第三私兵団。
剣鬼と剣姫。
互いの冷たい視線が交り合い、肌を突き刺す様な緊張感が周囲に漂う。
「――っと、そうだったそうだった!いやー、俺としたことが、すっかり忘れていたよ。答え辛い事を聞いちまって悪かった!お前の娘、……どっか出て行っちまったんだったか。それじゃあ息災かどうかなんて、分っかんねぇよなぁ??」
「……」
綺麗な顔を歪ませて、イヒヒッ、と嫌な笑いを零すエイダ。
クレアの微笑みに、更なる影が落ちていった。
「お、お止めなさい……!ここをどこだと思っているのですか!」
彼女等の放つ殺意に気圧されながらも、フィオナは己を叱咤して、声を震わす。
恐怖と緊張とで脈は早まり、脚は今にも座り込んでしまいそうな程に震えていたが、今はそんなことどうでもいい。
ここで彼女達がやり合えば、最悪城が滅ぶのだから。
フィオナは生唾を飲み込んで両者を見据えると、震える脚に力を込めた。
だが――。
「ふふ。大変失礼致しました、フィオナ様。私としたことが、挨拶もなく……」
「……へ?」
急に殺気を解いたクレアが、頬に片手を当てながら、困った様に微笑む。
思わず、間の抜けた声が零れてしまった。
「お久しぶりで御座いますわね、フィオナ様。……ふふ。セシル殿下も、お久しぶりで御座います。少し見ない間に、すっかり大きくお成りに。子供の成長とは、本当に早いものですわね」
微笑むクレアを直視しながら、フィオナは場の展開についていけずに狼狽える。
でも一つ確かな事は、どうやら自分の思い違いだったという事。
彼女たちも、城の中でやり合う程、常識知らずではなかったようだ。
フィオナはほっと吐息を零すと、手を繋ぐ赤髪の幼子セシルに視線を遣りながら、クレアに言葉を返した。
「ええ、本当に。少し前までは、掴まり立ちが――」
――とまで言ったところで、突風が吹いた。
「ふ……っ!」
繊細な動きで手刀を放つエイダ。
そしてそれを、穏やかな笑みで受け止めるクレア。
受けては返し、返しては受けて。
安定した足取りで、重々しく、豪快に技を放つクレアの姿は、正に鬼神の如く荒々しさ。
高らかに宙を舞いながら、軽やかに、素早く技を放つエイダの姿は、正に舞姫の如く美しさ。
剣鬼と剣姫。
彼女等の性格上、どう見ても逆じゃないかと思えてくるが、これを見ればなるほど納得。
フィオナは二人の戦いの美しさに魅入ってしまいながらも、内心叫んだ。「結局やんのかい!!」と。
「もう。さっきの安い挑発といい、いい加減鬱陶しいわ。今は気分じゃないのだけれど?」
「はっ!それだけ殺気滲ませといてよく言うぜ。今日は何しに来たんだよ?テメーが城に来るなんざ珍しいじゃねーか」
「あら。私だって城にぐらい来るわよ」
「気分転換にか?息子も旦那も城に出かけ、娘は行方知らず。邸に一人は寂しすぎて、耐えられなかったか?可哀想になぁ?」
「……ふふ。……ええ、そうね。寂しいわ。ノーラがいなくて、寂しくて堪らない。邸で一人、ノーラの帰りを待つだけなんて耐えられないわ。……でもそのお陰で、また私に遊んでもらえたのだから、良かったわね?……ふふふ。嬉しそうに尻尾振っちゃって、相変わらず構ってちゃんは健在ね」
「く、はははははっ!!!……言ってろバーカ。テメーの方こそ、あの糞マジぃクッキーは相変わらずかよ?」
「失礼ね」
言葉を交わしながらも、戦いの手を止めない彼女達。
その動き一つ一つが洗練されたものであり、並みの剣士であれば一撃で沈んでいるであろう凄まじさ。
それ程に激しい戦いであるにも拘わらず、彼女達のその余裕な態度から、これらが全て遊びである事が読み取れた。
全く、唯のじゃれあいで城が滅ぶだの、冗談ではない。
