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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第二章 旅立ち編
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またね。

 翌朝、ポアとの待ち合わせ場所であるギルドへと向かう。

 ギルド前では、既に到着していたポアが、メルダに手を繋いでもらいながら緊張した面持ちで固まっていた。


「待たせてごめんね、ポア」

「だ、大丈夫、です!全然、待ってない、です!よろしく、お、お願いします!」


 上擦った声を上げながら、勢いよく頭を下げるポア。

 そんなに緊張せんでも……。


「うん。こちらこそよろしく。それと、昨日はいなかったけど、こちらはクロード。それと、シロだ。私のパーティ―はこれで全員になる。詳しい紹介は、まぁ、道中にでもゆっくり語ろうか。……お互いにね?」


 にっこり笑んで、小首を傾げる。

 ポアは耳と尻尾をピンッ!と立てながら、「は、はい!」と返事をした。


「さて。……それじゃ、早速だけど出発するとしようか。正門でリヒト達が待ってくれているらしい。お見送りをしてくれるそうだよ?」

「リヒトさん……!?」


 リヒトの名を聞いて、ポアの表情が瞬時に明るくなった。

 それに伴い、尻尾もパタパタと嬉し気に揺れる。

 ケモ耳幼女に好かれて良かったね、リヒト?


「寂しくなりますね。また、いつでもいらしてください。エルさん達の御活躍、ここスファニドより応援しております」

「メルダさん……。色々、お世話になりました。いつも親切にしてれたこと、本当に嬉しかったです。ありがとうございました……」

「ふふ。こちらこそ、ありがとうございました。エルさんと出会えて、楽しかったですよ」

「……っ!!メルダさん……!!」


 感極まったかのように口元を押さえ、涙を滲ませるエル。

 その様子に、メルダは寂しそうに微笑んで、静かに頭を下げた。


「いってらっしゃいませ。どうぞ、お気を付けて……」





 メルダと別れ、正門へと向かう。

 途中、昨日予約しておいた竜車を借りに、騎竜貸出店にも立ち寄る。

 自分の騎竜を持っている旅人や冒険者もいるが、買うとなると金が掛かるという理由から、レンタルで済ます者も多い。

 騎竜自体がそもそも高いというのもあるが、街に滞在中、騎竜を預ける竜小屋も中々に値段が張る。

 確か、一晩で銀貨2枚だったかな?それに加えて、昼間は一時間ごとに大銅貨1.5枚が加算されていくものだから、のんびり街にいることも出来ない。

 ペットホテルって、どこの世界でもお高いねぇ?

 だからこそ、少しでも節約しようと、騎竜を繋いでおく場所だけ借りて、街に滞在中も自分で世話をする飼い主もいるが、一日4度(朝食・昼食・間食・夕食)のエサやりに、糞の処理、朝夕の長距離散歩……。よく食べ、よく運動する騎竜相手に、やはりゆっくりとは出来まい。

 買わずにレンタルで済ます人が多いのも頷ける。

 可愛いだけじゃ、ペットって飼えないよね。うんうん。

 因みに、レンタルの仕組みとしては、レンタル料は一日大銅貨3枚。返す際は、全世界の至る所に展開する騎竜貸出店の何れかの店舗に返却するというもの。

 ただ、道中で死なせてしまったり、怪我や病気に罹らせてしまった際の保険料として、金貨一枚がプラスでつく。何事も無ければ、返却する際に保険料は全額返ってはくるものの、下位ランクの冒険者には金貨を用意するのは難しいだろう。

 借りパク防止の意図もあるだろうから、その額でも仕方ないのだろうけれど。

 ……まぁ、私は余裕だけどね!

 隣で竜車を引く二頭の騎竜を流し見ながら、ふふん、と鼻で笑った。



「やぁ。お待たせ、リヒト。見送り、ありがとね?といっても、別に宿で別れても良かったんだけど」

「あはは。ひと月も一緒にいたんだから、見送りぐらいさせてくれよ」


 そう言って、リヒトは困った様に笑った。

 私は「そうか」とだけ答えて、空を見上げる。

 晴れて良かった。


「それにしても、よく騎竜を借りられたね。大砂嵐が止む影響で、明日明後日にここを発つ人って多いから、騎竜や竜車の予約はいっぱいだった筈なんだけど。値段も跳ね上がってるし……」


