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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第一章 スキル鑑定編
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とりあえず、ビンタ。

本日二話目です。

 はぁ……。

 出来れば外れていて欲しかったが、やはり王子か。

 鬱陶しくはあるが、まだ幼いガキだ。多少は大目に見てやろう。

 私は大人だしな。中身が。


「……そうか。それは失礼致しました。私はエレオノーラ・カーティス。以後お見知りおきを、殿下」


 私は優雅に頭を下げると、隣でエルが驚きの表情を浮かべていた。

 ちょいちょい反応が失礼だよね、エルって。

 これでも礼儀作法はマスターしてるんだよ?

 横目でエルをジト目すると、慌てて顔を逸らされた。……こいつ。


「え!?エレオノーラって、あのエレオノーラ!?」


 どのエレオノーラだ。


「おっしゃる意味がよく分かりませんが、カーティス家のエレオノーラは私ですが」

「で、でも、女って……」

「?」


 女ですが何か?

 クリストフは暫く考え込む様に俯いて頭を捻らせたかと思うと、次の瞬間には何かに納得したように顔を勢いよく上げて手を叩いた。


「兄上の勘違いか!」

「……?」


 何かよく分らんが、解決したらしい。


「よし!お前、良い奴そうだし、オレの子分にしてやってもいいぞ!」

「私には勿体無いお言葉です故、お気持ちだけ頂いておきます」

「遠慮するな!」


 チッ。これだからガキは……。

 オブラートに包んで拒否ったのを察しろよ。

 

「結構です」

「オレがなれと言ってるんだぞ!」


 え、拒否権無しっすか。


「それは命令でしょうか?それで無理やり従わせて、表面上の友達ごっこがしたいのならお付き合いしますが。今日だけ」

「……?」


 意味が分かっていないのか、首を傾げるクリストフ。


「命令で作った友達を従わせるのが殿下はお好きなのでしょう?いいですよ?愛想笑いと適当な相槌ぐらい、いくらでもして差し上げましょう。今日だけ」

「……ああ、そういう事か。子分じゃなくて、と、友達になりたいってことだな?……ふふん。別に構わないぞ?」

「やべぇ。こいつの思考回路、やべぇ」

「ほら、友達ならオレについてこい!邸を探検するぞ!」

「友達と子分の違い、お分かり?」


 勝手に先頭に立ったつもりで歩き出すクリストフの背中を見つめながら、私は小さく微笑んで、踵を返す。

 悪いな。中庭はそっちじゃないんだ。

 クリストフに背を向けて、私は素知らぬ顔で歩き始めた。


「お前っ!!何でついて来ないんだよ!」


 少しして、後ろからクリストフが猛ダッシュで走って来た。

 元気一杯だね?


「私はこっちに用があったもので」

「そうか!仕方ないからオレもついて行ってやろう!それにしても、この獅子かっけーな!乗りたいぞ!」

「……はぁ」


 シロに羨望の眼差しを向けるクリストフに、私は頭を押さえた。

 シロは唸りながら、クリストフを睨み付けている。

 それでも全くお構いなしに、クリストフはシロへと手を伸ばした。


「グルル……」

「殿下、危ないので乗るのはお辞め下さい」

「大丈夫だ!」


 いや、大丈夫じゃねーよ。

 今にも噛みつかれそうじゃねーか。

 そんな私とシロの気も知らず、クリストフはシロの鬣を引っ張って、よじ登ろうとしている。


「ヴゥー……、ガウッ!!!」

「はははっ!吠えた吠えた!」


 無邪気に笑うクリストフ。

 ……こいつ、噛み殺されても文句言えねーぞ?


