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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第一章 スキル鑑定編
47/217

アルバートの決断。

すいません。

今回、長くなりました。


 カーティス公爵家の邸に常設された会議室。

 部屋の中央には大きな長机が設置され、椅子は上座とする議長席に1脚と、各長辺に4脚ずつ。

 有事の際に、邸の主であるアルバートが、私兵団達を交えて話し合いを行う為に設けられた部屋である。

 といっても、私兵団のトップを全て招集して話し合う程の有事など、そうそう起こるものでもない為、普段はあまり使われることが無い。

 しかし今日、当主であるアルバート・カーティスの名の下に、突然の招集命令が下った。

 全私兵団の団長・副団長各員、ここに集結。

 会議室の扉は、久方振りに開かれた。


 部屋に在室するは、議長席に座るアルバート・カーティスと、第一私兵団であるレックスとオズワルド。

 他には、第一私兵団の席の向かい側で、マントと仮面を身に着けた第三私兵団だと丸分かりの二人組。

 そして、少し間が離れているものの、オズワルドの隣の椅子に腰かける、オールバックで眼鏡の、堅物・真面目という言葉が良く似合う男。

 カーティス家私兵団は、大きく分けて3兵団。その為、消去法的に彼は第二私兵団のトップの一人だろう。

 しかし彼の隣の席には、居るべき相方はおらず。

 他のメンバーは全員集まっており、それどころか主のアルバートまで既に着席している中でのこの空席。

 ――第二私兵団副団長、遅刻により会議は未だ始まらず。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 皆が一様に口を噤み、会議室には重苦しくも気まずい空気が漂う。

 その空気に耐えきれず、オズワルドは緊張で乾いた口内を潤そうと、紅茶を啜った。

 しかしこの静かすぎる部屋では、紅茶を飲み込む水音さえも大きく聞こえた様な気がして、オズワルドはそれ以降飲むのをやめた。


「おっ待たせーーっ♪」


 それから暫くして、長い長い静寂が漸く破られる。

 ドアが勢いよく開けられ、会議室に響き渡る軽快で可愛らしい女の子の声。

 姿を見せたのは、猫の亜人。

 そのショートボブのオレンジ色の髪は、明るく元気な彼女のイメージによく似合っていた。

 両手には一匹ずつ魚が握りしめられ、遅刻してきたにも拘わらず、その顔は笑顔である。


「にゃんにゃんにゃーん♪にゃんにゃんにゃーん♪……あ、これお土産♪」

「ぐ……っ」


 彼女は歌を口ずさみながらスキップで席まで辿り着くと、隣に腰かけている眼鏡の男の頭上に魚を一匹乗せた。

 一瞬にして魚臭くなった男は、眉を顰めながら魚を目の前の机上へと置く。


「にゃにゃ?食べにゃいのかにゃ?じゃ、リリスちゃんが貰っちゃうよ?」

「……」


 眉間の皺を更に険しくさせる自身の上司の表情など気にも留めず、彼女は魚を手元に戻すと、ナイフを片手に鱗を豪快に剝ぎ取り始めた。

 周囲に勢いよく散らばる鱗と、魚臭さ。

 その被害を主に食らうのは、もちろん彼女の隣に腰かける者である事は言うまでもない。

 眼鏡の男は、魚によって湿った顔と眼鏡をハンカチで拭きながら、隣から飛んでくる鱗攻撃に、顔をより険しくさせる。

 時折、鱗が軽く刺さって地味に痛そうである。

 それから漸く鱗を剥ぎ取り終えた彼女は、美味しそうに魚に齧り付き、頬張り始めた。


「ふんにゃー。はむはむはむ、ふんにゃー」


 幸せそうに魚を平らげる彼女の顔に、遅刻した事への罪悪感は微塵も感じられない。

 男は溜息と共に眼鏡を掛け直すと、淡々とした口調で口を開いた。

 

「……何をしていたのですか、リリス。貴方、転移石で私と一緒に来た筈ですよね?何故、数秒目を離しただけで消えるのですか?幼児ですか貴方は?この冷めきった空気、どうしてくれるんですか?その冷ややかな空気を一身に背負わされたのは誰だと思ってるんですか?ええ、そうです。私です。団長の私が、貴方という部下の所為で、とんだ居心地の悪さを味わわされました。すいませんねぇ、皆さん。ええ、もう、本当にすいませんねぇ?部下の不始末は上司の責任ですよ。ええ、ええ、そうですとも。幼児の目を離して、本当すいませんでしたねぇ?あ、土下座?土下座すればいいですか?こんな安い頭で良ければ、いくらでも下げますとも。はいはい、本当……、すいませんでしたぁっ!!」


