俺は男だ!!
話、全然進みません。
次話からちゃんと進めるんで、ちょっと遊ばせて下さい。
テンポ悪くてすんません。
「ふふ、たくさん採れたね。街に戻ったら、瓶に詰め替えようか」
「……本当に便利な能力ね」
ホースの様な形にした影を幾本も伸ばして、全てのハニートレントの死骸から樹液を吸い取る。
樹液を入れておく物が無い事に気付いた時はちょっと慌てたが、闇を物質化して入れ物代わりにする事を瞬時に考え付く私って、正直天才だと思う。
吸い取った樹液は、影の中に作られた袋の中へと送られて、その容量は無限。
いやー、採取するのも楽ちんだし、マジで便利だわぁ。
「よし、こんなもんかな」
粗方採り終えたところで、影の中に手を突っ込んで袋の中を覗き見る。
樹液、めっちゃ入ってた。
「ところで、……あれ、どうするの?」
「ん?」
袋を閉じて、エルが見遣る方へと顔を向ける。
……ハニートレントとの戦闘で、樹液塗れになったクロとシロが佇んでいた。
カブトムシでも捕まえるのだろうか。
「あのまま街には帰れないし、川に行って洗おうか」
「そうね……」
いやーそれにしても、中々にみんな凄かったよ?
エルなんて魔法で一撃だったし。
クロは先程の戦闘と同じ様に、ベタベタナイフと蹴りとの打撃攻撃。但し、瀕死になって仲間を呼ぶ寸前で、戦闘中に折ったハニートレントの太い枝を口内へと思いっ切り突き刺して声帯を破壊。エグかった。
シロは、……うん、一番頑張ってたかな。
爪と牙が武器だから、クロ以上に超近接戦闘だからね。
文字通り、体を張った闘いだった……。
最初は行くの嫌がってたけど。
私はそっと瞳を閉じて、戦闘へ向かう前のシロを脳裏に想い描いた。
『グ、ガ……』
『どうしたの、シロ。早く行かないと、最後になっちゃうよ?』
『……我の場合、武器が爪と牙なのだが』
『うん。知ってるよ?』
『ベ、ベタベタになるのが、必至なのだが……』
『後で洗ってあげるね?』
『……』
にっこりと笑みを浮かべながら返したら、決心が固まったのか、素直に特攻していった。
今思い返すと、何か涙目だった様な気がしたけど、多分見間違い。
或いは欠伸でもしていたのかも。
戦闘前に余裕だね!流石はシロ!
「――という訳だから、さっさと川に行っくよー!」
今が冬じゃなくて良かったねぇ。
片腕を上げて、元気よく出発の合図を送っていると、私の嗅覚センサーがピクリと反応する。
うーん、この匂いは人間だなぁ。しかも結構な速さだ。
真っ直ぐこちらに向かってくる様子から、何かの感知系スキルを使ってるな。
……まぁ、この辺り一帯、樹液の甘い匂いが半端ないから、嗅覚の良い者なら感知するのも容易いだろうけど。
「レオ……?」
「ちょっと、待っててね」
……よし、蝙蝠さんを偵察に向かわせてみよう。
いそいそと、お手々を捏ねて蝙蝠を一匹創り出すと、影に潜らせて来訪者のもとへと転移させる。
それから、蝙蝠の視界越しに彼らの正体を確認。
「――おや。会いに行く手間が省けたね」
「え……?」
エルは首を傾げながら、私が見つめる方角を、瞳を細めて注視した。
「……ああ、そういうことね」
「うん」
流石はエル。視力が素晴らしい。
因みにシロも嗅覚は優れているのだが、今は蜜塗れで使い物になっていない。
「――来た」
それから直ぐの後、遠くの方から足音が聞こえてきたかと思えば、近くの茂みを飛び越えて5人の人物――リヒト達が姿を現した。
「やあ。奇遇だね?」
「へ?……レオ君?」
私達の姿を視界に捉えると、リヒト達は瞬時に足を止め、驚いたように瞳を瞬かせる。
「リヒト達も、ハニートレントの樹液採取?」
「……いや、討伐依頼で森の傍を通りかかったら、ビビが大量のトレントが騒いでるのを感知してね。知識のない新米冒険者がトレント討伐に挑んで、仲間を呼ばれて殺される……なんてこと珍しくないから、少し心配になって様子を見に来たんだ――けど、これは……、レオ君達が?」
リヒトは、周囲に転がる大量のハニートレントの死骸を見回しながら、緊張した面持ちで瞳を細めた。
リヒトの問いに、私はベタベタの二人を目差しすると、「クロとシロを見れば、一目瞭然じゃない?」とだけ答える。
「ん、な……っ」
私の視線を追ってクロ達を見遣り、何故か頬を紅潮させて絶句するリヒト。
ガルドに至っては、先程からずっと鼻血を垂れ流したまま固まっている。熱中症だろうか。
「コホン。……とりあえず、泉にでも行きましょうか」
咳ばらいを一つした後、リヒトと同じく頬を赤らめたニックが、場を取り仕切った。
泉があったの?
