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ーーー 幕間 ーーー モブ令嬢は、呟く




皆さま、はじめまして。

幕間を預かりました、1年C組所属シンシア・フルートと申します。

しがない伯爵家の末娘で、恐れ多くも大公家の嫡男にして次期宰相、第6位の王位継承権をたまわる御曹司アーチライン・シェラザート様の婚約者でございます。


本来、伯爵家とは、大貴族との政略結婚の対象内のような、違うような。財力や権力次第でアリといえばアリ。ナシといえばナシ、の微妙な立場であります。

私の場合は、大貴族の嫡子数が極端に少ない世代で、適任がいないからと領地が近いだけで抜擢されました。

アリよりのナシの奇跡と申しましょうか。


身分が違いすぎる上に、見た目も違いすぎます。


アーチライン様は、どんな夜会でも違和感なく溶けこんで、数多のご婦人と浮名を流す蝶のような方です。

麗しの未亡人や、子を成した熟女とのアバンチュールは、結婚前の男性貴族の嗜みといったところでしょうか。

あの方の得意ジャンルでございます。


学園では生徒会の副会長でありながら、3年A組の室長をされていて、とても真面目に過ごしていらっしゃいます。

夜会で振りまいた色気は、早朝に植物園の水撒きをされることでリセットされる様です。


光沢の美しいダークブラウンの髪と、優しい琥珀色の瞳は、金髪碧眼のザ王子様なフレデリック殿下や、奇跡の美少年クリスフォード様と並ぶと色こそ控えめではありますが、造作やスタイルで引けを取ることはございません。

まあ、殿下の従兄弟ですしね。


一方の私は、紛れもなく地味な娘です。髪と目がアーチライン様と同系色なだけに、微妙さが際立っていたたまれないほどでございます。

性格も垢抜けません。アーチライン様のような人望高きサブではなく、ガチな裏方を好むモブであります。


こんな私でありますから、この婚約をご不満に思われるお嬢様方から、ちょっとめんどくさい嫌がらせを受けておりました。


主犯は、レティシア王女殿下でございます。

側妃さまの第一子で、フレデリック殿下の異母妹。エリシア側妃さまに似た可憐な見目の、悪魔……いやいや、美少女なのでございます。

レティシア様は幼少時、フレデリック殿下とアーチライン様と結婚すると公言していらっしゃいました。頭の中身まで、たいそうお可愛らしいのです。

さすがに異母兄とは結婚できませんから、従兄をロックオンされるのは当然だったのではないでしょうか。

とはいえ、年末に帝国の舞踏会に参加され、皇太子殿下にお目にかかってすぐに遣帝女に立候補されましたから、顔面偏差値が75以上なら誰でも良かったのだと思います。


それはそれ、これはこれで、私を疎んじる御心に変化はないようです。

私めが、マリアベル様のような家柄も容姿も悪役顔も申し分のない令嬢でありましたなら、納得されたでしょうか。

こんな、地味で小柄なメガネが初恋の君の伴侶では、高貴なる自尊心も削られるというもの。


しょーがないなーと、傍観しておりました。


お茶会の度にお取り巻きからなにかをかけられるのは辟易でしたが、お陰でシミ抜きを研究する学友に喜ばれました。

下駄箱やロッカーにはどんなトラップが仕掛けられるかわからないので、クラスメイトの場所に避難させてもらっておりました。心理学の学徒たちによる現場検証は、なかなか興味深いものがありました。

そこここで、差出人不明かつ解毒法不明の毒物に遭遇してまいりましたが、医のフルート家への挑戦と受け取り、粛々と回避&解毒させていただきました。そちらが毒なら、こちらは薬で対抗しますわ。


ああ。C組で良かった。A組の(やんごとなき)お嬢様方は、本当に(アホ)でございますね。


さて、かの嫌がらせは、唐突に終わりました。

編入生のエイミ・ホワイト准男爵令嬢が、ロッカーの惨状に驚いてアーチライン様にチクったようでございます。

三年生は、公明正大なマリアベル様と辺境候令嬢でワイバーンライダーのパトレシア様がシメてらっしゃいますから、いじめに対する免疫がございませんのね。女子あるあるなのですが。


