぅー」
二人、再度後ろを向き、最初の挨拶と同じ程度の勢いで振り返る。
ボケ「どうも~!」
ツッコミ「よろしくお願いしま~す!」
ボケ「ねぇ。パイロットってどう思います?」
ツッコミ「パイロット! いいですよねぇ。操縦桿を握って、自由に空を」
ボケ「無理無理! 俺、高いとこすっげー苦手だし」
ツッコミ「じゃあ、なんで話題に出したの?」
ボケ「ならねぇ。アルバイト。特に、コンビニ店員についてはどう思います?」
ツッコミ「あーコンビニ店員ねぇ。すごいとは思いますよ。接客から店内清掃。あれやこれやをテキパキと」
ボケ「無理無理無理! 日がな一日レジの中、いつ強盗が来るかもわからぬ危機的状況に晒されながら、足をガクブルさせてお仕事するなんて俺には」
ツッコミ「できないことを話題に挙げない!」
ボケ「へ?」
ツッコミ「お前さぁ、練習を振る練習をしたいって言ってたクセに、自分で振ったもん全部丸投げしてたろ。さっきみたいに『俺、ホニャララを演じるからー』みたいに言えばこっちも乗っかれるのに、流石に無理。これなら寿司屋のくだりの方がマシだったわ!」
ボケ「え、君、そんなに鯛の役気に入ってたの?」
ツッコミ「んなわけあるか! あっちの振りの方が、話が進んだ分マシだったって言ってんの。はっきり言って、五十歩百歩!」
ボケ「じゃあ俺五十歩逃げる兵隊やるから、君は百歩逃げる兵隊を」
ツッコミ「やるか! ここから五十も百も歩いたら、舞台から降りちまうだろうが!」
ボケ「時は戦国。ある野戦にて某国の兵力は既に疲弊し……」
ツッコミ「勝手にナレーション始めるな! ああもう、全然ダメ。お前、自分から言い出したことなのにサッパリじゃねぇか」
ボケ「んー、今の俺にはちょいとばかしハードルの高いものだったのか」
ツッコミ「やっと満足したか?」
ボケ「まず最初は練習を振る、練習を振る練習から始めるべきだったんだな」
ツッコミ「全くわかってねぇじゃないか! もういいよ」
二人「どうも、ありがとうございました~!」