表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/98

攻略対象(メインヒーロー)は、トラウマ偏差値が低い



「ゲロ甘お花畑王太子!」


叫んだマリアベルも、叫ばれたフレデリックもびっくり。共に御年8歳。

優秀と評判の公爵令嬢のご乱心に、場は騒然となった。が、エグすぎる王太子教育を受けるフレデリックは、冷静だった。


これ、婚約者の顔合わせだよねえ。

シュナウザー家の長女かアリスト家の末娘と婚約しないと、血が濃くなりすぎるか年が離れすぎるし。

アリスト家のパトレシアは、6歳でワイバーン騎士に叙勲されてるから、王妃教育させるなんて戦力の無駄使いだし。

同盟諸国のお姫様を賜るのも、地味にパワーバランスがめんどくさい社会情勢だし……と、実に子どもらしくない算盤をはじいて、ニッコリ微笑んだ。


「げろあまってなに? お花が好きなの? あっちに花園とお菓子があるから、お茶を飲みながら教えてよ」



この後、ちくちくとやりこめて、婚約も成立させて、王家が出すはずの王妃教育費を公爵家から出させることに成功した。

「花畑王子改め、腹黒魔王」と言われた。

目尻が少し上がった目に、涙の線を浮かべながら。


お茶会の度にじわじわ攻めること半年後。フレデリックはここが、彼女がプレイした「ビジュアルノベルゲーム」とかいう物語の世界に酷似していると、マリアベルが信じ込んでいることを聞きだした。


全てを信じたわけではないが、嘘をついているとも思えなかった。

聞いた話では、婚約前に領地で暮らしていたマリアベルは「才色兼備。気位が高くて苛烈」だったらしい。ぶっちゃけると「優秀な美少女だが、ものすごく、半端なく、性格が悪い」……もはや、フレデリックが知ってるマリアベルとは、容姿と能力だけ一致した別人である。


シュナウザー公爵には「清廉な殿下との婚約で、底意地の悪さが浄化されたのだ」と感謝されたが、「前世の記憶を思い出して、性格が変わった」の方が、よほど説得力がある。


なにより、予知夢を見る「夢見」と呼ばれる予言者たちより、マリアベルの「シナリオ」の方が、的中率が高かった。


まず、10歳の春に、側妃腹の弟レドリックが生まれた。

途端に王宮内がきな臭くなって、フレデリックの毒味係が3回ほど天に召されそうになった。


さらに2年後、マリアベルの親戚筋でひとつ年下のクリスフォードが、養子になると言い当てた。

生家の身分は子爵と低いが、高確率で天候を予見する「空見」の能力を買われるのだと。


マリアベルの父であるシュナウザー公爵はお人好しで脇が甘いが、後継のクリスフォードは慇懃無礼で数字と音楽に強く、公爵家からあれこれふんだくれなくなってしまった。

ムカついたから、生徒会の会計係にご招待してやった。貴様は未来の財務大臣だ。公爵領の運営も含めてキリキリ働きたまえ。



……というわけで、自分たちが見えない神の手に操られているらしいことは納得した。

その神が、案外ポンコツなんだろうなってことにも思い至った。

登場人物が学園に集結する流れはあっているが、細部が違うからだ。


まずは自分。幼少期に受けた虐待紛いの帝王学がトラウマになり、無感動、無感情に育つ。人当たりは温厚で、文武両道な優等生……らしい。

マリアベルに叱責されて落ち込んでいたエイミに声をかけたのも、生徒会長としての義務にすぎなかった。

純粋すぎるエイミに危機感を覚えたフレデリックは、空いた時間に貴族社会のルールを教える約束をした。

貴族らしくはないが、無邪気で偽らないエイミに、知らず知らず惹かれてゆくフレデリック。

夏休み、ダイヤモンド鉱山の視察のためホワイト准男爵領に赴いた。後妻とその妹に疎まれていたエイミ。

ここで家族改心イベント。

夏が過ぎてふたりの距離は急速に縮まったが、身分の低いエイミは、マリアベルをはじめ高位貴族の子女たちからいじめられる。生徒会メンバーの保護を受け、けなげに耐えるエイミ。