フィオナは、恐怖と緊張と、それから怒りとで涙が滲みだすのを感じながらも、「何とかしなければ」という使命感から、震える声を強引に絞り出した。
「い、いい加減に――!」
「そこまでだっ!!!」
「ふえ……?」
掠れた自身の声を遮って、突如として響く重低音。
それは馴染みある、彼女のよく知る人物のもので。
フィオナは間抜けな声を零しながらも、涙の滲む瞳でゆっくりと後ろを振り返り、声の主へと視線を向けた。
「へ、陛下……!!」
――ああ、やっぱり。
私が、この人の声を聞き間違えるだなんてこと、ある筈ないもの。
ドレスの下で笑っていた膝はとうに限界を超えていて、緊張に代わって迫りくる安心感により、遂には折れて座り込む。
「王妃様!!」
いつの間にか周囲には人だかりが出来ていて、傍に居た侍女の一人が急いで駆け寄って来た。
「遊びを止めよ、剣鬼と剣姫。城を壊す気か」
国王ベルンハルトは、床に膝を付けるフィオナを横目で一瞥した後、呆れた声色で言い放つ。
「おやまぁ、ダーリンじゃねぇか」
組み交わしていた手を収め、ベルンハルトにひらひらと手を振るエイダ。
クレアも国王の登場に、ドレスを軽く払って身形を整えると、優雅に頭を垂れた。
「も、申し訳ありません、陛下。私がいながら止められず……」
「よい。彼女等の暴走は、誰にも止められん。これが遊びで、本当に良かった……」
瞳を伏せながら謝罪するフィオナの前に立ちながら、ベルンハルトは心からの安堵を込めた息を、深く大きく吐きだした。
彼女達が本気でやり合っていたならば、既にここは瓦礫の山と化していたに違いない。
「あっはははは!!ダーリンってば心配性~!城を壊すなんざ、俺がそんな事する訳ねーだろ?遊びに決まってんじゃねーか」
「……お前等の遊びは、洒落にならんのだ」
額を押さえ、項垂れる。
剣姫であるエイダを嫁に出来はしたものの、時々ふと、「早まったかな……」と思っちゃったり思わなかったりするベルンハルトであった。
「お騒がせ致しました、陛下。……ですが、加減はちゃんとしておりますので、ご心配なく」
「そう言って、以前に柱を折ったのを忘れたか……?」
「あらやだ。そんな事も御座いましたわね」
口元に手を当てて、「うふふ」と誤魔化すクレア。
「細けぇなぁ。柱の1、2本、どうってことねぇだろ?昔の事をいつまでも根に持ってんじゃねぇよ。はぁ~、やだやだ」
「……」
エイダはベルンハルトの傍へと歩み寄ると、肩に腕を置いて頭をペチペチと叩く。
妻とはいえ、『氷炎の王』と畏れられる王に対し、この態度。
これも全ては、相手があの剣姫だからこそ許されるものであろう。
「へ、陛下に対し、なんという無礼を……!!」
「え~?夫婦なんだからよぉ、こんぐらいオーケーじゃねぇ?……あ!もしかしてフィオナ様ってば、……本当は羨ましいんだろ~。イヒヒ!」
「んな……!だ、誰が……!!そんな訳ないでしょう!?」
「マジになっちゃて~。怪しいよなぁ、ベルルン?あっはっは!」
「だ、だから、違うと言ってるでしょう!?その軽口をお止めなさい!!」
爆笑しながら、ベルンハルトの背中をバシバシ叩くエイダ。
ベルンハルトは顔を険しくさせながらも、無言でその痛みに耐えていた。
けれど、自身の後ろで床に座り込んだままのフィオナを視線に捉えると、エイダに手の平を向けて行動を制し、溜息交じりに指示を出す。
「はぁ……。何事も無かったのならそれでよい。お前はもう部屋へ戻って休んでいろ、フィオナ。顔色が悪い」
「……っ!!で、ですが……」
「休んでいろ」
「……っ」
有無を言わせぬ冷たい視線に、フィオナは悔し気に口を噤む。
「分かり、ましたわ……。御配慮、ありがとうございます……」
侍女達に支えられながらフィオナは立ち上がり、息子のセシルの手を引きながら、その場を去っていった。
