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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第一章 スキル鑑定編
35/217

お昼寝しましょう。

ほのぼの回です。多分。

 ……疲れた。

 大きく溜息を吐きながら、彼らを一瞥。

 ライオンは目を見開かせ、クロードは瞳を輝かせて、それぞれ一様に周囲を見回していた。

 私の部屋で。


「い、一瞬で!!ここはどこだ!?」


 はしゃぐな、うるさい。

 私は眉を顰めながら、クロードの手を握る。

 クロードは一瞬驚いた表情を浮かべたものの、直ぐに照れたように頬を染め、私を見下ろした。


「――そいやっ!!!」

「ぐふっ!?」


 憂さ晴らしに、背負い投げをしてみた。

 綺麗に決まって、ちょっとスッキリ。

 それから私は、仮面とマントを影の中へと放ると、大きく息を吸った。

 そして、叫ぶ。


「ステラさぁぁぁぁぁん!!!」


 すると、そう間を置かずして、部屋のドアが勢いよく開いた。

 侍女長のステラである。


「――如何なさいましたか、お嬢様!!!って、何か増えてる!?」


 足音はしなかったが、その息の乱れっぷりから、猛ダッシュで駆けつけたのであろう事が分かる。

 いやはや、朝っぱらから申し訳ない。


「早朝からちょっと出かけてね?また買っちゃった、奴隷」

「ん、だ、旦那様には……」

「これから紹介しようかと。だから、この獣人と女装野郎をお風呂に入れてやってくれるかな?」

「俺だけ扱い酷い!!」


 ステラは呆気に取られたようにライオンとクロードを見て固まった。

 それでも、「畏まりました」と一礼し、深く言及することなく従うあたり、流石は侍女長様である。

 そしてステラは、後から追いついてきた侍女たちを伴って、ライオンとクロードを風呂場へと連れて行った。


「……レオ。……クロードまで連れてきて、良かったの?喰種は、その、……流石に不味いんじゃ」


 エルは不安気に私へと視線を向ける。

 まぁ、言いたいことは分かるけども、仕方ないじゃん?

 買う流れだったもの。

 ほぼ強制だったもの。


「はぁ……。もう過ぎた話は止そう。別に喰種が邸に居ようが、人間に危害を加えてこない限りは問題ない。父様も許して下さるだろう」

「懐深すぎない?」

「母様もきっと、『綺麗な赤い瞳で羨ましいわぁ』と笑って許して下さる」

「懐深すぎない?」

「問題は、……法律だよねぇ」


 はぁ、と再度溜息を吐いて、私は項垂れた。

 ヒト族と見た目が変わらない種族、あるいはヒトに化けられる種族がヒト族に紛れて生活をする場合、ルドア国では、国に自己申告し、人外登録をする様にと法律で定められている。

 まぁ、未登録がバレても罰金程度の処罰で済むから、喰種とかの迫害対象である種族は行わない者も多いけれど。

 というか、してないだろうね。殺されちゃうし。

 有って無い様なこの法律。他種族が自分たちに紛れて生活していることに、不安と恐怖を抱く人々を丸め込むために作られたのであろう事が、容易に推測出来る。

 なら、別にクロードも登録しなくていいんじゃね?とか思うじゃん?

 そうはいかない。

 だってここはカーティス家。執政する立場にある宰相様が御座す場所。

 奴隷商で“商品”として売られている奴隷は例外とされているが、飼われている奴隷の場合は、その主人が申告しに行かなければならない。

 よって、法を重んじる立場にある父様が、私の代理として国に報告しに行く事だろう。

 そうなれば、奴隷を飼っている事もバレる。

 カーティス家に喰種の奴隷がいる、と瞬く間に国中に広がる事間違いなし。

 うーむ……。

 私は腕を組みながら考え込む姿勢をとった後、――諦めた。考える事を。


「ま、いっか」

「いいの!?」


 案ずるより産むが易し。

 為せば成る。

 まぁ、なんとかなるさ!!頑張って父様!!


