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美少女すぎるヒロインのパパは、キラキラ王子に少し似ている





真新しい教科書。

制服のブラウスにと献上された純白の絹織物。

最高級のりんごを煮詰めたコンポート。

金とブルーダイヤ、白金とバイオレットダイヤを、ネモフィラとすみれに模した髪飾り。


以上、ホワイト准男爵からの見舞いと言う名の献上品である。


献上品は、空からドラゴンに乗ってやってきた。

エイミがマリアベルにやらかした粗相は、王都に待機するお抱えのドラゴンライダーに伝えられ、その日のうちにジョン・ホワイト准男爵の耳に入ったと言う。


ゴリマッチョで気さくなドラゴンライダー、ヨアン氏によると、准男爵ときたら「なんでこんなしょっぱなから、そんな大物にやらかすの!」と絶叫したらしい。お気の毒である。

「誰かの婚約者に懸想されたわけではありませんし、マシなほうでは?」とは夫人の弁で、「義姉さまのやらかしが表沙汰になってないなら、許しを請うのは先様の体面に障るわ。お見舞いと銘打って、擦り寄る田舎者に徹しましょう。ただし、行動は迅速にして誠意を見せなくては」とは義妹サーシャ嬢の弁らしい。なにその妹。誰の妹? 生徒会にほしい。


かくして、以上の献上品は、マリアベルが休んで3日めにタウンハウスに届けられた。

ちなみに、馬車だと10日の距離である。


他のものはともかく、マリアベルの好みどんぴしゃりの髪飾りを、こんな短時間で探すとかすごすぎると思ったら、「学園の生徒全員分の好みの品を調べ、入学前から倉庫に保管してある」んだそうな。

世界に3人しかいないドラゴンライダーの派遣といい、エイミがやらかす前提の下準備がダイナミックすぎる。金持ちってスゴイ。


ちなみに、地価の高い王都で、全長10メートルのドラゴンが着地できるタウンハウスを所有するシュナウザー公爵家も、たいがい大金持ちである。


ヨアンはこの後、領地にいるヘルムート・シュナウザー公爵に、「大王イカ専用釣竿」を献上に行くと、青い空に飛び去っていった。


「お父様がイカ釣りに目覚めたの、先々週よね……?」


自室のベッドからドラゴンの出立を見送りつつ、マリアベルがつぶやく。

ドラゴン速い。前世でいったら自衛隊のヘリコプターくらい速い。鱗の色もなんか似てる。


「北西の国境付近の領地にいて、中南東の公爵領にいる義父上の動向を知ってるって、どんな情報網でしょうね」


ルビーみたいに真っ赤な唇が紡ぐ言葉は、今日もブレずに為政者である。


「そうね。それに、ここまでしてもらう理由ってありましたかしら?」


言いながら、髪飾りをサワサワするマリアベル。

理由はないが、くれたものはもらう。

すっかりお気に入りである。転生前から小花モチーフと、青と紫が大好きなのだ。そう。昔から。だから、殿下の瞳が青いとか、自分の瞳が紫とか、関係ない。ないったらない。


「平伏しますから、いぢめないでください。いぢめたらドラゴンブレスで焼きますって牽制?」


「嫌すぎますわ。そんな殿下みたいな准男爵」


微熱が下がらないマリアベルの、テンションだけがだだ下がる。ついでにショールも落下した。

クリスフォードはクスクス笑いながらショールを拾った。寒くないように巻き直して、そっと目を合わせる。


「ありがとう」


メイクを落とすと童顔になるマリアベルが、いつもより幼げな笑顔で微笑み返した。


「ま、こちらからも探ってるんですけどね。ホワイト准男爵は、エイミ嬢を有力貴族に嫁がせ、爵位と商会の継承権を血の繋がらない継子に与えるつもりなんですよ」


『エイミと白い花』の公式設定と同じだ。

ジョン・ホワイトの前妻の娘エイミは、淋しい少女時代を送っていた。

商会を肥やすことにしか興味のない父親。

冷酷で計算高い継母。将来を約束された継妹。

エイミはいつも見栄えのしない服を着せられ、継妹のサーシャは美しい服を着ていた。

孤独だったエイミは、盲人病院を運営するシスターたちに混じって奉仕活動に精を出していた。

目の見えない子どもたちに歌を聞かせるスチルは、聖女のように神々しい。やがて、この美しい歌声が攻略対象者たちの心を掴み、玉の輿へのプレリュードが始まるのである。


「エイミさん、苦労されていますのね」


「さあ。むしろ苦労しているのは、継母と継子じゃないかなあ?」


しかし、クリスフォードが語った現実は、こうだった。


幼少期から過ぎたる美貌のエイミは、誘拐騒ぎが常だった。妻が残した大事な娘を守るために、金が要る! 権力も要る!と、平民あがりの准男爵は、商会を肥やしまくる人生を送ってきた。

