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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第二章 旅立ち編
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恋に性別なんて。

「今日は随分と大人数ね……」

「ちょっと、何あの子供!かわいい~」

「あのマントの二人組、何者かしら」

「し、獅子……?何故」

「ああ、ビビたん。今日もなんて愛らしい……」


 長い回廊を、かの有名な勇者一行がズカズカと歩いて行く。

 しかも今日は、何やら付属物が何名か……。

 勇者の後ろを付いて行くあの子達は誰だ誰だと、その好奇の目は私達にまで向けられた。

 まぁ、それでなくても、シロがいる時点で目立つのは必至だけどね。

 そして、そんな唯でさえ目立ちまくる私達を先導するは、麗しき生徒会長様と副会長様。

 どうやらこの二人、生徒達の間でかなり人気があるらしく、というのも――。


「――っ!!危ない、レベッカ!!」

「え、……きゃっ!?」


 突然、先頭を歩いていたレベッカとユリアナ目掛けて、水の玉が飛んできた。

 直ぐさまユリアナがレベッカの体を引いて、腕で玉を弾き返す。

 けれど、腕が当たった拍子に割れてしまった水の玉は、幾らかユリアナの顔へとかかってしまう。


「ふぅ。……大丈夫だったかい?」

「え、ええ。……ありがとう」


 濡れた髪を掻き上げて、レベッカがどこも濡れていないかを確認するユリアナ。

 その様はまるで、姫を護衛する騎士の如く。


「き、……きゃぁぁああああああ!!!」


 ……周囲から、黄色い歓声が響き渡った。

 彼らが人気な理由は、もちろん見た目の秀麗さもあるのだろうが、恐らくそれだけではないだろう……。


「――さて、そこの生徒諸君」


 レベッカの無事を確認し終えたユリアナは、中庭へと鋭い視線を向けた。

 そこにいたのは、青い顔をした男子生徒3人組。

 その内二人の両手の間には、まだそれほど大きくない生成途中の水の玉が浮いていた。

 見たところ、水魔法の特訓をしていたらしい。


「す、すいません……。魔法に集中していて、気付きませんでした。ま、まさか副会長達がいらっしゃったとは……」


 自分のもとへと歩み寄って来るユリアナに、先程の水の玉を暴走させてしまった犯人であろう一人の

男子生徒が、あわあわと謝罪をした。

 ユリアナの足が、その男子生徒の前で静かに止まる。

 それから、深く吸い込まれる呼吸と共に、腕がゆっくりと上がっていった。


「ひぃ!?す、すいません!すいません!すいませんんん!!!」


 恐怖のあまり、頭を抱えて体を縮こまらせる男子生徒。


「――ふむ」

「……??」


 しかし、いつまでたっても来ない鈍痛に、少年はそろりと片目を開ける。

 ユリアナは上げた手を自身の顎に当て、面白おかしそうな表情で少年を見つめていた。


「君。さっきの言葉だと、相手が僕でなければ問題ないという風に聞こえるが?」

「そ、そういう意味では……!」

「ふふ。勤勉なのは素晴らしいことだが、人が集まる場所での魔法訓練は禁止されている筈だ。さっきの様な暴走により、誰かが怪我をしてしまっては大変だからね」

「はい……。以後留意致します」

「分かればよろしい。……だが、次にこの様な事があった際は、厳罰に対処させてもらおう」

「はい……って、ん?ということは……」

「……幸い、被害を受けたのは僕だけで済んだ。君達の勤勉さに免じ、今回のみは目を瞑ろう」

「ふ、副会長……!!」


 顔を上げ、感動したかのようにユリアナへと潤んだ瞳を向ける少年。


「それにしても、僕もまだまだだ。咄嗟に防御魔法を展開出来れば良かったんだが、……やはり無詠唱は難しい。君達の様に、僕も日々精進しなければな。いい教訓になったよ」

「副会長っ!!」

「特訓、頑張りなさい。どうしても上手くいかない時は、僕を呼ぶといい。空き時間で良ければ、いつでも付き合うよ」

「副会長ぉぉおおおお!!!」


 爽やかな笑みと共に踵を返し、少年たちへと背を向けるユリアナ。

 周囲から「ユリアナ様ぁぁあああ!!」「副会長ぉぉおおお!!」という凄まじい歓声の嵐が沸き上がった。


「もう!私を庇ってあなたが濡れてしまっては意味ないじゃないの!」

「すまない。反応が遅れ、防ぎきれなかった」

「そういう事じゃなくて!」


 戻って来たユリアナの顔を、ポケットから取り出したハンカチで拭き始めるレベッカ。

 そしてその様子を見守りながら、男女関係なく顔を赤らめ、きゃっきゃと騒ぎ出す生徒達。

 リヒト一行と私は、遠い目をしながら事の様子を見守っていた。

 頬を若干赤くしながら、何故か私をチラチラ見てくるエルの視線が気になったが、とりあえず放置でいいだろう。




*******


「こちらにてお待ちください」


 案内された場所は、扉に“面談室”というプレートが貼られた部屋。

 机を挟んで対面式にソファが置かれている、至って普通の面談室である。


「掛ける場所が足りなく、御不便をお掛けしますが……」

「いや、人数が多いから仕方がないよ」

「特に私達なんて唯の付き添いだからね。壁にでも凭れて見学していることとするよ。……それか、シロにでも座っていようかな?ふふ」


 申し訳なさそうな表情を浮かべるレベッカに、私はシロを流し見ながら事も無げに答えた。


「そう言って頂けると助かります。もう直、大賢者様方がお見えになるかと思いますので、それまでどうぞお寛ぎ下さい。――それでは、私共はこれで」

「案内ありがとうね」


 レベッカはユリアナと共に頭を下げると、リヒトの礼に微笑みを浮かべながら部屋を後にした。

 そこで漸くリヒト達は息を大きく吐くと、ソファに誰が座るかで話を始める。

 ソファはどちらも三人掛け。

 大賢者達でさえ、二人が立つ事を余儀なくされる。

 

