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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第二章 旅立ち編
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やっちまったなぁ。

レオさん発狂注意報。

 ……これ、は。

 何だ。何が、起こって……?

 私は目を見開かせて視線を泳がせた後、その不快感に顔を顰めた。

 

「何を、した?」


 目が回る。

 耳鳴りがする。

 変な浮遊感に、脚がぐらつく。

 気持ち悪い空気が肌に纏わりついて、私の中へと入ってくるような、そんな感覚。

 そしてそれは、私の深層へと辿り着き、意識に纏わりついてきた。

 不快だ。……何かに、誰かに、心の中を覗かれている様な。

 ――ああ、そういう事か。


「く、くく、ふふふふふ?なるほど、ね?」


 こちらへと手を向けたまま目を瞑るシーファを見遣り、納得する。

 何かと思えば、こいつ、私の精神とリンクしてきやがった。

 今頃、私の記憶やらなんやらを覗きまくってる事だろう。このド変態が。


「ふ、ふふふふふ!!あははははははははは!!いやはや、流石は大賢者サマだね!?これ程高度な精神魔法が扱える者など、恐らくは君達ぐらいなものだろう!!」


 普通なら精々、相手の考えてる事を少し読む程度が限界だろう。

 次の攻撃は右から来る!……とかね?

 なのにこいつ、私の思考どころか、精神面全てにリンクして、自分を繋げやがった。

 本当にさー、まじこいつ、どういう神経してる訳?

 人の心に土足で踏み込むとかぁ、マジ超考えられないんですけどー。

 聞こえてますかー、ド変態さーん。聞こえてるんでしょー?

 ……って、あ、ヤバいかも。

 精神が不安定な私に精神魔法使うとか、一番やっちゃあかんって。

 あー、無理無理無理。

 これはもう、私の所為じゃないからねー?


「……くく、く、くふふふふふふふふふ!!きゃはははははははははははははははっ!!!ああ!!見られてる見られてる見られてる!!いいよいいよ!?勝手に見たいだけ見ればいいさ!!寧ろ協力してやるともさ!!私を知りたいんだろう?ああ、思う存分知ってくれ!!理解してくれ!!感じてくれっ!!この感情も全てっ!!これが私だ!!これが全てだ!!あははー?どうもありがとぉ!理解者が増える事に、私は、とっっっっても!嬉しいよぉぉ??ふふ、あはははは!?な訳ねーだろうがよぉぉ!!??テメー如きに!この感情が!!絶望がっ!!狂気がっ!!!耐えられる訳ねーだろうがよぉぉおお!!??きゃはははははははははははははっ!!!」


 もー、久しぶりに超楽しいじゃーん☆

 昨日の殺戮も楽しかったけどぉ☆

 私は狂気的な笑い声を館内に響かせながら、親指の付け根の肉を喰い千切った。

 

「っ!!?……あ、ああ、……ああ!!」

「シーファ!?おい!!」


 おやおやおや。

 リンクが切れたか。

 軽く錯乱状態になりかかってるよ。可哀想に。


「きゃははははははははははははは!!!!もー終わりかよぉ!!?ダッセェェェエエエ!!!私の全てを受け止めろよなぁ!!?なぁなぁなぁ!!??……って、あははははは!!違う違う!!そうじゃなくてー……。御来場、ありがとうございましたー♪またのお越しを、お待ちしてる訳ねぇからぁぁああ!!あっははははははははは!!!」


 ああーーー、ヤバイヤバイヤバイ。

 エルもいないこの場で、誰が私を止めるんじゃボケェェェ!!

 狂気の解放は、計画的にね♪あはっ!

 ……じゃなくてー、はわわわわ。

 そろそろ私の理性も持たへーん!!だーれーかー。


「きゃははははははははははははは――っぷ!!?」


 可笑しくて可笑しくて楽しくて、我を忘れて狂気に狂喜していると。

 突然顔面に、何かがへばり付く。

 何も見えないけれど、この感触、この匂い……。

 こ、これは――!!


「っぷはっ!!……ス、スーちゃぁぁぁぁあああああはははははははははは!!!スーちゃんスーちゃん!!きゃはははははは!!」


 力一杯スーちゃんを抱きしめ、スーハースーハー。

 もー、本当この子ってば有能だわぁ。


「ふふ、くくく、くふふふふふふふふふ」


 ああ、うん。いいよいいよ?凄くいいよ?