 男は急に席を外して立ち上がり、数歩下がったかと思えばそのまま勢いよく土下座をした。

 周囲は更に静まり返る結果となった。


「にゃはははは!!ランちゃんってば、おもしろぉ♪」

「どうせこの魚も、厨房にでも忍び込んで盗って来たのでしょう?本当、すいまっせんっ!!」

「えー、違うよぉ?お庭のお池から♪」

「ドチクショウ!!」


 最後に頭を床に叩きつける様に土下座をして、男はしくしくと涙を流し始めた。


「お前、本当、……大変だな」


 呟くように労いの言葉を掛けたのは、オズワルド。

 レックスは口元を抑えて笑いを堪えていた。


「……ランドルフ、顔を上げてくれ」


 今まで沈黙し、事の様子を見守っていたアルバートが漸く口を開く。


「で、ですが……」

「元より突然の招集だったんだ。それに快く答えてくれただけで、私は満足しているし感謝もしている。……皆、よく集まってくれたね。ありがとう」


 真剣な表情で、静かに頭を下げるアルバート。

 

「だ、旦那様……!」


 その様子に感極まった様に涙を滲ませるは、土下座をしていたランドルフ。

 ランドルフは涙を拭いながら立ち上がり、咳払いと共に席に着いた。


「……さて。では、会議を始めようか」


 ランドルフが席に着いたのを皆が見届けた後、会議の始まりをアルバートが告げる。

 カーティス家私兵団会議、ここに開幕。

 出席者は、主であるアルバートの他に以下6名。


【第一私兵団】

 団長レックス――元S級冒険者。

 副団長オズワルド・ダウティ――元王国騎士。

【第二私兵団】

 団長ランドルフ・バーグマン――元王国騎士。

 副団長リリス――元S級冒険者。

【第三私兵団】

 団長アリエル。

 副団長リューク。


 何故か第三私兵団の横の二席が空いたままであるものの、アルバートが招集した者は皆揃った。

 

「……それで?さっさと用件を聞こうか、アルバート殿。ああ、でも、出来るだけ手短に頼む。我が第三私兵団は、邸で安穏と過ごす平和ボケで無能な第一や、そこの馬鹿猫の様に阿呆な戦闘狂ばかりが集う第二と違い、忙しい。とても。にも拘らず、どこぞの馬鹿猫のお陰で無駄な時間を食ってしまった」

 

 高圧的な口調で言うは、第三私兵団団長アリエル。

 仮面越しからでも、リリスに向けられたその眼光は鋭いものであろう事が分かる。


「おい。平和ボケで無能ってのはどういう意味だ?」


 それに対して、オズワルドは低い声色でアリエルに突っ掛かった。


「そのままの意味だが?邸に駐在しておいて、しかも私の兵団まで借りておいて、何だこの有り様は?これを無能と言わず、何とすればいい?すまないが、……くくっ、他の言葉が見つからん」

「テメェ……」


 額に青筋を浮かべながら、瞳を細めてオズワルドは席を立つ。

 しかし次の瞬間、オズワルドは背中に激痛が走ったかと思うと、上半身が机上へと倒れた。

 何事かと起き上がろうとはするものの、直ぐさま鈍い衝撃が首へと走り、そのまま押さえ付けられてしまって顔すら起こせない。


「う、ぐ……っ!?」

「落ち着け、オズワルド」


 声の主は、レックスだった。

 レックスは座ったままでありながら、激高するオズワルドの背中を剣の鞘で殴り飛ばし、そのまま彼の首に勢いよく鞘を当てて押さえつけたのだ。


「くくっ、無様。そもそも、副団長如きが何だその態度は?身の程を知れ。……レックスよ。ちと、部下の躾がなっていないのではないか?」

「あ゛あん?テメ……、ぐっ」

「すまないな、アリエル。これは少々感情的になり過ぎる。……ので、あまりからかってくれるな。お前もだ、オズワルド。その真っ直ぐな性格はお前の長所でもあるが、時と場合と、己の立場をよく考えろ。副団長ともあろう者が、あんな見え見えの挑発に引っかかってどうする。少しは冷静になって、周囲を見回せるだけの器量を身に付けろ」