「……なんかこう、もっと広い所での面会を想像してた」

「そうねぇ。思ったより、……普通ねぇ」

「とりあえずリヒトは座るとして、他は魔法に詳しいニックとローニャでいいんじゃないか?私はゴミ野郎の見張りも兼ねて、こいつと部屋の隅で立っていよう」


 ビビはささっと着席組を決めると、クロを乙女の様な眼差しでチラ見し続けるガルドを親指で指差した。


「……分かった。よろしく頼むよ」


 リヒトは乾いた笑いを浮かべながら、ガルドを横目で一瞥。

 クロが男だって暴露した筈なのに、おっかしいなぁ?


「ごめんなさいねぇ?昨日もあれからクロードちゃんは男だって言い聞かせたんだけど、全然信じようとしなくって……」

「そうなの?……まぁ、信じる信じないは人の自由だからねぇ。今のところ特に害はないし、何かあっても……というか、クロもあれで男だからね。間違いが起こる事もな……いのかなぁ?」


 前世で喜々としてあいつに見せられた、BL漫画がふと頭に浮かんだ。

 あれって、何で登場する男がどいつもこいつもホモばっかなんだろうか。

 主人公はもちろん、その友人達までもが最終的に各々男と付き合い始める。

 周囲が次々とホモに目覚めていく展開に、私はよく首を傾げたものである。

 そして、「お前もかいっ!!!」と、よく叫んだものである。

 ……。


「――はぅあっ!!ま、まさか……!?」

「ど、どうしたの、レオ君?」


 唐突に叫び出す私に、リヒトは肩をビクつかせながらこちらを振り返った。

 な、なんてこった……!!

 この真実によもや死んでから気付くことになろうとは!!

 私は体を震わせながらスーちゃんを抱きしめると、そっとガルドを見遣りながら独り言を呟く。


「……なるほど。そうやって、目覚めていく訳か。男は皆ホモだと言うあいつの言葉、あながち間違ってはいなかったんだな」

「何の話!?」


 『社会的偏見からみんな認めたくないだけでね、男は皆ホモなのよ。というか、ホモでいいじゃない』――そう熱弁し出すあいつの顔は、何故だかとても輝いていた……。

 あの時は適当に聞き流すだけだったが、……ごめん、マイ。

 まだ完全には容認し難いけれど、君の言葉は、全くの出鱈目という訳でもなかったんだね……。

 私は目頭を押さえて俯き、「信じてあげられなくて、ごめんね……」と涙を一筋零した。


「だから、何の話ぃぃぃいいい!!??」





 リヒトの叫びが部屋に響いてから数分後。

 ノックの音と共に、不快気に顔を歪ませた深紫の髪の男が、クルッカを背に負ぶって「失礼する」と部屋に入って来た。


「待たせてすまな――」

「ぃやっほぉ、レオ君~。一昨日振りだねぇ」


 男の言葉を遮って、クルッカが気怠気に手を振る。

 チィッ!!という、大きな舌打ち音が男の口から炸裂した。


「さっさと降りてもらえませんかっ!!というか、何で徒歩の私が一番なんですか!他の大賢者は何してやがるっ!!転移するだけじゃねぇかっ!!」

「ドミニクドミニクぅ。口調が乱れてるよぉ」

「クルッカ様もっ!!何故転移で移動されないのか!?いつもいつもいつも!人を馬の様に扱いやがって!!」

「転移する魔力がぁ、勿体無いじゃない?」

「トイレ行くだけのために、あんた転移してるよなぁ!?」

「トイレはぁ、緊急事態だから仕方ないでしょぉ?……あ、ちゃんとソファのとこまでぇ、運んでねぇ?」

「その基準が、――分からん!!」


 ドミニクと呼ばれるその男は、体を捻って勢いを付けると、ソファ目掛けてクルッカを思いっ切り投げ飛ばした。

 「きゃー」という棒読みと共に、ボスンッとソファに落下してそのまま寛ぎ出すクルッカ。


「……ぜぇ、はぁ、……はぁ。……失礼した。私はドミニク・ブラウリオ。付与魔法の教授をやっている。お陰でクルッカ様の世話係だ。クソがっ!!」


 そう言ってドミニクは壁を蹴り飛ばすと、髪を雑に掻き上げながら私の方へと近寄って来た。

 子供相手だと言うのに、その鋭い眼光は和らげられる事無く、幼い私を冷たく見下ろす。


「――ところで、お前がレオとかいう侵入者か?」

「ふふ。……そうだけど?」


 ドミニクの鋭い視線に対し、私は微笑みながら小首を傾げる。

 隣ではリヒトが、「侵入者?」と疑問符を浮かべていた。


「大賢者様との面会後、図書館に来なさい」

「おやおや。行き成り先生から呼び出しを食らってしまったね。……でも、何故かな?その件に関しては、お爺ちゃ……ワーズマンに許可を貰っている筈だけど」

「知っている。だが、私とて図書館の管理責任を担っているのでな。つまり、……いや、詳しくはまた後で話そう」

「ふふふ、そうだね。どうやら、――大賢者達が揃った様だ」


 気配を察知して、思わず歪んでしまった笑みを張り付かせたまま後ろを振り返る。

 案の定、クルッカが寝転がるソファの背後に、4人の大賢者達の姿が。


「く、ふふふっ!」


 ……さぁリヒト。待たせたね。

 待ちに待った、楽しい楽しい質疑応答の時間が、――始まるよ?




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