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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第三章 バルダット帝国編
213/217

地図にない村。

更新遅くなってすみません。

ここから2、3話かけて、ポア回が続きます。

 問1:あなたは、自分のことが好きですか?


 『わたし』の回答は――、

 大嫌い。大嫌い。大嫌い。大嫌い大嫌い。大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。


 自分のことが嫌いな自分も大嫌い。

 自分のことを好きになれない自分が大嫌い。

 

 『わたし』は自分を愛せない。

 けれど、『わたし』は誰かに愛されたい。

 『わたし』の代わりに、誰か『わたし』を愛して欲しい。

 けれど、自分のことさえ愛せない『わたし』を、自分にさえ愛されなかった『わたし』を、誰かが愛してくれるなんて有り得ない。

 『わたし』を愛する誰かを、私は信じられない。


 だから私は、『わたし』を産んだ。

 ぞっとした。

 その化け物は、正に大嫌いな『わたし』そのものだった。

 私を愛してくれた彼も、村のみんなも、私が産み落とした『わたし』を嫌ってくれた。

 

 ああ、ほら。やっぱり。

 私の想像は、真実だった。

 みんな、『わたし』が大嫌いなのだ。


 その現実を目の当たりにして、私は肩の力が抜けた。

 これはきっと、安堵だろう。

 『わたし』を嫌いな私は、何も間違ってはいなかったのだと。

 心の底から、ホッとした。


 だから、この化け物は『(にえ)』だ。

 大嫌いな『わたし』。

 この化け物が憎まれる分、私は自分のことが好きになれる気がする。


 

 次に産まれたのは、男の子。

 これは、『わたし』じゃない自分。

 私が唯一、愛せた自分。

 とても可愛く思えた。

 私を愛してくれた彼も、村のみんなも、この子を愛してくれた。

 

 心から、ホッとした。

 ようやく私は、自分を愛することが出来た。

 ようやく私は、みんなから愛されることが出来た。


 とてもとても、幸せだった。

 

 それなのに。


   それなのに、

         それなのに。



 その子は、化け物に殺されてしまった。

 

 私が愛したその子は、

 私が嫌いな『わたし』によって、

 殺されてしまったのでした。



 残ったのは、私が嫌いな『わたし』だけ。

 やっぱり私は、自分を愛せない。




 問2:あなたは、『わたし』(自分)のことが好きですか?


 私の回答は――、






********


 荷台を吹き抜ける爽やかな風。

 竜車に揺られながら、私はにこにこと空を見上げた。


「はぁー。楽しかったなぁ……」


 後ろにゴロンと倒れると、にこにこのエルが顔を覗いてきた。

 お肌つやつやだね。私もだと思うけど。


「ふふふ。素敵な場所だったわね」

「本当にね。食べものも美味しいし、ベッドはふかふかだし。特に、花を浮かべた露天風呂……」

「あれは最高ね……。綺麗だし良い匂いだし、まるでお花畑に溶けていくような感覚。気持ち良すぎたわね……」


 片手を頬に当て、「ほぅ……」と吐息を零すエル。

 御者台からクロが、「俺も!俺も楽しかった!あんな国があるんだな!」と、話に参加してくる。


「ふふ。みんな休めたなら良かった。また泊まりに行こうね――花の都“フラントス”で一番有名な超高級ホテルのスイートルーム☆」


 という訳で、帝都での疲れを癒すために2泊3日してきました。花の都“フラントス”で一番有名な超高級ホテルのスイートルームに。

 まぁ、当然だよね。

 竜車の操縦を、疲労困憊のエルとクロに任せるのは危なかったし。

 そもそも、みんな眠気で意識飛び掛かってたからね。

 こりゃダメだと思い、私は最後の力を振り絞って“フラントス”に転移して、ホテルに宿泊。

 深夜だったけど、適当に金貨積んだらめちゃくちゃ丁寧に対応してもらえた。金の力は偉大だね。


 嗚呼、フラントス。

 花の都と評されるだけあって、素晴らしい国だったな……。

 至る所に花が咲き乱れ、街中が華やかで良い匂いだった。

 そして何より、フラントス名物の『花風呂』。

 美容やリラックス効果のある花々を湯船に浮かばせたお風呂なのだが、もうね、すっごいの。見た目的にもすっごい。語彙力なくなるレベルですごかった。

 泊まったスイートルームには、源泉かけ流しの花風呂が屋外に付いてて、しかも広い。思わず泳いじゃったよね。

 ほら見て?みんなお肌つるつる。

 元から赤ちゃん肌だった私も、更につるつる。

 これ以上つるつるになってどうすんねん!って、自分で自分にツッコんじゃった。わはは。


「あの国の住民は、きっと世界一幸せね。フラントスに住んじゃったら、もう他の国では住めなくなりそう」

「ふふ。そうかもね。あの国は麻薬大国でもあるから、そういう意味でもフラントスから出られない国民はたくさんいそう」

「……え?」


 笑顔のまま目を点にさせるエル。

 あはは!変な顔!


