現代人・松平時男から見た徳川慶喜
俺は現代人の松平時男という。松平というからには、どこぞの松平家の殿様の子孫とイメージするだろうが、そんなことはないと、自分では否定しているつもりだが。
実際に世が世ならどこぞの松平家の殿様だったという子孫の人たちもいるようだが、その人たちとも別に親戚関係とか、そういうことはない。
さて、俺は訳あって徳川幕府の15代将軍、徳川慶喜に転生したというか、帰依したというか、とにかくまあ、そんなところだ。
2018年は明治維新から150年ということで、歴史関係では何かと幕末モノが話題になると考えておりますが。
単刀直入に、徳川慶喜というと、徳川幕府の15代の将軍、最後の将軍ということ以外はそれほど印象が思い浮かばない、という人たちも少なくありませんね。
『大政奉還』をして約260年余り続いた徳川幕府を終わらせた、その後はからずも戊辰戦争に突入し、鳥羽・伏見の戦いにおいて、旧幕府軍の軍勢を置いて、江戸に逃げ帰ってしまったということもあって、印象は良くないと思っている人たちもいるのではないか。
それから江戸無血開城で西郷隆盛と勝海舟が話し合って、無血開城が成立して結果的に命を救われ、そこからなんと46年にも及ぶ長い長い隠居生活が始まり、慶喜は趣味に没頭する日々を送るという。
それからさらに、1902年に罪を許されて公爵の位を授かるも、その後もこれまでと変わらず、政治には口を出さずに趣味に没頭する気ままな日々を過ごした。
実に気ままな隠居生活、それが1913年、大正2年に亡くなるまで46年もの間続いたという。
やがて、幕末をともに戦った、西郷隆盛や、大久保利通や、勝海舟、さらには伊藤博文なども、慶喜よりも先に逝去していくのを見届けていった。
そして、明治天皇が崩御して、元号が明治から大正に変わってから2年目に、77歳で逝去した。
77歳というのは、あの徳川家康よりも長生きし、歴代将軍の中では一番長生きしたというのが、この徳川慶喜だというから、これも驚きだ。
いずれにしても、幕末モノというのは、明治に入ってからがとたんにつまらなくなるともいう。
だったらそんなつまらない世の中を作るために、倒幕派は幕府を倒したのか?ということになってしまう。
伊藤博文が、ヨーロッパ歴訪の際に、ドイツの法律、制度を導入しようと積極的に働きかけた。
それから、日本は大日本帝国憲法を制定し、日清、日露の戦争に勝ち、それから軍国主義に向かっていき、やがて大東亜戦争へ、日米戦争へと向かっていき、そして敗戦国になった、これ全部つながっているという主張だ。
だから、慶喜がフランス式の法制度を導入していれば、日米戦争は避けられたんだ、という専門家もいるようだ。
いずれにしても、倒幕派の『治まる明【めい】』の世の中に、このままなってしまったら、つまらぬ、つまらぬ。
だから、徳川慶喜が日本国の初代大統領になったら、という発想で、この物語は生まれた。
実際に慶喜が日本国初代大統領になったとして、果たして本当に、そのずっと先の時代の日米戦争が回避できたかどうかはわからないとしても、とにかく『治まる明【めい】』の明治政府に任せるよりは、たとえいくらかでもまともになったというのは、とりわけ佐幕派はそう考えていただろう。
実際、土方歳三などはそう考えていたとも推察される。
会津藩の松平容保にもそのことを進言していたという。
なるほどそれで、江戸が無血開城した後も、奥羽越諸藩連合を結成して、なおも抵抗していた理由というのがわかる。
が、慶喜はそれほど乗り気だったというわけでもなかったようだが、そんな慶喜に帰依してしまった以上は、この松平時男が、なんとかするしかない。
現代人・松平時男の過ごしていた平成末期という時代はまさに、退廃と無気力が支配するような時代で、流行りものにも興味無し、働く気など全く無し、楽してもうけることばかり考えるような、そんな時代。
そんな時代になっていくなら、いっそのこと日本は、西洋の白人の国にでもなっちまった方がいいのかもな、などといったことを、どこかの誰かが言っていたのを聞いていた。
実際、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといったところは、先住民を追い出して、白人の入植者たちが国を築いてきたという歴史がある。
また、中南米では混血が進み、純血の先住民は次第にいなくなってきているともいう。
アメリカ大陸、アフリカ、オセアニアはこうしてヨーロッパ列強の植民地にされていた時代。
アジアも、タイ以外の東南アジアとインドなどが植民地とされていき、どうにか植民地にされていなかったのは、清国と、ペルシア、タイ、それと我が日本だけで、日本は長らく鎖国をしていた。
そう考えると、日本だって、植民地にされた歴史があったかもしれない。
それが植民地にされなかったというだけで、まさに奇跡といえる。
この時代に日本が植民地、いや属領にならないで、近代国家としての道を歩んだのは、ひとえに幕末の志士たちの力添えによるものがあるとは、これは倒幕派、佐幕派ともに思っていること。
戦国時代とかなら、とにかく武勲を立てて、領主に気に入られる、あるいは下剋上を起こして自らが領主や天下人になったり、あるいは特定の領主に仕えないで、人斬り稼業や、商人として成功することも、自分の実力次第。
しかし幕末とかだとそうはいかないからな…、というのもある。
しかも転生したのが、下級武士ではなくて、お殿様。それも最後の将軍。ラストエンペラー。
ラストエンペラー慶喜に転生した以上は、運命を変えることはできない。
ある時、誰にも見られないうちに切腹しようかと考えたが、切腹するのは痛い…。
痛い思いをして、苦しみのたうち回りながら死んでいくなんて、それはそれで嫌だと思ったから、それ以来切腹は考えていない。