商品開発チームの主任が、見かねて「頑丈で破れにくく、他人が脱がせようとすると警報機が鳴り響くダサい服」を開発した暁には、後妻になって下さいと土下座したそうな。

そりゃあ、姉妹の服装に格差も生まれる。


修道女たちが運営する盲人病院でボランティアをさせたのは、間違いなく男性避けである。

母に似て聡明らしい連れ子(サーシャ)(地元の平民学校を首席で卒業)が、家督と商会を相続するなんて、もはや妥当でしかない。

歴史と地理と数学で0点を連発する実の娘(エイミ)が継いだらいかん。家と金と領地が滅ぶ。


「まあ、エイミ嬢と結婚する男も、持参金でひと財産築けそうですけどね。寵妃に入れたら、さぞ後宮も華やぐでしょう」


おどけて笑いかけるも、今日のマリアベルはいつもみたいに話題に乗ってこなかった。

ただ、指先で髪飾りを撫でている。

クリスフォードは初夏の日差しみたいに柔らかく微笑んだ。


「義姉さん」


「なあに?」


「准男爵の気持ち、わかる様な気もします。守りたい存在が切実なんでしょうね。自分や、殿下みたいに」


指の動きが止まった。微熱のせいか、いつもより指も肩も首も、細く華奢に見える。

いついかなる時も高貴で美しい、すみれ色の瞳の令嬢。

この人を守るためなら、あの人は何でもする。というか、してきた。なんなら、こっちも巻き込まれている。

娘のために貴重なドラゴンライダーを飛脚に雇う准男爵も、妹のために公爵家の全権を牛耳る気満々のクリスフォードも、そんな殿下とおそらく同類である。


「口止めされてたんですけど。4年前、ヨークシャー領で麻薬の密造騒ぎがありましたよね? あれ、ボクの手柄になってますけど、実際に嗅ぎつけたのは殿下ですよ?」


すみれ色の瞳が、はっと見開いた。


「跡取りのボクに手柄をとらせることで、シュナウザーの体面を守ったんです。実家の降格は格好の落とし所でした。もっと遅くに露見していたら、シュナウザー公爵家は責任をとらされて、解体されたでしょうね」


と、マリアベルの手から髪飾りを取り上げ、銀色の髪に挿した。

正装した彼女には地味すぎるだろうが、素顔の彼女にはこの上なく似合っている。

初夜の床に参じる際は、必ず侍女に飾らせよう。


「あの方こそ、守りたい存在が切実なんです。少しは、自覚して差し上げてくださいね。いいかげん、可哀想だから」


ウインクを送ったら、首まで赤くなって沸騰した。

何があったか知らないし、聞く気もないが、体調を崩した理由は、知恵熱みたいなものだろう。恋愛的な意味での知恵熱。ほんと、純情な人だ。


ちょーっと妬けるが、クリスフォードの義姉は、これだから可愛い。来年には胸に秘めた初恋が完全に終わるから、今のうちに愛でておこうと思う。







欄外人物紹介


ジョン・ホワイト准男爵


北部峡湾地方でアクセサリーの行商を生業としていた商家に産まれる。

真珠貝の養殖に成功し、真珠を尊ぶ東国との貿易で巨万の富を得た。東国の技術者を呼んでダイヤモンド鉱山を発掘し、国内屈指の豪商となり、准男爵位を購入した。


黒髪でタレ目。空色の瞳のナイスミドル。顔も中身も割とタヌキ。脂と背脂の乗った42歳。


実子は前妻との間にできたエイミだけ。前妻もジョンも「平民にしてはまあまあ美形」だが、遺伝子の奇跡で「どちらにも似た要素のある超絶美少女」が生まれた。


後妻のユイファは黒髪一重のクールビューティー。リケジョ。恋愛感情はなく、お互いの娘の為に再婚したクチ。

義娘のサーシャは15歳。母に似て聡明。義姉のエイミは嫌いじゃないが、ちょっとメンドクサイ。


この3人の家族会議は、たいていエイミのやらかしとその後始末が議題。

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