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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第二章 旅立ち編
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俺は男だ!!

話、全然進みません。

次話からちゃんと進めるんで、ちょっと遊ばせて下さい。

テンポ悪くてすんません。

「ふふ、たくさん採れたね。街に戻ったら、瓶に詰め替えようか」

「……本当に便利な能力ね」


 ホースの様な形にした影を幾本も伸ばして、全てのハニートレントの死骸から樹液を吸い取る。

 樹液を入れておく物が無い事に気付いた時はちょっと慌てたが、闇を物質化して入れ物代わりにする事を瞬時に考え付く私って、正直天才だと思う。

 吸い取った樹液は、影の中に作られた袋の中へと送られて、その容量は無限。

 いやー、採取するのも楽ちんだし、マジで便利だわぁ。


「よし、こんなもんかな」


 粗方採り終えたところで、影の中に手を突っ込んで袋の中を覗き見る。

 樹液、めっちゃ入ってた。


「ところで、……あれ、どうするの?」

「ん?」


 袋を閉じて、エルが見遣る方へと顔を向ける。

 ……ハニートレントとの戦闘で、樹液塗れになったクロとシロが佇んでいた。

 カブトムシでも捕まえるのだろうか。


「あのまま街には帰れないし、川に行って洗おうか」

「そうね……」


 いやーそれにしても、中々にみんな凄かったよ?

 エルなんて魔法で一撃だったし。

 クロは先程の戦闘と同じ様に、ベタベタナイフと蹴りとの打撃攻撃。但し、瀕死になって仲間を呼ぶ寸前で、戦闘中に折ったハニートレントの太い枝を口内へと思いっ切り突き刺して声帯を破壊。エグかった。

 シロは、……うん、一番頑張ってたかな。

 爪と牙が武器だから、クロ以上に超近接戦闘だからね。

 文字通り、体を張った闘いだった……。

 最初は行くの嫌がってたけど。

 私はそっと瞳を閉じて、戦闘へ向かう前のシロを脳裏に想い描いた。



『グ、ガ……』

『どうしたの、シロ。早く行かないと、最後になっちゃうよ?』

『……我の場合、武器が爪と牙なのだが』

『うん。知ってるよ?』

『ベ、ベタベタになるのが、必至なのだが……』

『後で洗ってあげるね?』

『……』



 にっこりと笑みを浮かべながら返したら、決心が固まったのか、素直に特攻していった。

 今思い返すと、何か涙目だった様な気がしたけど、多分見間違い。

 或いは欠伸でもしていたのかも。

 戦闘前に余裕だね!流石はシロ!


「――という訳だから、さっさと川に行っくよー!」


 今が冬じゃなくて良かったねぇ。

 片腕を上げて、元気よく出発の合図を送っていると、私の嗅覚センサーがピクリと反応する。

 うーん、この匂いは人間だなぁ。しかも結構な速さだ。

 真っ直ぐこちらに向かってくる様子から、何かの感知系スキルを使ってるな。

 ……まぁ、この辺り一帯、樹液の甘い匂いが半端ないから、嗅覚の良い者なら感知するのも容易いだろうけど。


「レオ……?」

「ちょっと、待っててね」


 ……よし、蝙蝠さんを偵察に向かわせてみよう。

 いそいそと、お手々を捏ねて蝙蝠を一匹創り出すと、影に潜らせて来訪者のもとへと転移させる。

 それから、蝙蝠の視界越しに彼らの正体を確認。


「――おや。会いに行く手間が省けたね」

「え……?」


 エルは首を傾げながら、私が見つめる方角を、瞳を細めて注視した。


「……ああ、そういうことね」

「うん」


 流石はエル。視力が素晴らしい。

 因みにシロも嗅覚は優れているのだが、今は蜜塗れで使い物になっていない。


「――来た」


 それから直ぐの後、遠くの方から足音が聞こえてきたかと思えば、近くの茂みを飛び越えて5人の人物――リヒト達が姿を現した。

 

「やあ。奇遇だね?」

「へ?……レオ君?」


 私達の姿を視界に捉えると、リヒト達は瞬時に足を止め、驚いたように瞳を瞬かせる。

 

