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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第二章 旅立ち編
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酒宴。

 唐突に席替えを始める私達の様子に、漸く異常を察したリヒト達。

 ガルドは、ニックとビビに貶されて、ローニャからも「触らないで~?」と汚物を見る様な笑みを向けられて、クロから一番離れた席へと移動をさせられた。


「ごめんね……。ガルドはしっかり見張っておくから、安心して食べてね?」

「ち、違うんだ、クロードさん……!!俺は、俺は……!!」

「ヒィ……ッ!?」


 弁解しようと、ガルドは興奮気味に席から立ち上がり、クロへと顔を向ける。

 しかしその先の言葉は、怯えきったクロの小さな悲鳴を聞いた仲間達によって阻まれた。


「喋るな気持ち悪い。ああもう、唯々気持ち悪い。女の敵。ド変態の汚らわしい淫獣が。一欠片の細胞も残さず消滅しろ」

「う、ぐ……。ロ、ローニャ……」

「うふふ?こればかりは私も擁護の仕様がないわぁ。だって本当に気持ち悪いもの~。控え目に言っても気持ち悪いもの~」

「ニック……」

「昨日知り合ったばかりの人に、トラウマレベルの熱視線を送れる貴方をある意味尊敬しますよ。凄いですねぇ?あまりに高度なプレイ過ぎて、私の様な常人には理解が及びません。一体どこで覚えてきたんです?今度教えてくださいよ。……まぁ、教えてもらったところで、私如きにはとてもとても真似出来ませんけどね」

「……変、態。気持ち、悪い……。俺は、俺は、一体何を……」


 仲間達から浴びせられた容赦のない言葉の数々を反芻し、ガルドは力なく席へと腰を下ろすと、頭を押さえて項垂れる。

 自分の行動の気持ち悪さに漸く気付き、我に返った様だ。

 

「さぁ~。ガルドは放っておいて、食事にしましょ~?まずは乾杯ねぇ♪」


 酒が注がれたグラスを手に、ローニャが意気揚々と立ち上がった。

 リヒトは苦笑いをしながらガルドを一瞥しつつも、「そうだね」と頷く。

 それからグラスを手に持って、各々立ち上がるリヒト達。

 同時に私達も、彼らに倣って席を立つ。

 ……といっても、私だけは椅子に膝を立てるという姿勢ではあるが。

 この小さな身長が恨めしい……。


「コホン。……えっと、お互い思う処は色々あると思うけど、今は食事の席な訳でして。料理や酒に罪はない訳でして。……まぁ、何が言いたいのかと言うと、とりあえず今夜は、飲んで食べて騒ぎましょう!!――乾杯っ!!」

「「「かんぱーいっ!!!」」」


 楽し気な掛け声と共に、グラス同士が一斉にぶつかり合う音が部屋に響く。

 私達はジュースを、リヒト達は酒を。

 各々グラスに口を付け、中身を呷った。

 ……微妙にテンションが上がってしまったのは内緒である。

 実は飲み会とか、ちょっと憧れてた部分もなくはない……。


「ふふ。リヒト達は、いつもこんな感じで食事を?」

「あはは。毎日じゃないけどね。でも、ローニャとビビは毎回飲み過ぎるから、結構騒がしくはなるけど」


 リヒトは困った様に笑いながら、既に二杯目へと口を付けるローニャとビビを一瞥。

 本当に賑やかなパーティーである。


「お酒が好きなんだね。エルも飲みたかったら飲みなよ?」

「……何かあった時、対応出来ないと困るもの」


 エルは囁く様に小声で返答し、食事を小皿へと取り寄せる。

 

「大丈夫だよ?例えこの都市が一瞬で滅ぶほどの巨大魔法弾が降り注いで来ようとも、何事もなく食事を続けられるぐらいには心配御無用だよ?」

「そ、そう……」


 しかも今は夜だからね。

 闇を操る私にとっては、正に無敵時間である。


「偶には思う存分飲んで、息抜きもしないとね。記憶がぶっ飛ぶくらい飲んでもいいよ?ふふふ」

「そこまでは飲まないけど……。じゃあ、果実酒を少しだけ頂こうかしら」

「うん、どうぞどうぞ。もし酔いつぶれても介抱してあげるから、安心してね?」

「介、抱……」


 空いたグラスに果実酒を注ぎ、エルへと手渡す。

 グラスを受け取ったエルは、何故か呆けたような顔で酒の水面を見つめたまま固まっていた。

 どうかしたんだろうか?