小川だと水位が無いから洗い難いだろうと、リヒト達に泉の場所へと案内される。
それ程大きな泉でも無かったが、木々の影が届かない中央にだけ日光が降り注ぎ、それが水面で反射して、神秘的な景色を生み出していた。
「……綺麗な泉だね」
「でしょ?広さはあまりないけど、深い所とかあるから気を付けてね。……それで、えーっと、……野郎組は、向こうの方で待ってるから」
微笑むローニャと、屑を見る様な目をしたビビに見つめられ、リヒトは苦笑しながら森の奥を指差した。
そこで私は不思議そうに首を傾げてクエスチョン。
「……ん?何故?」
泉に入るのはクロとシロの男組な訳でして。
どちらかというと、ローニャ達が離れていた方が良いと思うんだけど……。
クロ、多分すっぽんぽんになるよ?
「何故って……。クロードさん、泉に入るんでしょ?」
「うん。あとシロも。シロを洗ってやる為に私も入るけど、別に幼児の裸なんかで興奮する変態さんじゃないでしょ?もしそうなら出ていってはもらうけど。というか、縁自体を切らせてもらうけど」
「レオ。シロを洗うぐらい私がやるわよ?深い所もあるっていうし、……危ないわ」
「いやいやいや。こんな場所でエルを脱がす方が駄目でしょ。若……くはないけど、若い見た目の女の子が、外ですっぽんぽんになるなんて断固許しません」
「レオ……。何か色々複雑だわ」
言葉通りの、色々複雑そうな表情を浮かべるエル。
何か余計な事言っただろうか。
「ちょ、ちょっと待って?言ってる事がよく分からないんだけど。何でエルさんは駄目でクロードさんはいいの?その、……ぺ、ぺったんこ、とは言え、クロードさんも女の子な訳だし……」
「……ああ、そういう事か」
なるほどなるほど。合点がいった。
そういえばまだ言ってなかったなぁ。すっかり忘れていた。
ガルドが時折、クロの後ろをこそこそ付いて来てたのは、まだクロが女の子って勘違いしてたからだったのかー。知らなかったなー。
本人はストーカーされてる事に気付いてない様子だったし、暫くは面白……じゃなくて、様子見しとこうかなって放置していたんだけど、これ以上エスカレートしてきても困るし、丁度いい機会かな。
ちょっと詰まんな……じゃなくて、ここらで暴露しときましょうか。
「クロー?どうやらリヒト達、君が女の子だと思ってるみたいだよー?」
「はぁ!?」
「「「「……ん?」」」」
自分の容姿の事をよく理解していないのか、信じられない……と驚愕に目を見開かせるクロ。
クロを見つめて固まったままのガルドを除き、リヒト達は皆それぞれ首を傾げた。
「ま、待って。ということは、その、……お、男?」
「……その、顔で?そんな、まさか。……し、信じませんよ私は!今まで男にときめいていたなどと!数年後が楽しみだなーとか思っていたなどと!!男相手にあれこれ妄想した挙句、夢の中で、……あああぁぁぁあああああああ!!!私は!!断じて!!認めませんっっ!!!」
……どんな夢だったのだろう。
木に頭を打ち付けるニックに、私は哀れみの視線を向けた。
「まぁ、信じようが信じまいが、私としてはどっちでもいいんだけど……」
別に私に不利益が及ぶ訳でもないし。
寧ろ女だと勘違いしてくれていた方が面白……いや、何でもない。
「ふ、ふざけんな!!俺は!男だぁぁぁあああ!!」
突如叫び出し、マントを留めていた首元のボタンを取ったかと思えば、勢いよく上半身の服を脱ぎ捨てるクロ。
マントと共に、服がベチャリと地面に落ちる。
それから腰に手を当てて、どうだとばかりに胸を張った。
お、男らしい……。
「ク、ク、クロードしゃん……!!」
クロの行動に、わなわなと声を震わせるガルド。
ショックが大きすぎたかな?