「リヒト達も、ハニートレントの樹液採取?」

「……いや、討伐依頼で森の傍を通りかかったら、ビビが大量のトレントが騒いでるのを感知してね。知識のない新米冒険者がトレント討伐に挑んで、仲間を呼ばれて殺される……なんてこと珍しくないから、少し心配になって様子を見に来たんだ――けど、これは……、レオ君達が?」


 リヒトは、周囲に転がる大量のハニートレントの死骸を見回しながら、緊張した面持ちで瞳を細めた。

 リヒトの問いに、私はベタベタの二人を目差しすると、「クロとシロを見れば、一目瞭然じゃない?」とだけ答える。


「ん、な……っ」


 私の視線を追ってクロ達を見遣り、何故か頬を紅潮させて絶句するリヒト。

 ガルドに至っては、先程からずっと鼻血を垂れ流したまま固まっている。熱中症だろうか。


「コホン。……とりあえず、泉にでも行きましょうか」


 咳ばらいを一つした後、リヒトと同じく頬を赤らめたニックが、場を取り仕切った。

 泉があったの?




 小川だと水位が無いから洗い難いだろうと、リヒト達に泉の場所へと案内される。

 それ程大きな泉でも無かったが、木々の影が届かない中央にだけ日光が降り注ぎ、それが水面で反射して、神秘的な景色を生み出していた。


「……綺麗な泉だね」

「でしょ?広さはあまりないけど、深い所とかあるから気を付けてね。……それで、えーっと、……野郎組は、向こうの方で待ってるから」


 微笑むローニャと、屑を見る様な目をしたビビに見つめられ、リヒトは苦笑しながら森の奥を指差した。

 そこで私は不思議そうに首を傾げてクエスチョン。


「……ん?何故?」


 泉に入るのはクロとシロの男組な訳でして。

 どちらかというと、ローニャ達が離れていた方が良いと思うんだけど……。

 クロ、多分すっぽんぽんになるよ?


「何故って……。クロードさん、泉に入るんでしょ?」

「うん。あとシロも。シロを洗ってやる為に私も入るけど、別に幼児の裸なんかで興奮する変態さんじゃないでしょ?もしそうなら出ていってはもらうけど。というか、縁自体を切らせてもらうけど」

「レオ。シロを洗うぐらい私がやるわよ?深い所もあるっていうし、……危ないわ」

「いやいやいや。こんな場所でエルを脱がす方が駄目でしょ。若……くはないけど、若い見た目の女の子が、外ですっぽんぽんになるなんて断固許しません」

「レオ……。何か色々複雑だわ」


 言葉通りの、色々複雑そうな表情を浮かべるエル。

 何か余計な事言っただろうか。


「ちょ、ちょっと待って?言ってる事がよく分からないんだけど。何でエルさんは駄目でクロードさんはいいの?その、……ぺ、ぺったんこ、とは言え、クロードさんも女の子な訳だし……」

「……ああ、そういう事か」


 なるほどなるほど。合点がいった。

 そういえばまだ言ってなかったなぁ。すっかり忘れていた。

 ガルドが時折、クロの後ろをこそこそ付いて来てたのは、まだクロが女の子って勘違いしてたからだったのかー。知らなかったなー。

 本人はストーカーされてる事に気付いてない様子だったし、暫くは面白……じゃなくて、様子見しとこうかなって放置していたんだけど、これ以上エスカレートしてきても困るし、丁度いい機会かな。

 ちょっと詰まんな……じゃなくて、ここらで暴露しときましょうか。


「クロー?どうやらリヒト達、君が女の子だと思ってるみたいだよー?」

「はぁ!?」

「「「「……ん?」」」」


 自分の容姿の事をよく理解していないのか、信じられない……と驚愕に目を見開かせるクロ。

 クロを見つめて固まったままのガルドを除き、リヒト達は皆それぞれ首を傾げた。


「ま、待って。ということは、その、……お、男?」

「……その、顔で?そんな、まさか。……し、信じませんよ私は!今まで男にときめいていたなどと!数年後が楽しみだなーとか思っていたなどと!!男相手にあれこれ妄想した挙句、夢の中で、……あああぁぁぁあああああああ!!!私は!!断じて!!認めませんっっ!!!」


 ……どんな夢だったのだろう。

 木に頭を打ち付けるニックに、私は哀れみの視線を向けた。


「まぁ、信じようが信じまいが、私としてはどっちでもいいんだけど……」


 別に私に不利益が及ぶ訳でもないし。

 寧ろ女だと勘違いしてくれていた方が面白……いや、何でもない。


「ふ、ふざけんな!!俺は!男だぁぁぁあああ!!」


 突如叫び出し、マントを留めていた首元のボタンを取ったかと思えば、勢いよく上半身の服を脱ぎ捨てるクロ。

 マントと共に、服がベチャリと地面に落ちる。

 それから腰に手を当てて、どうだとばかりに胸を張った。

 お、男らしい……。


「ク、ク、クロードしゃん……!!」


 クロの行動に、わなわなと声を震わせるガルド。

 ショックが大きすぎたかな?


