第一王子と第二王子。
今回はちょっと短めです。
オレの名前はクリストフ・ルドア・バルテル。
ルドア国の第二王子で6才だ。
第二王子だから、兄上の次に偉い。
あ、一番偉いのは父上だから、父上と兄上の次だ。
だから三番目に偉い。
そんなオレに、みんなは頭を下げるし、言う事は何でも聞いてくれる。
ふふん。オレは偉いのだ。凄いのだ。
でも兄上よりかは偉くないから、兄上には逆らっちゃいけない。
兄上はいつも笑顔で優しいけど、実はとっても恐いんだ。
この前イタズラでお茶に塩を入れて飲ませたら、木に吊るされた。
めっちゃ雨が降ってて、めっちゃ風も凄い日だった。
オレが泣き叫んでるのを窓から眺める兄上は、にこにこだった。
笑顔なのに恐かった。
あと、『バカ』と書かれた紙を兄上の背中にこっそり貼ったら即バレた。
流石は兄上!と尊敬してしまった。
城のてっぺんから吊るされたけど。
めっちゃ高くて、めっちゃ縄が揺れた。
ちょっと、本当にちょっとだけ漏らしてしまった。でもちょっとだけだ。
兄上は、俺を見上げながら爆笑していた。
この人には逆らっては駄目だと、子供ながら悟ったオレは賢い。
でも、剣も魔法も勉強も、何でも出来る兄上はかっこいいから好きだ。
母上は、「あの女の子供なんかと遊んじゃいけません」と言うけれど、何かよく分かんないから聞いてない。
だからオレは、今日も兄上と遊ぶのだ。
「兄上ーっ!!」
いつもの様にドアを勢いよく開けて、兄上の部屋に突撃。
そして兄上も、いつもの様に笑顔で迎え入れてくれた。
「はははっ!クリス、ノックはしようなー?」
ソファに寝転がって、クッキーを齧りながら本を読んでいた兄上は、「こいこい」と手招きをした。
満面の笑みだった。
やっぱり兄上は優しいのだ!
オレは全速力で兄上のもとへと駆け付けた。
「兄上兄上!……兄上!?いひゃい、いひゃいでふ!!」
「ははっ!!本当にお前は、馬鹿で可愛い弟だなぁ。ノックはしろって、俺、何回言った?ん?毎回毎回、馬鹿みたいに突っ込んできやがって……って、馬鹿だったな?じゃあいいや。仕方ないな、うん。お前はいつまでも馬鹿のままでいろよ?その馬鹿で面白いところだけがお前の取り柄だ」
「ふぁい!!」
兄上に褒められた!
ほっぺを抓られて痛いけど、思わずオレはにやけてしまった。
「この愚弟が!!可愛いぞ馬鹿野郎!!」
「にひひひひひ」
更に強くほっぺを引っ張られたけど、兄上が嬉しそうだからオレも嬉しい。
そして兄上から力強い抱擁を受けた。
兄上兄上!にひひひひ。
「……ところでお前、もうすぐカーティス公爵家に行くんだってな?」
オレから離れた兄上は、ソファにどっかり座り直す。
「うん。オレと同じくらいの歳の奴がいるらしいから、遊んでやってくる。良い奴なら、仕方ないから子分にしてやろうかなって」
オレは偉いから友達なんて必要ないけど、ま、まぁ、別に遊んでやらなくもない。
兄上と遊ぶのだけでも十分だけど、向こうがどうしてもっていうんなら仕方ないしな!
オレは腕を組んで「ふふん」と鼻を鳴らした。
「そうか。でもカーティス家でお前と近い歳ってなると……、確か女じゃなかったか?」
「え!?」
「しかも噂じゃ、性格最悪らしいぞ。奴隷を従わせるのが趣味だとか。はははっ!逆に下僕にされねーように気を付けろよー?くははっ!!」
そ、そんな。
女だなんて……!!
「おーい。聞いてるかー?クリスー?」
気が付けば、兄上が目の前で手をヒラヒラさせていたので、オレはその手を思わず掴む。
「うおっ!?」
「兄上!!女というのは本当ですか!?」
「……あ、何かお馬鹿なスイッチ入ってるな?」
オレは目を輝かせて兄上に詰め寄る。
「男は女をはべらせてこそ一人前なのでしょう!?えーっと、……しゅちにくりん!!」
「その言葉、どこで覚えてきた?あと、何か色々認識おかしいぞ?」
「オレも兄上の様に、女をはべらせてみたいのです!!」
「あー……、俺か。俺を見て育ったんだった、こいつは」
「あと、虫を投げつけたりすると反応が面白いので、女はそれなりに好きです」
「そうか。まぁ、うん、頑張れ?でも、奴隷を侍らせてる女だってことは覚えておこうな?……あー、駄目だ。聞いてねぇ」
女かー。
どんな奴だろうなー。
女だけど、仕方がないから子分にしてやろうかなー。
良い奴なら、オレの愛人一号にしてやってもいい。
とりあえず、虫をいっぱい持って行ってやろう。
「楽しみです、兄上!!」
「あははっ!!絶対こいつ馬鹿な事仕出かす!」
兄上は笑い声を上げながら、オレの髪をくしゃりと撫でた。
「何だか俺も行ってみたくなっちゃったなー、カーティス家。可愛い弟の馬鹿っぷりをこの目に焼き付けねーと、兄失格だよな!!」
「え、兄上も来て下さるのですか!?」
「楽しそうだしな。久しぶりにロベルトに会いたいですーって言えば、父上も賛同するだろうさ」
「え、ロベルトって、カーティス家の人だったんですか?」
「あっはっは!……え、今知ったの!?」
驚愕の表情を浮かべる兄上。
兄上はオレより物知りで凄いなぁ!