 リヒトは、「俺も借りるの苦労したよ……」と、溜息交じりに呟いた。

 

「そう?値段の変動で計算が面倒だったから、適当な金額を渡したら簡単に貸してくれたよ?」

「……いつも思ってたんだけど、レオ君達のそのお金って、一体どこから出てくる訳?Dランクになったのもつい最近なんでしょう?」

「さぁ?どこからだろうね?」


 小首を傾げ、肩を竦めて見せる。

 リヒトは不満そうに顔を顰めるも、直ぐに「はいはい」と両手を挙げて降参した。


「最後まで謎が多いね、全く。少しぐらい話してくれてもいいのに」

「ふふ、別に隠している訳ではないんだけどね?……そうだなぁ。次に会った時は、きっと、ね?」

「本当?きっとだよ?」

「うん。というか……、ふふ。再会して私が話す前に、君はもう全てを知っているかもしれないけれど」

「……?どういう意味?」

「さぁ?」


 意味深に微笑んで、小首を傾げる。

 それを見て、リヒトは再び不満そうに顔を顰めるも、それ以上聞くことを諦めた。


「レオ君」

「ん?」


 数歩前に出て、私の目の前へと歩み寄るリヒトを見上げる。

 リヒトは懐から魔道具である収納袋を取り出すと、袋の中からラッピングされた小箱を取り出した。


「はい、これ」

「……何?」

「大した物じゃないんだけど、俺達からのプレゼント。このひと月、仲良くしてくれてありがとね。大賢者との謁見も、レオ君のお陰で叶ったし、それも含めてのお礼だよ」


 中腰になって差し出される小箱を受け取って、少しの間それをじっと見つめる。


「……ありがとう。大切にするよ」

「うん」


 頷いて、嬉しそうに瞳を細めるリヒト。

 その後ろに立つ仲間達も、みんなそれぞれ笑みを浮かべていた。

 そんな彼らを順番に視界に入れながら、私は内心……焦っていた。

 ――どうしよう。

 プレゼントとか、何も用意してないんだけど……。

 私も何か買っておくべきだったかな……。

 そんな困惑を抱えながら、私は小さく吐息を吐きだして、視線を落とす。


「……すまない。私からは、その……、何もないのだけど……。プレゼントとか……」


 申し訳なさそうに呟く私に、リヒトは目を瞬くと、「あはは!」と笑った。


「気にしないでよ、レオ君。これは俺達からの気持ちで、見返りが欲しくて贈ったものじゃないんだから」


 笑いながら、くしゃくしゃと私の頭を撫でるリヒト。

 そうは言っても、一方的に貰うだけでは私の気が済まない。

 情報収集だとか、面倒事の処理だとか、寧ろ世話になったのは私の方だし。

 ……あ、そうだ。

 私は閃いたと同時にリヒトの手を勢いよく払い除けると、「え?」と軽く傷付いた顔を浮かべるリヒトへと笑みを向けた。


「リヒトは、仮面の子供の情報を得る為に、ルドア国に行くんだったよね?」

「え、あ、うん」

「具体的には、どうするつもり?」

「そうだな……。王都に現れたというのに、何故か様子見の姿勢を貫き続けるカーティス公爵や、ルドア国王から話が聞けたらなと思ってるんだけど、……ルドア国みたいな大国だと、上層部と会うのは難しいかもしれないな。大賢者との謁見も、かなり待たされたしね。Sランク以上の勇者とかなら待遇も変わってくるんだろうけど……」


 乾いた笑いを零しながら、リヒトは遠い目をする。

 勇者の中でも、やっぱり序列とかってあるのかな?


「そっか。やっぱり、父さ……ゴホン。公爵や国王に会うつもりなんだね?それなら、カーティス公爵家に行く際は、私の名を出すといい」

「え……?」

「ふふ。実は、公爵とは少々縁があってね。多少は融通してくれると思うよ?」

「ルドア国王に次ぐ権力者と知り合いって……。レオ君、本当に何者?」

「さぁ?」


 再び意味深に微笑む。


「もし会えたら、公爵によろしく言っておいて?元気でやってるよって。それと……、気持ち悪いから、私兵団を使ってのストーカー行為をやめる様にって、それも伝えてくれると嬉しいな?」