背後からは、「ダーリン愛してるぜ?」という、あの女のふざけた言葉と笑い声が、追い打ちを掛けるかのように耳に届く。
悔し気に、悲し気に、静かに鼻を啜る母の横顔を覗き込みながら、セシルは震えるその手を、固く握り返すのだった。
ベルンハルトの両頬に手を当てて、顔を近付けるエイダ。
そして愛おし気に微笑むと、色のある声色で「愛してるぜ?」と呟いた。
ベルンハルトは僅かに目を見開いて、数秒の間エイダと見つめ合う。
けれど直ぐに、瞳は冷たく細められ、眉間には皺が寄っていく。
「……いい加減離れないか」
「ああん?照れてんじゃねぇよ♡なんならチューしてやろうか?」
「……今の、わざとだろう?あまりフィオナをからかってくれるな」
「……ふっ。御名答」
至近距離で、互いに囁き合う様に言葉を交わし、エイダは漸く手を放す。
「視線が後ろに向かっていた。フィオナの反応でも見ていたんだろう?」
「だって、フィオナ様ってば可愛いんだもんよ~。俺とベルンハルトの間に、愛だのなんだの、そんな甘酸っぱいもんはねぇっつーのに。いやはや、本当にフィオナ様は、いくつになっても乙女でいらっしゃる。あっははははははは!!」
「……」
大口開けて笑う妻の姿を目に映しながら、ベルンハルトは遠い目をして口を閉ざす。
その表情は何を思ってのものなのか、読むことは叶わず。
「ちちうえー。あたちも、あいちてるじぇー?」
「あいちてるー」
「そうか……」
母の真似をしてか、薄緑の髪の幼子二人が、ベルンハルトの脚へとしがみ付く。
ベルンハルトは無表情に子等の頭を撫でるが、その内心は喜びに満ちていた。
「――遅くなりました、陛下」
エイダの笑いが収まって直ぐ、灰色の髪をさらりと揺らしながら、一人の男がのんびりとした足取りでその場に登場した。
本来ならば、ベルンハルトよりも先に到着し、事態の収拾に努めるべきであったその男。
剣鬼クレアの夫――アルバート・カーティス。
その遅すぎる参上にも拘わらず、アルバートの顔には焦り一つ窺えない。
寧ろ、笑顔である。
「……遅すぎないか。衛兵から報告を受けてどれだけ経つと思っている」
「ええ。ですが、急を要する問題でもなかった為、先に仕事の方を一区切りつけてから参ろうかと」
「……結構な、緊急の事態だったのだがな」
「ふふ、御冗談を。クレアがいる時点で、心配など無用でしょう」
「……そのクレアが、一つの要因だったのだがな」
「はて。私の妻が何かを仕出かすとでも?……ははっ!!有り得ませんね!!」
「もう、アルってば……」
髪を掻き上げながら、ベルンハルトを小馬鹿にする様に笑うアルバート。
それに対し、困った様に笑いながらも、薄っすらと頬を染めるクレア。
駄目だこいつら……。
そう悟ると、ベルンハルトはいつもの如く感情の読めぬ表情で、そっと口を閉ざした。
********
どことも知れない場所にある、どこかの洞窟の最奥地。
真っ暗な道のりを、迷うとなく正しく進んで行けたなら、彼女の住むその場所へと辿り着けるだろう。
徐々に増え始める、青白く光るクリスタル。
それが、目印。
暫く進むと、広間の様に開けた場所に出て、中央には泉が。
至る所から突き出すクリスタルの光に反射して、泉もまた神秘的な光を灯し出していた。
「……」
地に置かれたソファより、一人の女が目を覚ました。
よく見ると、他にも家具はいくつか置かれ、その美しい場所には些か不釣り合いである。
「見つけた」
そう小さく呟くと、女は上半身を起こし、肩に掛かる黒髪を後ろに流す。
脚を下ろそうと地面を見ると、数匹のネズミが鼻を鳴らして女を見上げていた。
女はそれを見て愛おし気に微笑むと、ネズミを拾い上げてキスを落とす。