「お、女の子が、そんな……!!服を、服を早く……!」

「……ん?」

「まだ、俺、そ、そんなに見てないんで!だから、その、……すいませんでしたぁぁああああ!!!」


 ガルドは顔を真っ赤にしながら目を両手で覆い隠し、森の奥へと消えていった。

 恋は盲目?

 というか、結構紳士なんだね。


「どうだ!男だろ、俺!!何だったら下も脱いでやろうか!?」

「こらこら。女性もいるんだからね?」


 見た目女の子とはいえ、完全にアウトです。

 美少女の股間に金玉とか、特殊な思考の方々しか喜びませんよ?

 

「り、理解した。理解したけど、混乱してる。だから、……頼むから、下は脱がないでくれ。今はまだ、これ以上の現実を、受け止められそうにない……」

「ぐふ……っ」

「男に、負けた、だと……。私と同じ乳無しなだけでなく、股間に汚物までぶら下げた人種に……?汚物というハンデを背負った奴にまで、私は……。はは、ははは……。女に負け、子供に負け、挙句は男にまで。……はは、はははははは」

「あら~。男の子だったのねぇ。可愛いわ~」


 歯切れ悪く言葉を紡ぎながら、木に手を付いて項垂れるリヒト。

 地面に勢いよくうつ伏せで倒れ、そのまま動かなくなるニック。

 両手両膝を地に付けながら、瞳孔を開いてぶつぶつと呟きを漏らすビビ。

 朗らかに笑うローニャを除き、みんな情緒不安定になっている御様子。


「そんじゃ、クロ。脱いだ服と一緒にさっさと入っておいで。ズボンを脱ぐときは、ちゃんと深い所に行ってから脱ぐんだよ?」

「おう」


 男だと認めさせた事に満足したのか、クロは「ふふん」と笑みを零しながら泉へと入っていった。


「エルは、火を熾しといてくれるかな?」

「分かったわ」

「……さて、待たせたね、シロ。私達も行こうか」

「ガウ」


 頷いて、焚火の枝を拾いに森へと入って行くエルを見届けた後、シロへと向き直る。

 それから服を脱いでパンツ一枚になると、シロを連れて水の中へ。


「う~……。やっぱりまだ、ちょっと冷たいねぇ」


 水位が胸元の高さになったところで立ち止まり、水の冷たさに身を震わせた。

 冬ではないとはいえ、スファニドって今はまだ春なんだよなぁ。

 春先じゃないだけまだマシだけど。


「ほら、さっさと洗うよ。しゃがんでくれるかな?これ以上の深さは私が溺れてしまう」

「グル……」


 握りしめた手の中から、影でブラシを造形。

 本当、便利な能力よねー。

 よいしょよいしょと、毛の奥にまで染み込んだベッタベタの樹液を洗い流しながら、ふとクロの事が気になった。

 そういえばさっきから音がしないなーとか、そういえばクロって泳げるのかなーとか、深い所に行って溺れ死んでないといいけどなーとか。

 ……チラリ。


「ぷは……っ!」

「……」


 泳いでいたのだろう、丁度息継ぎで顔を出すクロを目撃。

 クロは「ふー……」と立ち上がって腹より上を水面から出すと、勢いよく髪を掻き上げた。

 偶然にもその場所は、日光降り注ぐ泉の真ん中。

 日の光は、クロの濡れた体までもを美しく照らし、その様は正に――、


「――女神、様」

「……」


 そーっと、後ろを振り返る。

 木の影から恋する乙女の様に……いや、ストーカーの如く顔を覗かせ、目を見開かせたガルドを発見。

 ……いつ戻って来た。

 そして何気にちゃっかり覗き見てんじゃねぇよ。紳士どこいった。



ガルドとニックを弄るのが楽し過ぎた件。

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