「お腹空いたし、ご飯行こうか」

「……」


 私は半目のエルの手を引きながら、鼻歌交じりにダイニングルームへと歩き出した。

 朝食の時間に間に合って良かったわぁ。





 いつもの如く、もっちゃもっちゃと食事をしていると、「失礼致します」とダイニングルームの扉が開いて、ライオンとクロードが侍女たちに連れられて入って来た。

 

「お連れ致しました」

「……ごくん。ありがとう」


 お風呂に入って綺麗になった二人を見遣る。

 ライオンの毛並みは白く輝き、艶々である。

 クロードも、まぁ、うん、見た目詐欺も甚だしいよね。


「……初めまして。私は、カーティス公爵家現当主、アルバート・カーティス。とりあえず、食べながら話をしようか。獣人……の君は、えっと、床で良かったかな?」


 父様はチラリと執事に視線を送ると、意図を汲んだ執事が静かに頷いた。

 そして、瞬く間に床にシートを広げると、そこに大皿に乗った食事を置いてセッティング。流石ですわ。


「それと、クロード。喰種も普通の食事は食べられるよね?君も席に着いて、一緒に食べよう」

「あ、ああ……」


 父様の態度に驚きの表情を浮かべながら、クロードは恐る恐る席に着く。


「……さて、大まかな話はノーラから聞いているよ。あまり時間がないので、最低限の話しか出来ないが、……クロード、君の事は国に報告させてもらう。そうなれば、奴隷という立場以上の悪意や侮蔑が、君に向けられる事だろう。公爵家の力を使えば、君の種族を隠蔽する事も可能であるにも拘わらず、君をそういった辛い立場に追いやる私を、どうか許して欲しい。その代わり、君の事は最大限に守護すると誓おう」

「え、あ、……はい」


 父様の宣言に、クロードは瞳を丸くして頷いた。

 この様子じゃ、従僕化も近いな。


「そして、誇り高き獅子殿。君にとっては、奴隷と言う立場は特に屈辱的なものだろう。だが、どうか私たちを恨まないで欲しい。そして、自分を恥じないで欲しい。例え奴隷に落ちようとも、君の獅子としての気高さは、決して失われるものではないのだから。確かに君は、ノーラに従属するという形で我が家にやって来たけれど、私たちは君を奴隷として扱ったりはしない。決して君の存在を蔑ろになどしないし、させない。それでも外部の者は、君を奴隷として嘲笑する者も多いだろうが、我がカーティス家の家紋に誓って、君の尊厳は傷付けさせない。だから、誇り高き獅子よ。カーティス家を、ノーラを、どうか守護してやってはくれないだろうか。力を貸してはくれないだろうか」

「……」


 ライオンは瞳を細めて、父様を値踏みするように見つめる。

 そして、「……グルッ」と喉を鳴らした後、目の前に置かれた食事を頬張り始めた。

 はい、ライオンさん陥落。

 プライドが高い相手への接し方まで熟知してやがる父様、流石ですわ。


「ふふ、それは肯定という事でいいのかな?ありがとう。君がノーラの傍に居るのなら、私も安心だ。どうか、よろしく頼んだよ」


 父様はゆっくりと立ち上がり、後ろに控えていたセバスは父様に上着を羽織らせる。


「さて、忙しなくて申し訳ないが、私はこれで失礼するよ。どうか気にせず、ゆっくりと食事を続けてくれ」


 そう言うと、父様はいつもの様に母様と兄様に行ってきますのキスをして、私に顔を掴まれる。

 それから、ダイニングルームを出ようと扉へと歩いて行った父様だったが、ドアノブに手を掛けた処で、何故か動きが停止した。

 不思議に思って、その後姿を見つめていると、父様は「……あ、そうだ」と、声を出す。

 そして、微笑みながらゆっくりと振り返り――、


「ノーラに変な気起こしやがったら、殺す」


 そう言って、漸く退場。

 クロードとライオンは、暫くの間、扉を見つめたまま固まっていた。





 朝食を終え、自室にて。

 私は、奴隷全員集合での話し合いを行った。

 自己紹介もまだだったしね。


「さて、名乗るのが遅れてしまったが、私はエレオノーラ・カーティスという。気軽にレオと呼んでくれ。邸での私の呼ばれ方や、父様の発言なんかで気付いたかもしれないが、こう見えて女だ。そして、こっちはエルフのエルと、スライムのスーちゃんだ。私共々よろしくね?クロとシロ」