それから膝上に乗せて頭を撫でると、再び目を瞑り、意識をどこかに巡らせた。
*******
騎竜に跨り荒野を進む、マントを羽織った二人組。
一人は高身長でガタイもいい、渋顔が素敵なミドルダンディ。
もう一人は小柄な体型で、黒目で真ん丸の瞳が可愛らしい少女。
一見、親子かと間違われるほど、見た目年齢的に歳の離れた二人だが、もちろん親子などではない。
彼らは、とある国のとある貴族に仕える私兵達。
家出をした御息女を探して、今日も今日とて彼らはその任に就いていた。
「――あっ!!キタコレ!キタキタキターーー!!!」
「……っ!!」
前を走っていた男は、急に叫び出した少女の声に反応し、直ぐさま速度を落として並走する。
そして、突然意識を失って体勢を崩す少女の身体を受け止めながら、少女の握っていた綱を引いて騎竜を止めた。
「何か分かりましたか。――シャロン団長」
「くくっ。……だからこうして話にきたのだろう?リューク副団長」
意識を戻した途端、先程の雰囲気とは一変する少女。
けれど、その男――リュークには、動揺の色は微塵も無かった。
「ネズミを使っても良かったのだが、やはりこちらの方が話しやすいと思ってな。……まぁ、アリエルの身体を使うのは癪ではあるが」
抱き留めるリュークの胸を押し返し、体勢を整える少女。
彼女は、カーティス家第三私兵団団長、シャロン。
諸々の都合により、表向きはこの身体の持ち主であるアリエルが団長の振りをしているのだが、その事実を知る者は、同じ第三私兵団の中でもリュークを除いて誰もいない。
「……場所を変えた方がよろしいか」
「いや、このままで良い。事は急を要するのでな。……今し方、エレオノーラ嬢の居場所が判明した。魔法都市“スファニド”だ」
「……っ!!その情報、どこで……。都市を覆う結界の所為で、あの場所ではネズミが使えない筈では」
「ああ。……全く、鬱陶しい場所だよ。外部からの魔法は全て弾かれてしまうのだから」
「では、どうやって……」
「冒険者ギルドだ。くくっ、ガドニア支部は緩くて助かる」
「ギルド……?」
思わぬ単語が飛び出した事で、リュークは目を瞬かせた。
「もしやと思ってな、目を付けていたのさ。日々、新たに更新された冒険者名簿を、ネズミを潜り込ませて覗いていた。身元不明な者が宿で長居すれば当然悪目立ちするが、冒険者であればそこまで怪しまれる事はない。無職で社会不適合者なクズの集まりとは言え、旅をする際、冒険者という肩書きは中々に役立つ」
「なるほど。お嬢様もそれを利用している可能性は高いと……」
「ああ。Eランク以下の雑魚はギルドカードでのみの認証となるが、Dランク以上からは正式にギルドの冒険者と認められ、名簿に名前が記載される。そしてそれは、全支部のギルドにも当然伝達され――っと、この辺の仕組みは、貴様もよく知っていよう?まぁ要は、新たに更新された名簿の中に、……“エル”と“クロード”の名があった」
「……!!」
「名前が同じなだけという可能性も捨てきれないが、同じ場所、同じ日に、この二人は冒険者になっている。恐らくパーティーを組んでいるのだろうが、果たして同名の人物が、そんな都合よく群れていると思うか?これはもう、彼等本人だと考えた方が遥かに自然だ」
「……まだ、スファニドにいると?」
「それは分からんな。だが少なくとも、昨日まではいた筈だ。彼女等は一月程前にスファニドで冒険者となり、そして昨日、スファニドでDランクとなった。ということは、邸を出てからの一ヵ月、彼らはスファニドに滞在し続けていたと考えられる」
「……」
リュークは思案顔で口を噤むと、胸に手を当て頭を垂れた。
「――御指示を、シャロン団長」
肩に乗るネズミの鼻先を突いていたシャロンは、リュークを横目で流し見ると、鼻で笑う。
