皇太子を操る咎は、Wヒロインを手籠にしたい
「なあ、あんた、いわゆる悪役令嬢に転生した日本人ってヤツだろ? エイミ・ホワイトと仲良くして断罪回避したら、王子に惚れられたってゆーテンプレ?」
オケアノスは故意に、転生者でなければ理解できないであろう問いかけをした。
案の定、エイミはポカンとしているし、なんならレティシアたちも不思議そうな顔をしている。
しかし、肝心のマリアベルが、この揺さぶりに乗ってこない。
『転生』という言葉に対する反応は、ラン、キミ、スゥと大差ない。
知らなければ当たり前の反応かつ、当事者ならば巧いしらの切り方だ。
『白い花』でも『赤い華』でも、マリアベル・シュナウザーは、エイミをいじめ抜いて王太子フレデリックに毛嫌いされていなければおかしい。
それが、攻略対象者に愛され、ヒロインに守られるような人間関係を築いているのだから、転生者と相場が決まっているのだ。
神堂穂成の、旺盛だが偏った読書知識を常識とするならば。
同時に、オケアノス皇子の知識で、この切り口では令嬢が口を割らないことも察した。
転生者であろうがなかろうが、マリアベルは王太子妃になるべくして育てられた女性である。
その地位に固執するならば、彼女が今、最も守るべきものは、転生の秘密云々よりも自らの純潔のはずだ。
つまり、純潔を守るためであれば、転生者であっても空とぼけるし、転生者じゃなくても転生者のふりをするだろう。
だが、オケアノスの知識と考察力が「この女性から真実をあばくには、時間がかかる」と判断しようが、神堂の耳がそれを否定する。
合唱祭のピアノアレンジを、この世界には存在しないミュージカル仕立ての舞台を、じかに触れたからだ。
「とぼけても無駄だぜ? オレ様がいるとも知らず、合唱祭でやらかしたじゃん? あのステージは、「エイミと白い花」のサントラを全て記憶して、なおかつ演奏できるヤツにしか、プロデュースできない」
バイオリンの才能に恵まれた神堂穂成は、卓越した聴覚の持ち主でもあった。
「なんとか言えよ? 悪役令嬢マリアベル」
「田舎貴族の浅学ゆえに、高貴なる帝国の皇族方とお話しできる語彙を持ち合わせておりませんの」
マリアベルの声は慇懃で冷たく、不敵な微笑は全く崩れない。
裾のすり切れた修道服、乱れた髪。崩れかけのメイク。
後ろで縛られていながら高慢なこの女を、どんな風に乱してやろうか。
「わかった。メス落ちさせて、前世自白けってーい! ま、どーせ王太子推しのボカロ民あたりじゃね? 侍女どもはエイミとマリアベルを磨き上げろ。薬師は媚薬と自白剤を。マリアベルは服毒訓練してるだろーから、致死量手前でな。エイミはド淫乱だから媚薬なしで。3時間で用意しな」
オケアノスがパンと手を叩くと、侍女たちが「は!」と頭を下げた。
「恐れながら申し上げます」
すると、影のように皇太子に従っていた女が口を挟んだ。エイミとマリアベルを誘拐した斥候姫スゥである。
「初褥の宴を明日の夜明けに。このスゥめにお任せいただけませんか?」
「はぁ?」
日没前にはふたりを手篭めにする気満々の皇太子が、興が削がれたように見下す。
「レティシアんときみたいに、略式婚礼に時間かけて着飾るってヤツ? いらんいらん。どうせひん剥くんだから」
片手を払ってシッシとやるも、スゥは尚も食いさがる。
オケアノスに絶対服従を誓う斥候姫にしては珍しい。
エイミが「もしかして、いー人……?」と呟くと、スゥは平かな声で下衆な提案をした。
「最速で、水晶撮影具を手配いたします。破瓜の一部始終をつまびらかになされば、良き見せしめとなりましょう。淫具や陰獣の手配もお任せくだされば、より高度な揺さぶりが期待できるかと」
「なんなんですか、それー!!!」
真っ青になって絶叫するエイミ。
勉強はできないが、恋愛偏差値もアレだが、耳年増ではあるのだ。誘拐歴が多すぎて。
エイミの反応に気をよくして、オケアノスは破顔した。
「イイネ。それ。雌イキまで仕込んだ映像を、サンドライトに送りつけるか。使用前使用後のマ○コからアヘ顔ダブルピースまでフルコースだ。マリアベルなんか、婚約破棄確定じゃね?」
