桜田門外の真相は隠蔽(いんぺい)、そして斉昭の死…!
その後幕府からも公式に桜田門外の惨劇について発表されたが、その詳細はなんと、どこの誰とも分からぬ浪人者どもが、恨みを晴らすべく決行に及んだというものだった。
瓦版=【当時の新聞のようなもの】でも、そのように発表され、庶民たちもそのように認識したという。
これで結局、井伊大老を殺害した実行犯の浪士たちの正体も、その実行犯に指図した黒幕の存在も、うやむやになってしまい、真相は闇に葬り去られる。
そればかりか、井伊大老はその後、極悪人のレッテルを貼られ、逆にその極悪人を成敗したとして、実行犯の浪士たちはむしろ英雄として扱われるようになる。
「井伊大老がこんな極悪人にされちまった理由って?」
「決まってらあ、今まで幕府がさんざん暴利を貪ってきたからだよ。
その幕府の将軍に次ぐ、一番のお偉いさんで、しかも実質井伊大老の独断で物事を進めていたからだよ。」
江戸庶民も口々にこう語った。
そんな中、慶喜の父斉昭が病に倒れる。既に余命幾ばくもない状態となっていた。
慶喜も斉昭の見舞いに行く。
「むむ…、慶喜か、わしはもう長くはない…。」
「父上、この慶喜は、いずれこの国の大統領をめざします…。」
慶喜は父、斉昭の前で、初めて自分が日本国の大統領を目指すことを宣言した。
「ん?何を言っているのか、よくわからないが、とにかく、水戸藩、一橋家の、家中の者たちのことは、お前に託そう。
いずれはしかるべき役職を任されることもあろう、その時は、幕府を、そしてこれからのこの国のことを、よろしく頼む…。」
「わかりました、父上…。」
それからまもなく、斉昭は逝去した。
ただ、死に際にぼそっと「日本の大統領になる」と言ったのを、斉昭には聞こえていたのだろうかと。
とにもかくにも、斉昭の死によって、慶喜が再び水戸藩に戻り、水戸藩主の家督を継ぐことになるという流れになっていたようだ。
本人の意思も聞かず、家老らが話し合って決めるという、これは武家社会の古くからの習わしだった。
しかしとにもかくにも、水戸家の家督を継いだことで、ひとまず日本初の大統領への足がかり、その第一歩にはなるようだった。
「俺の最終目標は水戸藩の家督とか一橋家の家督とか、そのようなものではなく、日本の大統領になることだ。」
心の中ではそう思っていたが、幕末の歴史はいよいよ新たな局面を迎えようとしていた…。
長く続いてきた天下泰平の世の中で、いつしか『平和ボケ』となり、すっかり腰抜けとなり、鎖国を続けているその間に、世界の潮流から完全に取り残されてしまった我が日本。
慶喜として、どうするのか、このまま何も解決策を講じないで手をこまねいていては、ただ史実の通りに歴史は動くだけだ。




