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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第一章 スキル鑑定編
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ガドニア国。

 ――暫くして。

 漸く泣き止んだエルを引き連れ、私は街を歩いている。

 因みに、仮面は付けていない。

 ……何故って?

 ここが隣国だからに決まってるじゃないですか。

 もう一度言おう。隣国だ。

 隣町じゃなく、隣国だ。……あ、三回言っちゃった。

 影移動の移動距離、半端ねぇ。

 とまぁ、隣国でカーティス家の御息女(5才)の顔を知る者など、いないに等しい。

 よって、仮面を付ける必要もない。

 寧ろ、付けていたら目立ちまくる。昼間だし。


「さて、お腹が空いただろう?何か食べようか。邸に戻っても良かったけれど、せっかくだからここで食べていくのもいいかと思ってね?でもまさか、ガドニア国に来てしまうとは……」


 荒れ地と岩山に囲まれた小国、ガドニア国。

 鉱産資源に恵まれ、元々は採掘者たちが身を休める休息所だったらしい。

 それが時代と共に規模が拡大していき、やがては村に、町に、そしていつの間にやら国である。

 それ程に採れるのだ。

 ザクザクなのだ。

 だから、小国にも拘らず金だけは持っており、成り金も多い。

 だが、自治国な為に国王などはおらず、故に兵士なんてものは存在しない。

 治安維持部隊なんかは流石にいるだろうが、街近辺の魔物の討伐は、専ら冒険者頼み。

 ……え?国同士のいざこざではどうするかって?そんなもの、兵士がいないなら傭兵を雇えばいいじゃない。(byガドニア国)である。

 今でも、採掘で一獲千金を夢見る人々や、羽振りがいい為に討伐クエストを受けに訪れる冒険者やらで、街は賑わいを見せている。


「私も驚いたわ。王族がいる様な国なら、街への出入りって身分証がないと結構厳しい筈だけど、ガドニア国って自治国だからか緩いのね。助かっちゃった。一応門前で警備する人はいたけど、街に入り直す私をチラ見しただけで、全く引き止められなかったわ」