以後、アーチライン様は女子寮までいらして登下校を共にしてくださるようになりました。早起きは辛いですが、植物の世話とは存外楽しいものですわね。

昇降口やロッカー、見通しの悪い階段に警備員を配置したり、使ってない教室の鍵の返却を徹底させたりもされました。階段から突き落とされかけたことは私とレティシア殿下の秘密の筈ですが、素晴らしい調査能力です。


最近では、アーチライン様の要請でエイミさんにマナーを教えてさしあげるべく、中庭でランチを楽しんでおります。マリアベル様の侍女でコーラス家のステラ様もいらっしゃるし、真上は生徒会棟で、たまに殿下が手を振ってくださるし。ある意味すごい牽制です。

レティシア王女殿下のご尊顔が青くなったり、黒くなったりされて、なかなか壮観(ざまあ)でございます。


エイミさんは、何でも美味しそうに召し上がるので、大変お可愛らしく…マナーは、まあ。並外れた顔面偏差値で全てカバーされているというか。森の妖精がナイフとフォークに戸惑っているかのような、愛くるしい佇まいです。もしくは、躾に失敗しちゃって愛玩犬にジョブチェンジした番犬? みたいな?


お疲れ様です! アーチライン先生!


エイミさんはこの世に生を受けたことが奇跡のような美少女ですから、アーチライン様とお話しされているだけで絵になります。

会話の内容はアレですが、耳さえふさげば極上の見栄えでございます。

小柄でお胸以外の全てが華奢なエイミさんと、細身でスラリとされた四肢に万事滞りない顔面のアーチラインさまの、美しいこと。美しいこと。


あな尊し。


貴族の、それもアーチライン様ほどの大貴族ともなれば、愛人のひとりやふたり、嗜みのうちでございましょう。

レティシア王女殿下は遣帝女ですからお手つきにしてはいけませんが、その愉快な仲間たちを愛人にされることに比べたら!

ギリギリ貴族で身分が低く、顔も性格もお可愛らしいエイミさんこそ、理想の愛人ではないでしょうか。


と、力説しますと、何故かドン引かれてしまいます。解せませぬわ。


……とまあ、ここまで申し上げましたら、お分かりでしょうか。

私、シンシア・フルートは、アーチライン様を心より尊敬致しております。

そして、ひとりの男性としてお慕いしているかといえば……肯定致しかねております。


アーチライン様は優しく紳士で、申し分ない婚約者でございます。将来は宰相の地位を約束された優秀な方。

私は……学問はそこそこですが、それだけが取り柄の、平凡な令嬢です。断ることなど不敬以外のなにものでもない玉の輿でございます。

それでありながら、できることなら、宰相と厚生省の役人、みたいな立場で出会いたかったと、切望してならないのです。



「妄想中、失礼します。お嬢様。アーチライン様がいらしています。部屋にお通ししても?」


従騎士のディーンが、ドアを叩きました。

実は、寮の自室に解除に厄介な神経毒が仕込まれまして。昨日からシェラザート家のタウンハウスから登校させていただいております。

結婚前に同棲している状態ですね。アーチライン様の私室は別棟ですが。


「かしこまりました。お茶の用意を」


「ごめんね。シンシア。人払いをお願いできるかな」


「え。でも」


未婚の男女2人きりをお望みとは。どういう風の吹き回しでしょうか。婚約者同士であっても、あまりよろしくありません。ディーンの眉間も微妙な弧を描いていますわ?


「ディーンだけ、入ってくれ」


「はい」


ディーンも侍女もホッとした表情ですが、未婚女性がふたりの未婚男性と密室にいるほうが、問題な気がするのですが。いやいや、地味な私が退室して、アーチラインさまとディーンが残る方が。

烏の羽のような髪と切れ長の碧眼を持つこの従騎士は、たいそう腕の立つ細マッチョでして。鋭い眼差しのディーンと優しげな眼差しのアーチライン様の視線が重なり合ったら……キャアアア!


「シンシア?」


「あら、いえ。ホホホ」


あぶないあぶない。危うく、はしたない妄想が止まらなくなるところでしたわ。


紅茶をセットした侍女が部屋を出て、ひっくりかえした砂時計が全部落ちたころ、アーチライン様は天地がひっくり返るような発言をされました。


今日も明日も変わらない毎日が、続くはずだった日常が、根本的に崩れ去るような、そんな提案でした……。









キャラの薄そうなモブに幕間をまかせたら、ノマカプも嗜む腐女子だったでござる。2部のヒロインはこの子。

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