 そう思ってエルの顔を覗き込んでいると、次の瞬間、エルは一気に酒を呷って「今日は飲むわ!」と一言。

 口元が微妙ににやけていて不気味だったが、楽しんでいる様で何よりである。


「あはは!エルさんも飲む人だったんだね!今日は俺の奢りだし、レオ君も遠慮なく食べなよ?何か食べたい物があれば、注文してもいいから。はいこれ、メニュー表」

「そうよ~?子供は遠慮しちゃ駄目なんだからぁ。一緒にリヒトの財布を空にしちゃいましょ~」

「おいおい。ローニャは遠慮してくれよー?」


 テーブル越しに私へとメニュー表を手渡しながら、苦笑いを浮かべるリヒト。

 勇者って稼いでるだろうし、ここは厚意に甘えておこうかな。

 まぁ、私の方が所持金は多いかもだけど。


「ふふ、ありがとう。じゃあ……、ここからここまでをお願いしようかな?」

「……え?」


 メニュー表を指さして、にっこりと微笑む。

 それから、何故か固まるリヒトを放って、私はテーブル上に置かれた魔道具へと手を伸ばすと、ボタンを押した。前世で言う所の、呼び鈴の様なものである。

 直ぐに駆けつけてきた店員に、「ここからここまで」の注文をし、私は漸くテーブルの食事へと手を付けた。

 どんどん料理が運ばれてくるだろうし、私もどんどん食べなくっちゃね!

 横を見れば、クロもガツガツと頬袋を膨らませながら食べていた。

 見た目美少女なのに、食べ方だけは男食いである。

 うむむ……、私も負けてはいられない。

 美少女大食いキャラの座は渡さんぞ……。


「適当に取るけど、シロも何か食べたいのがあったら言ってね?」

「グル……」


 自分のを盛り付けるついでに、直ぐ真横に寝そべるシロの分も大皿に取り分けてやる。

 もちろん、野菜もバランス良くね。

 お残しは許しませんよ?