「笊警備だな」


 大丈夫か、この国は。

 魔物の侵入のみを見張ったものなんだろうが、あまりに笊過ぎると、怪しい浮浪者やら犯罪者やらの巣窟になるぞ。

 ……いや、冒険者も多い街だからな。

 捕縛、討伐対象となっている賞金首の犯罪者にとって、冒険者は天敵。

 しかもこの街にいる冒険者は、大抵が金目当ての奴ばかり。

 そんな奴らの溜まり場に入って行くなど、自殺行為に等しい。

 だから精々、浮浪者といっても、賞金首になっていない小物か、チンピラ程度がいいところだろう。

 まぁ、とはいえ、冒険者自体がチンピラみたいなものなのだが。

 冒険者とか、あれ、誰でもなれるからね。

 採用基準は、非犯罪者である。

 犯罪さえ犯していなければ、馬鹿でもなれる。

 世紀末のモヒカン野郎でもなれてしまう。ヒャッハーである。これで無職じゃねーぜ、である。

 そもそも命懸けな上に、魔物の血肉を日々浴び続ける仕事だ。

 まともな精神な訳がない。

 刈って刈って、数年後には大半の奴がキチガイだ。

 俺ってこんなに強いんだぜ?ヒャッハー!な感じで、魔法弾を町でぶっ放した奴もいたと聞く。

 命に無頓着になり、過ぎた力は人を慢心させ、狂った人格、思考へと導いていく。

 気付けば世紀末。モヒカンの出来上がりだ。モヒカンヘアーかは知らんが。

 あ。これは豆知識だが、就活する際に、「以前は何の仕事してたの?」「冒険者です!」と面接で答える為だけに入る人もいるとか。……うむ、なるほど。そんな使い道が。

 兎にも角にも、碌な仕事に就けないであろう、チンピラの掃き溜め。

 それか、就職に失敗した、自暴自棄になっているプチ自殺志願者のプチ自殺コミュニティ。

 それがギルドという場所で在り、冒険者という職業である。

 もちろん、単純に能力に自信があって純粋に冒険者になる奴もいるけれど、社会不適合者の方が断然多いのだ。

 まぁ、言わずもがな。そういう奴等の大半は直ぐ死ぬらしいが。

 勇者なんて存在の所為で無駄に美化されがちだが、現実とは実に惨いものである。


「あ、そういえば。……昨夜、騒がれてたわよ?」

「うん?」

「仮面を付けた子供が、魔物の血肉で戯れていたって。冒険者達が」

「……へぇ」

「貴方の事よ?」

「うん、私の事だね?」


 まさかの目撃されていたという新事実。

 夢中になってて気づかなかった。

 まぁ、別にいいけど。


「なら、仮面を付けなくて正解だったね。下手すれば取り調べを受けていた」

「でしょうね」


 きゅるるるるー。

 不意に、エルのお腹から空腹を知らせる音が鳴った。


「……ふふっ」

「うるさい」

「いや、すまない。こんなに日が高くなるまで待たせていた私が悪い。とりあえず、何か食べよう。温かい物がいいね」

「お金、持って来たの?」

「……」


 あ、また忘れた。


「……邸に戻る?」


 うーむ。母様に言ってお金を手配してもらうのも面倒臭いしなぁ。

 こういう時、手軽に使える自分のお金って便利だよねぇ。

 あー、自分専用の財布が欲しい。


「まぁ、大丈夫大丈夫」

「何が!?」


 丁度いい機会だ。

 女神の祝福とやらを試してみよう。

 そう思い、周囲を見回す。


「……見つけた」

「レオ?」


 私は数歩先で僅かに光ったそれを拾い上げた。

 銅貨である。


「それだけじゃ、足りないわよ?」

「そうだねぇ?」


 できれば手っ取り早く銀貨ぐらい落ちていてくれればと思ったけれど、そう上手くはいかないか。

 私は苦笑しつつも、再度周囲を見回した。


「……あれは」


 直ぐ近くに、一際大きく、煌びやかな建物を発見する。

 建物の前には、露出の目立つドレスに身を包んだ女性が、「ガドニア名物、ようこそカジノへ!」と訪れる客たちを笑顔で出迎えていた。


「カジノ、ね。まさか、その銅貨一枚でやるつもりじゃないわよね?」

「ふむ。……運試し、してみちゃおうか」

「そんな、銅貨一枚で運試しだなんて……。恥を掻くだけだわ」

「ふふふ。幼児のやる事だし、誰も気にしないよ。それよりエル。恐らく、カジノに幼児は入れないだろうから、私はエルの後ろに着いて行くね?何とか私も入れるように、頑張って説得してくれ」

「む、無理よ。奴隷だし、怪しまれるわ」


 エルは奴隷の首輪に触れながら、一歩後退った。

 あの首輪、無理やり取ろうとすると激痛が走る様になってるらしいし、下手に触れないんだよなぁ。


「んー、確かにその首輪、目立つよなぁ」


 まぁ、便利な事もあるから、私としてはそのままにしておきたいけれど。


「取れたらいいんだけど……」

「奴隷商に言ったら多分取れると思うよ?エルがどうしても取りたいなら、取ってもらうかい?でも、それがあるとエルの居場所が把握出来て、個人的には結構助かるんだけどねぇ……」

「……え?」

「ん?」


 エルは目を瞬かせながら、首を傾げた。

 はて。何か不味い事でも言っただろうか。


「居場所が、分かる?」

「うん」

「ど、どうして?」

「んー、これは私の仮説だが、私の魔力と血液を登録したその首輪は、私の一部とも言える。その為なのかは分からないが、自分の一部の気配?の様なものを辿っていくと、何故かエルに辿り着く。恐らく、奴隷が逃げても主人には居場所が分かる様になっているんだろう」

「そ、そそ、そんな事、聞いたこともないわよ?」

「そうなのか?まぁ、私もこの事に気付いたのは、つい最近だけどね。……トーマスの説明不足には、今度クレームを言いに行くとして。兎に角、その首輪のおかげで、エルの居る方角なんかが分かって、中々に便利なんだよ。影移動でエルの所には直ぐ行けるけれど、例えばお遣いなんかを頼んだ時、エルが無事に目的地に辿り着けているか、邸にいながら見守る事が出来る。素晴らしい。心配で後をこっそり付けて行く必要もない訳だ。だから、エルさえ良ければ、ぜひとも着けていて欲しいんだ」