「……失礼しました。アリエル団長、レックス団長」

「何だ。吠えるのは終いか?詰まらん」


 鞘による拘束を解かれ、静々と席に座り直すオズワルドと、それを詰まらなそうに見つめるアリエル。

 レックスはそんな彼らの様子に、苦情気味に溜息を吐いた。


「にゃはは!相変わらず賑やか♪」

「はぁ……。お前は相変わらず呑気だな。自業自得とはいえ、お前が一番馬鹿にされたんだぞ?何も思わないのか?」


 手を舐めながら笑うリリスに、オズワルドは呆れ気味に問うた。

 リリスはその問いを聞くと、何故か爆笑し出してランドルフをバシバシと叩く始末。


「にゃはははははははは!!オズ君ってば、おもしろぉ♪」

「んな!?」

「だってぇ、アリちゃんは本当の事しか言ってないじゃない♪リリスが遅刻したのは本当でしょ?それに、馬鹿で阿呆な戦闘狂?にゃははっ!当たってるぅ♪第二私兵団は、領内のお掃除がお仕事。侵入者に魔物に魔族。斬って斬って斬って、殺す殺す殺す♪楽しいにゃあ♪にゃはははは!!」

「リリス。誤解を受ける様な発言は慎みなさい。私たちの任務は、侵入者の捕縛と和を乱す魔物の駆除。それから、時折やって来る魔族の進行を食い止める事です」

「でも、殺しちゃうでしょ?」

「……言葉が通じなかった場合です」

「じゃあ、合ってるじゃん♪にゃはは!」

「……」


 途中から混ざって来たランドルフとリリスの会話を聞きながら、オズワルドは半目となった。

 ……そっか。平和ボケか。

 言い方はキツイが、うん。確かにアリエルの言っている事は間違ってはいない。

 俺も少しは大人にならなきゃな……。

 子供の様に笑うリリスを見つめながら、オズワルドは一人黄昏た。


「……さて。盛り上がってるところ申し訳ないが、そろそろ本題に移らせてもらうよ?」


 紅茶を啜って一呼吸置いた後、アルバートが微笑みながら口を挟んだ。

 口元は緩められているものの、その目は笑っておらず真剣な眼差しである。


「いよっ!アーちゃん!待ってましたぁ♪」


 皆の表情が引き締まる中で、リリスは一人パチパチと手を叩く。


「ふふ。ありがとう、リリス。……ではまず、皆にここに集まってもらった経緯についてからだね。既に知ってる者も多いだろうが、……ノーラが、失踪した」

「……。……んにゃっ!?」

「お前、知らなかったの!?」


 アルバートの告白に皆が静かに頷く中、リリスは少しの間だけ笑顔で固まった後、驚きの声を零した。

 それに直ぐさまツッコミを入れるオズワルド。


「聞いてなかったのですか?お嬢様の失踪は、今朝方、第三私兵団を通して報告されたでしょう?」

「んにゃにゃ!?……だって、だって、ランちゃんが聞いてれば問題ないかなって、思うじゃん?」

「はぁ……。貴方という人は……」


 ランドルフは呆れた様に額を抑えると、緩く首を振った。


「にゃ~……。お魚、無駄になっちゃった……」


 机上に置かれたもう一匹の魚を流し見ながら、すっかり垂れ下がった耳と尻尾と同じく、リリスも悲しそうに項垂れた。


「……その魚は?」

「昨日ノラちゃんの誕生日だったから、後でリボン結んでプレゼントしようかと思って……。丁度いいタイミングで招集来たなって、嬉しかったのににゃあ……」

「……そう、でしたか」


 長い溜息を吐くリリスと、机上に横たわる魚を交互に見ながら、ランドルフは複雑な心境に陥っていた。

 ……リリスなりに誕生日を祝おうとする、その気概を褒めるべきか。

 いや、そもそも貴方はお嬢様の誕生日を覚えていたのか。

 というか、何故プレゼントに魚?

 それも、邸の庭の池から捕った魚を、何故贈ろうと思った?


