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悪役を放棄した令嬢は、美少女すぎるヒロインと戦わないっ!  作者: 芳野みかん
ようこそホワイト准男爵領へ! ダイヤモンドは砕けません!編
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幕間 ーーーレドリック殿下の報告ーーー



第二王子レドリック、兄上様に報告にあがりました。


レティシア姉様が、誘拐されました。


誘拐犯はオケアノスと呼ばれていました。帝国の皇太子殿下でしょうか? 本物かはわかりません。

髪の毛は真っ黒で、目は赤です。「(くれない)」って言わないと怒りそうな、痛々しい感じの戦士でした。

背は、叔父上様より少し高いくらいです。真っ黒な剣を持って、ミイラみたいなドラゴンに乗っていました。


「読書倶楽部」のお姉様がたがお話されていた「理想の魔王様」みたいな感じです。


本物の魔王様は、金髪碧眼ですのにね。


兄上様が王命を受けて旅立った日から、ボクは監獄塔の最上階で寝泊まりしていました。

監獄とはいえ、最上階は王侯貴族が収容されますから、調度が豪華ですね。

付き添いの部屋も、シャワールーム付きで、ベッドもふかふかですし。召使いもつきますし。監獄とは思えませんね。

ボクの留学先の病室よりずっと快適ですよ。

留学っていうか、療養っていうか、人質でしたよね。アレ。耳が聞こえない振りをしてましたから、機密をペラペラ喋ってくれる馬鹿ばっかで、諜報活動の場としては悪くなかったですけどね。



兄上様の旅立ちから、僕は毎日、看守の机でお勉強をして過ごしました。

レティシア姉様は檻の向こうで、刺繍をさしたり、本を読んだりされていました。

ボクと目が合うと涙ぐむんです。


「殿下。姫様にお花の差し入れもお許しになられませんの?」


中庭から花を摘んできた侍女に、なぜかボクが責められました。ボクは侍女に、お姉様が手を伸ばしても掴めない棚に飾るよう指示を出します。


「お花を牢屋に入れたら、優しいお姉様が悲しみます」


ボクも涙ぐんでやります。嘘泣きなら、負けません。


「でもせめて、花びらに触れたいわ。お兄様には内緒で。ダメかしら?レドリィ」


ボクが王太子教育を修めたら、アーチライン様の継承順位が下がる。それだけの理由で毒を盛ったとは思えない馴れ馴れしさです。


「なりません。昨日、ボクの就寝中にこっそり渡したお花と、このお花と、あちらに干してある草の実を煎じて、水をかけると、揮発性の睡眠薬ができてしまいます」


「まあ、恐ろしい。そんな偶然があるのね」


「はい。偶然は恐ろしいんです。お姉様の周りは偶然だらけですから、注意が必要です。あ、こちらの葉っぱから、神経毒が抽出できますね。飾るのはやめて、宮廷薬師に預けてください。ボクとお姉様が、香気を吸ってしまわぬように」


配属されたばかりの侍女は、ボクとお姉様を交互に見つめてガタガタと震えだしました。

お姉様とは一言も口を聞いてはいけない、何を言われても聞き流せって、配属前にさんざん忠告したんだけどな。

まあ、どんなベテラン侍女にもできないから、ボクや兄上様が監視しなくちゃなんですけどね。


「怖いわ。レドリィ」


「大丈夫。王女に毒を差し入れるような侍女は、降格です」


震えながら土下座をする侍女って、お兄様が旅立って3人目ですよ。ホントは降格じゃなくて入院なんですけど。

なんなんですか。あの毒婦。

どうして病死させないんですか? トリプルスパイが潜んでる? 自分で解毒しちゃう?

事故死は? 襲撃側を味方につけちゃう?

秘密裏に、アーチライン様に処させたら? え。滅多刺しにした後、自己嫌悪しそうでメンドクサイし、姉上様は喜んじゃう?

やだ、どんな変態ですか。それ。

そういえば、シェラサード紋の刺繍を刺してましたヨ。あ、幼少期からの趣味? うっわあ……。


そんな平和な日々は、ある雨の夜に、牢獄の壁と共に崩れ去りました。

突然すぎて、何が起きたかわかりませんでした。

お姉様のいる牢獄の壁がぶち破られて、すごい雨風がふきこんできたんです。

崩れた壁の向こうに、ミイラみたいなドラゴンが浮いていて、背の高い戦士が降りてきました。戦士はずぶ濡れで、笑っていました。


レティシア姉様が、「オケアノス様」って呟きました。


「斥候姫の言うとーり、本当に幽閉されてたんだな。へー。まさにお姫様じゃん?」


男がお姉様を抱き上げると、お姉様は「レドリィ、逃げて!」と叫びやがりました。

どさくさに紛れてデスクの下に隠れたのに、あのアマ。


男はお姉様を担いだまま、左手で牢柵をへし折って、こちらにやってきます。すごい馬鹿力です。デスクを蹴っ飛ばして破壊し、左手でボクの胸ぐらを掴みあげました。


「なんだ、このチビは」


「ご慈悲を。実弟のレドリックにございます。足が不自由ですの」


名前を呼ぶな! 紹介すんな!