「相違ありません」
この部下にしてこの上司あり。
「相違しかありませんっ!」
「エイミも愉しみだな? お前ってホント、男の理想が服着て歩いてるような美貌だよなあ。その上、設定上、絶倫の痴女なんだぜ? 知ってた?」
ツカツカと歩みより、すっと指を伸ばす。
形よく整えた爪が、膨らんだ乳房の先端のあたりを掻いた。
「ひっ……!」
エイミは青ざめ、後退りしてへたりこんだ。
「や、だっ……! べ…べ、べ、ベルベル様!」
腰が抜けて立てないらしく、這うようにしてマリアベルにしがみつくエイミ。
「こいつらのビジュアル、百合も悪くねえな」とニヤつくオケアノス。
震え続けるエイミを守るように、無言で前に出るマリアベル。その優美さ、臣下を護る女王のような気高い所作に、侍女や兵士たちが軽く気圧されている。
「ほんと、根性据わってんな。ベッドの上でもどんだけ保つだろーね。そのすまし顔。あー、アヘらせてぇ。スゥ、準備は任せた。初物はオレが頂いて、あとはエイミは輪姦、マリアベルは触手で録画頼むわ」
「は!」
「あ、侍女どもはこいつら着替えさせなくていーや。 出国した時のままの服装で、犯す。せっかくだから、見る側のダメージ重視でいこーぜ?」
エイミは「ヤダです! ヤダヤダー!」と、軽くパニックをおこしているが、マリアベルは相変わらず、侮蔑たっぷりの微笑を崩さない。
オケアノスの心に、ふと、「もしかしてマリアベル、具体的には割とわかってなくね? この悪役顔で?」と、疑問が湧いた。
次期王太子妃の矜恃もあるだろうが、オケアノスの中の「サンドライトの王位継承者は、歴代、才色兼備で奥手な令嬢が好み」というムダな知識が、なんか妙にひっかかる。
「なんて酷い仕打ちを……」と震えるレティシアを横目に「こいつはガッツリ意味わかってんだな……」と、わりとでかい声で呟くオケアノスだった。
午前零時過ぎ。
サンドライト国王サーガフォルスは、浅いまどろみから目を覚ました。
愚息フレデリックの気配を感じる。
正妃の血を引く愚息はーーーひとことでいえば、中途半端な男である。
文武両道で、人望に厚く、配下や婚約者に恵まれ、本人も努力を怠らない。
王太子としてはおそらく優秀な部類だが、サーガフォルスの息子としては、少々、いや、だいぶ物足りない。
これが第二王子であるとか、側妃腹であるとか、愚弟ファルカノスの息子だったなら、まあ悪くない。
しかし、我が子としては、あまりに凡作だ。
サーガフォルス王は今宵、王妃と同衾している。
30代半ばの王妃ミネルヴァは、荘厳で麗しい王妃だが、安らかに眠る横顔はどことなくあどけない。
さて、この美しい眠りを妨げかねないネズミを、どう料理してやろうか。
サーガフォルスは、音もなく身を起こした。
贅を尽くした寝具の脚元に、若い男がひざまずいていた。
カーテンの隙間から照らす月明かりが、闖入者の横顔を照らしている。あえて、その顔を王に晒しているのだろう。
若い頃の王に瓜二つの青年は、その高貴な風貌に相応しくない、平民風の旅装束であった。
「暗部たちを突破したか。腕を上げたな。フレデリック」
低く、柔らかな声が、月明かりの部屋に通る。
サーガフォルスは、息子の努力や価値を正当に評価している。足りないことも、足掻いてきたことも、全て。
彼を鍛えるために、死なない程度に私室の警備をザルにしてきた。15になる頃には、闖入者が一方的にかわいそうな結果になっているとはいえ、まだまだ惰弱。無傷でここにたどり着けるとは、正直思っていなかった。
王太子の私室とは逆に、王の私室には鉄壁の守りが施されている。
ゆえに、この王宮の最深部にたどり着く刺客は、稀である。そして、無事に生還できた者はいない。
「神のごとく慈悲深いサーガフォルス王」によって、「敬意をこめて」「尋問と粛正をほどこされる」からである。『魔王の親は大魔神』って話でも、ある。
「余とミネルヴァの交歓を妨げる訪問であったなら、そなたでも容赦しかねるが。何用だ?」