「……お遣い如きで、幼児にそこまで心配される私って何なのかしら」


 エルは虚ろな目で空を見上げていた。

 あれ、例えが悪かっただろうか。

 まぁいいか。


「とりあえず今回は、マントを脱げば大丈夫だろう。金持ちに買われた身なりの良い奴隷が、その家の子供を護衛しているようにしか見えないさ。金さえ持っていそうなら、カジノ側も邪険にはしないよ」

「……わ、分かったわよ」


 そう言ってエルは渋々頷くと、私がマントを脱ぐのを横目に、唇を尖らせながら自分もマントに手を掛けた。

 うん。金持ちの子供と、その従者にしか見えない。

 はい、と自分のマントを従者のエルさんに手渡し、エルはそれを無言で受け取る。

 そして、緊張した面持ちで私の一歩前に立つと、恐々とカジノへと歩き出した。




「いらっしゃいませぇ。……あら、可愛いお客様だこと!でも、ごめんなさいね?子供はカジノに入れないの。子供を預けられるお部屋を用意しているから、ご案内しますね?」


 カジノに着いて直ぐ。客引きのお姉さんは私に視線を合わせると、にこにこと頭を撫でてきた。

 子連れに優しいカジノである。


「あ、あの。この子、人見知りで……」

「大丈夫ですわ。ちゃんと育児のプロが面倒をみますから、ご安心ください」


 スゲーな。

 それなら親も安心だろう。


「で、でも、私が離れると泣いちゃう子なので……」

「うふふ。小さい子は皆そうですわ」

「え、あの、その……」

「……?」


 頑張れ、エル。


「……そう!私が離れると、暴れて、周りを血の海に」

「血の海!?」

「――じゃなくて、周囲を破壊します。破壊の限りを尽くします」

「破壊の限りを!?」

「そして、そう。最後には自分自身を破壊して、……死にます」

「死ぬの!?」


 どんな設定だ。

 いや、あながち間違ってはないが。


「ご、御冗談を」

「本当です。この子、魔力が凄いので、不安になると暴走してしまうんです」

「……」


 お姉さんが、半目でこちらを見てきた。

 ……あ、蜂。

 パンッ。

 お姉さんの顔に止まろうとしていた、大きな蜂を破裂させる。

 危なかった。

 危うく刺されるかもしれないところだった様な気がしなくもない。うん。


「ひぃっ!?」


 耳元で炸裂する音に、小さく悲鳴を上げるお姉さん。

 しまった。お姉さんの頬に、蜂の脚が張り付いてしまった。

 虫嫌いなら軽く発狂出来るレベルである。

 大丈夫だろうか。彼女が虫を見て卒倒するような人じゃない事を祈るばかりである。


「……ほ、ほら。言った通りでしょう?」

「い、いい、今の、この子が?」


 お姉さんが怯えた顔でこちらをチラ見。

 あ、頬に張り付いていた蜂の脚が、ポロリと落ちた。

 良かった。

 あのままじゃ、気持ち悪いもんね。

 思わずホッとし、笑みが零れた。


「ヒ、ヒィッ!?」


 またもや短い悲鳴を上げるお姉さん。

 どうかしたんだろうか。


「わ、分かりましたわ。くれぐれも、くれぐれも!お子様から目を離さない様にお願い致します」

「ええ。ありがとう」


 お、何か知らんが話が纏まったようだ。

 エルの交渉術も中々だね。

 私は感心したように数回頷くと、エルに続いて、漸くカジノの中へと入っていったのだった。


『冒険者の実態』

 ――エレオノーラが最近読んだ評論本。

  タイトルの通り、冒険者の実態についてが悪い意味で生き生きと評されている。

  どうやらこの作者は、冒険者の事が嫌いらしい。軽く憎悪と悪意が窺える。

  だが、あながち間違ってもいないので、ギルド側から訴えられる事もないそうな。

  ギルド側の圧力によって、今では絶版となってしまった存外貴重な書物だったりしなかったり。

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