日に日に深まるふたりの愛。

フレデリックは卒業式の前日に、王家の闇と孤独な過去を打ち明けた。あの悪習を廃して、未来の子どもたちを、愛する王妃を守りたい。

そして、明日の卒業パーティーでマリアベルを断罪し、婚約破棄するのだと。


「愛しいエイミ。僕の妃に、なってくれるね?」←イケボイス



……だそうだ。



聞いた瞬間、フレデリックは、素で紅茶を吹きそうなった


ナイ。ナイ寄りのナイ。


確かに、幼少期に始まった王太子教育は、エグかった。

学問や武芸をはじめ、暗殺者対応の護身術に房中術。暗部の実態と掌握。毒を体に取り入れて馴らすなどの手ほどきを受け、何度か死にかけた。


ちなみに、弟のレドリックは開始から2週間も持たなかった。隙あらば暗殺をしかけてきた側妃から、臣下に下る相談を持ちかけられて終了。

幼い子どもが泣きながら笑い、吐いては叫び、痩せこけ、排泄器から血を流して悶え苦しむ姿は壮絶だ。

訓練とは別に毒を盛られた可能性があり、こちらの後遺症で彼は歩行機能を失った。

このように、この国で王冠を欲する者には、極上の試練が与えられる。他国の王女であった側妃には分かるまい。

レドリックは今、側妃の祖国で、留学という名の療養中だ。



14歳でそれを満了したフレデリックは、すこぶる元気である。心的外傷って、なにそれ惰弱なの?

まあまあ、性格は歪んだかもしれない。花畑王子と揶揄った令嬢を王家の闇に巻き込んだのも、生爪を一枚ずつ剥ぐような陰険さで彼女の秘密を暴いたのも、虐待以外の何者でもない幼児教育の賜物かもしれない。

だけど、王国の叡智を、暗部たちの信頼を、強靭な肉体を得た。

後遺症に苦しむ弟や、魔王呼ばわりしながらもついてきてくれるマリアベルの為にも、師となり自分を導きやがった父を超えるためにも、未来の我が子には別の方法で同じスキルを伝えたい。現在進行形で模索している最中だ。


これは、王家と自分の、伝統と改革の問題だ。

少々手に余る案件だが、准男爵位の娘に愚痴を漏らす意味がわからん。


我こそは未来の国王。この国の象徴であり、守護者となる定めの王太子だ。

これしきの洗礼で心を砕かれ、守るべき臣下に癒されねば再起できないほど、惰弱ではない。


そう言ったら、マリアベルに絶句された。


「恋愛脳が恋愛しないなんて」と。


「とっくにしてるけど?」と、言いたくなった。

言わないけど。勝算が薄いから。守りきれてはいないから。今は、まだ。

欄外人物紹介


フレデリック・アレクサンドライト三世

サンドライト王国の王太子。王と正妃の間に生まれた唯一の男子。王と側妃の間には、7歳の弟レドリックと高等部1年の妹レティシアがいる。


金髪碧眼、文武両道、秀麗眉目と三拍子揃ったテンプレ役満なキラキラ王子。歌は上手いわ、毒は解除するわ、暗部と仲良しだわ、ひとことで言えば完璧。メンタル最強のコミュ強。


「エイミと白い花」のメインヒーローで1番人気の攻略対象者。キャッチコピーは「真実の愛と、王国の守護天使」


趣味は人の秘密を暴くこと。特技は暗殺者の返り打ち。

信頼の厚い相手ほど、いい笑顔で無茶振りをする。

その他大勢の前では、等身大のネコ(血統書付き)をかぶって極上の笑顔をふりまく。


城下町では背中に天使の羽根を足した絵姿が流行しているが、マリアベルには「羽根の色と形が違う」と否定されている。解せぬ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