 もうちょい。あともうちょいで……。


「く、くくく、……おや?」


 スーちゃんに顔を埋めていると、何とか精神を持ち直したのだろう、シーファが私の傍へと寄って来た。


「く、あはははは?何かな?まだ、まだまだまだ、私には近付かない方が、くくっ、いいよ?」


 ふと、殺しちゃいそうになるでしょ?

 まだ狂気が冷め止まない笑みを浮かべたまま、シーファを流し見る。

 けれどシーファは、そんな忠告に耳を貸す様子もなく、膝を折って私と視線を合わせ始めた。


「何を、する気かな?まさかの再チャレンジ?あはは!!」

「……」


 シーファは口を閉ざしたまま、ゆっくり私へと手を伸ばすと、……額に触れた。

 その手はひんやりとしていて、不思議と心地よく感じた。


「……我は彼。彼は我。内に満ちる気のマナよ、我の声に聞け。我から彼へ。彼から我へ。廻れ。廻れ。巡れ。巡れ。脳から腕へ。腕から腹へ。腹から脚へ。脚から腹へ。腹から腕へ。腕から脳へ。彼から我へ。我から彼へ。廻れ。廻れ。巡れ。巡れ――」

「……」

「……落ち着きましたかね」


 額から手を離し、顔を覗き込んでくるシーファ。

 流石は精神魔法第一人者。

 今ので狂気がすっかり鳴りを潜めてしまった。


「ふふ、ありがとう。……まぁ、君が元凶なんだけどね?」

「……」


 口を噤み、シーファは気不味そうに眼を逸らした。

 それから一つ、咳払い。


「……誤解のない様に言っておきますが、人の記憶やらなんやらを無差別に覗きまくる程、私の性根は腐っていません。今回の場合は『種族』をキーワードに、あなたがヒト族か否かを検索したのみ。これでも、プライバシーは極力守る様に心がけています。なので――」

「なので?」

「――私はド変態ではありません」


 ……やっぱり、聞こえてたんだね。

 というか、結構気にしとったんかい!


「ふふ、そうだね。“ド”は言い過ぎだったかな?でも、一部とはいえ無断で覗いていた事には変わらない訳だし、変態さんぐらいは妥当だよね」

「……あなたが答えない事を、自力で調べたまでですが」

「いやいやいや。直球にも程があるでしょ?君の場合は球投げるどころか、球掴んだまま自分ごと突っ込んできたからね?普通本人の中に潜って記憶を覗く?馬鹿なの?大賢者の癖に馬鹿なの?勉強だけじゃなくてさぁ、常識も身につけた方がいいよ?勉強だけ出来ても、世の中渡っていけないよ?」

「……」


 口を噤んで怪訝そうに眉を顰めるシーファを見上げ、私は力説した。

 全く、君の社会性が私は心配ですよ。……え、お前にだけは言われたくないって?


「はぁ……。それで、何か私の事は分かったのかな?」

「……まだ何も。検索をかけた情報を見る前に、リンクを解いてしまったもので」

「そう。……ふふ、残念だったね?」


 あとちょっとだったのにねー。

 でも、もうしちゃ駄目だぞ?


「――傷、お見せなさいな」

「ん?」


 いつの間にか傍に来ていたバルーナが、床に膝を付いて私の手を取る。

 ああ、そういえば、手の肉を喰い千切ったんだっけか。

 とっくに完治してるけど。


「大丈夫だよ?」

「そんな筈ないでしょう?あれだけの血を流して、……は?」

「でしょ?」

「あ、有り得ませんわ。自己治癒力でも強化していましたの?」

「ふふ。生まれつき治癒力が高くてね。……そんな事より、血で床が汚れてしまったね。申し訳ない。まぁ、元凶は私ではないけれど」


 ――チラリ。

 あ、目を逸らされた。


「はぁ……。今日はもう疲れてしまったし、掃除を終えたら帰るとするよ」

「ん、な……!?」


 私は溜息と共に床に零れた血を宙へ浮かせると、そのまま闇の中へと消滅させた。

 ロイの驚愕に満ちた声が聞こえたけれど、……無視。

 明日は気分転換に、エル達の冒険者ごっこにでも付き合ってみようか。

 本ばっか読んでるのも体に悪いしね。これも良い機会かな。

 

「それじゃ、私はこれで失礼するね」

「あ、ちょっとだけぇ、待ってくれるかなぁ?」

「ん?」


 何だよもう。あとちょっとだけだぞ?