「え?」(クロ)

「ガ?」(シロ)

「ん?」(私)


 何だろう。クロとシロが目を丸くしながら首を傾げている。

 何か可笑しなことでも言っただろうか。


「どうかしたのかい?」

「クロって、俺の事か?」

「うん。クロードだから、クロ。愛称だよ?何か問題でも?」

「いや、別に……」


 口籠るクロ。

 呼びやすいのが一番だよね。


「グ、ルル……」

「……?シロはどうかしたの?そんな唸ってないで、言いたいことは言わないと駄目だよ?伝わらないよ?」


 喋れるんでしょう?と小首を傾げてシロの顔を覗き込んだ。

 シロは口をモニュモニュと動かし、喋ろうか迷うような素振りを見せた後、結局は口を開く。


「何故、我が、シロなのだ……」

「おお!喋った!!」


 瞳を輝かせ、興奮する私。

 いや、中身はちゃんと人間だって分かってるんだよ?

 でもさ、見た目完全にライオンな訳だし、テンション上がらない方が可笑しいと思うんだよね。


「シロは、よせ……」

「え、気に入らなかったのかい?因みに、名前はないんだよね?」

「ああ……」


 うーむ。

 嫌なら仕方ない。別の名前を考えなければ。


「なら、タマでどう?」

「グルル……」


 苦々しい表情で拒絶の意を示すシロ(仮)。


「んー、じゃぁ……、シロとタマを掛けて、白玉」

「ヴゥー……」


 ……唸られた。

 我ながら、傑作だと思ったんだけど。


「はぁ……。なら、獅子とシロを掛けて、獅子郎は?」

「何故、そんな名前ばかりなのだ……」

「じゃあ、獅子だからシーちゃん」

「解せぬ」

「……」


 ちょっと、イラッ。


「……あのさぁ、君。名前何て唯の記号な訳だろう?呼ぶのに困らなければ何でもいいじゃないか。金玉やらチクビームなんて名前ならまだしも、シロの何が不満なのかな?これ以上は私も考えないよ。嫌なら自分で考えな?そして、変に自己主張の強いかっこいい名前を付けて、『え、君、そんな名前で呼んで欲しかったの?(笑)』って精々笑われるがいいよ」

「シロで、いい……」

「そうかい?なら良かった」


 ホッ。

 何か知らんが、考えを改めてくれたらしい。

 これで一安心である。

 何故かちょっと、シロの目が潤んでいる気がするが、きっと気のせいだろう。


「さて。名前も決まったことだし、私は寝る事にするよ。邸を探検するなり、客室で休むなり好きにしてくれていい」


 ふわぁ……。まじ疲れたわぁ。

 私は大きく欠伸をすると、ベッドから毛布を引っ張り出してきて、シロのもとへ。


「シロ、ちょっと寝そべって?」

「……?」


 言われて床に寝そべるシロ。

 うん。モフモフそうである。

 私はシロに深く凭れ掛かると、そのまま寄り添う様にして横になった。

 はぁー、石鹸の香りもして、実に心地良い。


「悪いけど、シロはお昼寝に付き合ってね?」

「う、む……」


 そして、スーちゃんを抱きしめながら、ぬくぬくと就寝。

 「旦那様が知ったら殺されそうね……」というエルの呟きが聞こえたが、まっさかー。はっはっは!そんな訳な……Zzz。

 それから私は、幼い頃の黒沼優美となって、あの子犬と一緒に寝ている夢を見た。

 シロ程ではないにせよ、きっとあの子犬も温かかったに違いない。




 暫くして。

 お昼寝から目覚めると、何故か隣にはエルとクロが、同じくシロを枕に眠っていた。

 みんな、疲れてたんだんねぇ?


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