「はぁ……。シロ、悪いがしゃがんで乗せてやれ。ガキのやる事だ。腹立たしいだろうが、大目に見ろ。その代わり、これ以上の馬鹿な行動は私が許さないから」

「グルル……」


 シロは顔に皺を寄せながらも、クリストフが乗りやすいように背を低くした。

 どうやら了承してくれたようだ。


「わぁ!凄い凄い!揺れる!高い!もふもふだ!」


 はしゃぐクリストフを背に、シロは私の後に続いて歩き出す。

 なんかもう、疲れたわー。

 イライラしながら着いた中庭で、私は木陰に腰を下ろした。


「わわ!?……何だよ!もっと乗せろよ!」


 シロも中庭に着くなり、背にクリストフがいるにも拘わらずゴロンと仰向けに寝転がる。

 必然的に芝生の上に投げ出される形になり、クリストフは不満気に頬を膨らませた。

 臭いを消すかのように芝生に背を擦り付けてるシロの様子を見るに、相当乗せるのが嫌だったようだ。


「おいでシロ。無理言って悪かったね」


 シロは私の声掛けに傍までやってくると、足元で寝そべって目を閉じた。


「ふふ。背中が草だらけじゃないか。せっかく綺麗にしてもらってたのにね」


 苦笑交じりに、私はシロの背を撫でながら毛並みを整える。

 サングラスを装着したクロと、ドレスが汚れない様にと足元を気に掛けるエルは、私の後ろに立って事の様子を見守っていた。


「おい、ここで何して遊ぶんだ?」

「何も。寛いでいるだけですが」


 シロの背を撫でたまま、私は平然と答えた。

 クリストフは面白くなさそうに、眉を顰める。

 けれどそれは一瞬で、直ぐに何かを思いついたかのように手を叩いた。

 嫌な予感しかしない。


「そうだ!お前にいい物をやろう!友達になった記念だな!」

「要りませんが」


 というか、友達になった覚えもない。

 クリストフに顔を向ける事もせず、私はシロの背を撫でるのみ。

 そんな様子を気にも留めず、クリストフは私の傍まで近づくと、懐から取り出した何かを私に差し出した。

 どうやら箱の様だ。


「ほら!やるよ!」

「要りませんが」

「遠慮するな!」

「マジで要りませんが」

「いいから受け取って開けてみろよ!」

「要らねーって」


 むぅ、と頬を膨らませるクリストフ。

 だって変なものが入ってる気しかしないもの。


「お前、生意気!バーカ!!」


 クリストフは睨み付ける様に私を見ると、箱を開けて中身を私目掛けてぶちまけた。

 中に入っていたものは、案の定、碌なものではない。虫、虫、虫である。

 羽虫やら幼虫やら、脚がいっぱい生えたムカデの様なものまで、その種類と数は多い。

 よくもまぁ、こんなに沢山箱に押し込めれたものである。

 箱の中で殺し合ったのだろう、死んで残骸と化してるものまでいる。

 おお、リアル蟲毒だな。実に気持ち悪い。

 私は自分へと虫が降りかかる寸前で、影から生やした黒い膜によって防御。

 からの、虫キャッチ。

 そしてそのまま影で握り潰し、闇の中へと残骸もろとも消滅させた。

 ……さて。悪戯にも限度があるよ、君?

 明らか毒を持ってるっぽいのもいたよね?

 子供だからと、何でも許されると思うなよ?

 私は影から蔦を伸ばすと、クリストフを簀巻きにして宙に持ち上げた。


「え、え!?これ、何だ!?」


 驚愕するクリストフを吊るし上げ、更に影から葉の様な平たい形をイメージしたものを生やして、クリストフの頬へと優しく宛がう。

 そして、ビンタ。


「ふぐっ!?」


 ビンタ。


「はうっ!?」


 ビンタ。ビンタ。ビンタ。


「ぐっ!はっ!ぶっ!」


 葉に頬をビンタされまくるクリストフを下から見上げる。

 これでも加減してるんだよ?

 私がビンタしたら、幼児の首なんて折れちゃうかもしれないし。

 葉の様に薄くて柔らかいものなら、大してダメージもないでしょう?

 何回も食らえば流石に頬は腫れるかもだけど。


「な、な、何だよお前!!オレは偉いんだぞ!王子なんだぞ!こんなことして、死刑なんだからな!」


 ビンタ。ビンタ。ビンタ。


「ぶっ!ぐっ!はっ!」

「すいません、殿下。王族を正すのも臣下の務め故」


 本当はこんな事したくないんだよ?

