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悪役を放棄した令嬢は、美少女すぎるヒロインと戦わないっ!  作者: 芳野みかん
陰謀さん、(潰してやるから)いらっしゃい編
20/98

化けないタヌキと、化けた王子と、スペアな令息

貴族になりたてホヤホヤ。ホワイト准男爵父娘は現在、「司祭」を名乗る、長身の男たちに囲まれている。

先程のガルシア枢機卿長補佐官は、舞踏会の開始と同時に退室したのだが、入れ違いにでっかい3人が来て、お説教タイムが始まったのだ。


曰く、枢機卿長補佐官様や王太子殿下、大公宰相家の嫡男に対して、あまりに不敬すぎると。


釣竿の恩義があるから助けてあげたいシュナウザー公爵にさえ、「致し方なし」と見捨てられるほどの正論である。


法衣の聖職者たちから、たんまりお説教を受けるターバンのおじさんとドレスの美少女。さながらコントである。が、エイミと結婚するってことは、こーゆーことの連続なのだ。


『エイミ嬢は観賞用。嫁は論外。愛人もキツイ』


まっとうな神経の持ち主ほど、この結論にたどり着くのは早かった。エイミのドレス姿(と、おっぱい)に見惚れたこの数時間分のご機嫌取りを、おのおの婚約者に誓わざるを得ない。


だが、人でなしな婚約破棄からの、鮮やかな交際宣言をしちゃったアーチラインには、逃げ場がない。回収一択である。


「おまたせしました。ホワイト准男爵。エイミ。おや、司祭殿?」


「これはこれはアーチライン殿。お久しゅうございます」


「僕の恋人が、なにか?」


「悪いことは言いません。もう少しマシなお相手を選びなおしなさい。宰相夫人とそのご実家として、ありえませんよ」


示されたふたりは、上目遣いにキラキラおめめで、イタズラがバレた小動物みたいだ。しかも、全く反省してない。ヤバイ。吹く。

最もすぎる提案に、アーチラインは凪いだ笑みを浮かべて、エイミの肩を抱いた。


「平民上がりでろくに礼儀を知らないのです。この場は、僕に免じてご容赦を。後日、聖堂に伺わせます。なにとぞ、厳しいご指導を」


「承りました。アーチライン殿」


「では、お待ちしていますよ。ホワイト准男爵、エイミ嬢」


「えー!」


震えあがる父娘をまるっと無視して、アーチラインと司祭たちが固く握手を交わした。

あたたかい拍手が場を包み、2匹のタヌキがむせび泣いたのは、言うまでもない。





ダンスは得意だが、踊る気分じゃない。

チークなんて密着度しかないプログラムだけど、逃げる気にもならない。

完全なるお付き合い。文字通り社交のダンスである。


「助けてくれると思ったのに。酷いですー。酷すぎますー」


「教会には、ハイハイって言っとくのが一番だよ?」


「うう。そりゃ、最初のおじーちゃんよりは、全然いーですけど。口うるさいだけで、めっちゃ良い人たちそうだし」


「?」


「あのおじーちゃんは……怖いです」


エイミは彼にだけ聞こえる声で呟いた。

「すーきけーちょーほさかん」のおじいちゃんは、さっきの司祭様たちや、町の教会や学校の聖堂の神父様よりずーっと偉いハズなのに、ちっとも偉く見えない。

むしろ、怖い。生理的にキモチワルイ。

聖女様になって、あの人と毎日顔を合わせなきゃいけないなんてやだなぁと思うし、それを不敬とも思わない。

ついでに、おじーちゃんの護衛もヤダ。ギラギラした目つきが怖い。法衣戦士って恋愛しちゃいけないから、逆にムラムラリストなんですか? と。


「なるほどね……」


咎めもフォローもないことにホッとして、エイミはため息をついた。

アーチラインはとても背が高いから、チークを踊ると胸しか見えない。ふと、この人ってこんなに胸板ががっしりしてかな? と思った。

今はやらないけど、入学当初に彼に対して割と気軽に抱きついちゃってたのは、男性性を意識しなかったからだ。

夜の蝶の武勇伝も聞いてるけど、エイミ自身はエロいことをされないから、実感がない。食紙植物の一件で、手を出されかけた自覚は、もっとナイ。

それが、今日の彼はエスコートもなんだか強引だし、華々しいし、くらっとくるこの甘い匂い……あれ?