それからゆっくりと腕を伸ばし、水平に勢いよく振り切った。
「よく聞け、駄犬が。スファニド地区担当の第六部隊は、予想外に続いた大砂嵐の所為で、今はサシャマの王都で足止めを食らっている状態だ。あと2、3日で止むとはいえ、それからスファニドまでは騎竜を走らせ3日程。その間、エレオノーラ嬢が移動を始めないとも言い切れん。転移の術を持つエレオノーラ嬢を包囲する為にも、スファニド近隣諸国に配置した部隊を移動させ、穴を作る事は極力避けたい。だからといって、唯でさえギリギリの人数で割り振った部隊を、更に分断させるという愚策だけは講じてはならない。……しかし、貴様等なら話は別だ。単独でも危険を乗り切れるだけの実力はあるだろう?幸い、ここからスファニドまでは丸3日もあれば辿り着く。いや、辿り着け。無理なら睡眠を削れ。分かったな?」
「……承知した」
有無を言わせぬ無理難題に、リュークは表情を強張らせて了解する。
シャロンはその返事に満足気に頷くと、「以上だ」と最後に言い残して意識を手放した。
倒れるアリエルの身体を急ぎ抱き留めながら、リュークの脳内には、『退職』の二文字が浮かんでいた。
「……先程の話、聞こえていたな」
「はい……」
意識が戻り、悲壮感漂う声を漏らしながら、リュークの胸に顔を摺り寄せるアリエル。
何だか庇護欲そそられる可愛らしい仕草に見えなくもないが、その顔は欲に塗れていた。
「リューク様……。げへ、げへへ。あんなの、くんかくんか、無理ですよ……。はぁはぁ」
「だが、やるしかないだろう。団長の御命令だ」
「そんなぁ~。リューク様と離れるなんて、げへ、げへへへへ、考えられません……」
「……そうか。だが、悪いな。スファニドへはお前に行ってもらう」
「ええ!?私ですか!?そ、そんな……。夜な夜なリューク様の臭いを嗅ぎながら眠りに就く事だけが、この旅の唯一の楽しみでしたのに……!!眠るリューク様。食事を摂るリューク様。水浴び為さるリューク様。げへ、げへへへへ。それが、それが出来なくなるだなんて……!!はぁはぁ、そんなの酷いです……!!くんかくんか、げひひひひ」
「……思考を統合してから話せ。それと、夜な夜なお前を引き剥がさねばならない、私の苦労を考えた事はあるか?」
アリエルの頭を掴み、引き離そうとするリューク。
リュークの胸元にしがみ付き、欲のままに抵抗をするアリエル。
互いに会話を交わしながらも、熾烈な攻防戦は行われていた。
「せめて、せめて一時間……!!最後に私の気が済むまで、リューク様を好きなようにさせてください……!!」
「何をする気だ。頼むから早く行ってくれ」
「いぃぃやぁぁぁああああ!!!なら、マントを!!せめてマントを交換してくださいぃぃいいい!!」
「サイズが合わんだろうが。それに、何かあってもお前にはシャロン団長がいるだろう」
「ネズミを通してでしょぉぉおお!!??それか、入れ替わるってだけでしょぉぉおお!!??私、会えないですもん!!美しいおみ足で踏まれる事さえ叶わないですもん!!」
「……分かった。マントの代わりに何か、違うものをやる。だから離せ」
ほとんど引き剥がすことに成功していたが、マントを握りしめる手だけはどうしても振り払えずにいた。
マントの繊維がキリキリと悲鳴を上げており、無理に引っ張ると破れそうなのだ。
それで仕方なし口にした提案だったのだが、その後直ぐに後悔する事となる。
アリエルは満面の笑みで顔を上げると、マントの代わりにある物を大声で要求し出した。
「じゃ、じゃあ、パンツをください!!昨日のものを!!」
「……」
もう、口を噤むしかないリュークであった。
穿いてる物を要求しなかっただけ、我慢した方だと思うんですよね。
byアリエル