******
あ、馬鹿が来るな。
俺はソファに寝転がりながら、テーブルへと手を伸ばしクッキーを掴む。
そして、それを齧るのとほぼ同時に、ドアが勢いよく開いた。
「兄上ーっ!!」
「はははっ!クリス、ノックはしようなー?」
嬉しそうに頬を紅潮させながら、無遠慮に部屋へと突撃してくるこの馬鹿。
俺の愛すべき愚弟である。
全く、ノックをしろと何度も言っているにも拘らず、この馬鹿はすぐ忘れるのだから、本当に愛おしい。
次ノックを忘れたら吊るそう。うん。
平原をちょっと行った先にある森にでも吊るそうか。
魔物の巣窟で泣き叫ぶ可愛い弟を見てみたい。
「お前はいつまでも馬鹿のままでいろよ?その馬鹿で面白いところだけがお前の取り柄だ」
「ふぁい!!」
あー、この頬、和むわー。むにむにしてて、伸びるー。
俺の弟、可愛いわー。妹も可愛いけどー。
とりあえず熱い抱擁をして、もみくちゃにしておいた。
そして、カーティス公爵家に行く件について話を振る。
ロベルトの鑑定の儀に、社会勉強も兼ねて出席させるとの事だったが、実際はその妹であるエレオノーラとの接触が目的だろう。
可能なら婚約を、といったところか。
喰種の一件でカーティス公爵の評判も落ち、父上の権威が高まった。
今更カーティス家とそこまで懇意にする必要もないと思うが、あの公爵、何考えてるか分かったもんじゃないからな。
エレオノーラが奴隷を飼っていると言うが、当主が許可しなければ奴隷を邸に置ける筈はないのだ。
しかも喰種。
親バカ故とされてはいるが、どうだかな。
S級冒険者を何人か囲って私兵団まで作ってる奴だ。
奴隷を買って、兵力の拡大でも企んでるのか?
……まぁいい。
まだ、ガキの俺が首を突っ込むことではない。
王になるのはまだ先なのだから、それまでは父上に頑張ってもらわなければ。
今はガキとしての限られた時間を、唯々面白おかしく謳歌しようではないか。
「兄上!!女というのは本当ですか!?」
あ、お馬鹿スイッチ入った。
手を行き成り掴まれ、ちょっとビクッた。
「男は女をはべらせてこそ一人前なのでしょう!?えーっと、……しゅちにくりん!!」
「その言葉、どこで覚えてきた?あと、何か色々認識おかしいぞ?」
全く、本当こいつって……。
誰だ?そんなお馬鹿知識をこいつに与えた奴は。
「オレも兄上の様に、女をはべらせてみたいのです!!」
俺だったー。
侍らせてたの、俺だったー。
正しくは、向こうから寄ってくるのを拒んでないだけで、侍らせてるつもりはないんだけどな。
俺はムチムチボディな女が好きなのであって、ツルペタの成長途中である女児には興味がない。
え、歳は幾つかって?
10歳だが何か?
巨乳好きに歳など関係ないのだよ。ふはははは!!
「何だか俺も行ってみたくなっちゃったなー、カーティス家」
行った事なかったし。
というか、この馬鹿が何か仕出かしてくれそうで楽しそうだ。
「え、兄上も来て下さるのですか!?」
おーおー。嬉しそうにしちゃってまぁ。
個人的に、噂のエレオノーラ嬢がどんな人物なのか興味もあるしな。
以前ロベルトから話は聞いた事があったが、噂されているエレオノーラの姿とあまりに合わなさ過ぎてかなり怪しい。
シスコン全開だしな、あいつ。
まぁ、兄として愚弟が心配というのもあるが。
エレオノーラが噂通りの人物かどうか、俺が直々に見極めてやろう。
もしエレオノーラが本当に狂った性格であったなら、そいつに返り討ちに合ってる愚弟の泣き顔を眺めるのも、また一興だろう。
******
――後日、邸の書斎にいたアルバートのもとに、国王からの手紙が届いた。
『息子のグレンも連れていく事になったから、よろ』
纏めると、そんな内容である。
アルバートの額に、青筋が浮かんだ。