「お、女の子が、そんな……!!服を、服を早く……!」
「……ん?」
「まだ、俺、そ、そんなに見てないんで!だから、その、……すいませんでしたぁぁああああ!!!」
ガルドは顔を真っ赤にしながら目を両手で覆い隠し、森の奥へと消えていった。
恋は盲目?
というか、結構紳士なんだね。
「どうだ!男だろ、俺!!何だったら下も脱いでやろうか!?」
「こらこら。女性もいるんだからね?」
見た目女の子とはいえ、完全にアウトです。
美少女の股間に金玉とか、特殊な思考の方々しか喜びませんよ?
「り、理解した。理解したけど、混乱してる。だから、……頼むから、下は脱がないでくれ。今はまだ、これ以上の現実を、受け止められそうにない……」
「ぐふ……っ」
「男に、負けた、だと……。私と同じ乳無しなだけでなく、股間に汚物までぶら下げた人種に……?汚物というハンデを背負った奴にまで、私は……。はは、ははは……。女に負け、子供に負け、挙句は男にまで。……はは、はははははは」
「あら~。男の子だったのねぇ。可愛いわ~」
歯切れ悪く言葉を紡ぎながら、木に手を付いて項垂れるリヒト。
地面に勢いよくうつ伏せで倒れ、そのまま動かなくなるニック。
両手両膝を地に付けながら、瞳孔を開いてぶつぶつと呟きを漏らすビビ。
朗らかに笑うローニャを除き、みんな情緒不安定になっている御様子。
「そんじゃ、クロ。脱いだ服と一緒にさっさと入っておいで。ズボンを脱ぐときは、ちゃんと深い所に行ってから脱ぐんだよ?」
「おう」
男だと認めさせた事に満足したのか、クロは「ふふん」と笑みを零しながら泉へと入っていった。
「エルは、火を熾しといてくれるかな?」
「分かったわ」
「……さて、待たせたね、シロ。私達も行こうか」
「ガウ」
頷いて、焚火の枝を拾いに森へと入って行くエルを見届けた後、シロへと向き直る。
それから服を脱いでパンツ一枚になると、シロを連れて水の中へ。
「う~……。やっぱりまだ、ちょっと冷たいねぇ」
水位が胸元の高さになったところで立ち止まり、水の冷たさに身を震わせた。
冬ではないとはいえ、スファニドって今はまだ春なんだよなぁ。
春先じゃないだけまだマシだけど。
「ほら、さっさと洗うよ。しゃがんでくれるかな?これ以上の深さは私が溺れてしまう」
「グル……」
握りしめた手の中から、影でブラシを造形。
本当、便利な能力よねー。
よいしょよいしょと、毛の奥にまで染み込んだベッタベタの樹液を洗い流しながら、ふとクロの事が気になった。
そういえばさっきから音がしないなーとか、そういえばクロって泳げるのかなーとか、深い所に行って溺れ死んでないといいけどなーとか。
……チラリ。
「ぷは……っ!」
「……」
泳いでいたのだろう、丁度息継ぎで顔を出すクロを目撃。
クロは「ふー……」と立ち上がって腹より上を水面から出すと、勢いよく髪を掻き上げた。
偶然にもその場所は、日光降り注ぐ泉の真ん中。
日の光は、クロの濡れた体までもを美しく照らし、その様は正に――、
「――女神、様」
「……」
そーっと、後ろを振り返る。
木の影から恋する乙女の様に……いや、ストーカーの如く顔を覗かせ、目を見開かせたガルドを発見。
……いつ戻って来た。
そして何気にちゃっかり覗き見てんじゃねぇよ。紳士どこいった。
ガルドとニックを弄るのが楽し過ぎた件。