 ――結果、ランドルフの感情の9割を占めたのは、驚愕という事で落ち着いた。

 色んな意味での、驚愕であった。


「ありがとう、リリス。ノーラに代わって、礼を言うよ。そして誓おう。次は……、必ず君も呼ぶと。……ノーラの誕生日に」

「にゃにゃ!?」


 アルバートの宣言に、垂れ下がっていた耳と尻尾をピンッと伸ばすリリス。

 その目は見開かれ、驚きと喜びに染まっていた。


「ノラ、帰って来るの?」

「ああ。その為に、君たちを呼んだ」

「……ほう。では、エレオノーラ嬢を連れ戻すと?それは何とも……、くく、貴殿らしくない。エレオノーラ嬢は自分で選び出て行ったのだぞ?貴殿なら、子の考えを尊重するかと思ったが」

「アリエル。それは違う。私は確かに子の考えは尊重するし、その為の支援も、私が出来る事なら何でもしよう。……だが、今回ばかりは別だ。私は親として、子の成長を見守る義務がある。どれだけ聡い子だといっても、ノーラはまだ6才。当たり前だが、親元を離れるにはまだ幼すぎる。どれだけノーラが拒絶しようとも、こればかりは許容出来ないよ。……もし、この邸がノーラにとっては危険な場所で、苦痛しかない場所で、身を守るために出て行ったというのなら私も理解したかもしれない。だが、そんな場所にした覚えは一切ない。それでもノーラにとっては苦痛でしかなかったというのなら、まずは、まずは……、話を聞きたい。その話を聞いた上で、もし、それが私じゃどうしようもない事で、改善の余地がなくて、ノーラが幸せになる為にはこの場を去るしか方法がなかった時、その時は、……ノーラを邸から出そう。だが、子を家から追い出すしか幸せに出来ない親など、それは果たして親だろうか?子が幸せを感じられない家庭など、それは果たして家族だろうか?だから私は、死に物狂いで抵抗するよ。ノーラの親で在り続ける為に、家族で在り続ける為に、私はノーラを連れ戻す。話を聞いた結果、どんな選択をする事になろうとも、まずは、全ては、……そこからだろう?」

 

 最後の言葉は、声が震えて。

 アルバートは真剣な表情ながらも、その瞳は湿り気を帯びていた。


「……理解した。では、アルバート様。我々に御命令を」


 今まで一言も言葉を発さず、存在感がほぼ無くなっていたリュークが、突如として声を発した。

 顔は仮面とフードとで完全に見えないが、その重低音な声色から、ここにいる者の中で、恐らく最年長であろう事が窺える。


「おい。行き成り喋ったかと思えば、何だ?貴様如きが締め括るな、この駄犬が」

「……失礼致した。アリエル様」

「ふんっ。そんなだから貴様はいつまで経っても副団長止まりなのだ。身の程を弁えろ」


 渋声で、自分よりも若かろうアリエルへと頭を垂れるリューク。

 その様は何とも珍妙。

 アルバートは苦笑しつつも、リュークの言葉に頷いて返すと、私兵団達を見回して命令を口にした。


「ふふ。……では、言おう。第一私兵団は、第三私兵団の第一部隊と引き続き連携を取りながら、各地に散れ。邸に残すのは極少数で構わない。特に主戦力は邸に残すな。レックスとオズワルドも邸に残ってはいけない。侍女も執事も、邸には戦えない者など居ないのだから、こちらの心配は不要だ。そもそも、私とクレアだけで既に過剰戦力なのだから」

「「はっ!」」

「第二私兵団は、第三私兵団の第二部隊と引き続き連携を取ったまま、領内の警備。だが、交代制で一部の部隊をノーラの捜索に割け。部隊の編制、割り振りは任せる」

「はっ!」

「にゃっ!」

「第三私兵団は、全私兵団と引き続き連携を取りながら広く世界に散れ。ノーラに転移の術があるといっても、町なんかには寄らざるを得ないのだから、どこかで必ず引っかかる。だが、そのどこかを探るために、かなりの少人数編成になるだろうから、極力危険には首を突っ込むな。情報収集とその情報を我々に共有する事にのみ務めよ」

「分かった」

「仰せのままに」


 彼らのまとまらない返事の仕方に、アルバートは小さく笑みを零す。

 そして、「よろしく頼んだよ、みんな」と頭を下げた。




*******


 私兵団が会議室を後にする中、部屋に残るのはアルバートと、第三私兵団の二名。

 彼らは各々席に座ったまま、アルバートとリュークは紅茶を啜る。

 アリエルは俯いたまま、無言である。


「……」

「……」

「……」


 そして暫くの沈黙の後、アリエルは急に椅子から立ち上がると、床に膝を着いて――土下座をした。


「もも、もももももも申し訳ありませんんんんっっ!!」

「……気にするな」

「ですが、ですが、リューク様に、だ、駄犬などと……!!」

「ふふ、いい演技だったじゃないか。そっくりだったよ?ねぇ、リューク?」

「ああ……。その程度、別に何とも思わない」

「はうわぁ!!その寛大な御心遣い、このアリエル、感謝感激雨霰で御座いますぅぅ!!……はぁ、はぁ。……就きましては、リューク様のそのおみ足、是非とも舐めさせて頂きたく……。げへ、げへへへへ。はぁはぁ」