「お嬢!もうすぐ山だぞ!」

「お疲れ様!ポア、道案内よろしくね?」

「う、うん!」


 そんなこんなで、フラントスを満喫した私達。今はバルダット帝国に転移し直し、帝都から西南西の方角にある山脈を目指している。

 ポア曰く、その山脈の(ふもと)にルヴ村があるらしい。

 徒歩でおよそ2日。騎竜なら1日もかからない距離である。

 フラントスでの余韻に浸ってたら、あっという間に着いちゃったな。


「っ、あ、あ、あっちにある川を越えます!」

「え、あれ超えるのか?」


 ポアの案内に、クロは困惑した表情で私を見遣る。

 どれどれ。

 確認すると、前方に迫る川はそれ程深くはなさそう。とはいえ、竜車で入るには少し難しいかな。


「いいよ。影で橋を創るから、そのまま進んで?」

「分かった」


 その後も、ポアの指差す方向に影で車道を創って進んでいく。

 この能力がなかったら、途中から竜車を降りる羽目になってたね。


「あ、あそこの洞窟!その先が村だよ!」

「ふーん?」


 なんともまぁ、辺鄙な場所に……。

 言われるままに洞窟へ入ると、人の気配がチラホラと。


「クロ、止まって」


 私の指示に、クロは「ん」と頷いて竜車を止めた。

 案の定、武器を手にした村民らしき男達が、岩の影から現れて竜車を囲む。

 1、2、3、……6人か。

 魔物も出るだろうに、見張りにしては少人数だね。人手不足かな?


「やぁ、こんにちは。とある依頼で来たのだけれど、この先にあるのはルヴ村で間違いないだろうか」

「ルヴ村?」


 尋ねると、何故か怪訝な表情をする男達。

 え、何その反応。村名違った?


「みみ、みんな!ポアだよ!ポア、帰ってきたよ!!」


 尻尾を振りながら、ポアが御者台から身を乗り出す。

 その姿を見て、男達は安堵したような吐息を零すと、「こちらへ」と奥に通してくれた。

 よく分からないけど、とりあえずポアの村があるのは間違いないみたいだね。


「ふぅ。……何も起こらなくて良かったわね。村も本当にあるみたいだし」


 エルの呟きを聞きながら、入り組んだ洞窟の先――徐々に明るさを増す出口を見つめる。

 さて、どんな村かな。

 地図にない村という時点で、訳アリなのは分かっているけれど。


「つつ、着いた!着いたよ!ここが、――ルヴ村だよ!」


 嬉々としたポアの声。

 視界が開け、その眩しさに一度目を細めた。


「……きれい」


 最初にそれを言ったのは、エルだった。

 私もまた、心の中でそう呟く。

 眼前に広がるものは、周囲を山肌で囲まれた平野……いや、高地というのかな。

 中央には湖があって、天空を映したその水面は、言葉を失うほどに美しかった。


「きれいでしょ!?えへへ!ポポ、ポアの家はね、あっち!お、お母さんとお父さん、きっと喜ぶよ!あ、あ案内しますね!」

「ふふ。ありがとう。やっと帰れて、ポアも良かったね?」

「うん!れ、レオちゃん達のお陰、です!」


 満面の笑みに釣られ、私もまた口角が上がった。

 あー、ほのぼの。

 このままポアを送り届けて、依頼完了。

 その後のことは、どうでもよし。

 さっさと帰ろう。



「こ、ここだよ!ここが、ポアの家です!」


 村民からの視線に曝されながら、竜車を降りる。

 ふふふ。閉鎖的な村らしい嫌な空気~。


「お、お母さんお父さん!ただいま!ポポ、ポアだよ!」


 1人で駆けていき、家のドアを叩くポア。

 私達がポアに追いついたのと同時、ゆっくりとドアが開かれた。


「……」


 顔を覗かせたのは、小柄な女。

 犬の耳と尻尾はないものの、その髪色と顔の造りから、一目でポアの母親だと分かった。

 女は無言で私達を見た後、ようやく表情を緩ませる。


「ああ、良かったです。約束を守って下さって……」

「ん?」


 首を傾げる。

 約束とは、何の話だろうか。


「っ、お、お母さん!ポア、ちゃんと出来たよ!ポ、ポアね、頑張ったよ……!」


 ポアは尻尾を揺らしながら、笑みを浮かべる母の袖を僅かに掴んだ。

 その、瞬間――、


「触らないでッ!!!!」


 女の目が見開かれ、ポアの手が力強く(はた)かれる。


「っ、ご、ごご、ごめ、ごめ、なさ、……お、お母、さん」


 消え入るようなポアの声に構う素振りもなく、女は再び笑みを浮かべて私達を見た。

 それから直ぐに、家の裏手から男が駆けつけ、「大丈夫か!?」と女の肩を抱く。


「お、おとぅ、さん……」


 恐々とした様子で、ポアは男の名称を呼んだ。

 男はポアを一瞥すると、舌打ちだけを送って顔を逸らす。


「レオ、……これは、どういうこと?」

「ふふふ。エルも気付いた?」


 ポアの家族を視界に捉え、くすくす笑う。

 なんともまぁ、歪だ。

 ポアが両親から冷遇されているとか、そういうレベルの話ではなく。


「ざっと見た限りだけど。――この村、ポア以外の亜人が1人もいないね?」




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