「公爵何やってんの!?」

「何やってんだろうねぇ?」


 無駄な足掻きだというのに、よくやるよ本当。

 私兵団が哀れで仕方がない。


「……レオ君が何かを仕出かして、追われてるって訳じゃないよね?」

「おや。それはそれで面白そうだね」


 それなら遠慮なく撃退出来るのになぁ。

 敵意を向けてくれる存在程、扱いやすいものはないよね。殺しちゃってもいいんだし。


「本当に何も、してないんだよね?」

「ふふ?好きな方を信じればいいよ」

「……分かった。レオ君を信じるよ」

「信じたいから?」

「そうだね」


 頷くリヒト。

 ……あまり信じられるのも荷が重いな。

 嘘は言ってないが、真実も言ってないからね。


「まぁ、信じるのは勝手だけど、信じた先に絶望があっても知らないよ?お人好しも程々にね」

「それは心配してくれてるって事でいいのかな?」

「とある少女の体験談から学んだ、唯の忠告だよ。君が絶望の内に身を滅ぼそうと、私は大して興味がないよ」

「少しはあるんだ?」

「……ふふ。御目出度い頭だね」


 足元に下ろしたスーちゃんに小箱を預けると、リヒトとの距離を詰め、顔を近付けさせようと服を引っ張る。

 それから、必然的に地に膝を付ける体勢となったリヒトの頭を両手で挟むと、私は至近距離から囁いた。


「――君が、私を信じた先に何を見て、何を思うのか、今からとても楽しみだよ、リヒト。……また、会おうね」


 そう言って、最後に優しく微笑んで、両手を離す。

 踵を返し、ポカーンと固まるリヒトから距離を取ると、エル達に向かって竜車に乗る様に指示を出した。

 御者台にはエルとクロが交代で座ることになっている。邸で騎竜や竜車の扱い方も教わっていたらしく、こればかりは正直助かった。

 流石に徒歩は勘弁だからね。


「じゃあ、最初は私が操縦するわね」

「頼んだよ、エル」

「ええ!」


 エルは嬉しそうに頬を染め、意気揚々と御者台へと上がる。

 それに続く様に、シロが竜車の中へと入って行った。

 竜車と言っても、幌馬車の様な作りになっているため、座席などはない。

 座席が付いたタイプのもあったけれど、こっちの方がごろ寝も出来るしいいよね。

 毛布もたくさん買ってるし、シロという名のソファもあるし。

 うんうん。快適そうじゃん?


「さぁ、ポアも乗って?」

「あ、は、はい!」


 ポアの方を振り向いて、中に乗る様に促す。

 ポアはピンッと耳と尻尾を立てて、ついでに姿勢も直立になると、リヒト達の方へと向き直って、勢いよく頭を下げた。


「あ、あの!ありがとうございました!!それと、……すいませんでした!!」


 そのお礼と謝罪に、リヒトは困った様に微笑んで、ポアへと近寄る。

 そして、ふわふわもこもことした頭に手を置いて、ビクつくポアを優しく撫でた。


「気にしなくていいんだよ。行ってらっしゃい」

「……っ!!」


 涙を滲ませ、自分の服を握りしめる。

 泣くのを堪える様に唇を噛み締めて俯くポアの様子に、リヒト達はそれぞれ優しい表情を浮かべていた。


「い、行って、きます!」


 涙を見せまいと、ポアは逃げる様に竜車へとよじ登ると、奥へと入って行った。

 続いてクロも中に入ろうと、竜車へと歩み寄る。


「ク、クロード!」

「……?」


 けれど、ガルドに名を呼ばれ、その足は竜車に乗る手前で止まった。

 対してガルドは、クロの前へと足を進める。


「その、俺、……」

「……」


 ガルドは気まずそうに視線を彷徨わせ、最後まで言い終える事無く一度口を噤む。

 それから深く深呼吸をした後、再び言葉を発した。


「――すまん。喰種が人を食べるのは、その、……仕方のない事で。でも俺は、それが、受け入れられなかった。お前が人を食べる姿が、悍ましくて、気持ち悪かった。……だから、すまん。仕方のない事なのに、俺は、自分の感情を優先して、お前を責めた。喰種が何なのか、本当の意味で理解していなかった。今でも、正直、受け入れられねぇ……」

「……それは当然だろ。喰われる立場にある奴が、自分を喰うかもしれない存在を受け入れられる訳がない」

「いや、……少なくともレオちゃんは違っただろ。死体の腕を斬り落として、平然とお前に差し出すレオちゃんに、俺は、……吐き気がしたよ。……でも同時に、だからこそお前は、そんなレオちゃんと一緒にいるんだとも思った。あんなこと出来る奴なんて、他にいないだろ」


 チラリと、私を流し見るガルド。

 後半の部分小声で話してるけど、バッチリ聞こえちゃってますよ?