「勇者君にぃ、会ってあげてもいいよって、伝えといてくれるぅ?」

「おや。急にどうしたのかな?」

「キシシ!君にすごーく興味が湧いてしまってねぇ?連鎖的にぃ、そんな君の知り合いである勇者君にもぉ、ちょぴっと興味がねー」

「ふふ、分かったよ。伝えておくね?」

「あ、でもでもぉ」

「……?」

「君も一緒にぃ、来て欲しいなぁ」


 何故だ。


「お、それなら俺も一緒に会ってやるよ」

「あら、面白そうですわね。私も御一緒しようかしら」

「勇者が会いたがっていたのは私ですからね。私が会わなければ意味が無いでしょう。……仕方ない。そろそろ会ってあげますよ」


 だから何故だ。


「私は関係ないだろう?別に君達に聞きたい事なんて……」


 ……ん?

 いや待てよ。

 大賢者程知識のある者はそういない訳で。

 ……あれ、大賢者から色々情報貰えば早くね?

 私の中で、(リヒト<大賢者)という図式が思い浮かぶ。

 ……勇者リヒト。君はもう御役御免ですわ。今までありがとう。


「いやー。そこまで言われちゃ仕方ないかな?面倒臭いけど、リヒトの為に渋々同行してあげるとしよう。その代わり、私も色々質問させてもらうね?」

「ふぉっふぉっふぉ。勤勉じゃのぅ。良きかな良きかな。……だが、お前さんはリヒトが儂等に会いたがっておる理由を、そしてその意味を、ちゃんと分かっておるのか?」


 今まで静観を貫いていたお爺ちゃんが、漸く口を開いたかと思えば、急に瞳を細めて顔を顰めだす。

 リヒトが、大賢者に会いたがっている理由と、その意味――。

 ……へぇ?理由だけなら兎も角、意味まで聞くのかこのお爺ちゃんは。


「ふふ、もちろん。寧ろ、……大歓迎かな?」


 私はお爺ちゃんの瞳を直視して、不敵に笑った。


「……そうか。ならば良い。……ふぉっふぉっふぉ!お主のその選択、儂も見届けるとしようかのぅ」

「ってことは、ジジイも出んのかよ!?」

「ふぉっふぉっふぉ」


 おお。まさかの大賢者全員集合での勇者面会。

 よかったね、リヒト。

 こんな待遇を受ける勇者、中々いないと思うよ?

 大賢者に会って君の迷いが晴れる事、私は楽しみで仕方がない。

 ――仮面の子供を殺すか否か、その答えを。

 早く、私に聞かせてね?




*******


 レオと名乗るその子供が、闇へと消えて直ぐ。

 大賢者達はその光景に目を見開かせながらも、素早く思考を開始する。

 驚異的な治癒力に、血と闇を操るその力。

 けれど、それらは決して魔法ではなく。


「……ふぅん?なるほどねぇ?魔族か異世界人か、転生者。それからぁ、仮説がもう一つ。でもでもぉ、こっちの方は有り得なさ過ぎてぇ、仮説と呼ぶにもあまりに稚拙かなぁ」

「あら奇遇ね。私もその可能性が掠めたところよ?……本当に馬鹿げた、有り得ない現象だと思うけれど」

「ですが、書物で伝わる通りの存在であるならば、あるいは……」

「カッカッカ!!全員同じ発想かよ!捻りがねぇなぁ?」


 彼らはそれぞれ思考する。

 そして、皆が皆、同じ仮説へと辿り着いた。


「もし本当にそうだった場合、老賢者様はぁ、どうするつもりなのぉ?」

「はて、何がかのぅ?ふぉっふぉっふぉ!」

「はぁん。そのミステリアスなところも、また素敵ですわ」

「相変わらず狸ジジイだなオイ」


 ロイは怪訝そうな顔で「ケッ」とワーズマンに悪態を吐くと、一度思案顔になった後、シーファに向き直る。


「……シーファ。テメー、本当に何も見れなかったのか?」

「……」

 

 ロイの疑問に、皆が一斉にシーファへと視線を遣った。

 あのシーファが、短時間であったとはいえ、何の情報も掴まずにリンクを解いたとは考えにくい。

 少しぐらい何かを見ていてもおかしくはないだろう。

 けれどシーファは、そんな疑惑の籠った視線に晒されながらも、その表情は崩れることなく。


「……さて、どうでしょう」


 ――と、意味深にそれだけを呟いて、その場から消えていった。


1週間程、間が空きます。

すまぬ。m(_ _)m

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