「「……」」


 息を乱すアリエルに、男性陣二名は固まった。


「……アルバート様。アリエルがこれ以上暴走する前に、お話を」

「あ、ああ。そうだね」

「げへ、げへへ、はぁはぁ。くんかくんか。はぁはぁ」


 仮面越しから気味の悪い笑い声を零しながら、アリエルは犬の様にリュークの膝に縋りつくと、その臭いを嗅いでいた。

 ……どこのとは言わないが。


「アリエル……。やめなさい」

「はぁはぁ。そうです、駄犬はこの私です。げへ、げへへ」


 その姿、正に痴女。

 人とはここまでプライドを失えるものなのかと、ある意味、感心すらしてしまう……訳もない。

 人間、こうはなりたくないものである。

 リュークは溜息と同時にアリエルの頭を掴んで持ち上げると、そのまま椅子へと座らせた。


「座っていろ」

「おすわりですね?分かりました。はぁはぁ」

「……」


 リュークは頭を抑えながら席に座り直すと、改めてアルバートに向き直る。

 アルバートは苦笑を零した後、一度咳払い。


「では、話を続けさせてもらう。分かってはいると思うが、……シャロンの力も最大限に仰ぎたい。これまで通りといえばそうなのだが、彼女と私の橋渡しも、引き続き頼んだよ」

「仰せのままに」


 リュークは横目で、空席のままだった隣の二席を一瞥。

 カーティス家私兵団は第三私兵団まで。

 しかし巷では、汚れ仕事専門の第四私兵団の存在が、実しやかに囁かれている。

 カーティス家の『ネズミ』の部分を担う兵団で、その存在は全てが謎。

 いるのかいないのか、その正否は不明である。

 とはいえ、所詮は噂。


「シャロンには、毎回頼り過ぎてしまって申し訳ないと伝えておいてくれ。……ふふ」


 アルバートは意味深に微笑んで、第三私兵団横の空席を見つめる。

 ……果たして、本当に唯の噂か否か。

 その真相を知る者は、今はまだ、この部屋に残る三名のみ。



「……ノーラ。私は絶対に、君を連れ戻すから」


 アルバートは小さく呟くと、碧の瞳を細めて窓越しに空を見る。

 この広い空の下、君はどこにいるのだろうか。

 今この時、ノーラも空を見つめていたりするのだろうか。

 もしそうなら、今、同じものを見ていたのなら……。

 そう思うだけで、私は酷く、心が弾んでしまうよ。

 でも、それと同時に、私はとても心配だ。

 君が、心配だよ、ノーラ。


 寝床はちゃんとあるだろうか。

 ちゃんと食べているのだろうか。

 怖い思いをしていないだろうか。

 痛い思いをしていないだろうか。

 悲しい思いをしていないだろうか。

 辛い思いをしていないだろうか。

 ……ああ。どうか、どうか、元気でありますように。

 泣いていませんように。

 笑っていますように。

 幸せでありますように。


 ……いや、そんなことよりも。

 生きていてくれたなら、それでいい。

 生きて、また会えたなら、それだけでいい。


 ――ああ、どうか。

 どうか、また愛しい娘と、会えますように……。




読了、ありがとうございました。

皆様のお陰でモチベを保てたまま、第一章、何とか完結致しました。

ここまでお読み頂いて、どうでしたでしょうか?

好きなキャラや、面白かった話はありましたでしょうか?

感想なんかにチラッと書いて頂けると、嬉しいです。

小話や第二章執筆の際の参考にさせて頂きます。


とまぁ、堅苦しい話は兎も角。

ブックマーク登録、して下さい。

ポイント評価、下さい。

私のモチベ、上げて下さい。

わっしょいわっしょい、して下さい。げへ、げへへへへ。


今後とも、切らずにお付き合い頂ければ幸いです。

小話等で少し間が空きますが、第二章もよろしくお願い致します。


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