「さて、私も頂こうか。……もっちゃもっちゃ」


 ……うん。酒に合う様に作られた、濃い目の味付け。

 一流シェフが作る様な味の繊細さも、見た目の美しさも欠如した、大衆向けの料理だ。

 でもまぁ、酒場って初めて来たけど、こういう料理も結構イケる。


「もっちゃもっちゃ。もっちゃもっちゃ」

「お嬢!これ美味いぞ!!」

「レオ~!これ美味しいわよ!!」


 ……待て待て。

 今、口に入ってるでしょうが。

 両隣から差し出される料理を交互に流し見ながら、私は無言で頬袋を揺らした。


「はは……。お、お腹空いてたんだね」


 正面に座るリヒトが、私とクロードを交互に見ながら、乾いた笑いを零す。

 そしていつの間にか復活していたガルドは、またもやクロへと熱い視線を送り続けていた。


「クロードさん。……はぅ。沢山食べるその御姿、なんと愛らしい」

「ガルド……。頼むから、視線を控えてくれ。これ以上怯えさせては、クロードさんに申し訳が立たない」

「……はっ!俺は、また……!?ち、違うんだ、リーダー!!勝手に、勝手に目が吸い寄せられてしまって……!!」


 リヒトからの注意により、我に返って慌て出すガルド。

 因みに、クロは食事に夢中で気付いていない。


「その面で変態とか、マジ救えない。ガン見しすぎ。キモイ。唯々キモイ。死ね。滅びろ」

「こらこら。言い過ぎですよ、ビビ。口の悪さを少しは改めなさい。今日は本物の子供もいるのですから」

「……おい。本物ってなんだ、本物って。……あれか?お前は私の事を子供モドキとでも言いたいのか?……よし、表に出ろ。今すぐ貴様を滅ぼしてやる。この――」


 そこまで言ったところで、ビビは「お待たせしましたー。トマトたっぷりミートパイです」と部屋へと入って来た店員から料理を素早く引っ手繰った。

 その動作、正に無音。

 店員すら取られた事に気付いていない。

 流石は勇者御一行のシーフである。


「――陰険ド変態の毒舌屑野郎がぁぁあああああ!!!!」

「へぶっ!!?……あっちゃぁぁああああ!!!」


 それからビビは、ニックの顔面を的にパイ投げ。

 見事にヒットである。

 作り立てだった為、かなり熱かったに違いない。

 ニックは叫びながら真っ赤になった顔を抑えて床をのた打ち回ると、冷水を自身の顔にぶっかけた。

 ……本当、何とも賑やかな連中である。

 というか、食べ物で遊ぶな。しかもそれは私が頼んだ料理だぞ。

 また注文のし直しではないか……。

 私は呆れた様に溜息を零すと、呆然と立ち竦む店員に、「さっきの、また追加で」と声を掛けた。


「ちょ……!!ビビやり過ぎだって!!お前、もう結構酔ってるだろ」

「ふはははは!!酔ってなどおらぬわ、この愚民共が!!……んく、んく、んく、ぷはぁ~!!!……さぁ、かかってこい屑勇者よ!!貴様を滅ぼす為に、この私自らが出張ってきてやってのだ!!表に出ろぉぉおおい!!!あひゃひゃひゃひゃ!!」

「も~。しかもビビってば、今日は面倒くさい方の酔い方~。……んぐ、んぐ、んぐ。明日はまた二日酔い決定ね~。……んぐ、んぐ、んぐ、……ん?オラァアアアア!!酒は切らすなっつってんだろうがぁ!!ジャンジャン持って来いやぁぁああ!!」


 目の前で繰り広げられる、酒宴。

 ……これが、大人か。

 そして、これが飲み会というものか……。

 ゴクリと、思わず生唾を飲み込んだ。

 これ以上場の収拾がつかなくなる前に、早いとこ話を終わらせた方がいいかもしれんな。


「えーっと、……リヒト?」

「ん?」

「教えて欲しい事があるんだけど……、いいかな?」

「もちろん。俺が分かる事なら、何でも答えるよ」


 ハラハラとした表情で仲間達に視線を送りつつ、リヒトは快く頷いてくれた。


「ありがとう。……私が知りたいのは、今冒険者達の間で噂になってる事とか、或いはリヒト自身が気になってる事とか、……そういった話を聞きたいのだけれど、何かあるかな?」

「あれ。そんな事でいいの?ダンジョンの攻略とかについて聞いて来るのかと思ってた。……そうだなぁ。レオ君も聞いたことがあるかもしれないけど、最近よく耳にするのは、仮面の子供の話と、魔王軍の侵攻が激しくなってきてる事――ぐらいかな?」

「……詳しく教えてくれる?」


 特に仮面の子供の方。

 ……え、もしかして私の事じゃないよね?

 そんな、世界レベルで噂になんてなってないよね?


「んー……。じゃあ、まずは仮面の子供の方から話そうか」

「うん、よろしく頼むよ」


 私はこくりと頷くと、水で喉を潤した。

 やれやれ。これで漸く情報を聞き出せる。


「えっと確か、仮面を付けた子供が最初に現れたのは――」


 ゆっくりと、リヒトによって語られる世界の出来事。 

 私はその言葉の全てに耳を傾けながらも、話に混じって聞こえてくる周りの賑やかな雑音に、時折口元を綻ばせる。


 ――宴は、続く。

 長い夜は、まだ訪れたばかりである。




てな訳で、すいません。

酒宴は次回も続きます。はい。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ガルドの仲間内からの評価がフルボッコでワロタwww。  酔いつぶれてからのレオの介抱を秘かに期待するエルが可愛いです。
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