 子供を甚振るなんて非道な事、ダメ絶対。

 でも、これも臣下の務めなんだ。許せ。


「い、意味が分からない!バーカバーカ!お前なんて死刑だ!父上に言いつけて……」


 ビンタ、ビンタ、ビンタ、ビンタ、ビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタ――。


「すいません、殿下。これも臣下の、務め故……ぶふふっ」

「うっ、ひっく、えっぐ、何なんだよぉ、お前ぇ……」

「く、ふふ!!……『ごめんなさい』しな?」

「何でオレが!ひっく、兄上にならともかく、うぐっ、偉くない奴になんてオレは謝らないぞ!」


 顔を赤くして泣きじゃくりながらも、抗議をするクリストフ。

 ビンタビンタビンタ、である。


「ごめんなさいは?」

「うっ、ひっく。うううぅぅぅ~~……」


 ビンタ。


「ごめんなさいは?」

「うわぁぁぁん!!バーカ!バーカ!」


 ビンタ。


「ごめんなさいは?く、ふふふ!」


 ああ、何だか楽しくなってきちゃった。


「ううぅぅ~!!ごめんなさいぃぃぃ~~!」

「よく出来ました」


 謝罪を聞いて、漸く地面に下ろしてやった。

 これ以上は興奮して、流血沙汰を起こしてしまいそうだったので、お互い助かったね!

 私だって、流石にそこまでやるつもりはないし。


「ひっく。うぐっ。うううぅ~~……」


 地面で蹲り、泣きじゃくるクリストフ。

 ちょっとやり過ぎたか。

 まぁ、スカッとはしたので良しとしよう。私が。

 ……え、虐待?

 私も幼児なので問題なし!


「ふふ。もうあんな悪戯しちゃ駄目だよ?」

「うぐっ。ううううう~!!」


 声を押し殺して泣くのは、王族としてのプライドかな?

 或いは男としてのプライドか。

 どちらにしろ下らんな。

 子供は大声を出して泣いてもいいというのに。

 君は、悪戯して怒られて、尚且つ泣いても許される環境に、せっかく生まれてきたのだ。

 だから、泣かなければ勿体無いよ?

 子供でも、泣くことが、子供らしくある事が、……許されなかった子だっているのだから。


「よしよし。泣きな泣きな?いっぱい泣いて反省すればいいよ」


 とりあえず、背中を擦って慰める。

 それにしても、さっきからこの視線は不快だなぁ。


「……それと、いい加減出てきたらどうかな?バレバレだよ」


 柱の陰からこちらを見ていた視線の主へと声を掛ける。

 聴覚は煩いので普段は人並みにまで落としているが、嗅覚は臭い所でなければ、ちょいちょいオンにしている。

 この嗅覚は人間の臭いに特に敏感なので、先程からずっと柱の場所から動かない人間臭に気を向けていたのだ。


「く、はははっ!!バレてたか!」


 柱の陰から現れたのは、赤い髪の少年。

 愉快そうに笑いながら、こちらへと近付いてくる。


「誰だい?まさか、君も王子だなんて言わないよね?」

「そのまさかだとも!俺はグレン・ルドア・バルテル!第一王子で、その愚弟の兄だ」

「はぁ……。失礼致しました。私はエレオノーラ・カーティスと申す者で御座います」


 全く、碌な王族がいないな。

 私は溜息を吐きながら、優雅に頭を垂れた。


「やはり、エレオノーラとはお前のことか!はっはっは!!いやはや、それにしても、さっきの技は何だ?影から何か出したよな?……何者だ?お前」


 豪快に笑いだしたかと思うと、次の瞬間には瞳を細め、私を見定める様な視線を向ける。

 口元は笑っていたが、僅かな殺気を感じた。

 

「ふふ、唯の5才児ですよ」


 私は愛想笑いを浮かべて小首を傾げると、事も無げに答えた。



次回、エレオノーラ VS グレン

ファイッ!

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