「……フレディ様?」


胸の中で呟くと、一瞬だけ上半身が固まった。


「……なんでわかった?」


「見た目はそっくりですけど。身長が微妙に足りてません」


エイミはしれっと言い放ったが、正直、見た目じゃ区別がつかない。

意識すると違うけれど、今の今まで声も同じに聞こえてた。全然違う声質なのに、そっくりに聞こえるなんて。抑揚やブレス、声音、雰囲気を完全に寄せているのだろう。

ていうか、ホントは匂いでわかったなんて言えない。ますます動物あつかいされてしまう。もしくは変態か。


「王子様が腹心に化けるとか。フツー逆じゃーないんですか? ていうか、本体はどこにいるんです?」


小声で問い詰めると、形の良い唇がエイミの耳元に寄せられた。


「この茶番、なんて説明された?」


やってることは甘いのに、言ってることが甘くない。

エイミはドキドキしつつ、この人のブレなさに感心した。


「シンシア様が悪い人たちに命を狙われてるから、早急に外国に逃がすんだって。この会場に悪い人たちが来てるから、できるだけ注意を引きたいって」


胸の中で、小さく呟く。内緒話はチークを踊りながら、は、貴族の嗜みらしい。


「それだけ?」


「ハイ」


これ以上ないくらい、わかりやすい解説だ。だが、詳細がさっぱり抜けてる。懇切丁寧に説明してたら、日が暮れて夜が明けてしまう事態だけど。


「アーチ様との婚約ってお芝居じゃなかったんですか? なんか、本当に婚約しちゃいそうなんですけど!意味がわかりませんよ」


エイミの凄いところは、アンポンタンなのによく人を見ているというか、状況判断がわりと正確なところだ。


「うん。キミのお父さんが調印したら成立するよ」


「はーいー? シンシア様を助けることとこれ、なんの関係があるんてすか?」


「シンシア嬢との婚約破棄は、敵の目を欺くため。キミとの婚約は、キミを守るためだよ」


「はへ?」


フレデリックはさらに声を潜めた。


「子爵出身の聖女が、聖職者たちの娼婦をさせられた」


思わず足を止めたエイミを、ふわりと抱き寄せて、内緒話は続く。


聖職者、聖女、娼婦。3つの単語につながる要素がなさすぎて、意味がわからない。


「キミが今の身分で聖女になるのは、危険だ。教会の権力は特殊だから、内部で起きたことは王族でも干渉できない。でも、今の段階で大貴族の自分と婚約すれば、聖女になっても無体はされないだろうって、アーチが」


種明かしをすると、エイミは「ダメダメでしょー…」と、力なく呟いた。


「王様の次に偉いおうちなのに、そんな動物愛護の精神で婚約者決めたら、ダメですよー」


「だよね。けど、そこがあいつらしいよね」


思わず顔を上げたら、いつも微笑みを貼り付けている王子様が、心から笑っていた。


「この姿を見たら分かると思うけど、アーチラインは僕の影武者でもあるんだ。そのアーチから身代わりになってくれって頼まれるとは思わなかったけど」


エイミが顔を上げると、フレデリックは窓の方向に視線をやっていた。


「自分はシンシア嬢を安全な場所まで送りたいから、君を守ってほしいって。あんな必死なアーチ、初めて見たよ」


「……」


ーーーー エイミちゃんは、いい子だね。


取り繕ったり、嘘をついたりしないし。泣きたければ遠慮なく泣くし、笑いたければ素直に笑うし。


ーーーー なんか、和むなあ


いつも、そう言って笑ってくれた。

どんなにバカなことをしても、アンポンタンなことを言っても、呆れさせても、最後には必ず「しょうがないなあ」って、笑ってくれた。


「あいつは、大切なものほど失ってきたから。今も失ったばかりで、平気なわけがないから」


面倒ごとを押し付けて、もっと面倒な場所に向かったアーチラインを、フレデリックは慈しむように語る。


従兄弟で、幼馴染で、腹心で。

部下で、臣下で、親友で。


「実際に結婚するかは、話し合って決めたらいいよ。ただ、彼が嫌いじゃないなら、しばらくの間は側にいてやってくれないかな。ひとりにするの、ちょっと心配だから。頼む」


ーーーー 僕は、生まれた時から、フレデリックのスペアだから。


そうか。それはアーチ様の誇りなんですね。

アーチ様の為に身代わりをこなして、こんな小娘にまで頭を下げちゃうような主君だから。

なら、よかった。

エイミはちょっとだけホッとした。


「あ。そういえば、フレディさまって、私の寵妃入りをほのめかされて、ショックを受けて退場したベルベル様を追って、よろしくシケこんでる設定なんじゃ?」


思い出してニヤニヤして差し上げると、フレデリックの笑顔が一瞬固まった。


「設定通りなら嬉しいんだけど。実際は、戻ったら怒られるんだよね」


「親友に成りすまして、2曲も踊ったからですか? 貴族ダンスって、婚約者以外と2曲連続で踊ったら浮気成立でしたっけ?」


「いや、ギリギリセーフ。良くはないけど。対外的にはアーチと君がしたことだから」


いや、そのとーりだけど、ちょっと待て。

それは、本体の許可はとっているのか? 独断で、外堀を埋めてないか?


「この髪、めちゃくちゃ急いで切らせたし。染めるのも手伝わせたし。金糸の高級ドレスが毛染めでブチ模様になったし。侍女もいないのに、片付け押し付けてきたし」


「うわあ……最低。えーと、クリーニングとお詫びのご用命は、ホワイト商会まで? 」


来ないはずだった父親が来てくれたからだろうか。今日のエイミは商人モード待ったなしであった。



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