「へー。目の色はお前だけど、顔はフレデリックだな。司祭姫の土産にするか。好きそうだしな。こーゆーチビ」


「あの、たったひとりの弟でございます。どうか命だけは!」


お姉様言語で、「決して殺さず、ギリギリ生かせ」って意味ですね。わかりません。

貞操だけでない、貞操以上の危機を覚えましたが、この騒ぎに誰も気がつかないはずがありません。

バタバタと階段を駆け上がる音が聞こえてきました。

か弱いボクにできるのは、時間を稼ぐことだけです。


「お、お姉様を離してください。ボ、ボクはこれでも王子です。ボクの方が利用価値が……」


「ウゼェ! 媚びるガキは嫌いだ」


上目遣いで懇願すると、反対側の壁にぶん投げられました。うう、予想してたけど、やっぱ痛かったです。


「レドリィ!」


侵入者にしっかり抱きついて、嬉しそうに叫ばれても。


「勘違いするんじゃねーぞ。ガキ。これは、罪のない王女を牢に入れたサンドライトへの、戦線布告だよ」


うわあ。良い大人がガキ相手に抜刀しましたよ。剣先まで黒いって、悪役か厨二病のデフォルトすぎです。笑いをこらえる自信が。


「ボクは……弱いです。だから、強い人間に従うことしかできません」


「ほーう?」


「だから、だから……」


戦士の目が煌めきました。

階段を上る足音が止まり、煙幕と共にドアがぶち破られました。気がつけば、三又の鉾を持った男に抱き上げられていました。


「叔父上様に従います」


「あーあ。最上階の壁を壊しやがって。そこの小童、王女を解放しろ」


教科書を片手に教鞭をとる叔父上様が、三又の鉾を手にされると大人の色気が3割り増しですね。

隣国までお迎えにいらした時も同じ鉾を持ち、シーサーペントに騎乗されていました。まさに海神の貫禄でしたよ。


「王弟殿下の登場ってわけね。オッサンが無理しちゃって。そんなリーチの長い獲物で、狭い屋内で戦おうって? このオレ様相手に?」


男は自信満々でした。

すると、外で待機してるミイラみたいなドラゴンから、ビキニアーマーの女の子が降りてきました。

ボインボインのツインテールがずぶ濡れとか、目のやり場に困ります。痴女でしょうか?


「オッキー様、こいつ、不安定になってきちゃったよ! やることやってズラかろーよ!」


「チッ、まだ微調整が要るか。じゃあな、オッサン。命びろいしたな」


「待てや。王女を置いてけ」


ボクを背後に守りながらお姉様に手を伸ばすと、お姉様は「叔父様、わたし、わたし……!」とか言いながら、助けは求めません。黒髪の戦士から逃れようともしません。

自ら帝国軍に赴いたとも、攫われたとも取れる曖昧な言動。まさに真骨頂を発揮しやがりました。


「嫁を置いてく馬鹿はいねーよ? ま、寵妃の10番目くらいだけど?」


まんざらでもなさげだったお姉様の顔が、瞬間的に歪みました。

え。小国の側妃腹の王女なんて、皇太子の後宮に入れたってそんなもんですよね。

まさかだけど、遣帝女に立候補したのって、側妃以上になってサンドライト侵攻に加担して、アーチライン様を夫か男妾にする計画?! うわ、辻褄合いすぎ!!!


「いやあ! 叔父様、助けて!」


姉上様のソロバンが「サンドライトにいた方が有利」って弾かれた瞬間、ガチで攫われました。

ぶち抜かれた壁穴から、巨大なドラゴンが離れていきます。

ドラゴンといっても、ドラゴンの形をした骨組みだけです。目は虚淵で、キラキラした鱗もありません。埃をかぶったミイラみたいです。


「アンデッド・ドラゴンか……え?! ってーと、アレか! 奴らの狙い!」


叔父上様はボクを車椅子に乗せると、指輪を通したネックレスを取り出し、指輪に唇をつけました。


連続する雷光が、夜の王都を明るく照らしました。雨足はますます強まり、バケツをひっくり返したような豪雨です。


耳がキーンとなるような轟音が雨音に重なり、思わず目と耳を塞ぎました。轟音が鳴り止み、耳を塞いだまま顔を上げると……。


壊れたレンガの向こうの夜空に、青い鱗のドラゴンが羽ばたいていました。


「え? え? 」


「オレ様が駆ってたって、フレディ以外にゃ内緒な? いろいろメンドクセェから」


三又の鉾を手に、叔父上様が青いドラゴンに飛び乗りました。




えーと。


あの。兄上様。



ファルカノス叔父上様って、シーサーペントのリーダーに認められたから、海軍を牛耳れたん……ですよね?



本職が数学教師の、週末シーサーペントライダー……ですよね?



シーサーペントって、空飛べましたっけ?



体長12メートルのシーサーペントなんて、いましたっけ?



鱗の青いドラゴンて、海竜リヴァイアサン……ですよね?



…。


…。


…。




叔父上様って、ドラゴンライダーだったんですかーーーっ?!








クリスフォードといい、レドリックといい、私が書く美少年キャラって、こんなんばっかです。




欄外人物紹介



レドリック王子


フレデリックの異母弟で、レティシアの実弟。

王太子教育中にレティシアから毒を盛られ、心身喪失して隣国で療養していた。

隣国が帝国に併合される直前、王弟ファルカノスwith海軍が、シーサーペントを100匹ほど引き連れて有無を言わせない感じでお迎えに上がった。

レドリックを人質にして戦線布告する予定、丸潰れである。

毒の後遺症で障害が残り、車椅子生活を余儀なくされている。が、無力で哀れなキャラと儚げな美貌を最大限に利用して人身掌握に励んでいる。

リアルに「見た目は子ども、頭脳は大人」もしくは小さいフレデリック。腹黒だが情に厚く自力本願なフレデリックより、むしろだいぶアレな子。

妄執してるアーチラインから蛇蝎の如く嫌われてるレティシアが面白くてたまらない、いたいけな8歳児。



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