第7話 慶喜のこれまでの歩みを振り返る(4) 黒船来航~慶喜、黒船を水戸から見に行く
慶喜は早くから外国の情報を入手することに意欲的だった。
鎖国体制は長くは続かないと、薄々思い始めていた。
このまま幕末を迎え、状況が進展していけばどのような結末になっていくのかということを、この時知っていたのは、実は慶喜=松平時男だけだった。
まさか本当に徳川幕府が無くなってしまうなんてことは、薄々感じ始めていたとはいえ、多くの者たちは本気では思っていなかったようだ。
松平時男「まもなくペリーの黒船が来るということは、皆には伝えないでおこう。」
しかし菩提寺の尼さんだけは、なぜか不吉な予感を感じ取っていた。
「もうすぐとんでもないことが起きる…。
打ち消しても打ち消しても消えない不安…。」
それはやはり黒船来航のことを意味していたのか…。
そして、ついにその時はやってきた。嘉永6年、西暦では1853年のことだった。
「おーい!大変だー!」
浦賀沖にペリーの率いるアメリカ艦隊が現れたという。
「それが、黒船が4隻だってよ。」
「なにい!?たった4隻で、驚いているのか。」
人々の噂話。
黒船来航の知らせはただちに江戸表へ、そして水戸や、全国の諸藩にも伝えられた。
「斉昭様!お聞きの通り、亜米利加【アメリカ】の艦隊が浦賀沖に現れました。」
斉昭「なんと、亜米利加【アメリカ】の艦隊か。
して、亜米利加【アメリカ】艦隊は何を要求しておるのだ!?」
斉昭から慶喜にもこの事はただちに伝えられた。
斉昭「慶喜!慶喜!聞いたか!?
亜米利加【アメリカ】の黒船が、浦賀沖に現れ、我が国が亜米利加【アメリカ】と貿易を行うということを要求しているという。
なお、幕府は老中の阿部正弘を交渉役として派遣したという。」
老中の阿部正弘が浦賀沖に向かったと聞いた慶喜は、自分も浦賀沖まで行って、黒船を見に行きたいと進言した。
なお、黒船は少なくとも数日は浦賀沖に滞在するという。
慶喜=松平時男「これはぜひ、見に行かないわけにはいかないな。
もしかしたら他にも密かに様子を見に来ている者たちもいるかもしれないし。」
そう、もう既に坂本龍馬やら勝海舟やら吉田松陰やらが、黒船を見に来ているかもしれない。
とはいえ、わざわざそのためだけに大名行列を連れていくというのも気が引ける。
ここはわずかな手勢のみをお供にして、忍び足で向かうことにした。
水戸から、土浦、牛久、取手、柏、松戸と来て、まずは江戸の小石川にある水戸藩上屋敷に向かい、そこで一休みしてから、相模国に入り、横浜、戸塚、大船、鎌倉を経由して浦賀まで向かうという経路を取った。
そして、ようやく浦賀沖までたどり着いた。
そこで、まさに幕府側の使者がペリー提督を出迎えるところに偶然出くわした慶喜。
「この決定的瞬間を目撃することになろうとはな…。」