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第1話 序章

我が名は、徳川幕府15代将軍、徳川慶喜。

一橋家に養子に入ったり、次期将軍候補に祭り上げられたものの、結局退けられ、いったんはこのまま気楽に生きていこうかとも考えたこともあった。

しかしその後、将軍後見職に任命される。

その後も、池田屋事件やら禁門の変やら、事件が続いた。

そしてついに、第一次、第二次と長州征伐を行うこととなり、将軍から全権を委任され、幕府軍全軍の総大将として、長州軍と交戦することになった。


ところがその長州征伐においては、実際に戦ってみると、幕府軍の兵たちはただ単に人数が多いばかりでほとんど戦力にもならず、性能の優れた長州軍の、イギリスから取り寄せた最新式の大砲の前に、なすすべもなく、もはや戦意すら失い、あとはただ、逃げ惑うのみとなってしまった。

なにしろ、武器の性能が違いすぎた。

長州軍はイギリスから取り寄せた最新式の鉄砲や大砲、その最新式の鉄砲は引き金を引くだけで、弾が発射される。

威力も、従来のものとは比較にならないほどだった。

対する幕府軍は、いまだに火縄銃や、刀や槍や弓矢などで戦っている有り様だった。




結局、そうして史実通りに大政奉還、史実通りに戊辰戦争の開戦を迎え、鳥羽・伏見の戦いに入り、そして史実通りに、江戸無血開城の時を迎えた。




江戸無血開城。


江戸の人々が戦に巻き込まれないでよかった…。


慶喜(よしのぶ)は、そのことを何より願っていた。


ただ、上野彰義隊だけは最後まで戦うことを選び、砲弾に当たって命を散らした。


済まない、済まない、皆の者…。


武士の教えを最後まで守り通し、そして討ち死にを果たすとは…。


それでも、江戸の庶民が戦火の犠牲にならずに済んだということに、慶喜は内心、ほっとしていた。


しかし慶喜は、新政府軍によって捕らわれの身となり、幽閉される。


もうこうなったからには、切腹、あるいは斬首かと、覚悟を決めた慶喜。


「さあ、ここに入るんだ!もう将軍ではないのだからな!」


慶喜を捕らえた新政府軍の兵は、慶喜をある屋敷の一部屋に連れていく。


「追って沙汰が下るまでは、この屋敷の中から、一歩も出てはならぬ!」


慶喜に下った沙汰は、なぜか無期限の謹慎(きんしん)というものだった。




幕府が無くなってしまうということは、大奥なども無くなってしまうということになる。


それだけではない。

老中も、若年寄も、大目付も目付も、寺社奉行も勘定奉行も、南北町奉行も、みんな辞める。

家老も、奉行も、代官も、みんな辞める。

幕府が無くなるということは、そういうことだ。みんな失業することになる。


これからこの国はどうなっていくのか。

西洋の文化や制度を取り入れ、ゆくゆくは日本も西洋のような国になっていくのか。

長らく独自の文化を築いてきた日本だが、ついに西洋の影響を受ける時が来る。


越後の長岡や、会津若松ではなおも戦が続いていたが、やがてはそれも、新政府軍によって平定されていく。




後年になって慶喜は、この時のことを振り返った時に、不思議に思ったことがあった。


なぜこの時、新政府軍は、自分を殺さなかったのだろうと。


旧幕府軍の総大将である最後の将軍、その人物をあえて殺さなかったのには、何か意図があったのか?


ひと思いに慶喜をこの時に殺そうと思えば、いつでも、どんな形でも殺せたはず。


江戸は無血開城になって、庶民は戦の被害を受けなかったが、それでも、切腹させるなり処刑するなり、そういう選択肢もあったはず。


それなのになぜか、下された沙汰は蟄居(ちっきょ)謹慎(きんしん)といったものだった。


あわよくば、旧幕府とも違う、明治新政府とも違う、政治体制を構築し、天皇制を廃し、日本に大統領制を導入して、自らが日本国初代大統領に就任することすら画策していたような人物だぞ。


大統領といえば、当時共和制だったのは、アメリカとフランスだった。


慶喜が考えていた通り、フランス式の制度を取り入れていたら、ずっと後の時代の日米戦争は避けられたという、後世の歴史研究家もいる。




今までの武士の習わしでは、武士の子供は武士、親が将軍なら子も将軍、親が老中なら子も老中、

といった具合に、その家に生まれたら親の役職を継がなければならない、

それ以外の人生の選択肢は許されないというような環境、それは明治以降も続いた。

それはなんと、第二次世界大戦後の、家制度の表向きの撤廃がなされるまで、この日本では続いていた。


しかし大統領制になれば、大統領の子供は大統領になってもならなくても、どちらでもいい、

大統領の子供でも特別扱いはされないが、後を継がなくてもいい、そうなれば、後を継ぐ以外の、別の人生の選択肢がいくらでも開けてくると、考えていたと推察できる。




このような堅苦しい話はもうこのへんにして、

とにもかくにも、この時に殺されないで、蟄居(ちっきょ)謹慎(きんしん)という処分になったからこそ、

その後の長い長い、趣味を楽しみながら気ままに過ごす生活が送れたというのも、また事実だ。


「これで、幕府も、将軍も無くなって、考えようによっては自由気ままに、いくらでも別の生き方を選べるというもの。

しかしこの戦でも、多くの犠牲を払った…。

しかし、だからこそ、だからこそ、その者たちの分まで、残りの人生を楽しまなければならぬのだ。」




しかし、さらに考えてみると、また違う考えが浮かんできた。


だめだ!だめだ!史実通りじゃだめなんだ!


慶喜は日本国初の大統領になるんだ!


日本国初の大統領になって、やることやるんだ!


1度目のループは史実通りで終わってしまったが、もしも2度目のループがあれば…。


2度目のループを期待していたが、結局何も起こらないまま、時だけが流れていった…。



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