フレデリックは、ひくつきそうな口角を引き締めた。
「単刀直入に申し上げます。次期王太子妃マリアベルと歌の聖女エイミが、誘拐されました」
「ほう?」
「スコーネ城に囚われている模様。彼女らの名誉に傷が付く前に、救出します。どうか、王の竜をお貸しください」
サーガフォルスの、右の眉が自然に上がった。
ちなみに、双子のファルカノスはこんな時、左の眉が上がる。
「気持ちはわからぬでもないが。そなたには乗りこなせぬ」
「存じております。一刻もはやく、我が身さえたどり着けば良いのです」
「諦めなさい」
フレデリックの声は淡々としていて、態度も冷静そのものを装っている。だが、王の目には、みっともなく焦る若造以外の何者にも見えない。
「そなたの役目は、内密に兵を募ることだ」
「すでに15名、精鋭を向かわせています。ですが、到着は早くて明日の昼過ぎでしょう」
「ドラゴンライダーに有らぬ者に、バハムートは乗りこなせぬ。そもそも、休閑期直前だ」
「それでも、盟友であるドラゴンライダーの願いであれば、背を貸してくれましょう」
「ならば、北海沿岸で待機しておるファルカノスを頼るが良い。力及ばず、ドラゴンライダーになれなかったそなたには、過ぎた力よ。下がれ、フレデリック」
「王弟殿下とリヴァイアサンは、毒素を吐くアンデッドドラゴンを牽制する責務があります。不在となれば、穴を突かれましょう。民を犠牲にはできません」
「王弟の力を借りずして、如何様にオケアノスを倒す? そなたの命を散らすだけ。可哀想だが、そなたには民と女を同時に守る器が有らん」
父子の会話は平行線であったが、やがてサーガフォルスに寄り添うようにもうひとつの影が動いた。
影は艶かしく、王の背を抱きしめた。
「良いではありませんか。王よ。普段はワガママを言わない良い子です。今宵、貴方から一本でもとれたら、バハムートにお願いしてさしあげて? ね?」
王妃の甘えた声ととりなしに、王は苦笑いを浮かべながら振り返り、愛しい伴侶をそっと抱きしめる。
「仕方のない人だな。貴女は。フレデリックを甘やかして」
「そうよ。だって、貴方と私の間に生まれた、たったひとりの王子ですもの。どうしたって甘やかしちゃうわ。マリアベルも心配だし」
衰えぬ美貌を誇る王妃は、瞳を輝かせてうなずいた。
「フレデリックよ。チャンスを与えたもうた母に感謝なさい」
「ありがとうございます。母上。この御恩は、生涯忘れません」
純白の夜着でいちゃつく両親に低頭しながら、フレデリックは思った。
育ててくれた恩はある。
マリアベルを婚約者として引き合わせてくれたのも、この人たちだ。
だが、受けた恩以上にこき使われてきた気がするのは、絶対に気のせいじゃない。
母はまあ、こういう人だけど。
父に関しては、秘めていた感情が一気に噴出した感が否めない。
つまり、『一発、殴りたい』むしろ『平伏させたい』。
絶体絶命のピンチだが、空前絶後のチャンス到来でもある。不敬を問われず、正々堂々クソオヤジをぶん殴って良いのだから。
フレデリックは知らず、満面の笑みを浮かべていた。
3人めのドラゴンライダーは、サンドライト国王でした……って、想定内でしたか?
欄外人物紹介
王妃ミネルヴァ
フレデリックの母。サーガフォルス国王の正妃。
女神のごとき美貌と慈愛の持ち主。
本人は息子を甘やかしているつもりだが、現役ドラゴンライダー国王とキラキラ王子の戦闘能力差が「悟空とクリリン」くらいあることを知っててけしかけてる。実にスパルタな女神である。
バハムート
あと10年以内に完全にお昼寝タイムに入るオネムなドラゴン。人間の感覚だと「爆睡5分前」。
身体能力は最強でも性格的にはだいぶアレなサーガフォルスの盟友になったのは、寝ぼけていたからかもしれない。そのくらい本気で眠い。
ヨアンのドラゴンの番。かなり愛妻家。
ちなみに、ドラゴンライダーの強さ格付けは
ヨアン>ファルカノス>サーガフォルス
ドラゴンなしのタイマンだと
サーガフォルス>ヨアン>ファルカノス