「お嬢は、……特別だからな」


 うん。特別っていうか、特殊ね。

 ……何故照れ顔?


「……あー、うん。まぁ、その、確かに俺は、レオちゃんみたいには受け入れられないけどさ、……拒絶をするつもりもないからな。……辛い事も多いだろうけど、その、頑張れよ」


 頬をポリポリ掻きながら、バツが悪そうに視線を外す。

 キャラじゃないんだろうねぇ。


「……やっぱりお前、変わってるな」

「うっせぇ。兄貴肌なんだよ」


 顔を背け、咳払い。

 クロはそんなガルドを無表情で見つめた後、「ふっ」と口元に微笑を刻んだ。


「またな、ガルド」

「……!!お、おう!気を付けろよ!」


 クロは竜車に手を付いて、足を浮かす。

 軽い動作で中へと乗り込むと、ガルドに背を向けたまま――、


「――ありがとう」


 その言葉を最後に、クロは奥へと消えていった。

 無反応に固まるガルドの顔が気になって、覗き込む。


「……」


 うん。見なかったことにしよう。

 マイがここにいたら発狂していそうだ。


「さて、残りは私で最後だね。……うんしょっと」


 手に力を込め、よじ登ろうと足を浮かす。

 けれど、突然体がふわりと浮いて、そのまま竜車の床の上へと下ろされた。

 振り返り、私を持ち上げた人物へと視線を向ける。


「ありがとう、リヒト」

「どういたしまして」


 互いに微笑み合う。

 けれど、リヒトは直ぐに真剣な表情になると、奥にいるクロを僅かに流し見て言った。


「……喰種蒐集家には、気を付けて」

「ん?喰種の?」

「どこの誰かも分からないんだけど……。何でも、喰種好きな、奴隷蒐集家がいるって噂」

「へぇ?でもまぁ、あの容姿だからね。いてもおかしくないんじゃない?」

「うん。確かに、奴隷好きな貴族の間では、喰種のその容姿と希少性から傍に置きたがる人も多いと聞く。でも喰種って、……人間を食べないと死ぬからね。エサとなる死体を用意するのが煩わしくて、そう何人も喰種を飼う金持ちは稀だ」

「そう?剥製だとか、氷漬けにしたりだとかで、殺して観賞用にする奴もいそうなものだけど」

「……レオ君」


 あれ?何かドン引かれた。

 ……ふと気になって、後ろにいるクロをチラ見。

 クロは、体操座りで震えていた。


「……ゴホン。それで?その喰種蒐集家がどうしたって?」

「あ、えっと、……ごめんね。俺も詳しくは知らないんだ。唯、かなり強引な手口で喰種を集めてる奴がいるらしいって話を思い出して。……無駄に不安を煽るだけかと思って、言おうか迷っていたんだけど」

「そう。ありがとう。……でも、そもそもの話、珍しい種族って狙われやすいからね。その喰種蒐集家だけが危険という訳ではないでしょう?ダークエルフとのハーフであるエルも、コレクターからすれば喉から手が出る程欲しい存在だろうし。クロに限らず、気を付けるのは今まで通り変わらないよ」

「……うん、そうだね。ごめん。やっぱり余計な世話だったかな」

「ふふ。そんなことは無い。リヒトなりにクロを心配してくれたんだろう?ありがとう」


 手を差し出し、握手する。


「またね、リヒト」

「うん。また会おう」


 手を離し、「出発してくれ」とエルに言う。

 騎竜が走り出し、竜車が揺れる。

 徐々に離れていくリヒト達の姿を見つめながら、私は最後に、小さく手を振った。



次で(多分きっと)第二章も終わりです。

次回はアリエルがスファニドに到着するお話…。

果たして、リュークからパンツは貰えたのでしょうか。

6話程遡り、「第三私兵団。」で復習しておきましょう。

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