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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第三章 バルダット帝国編
208/217

MVP。

 ……あーあ。

 結局、あの家を出ようと残ろうと、碌な生き方は出来なかった訳か。

 お兄ちゃんも、黒沼優美も、……哀れな兄妹だったね。


「はぁぁ……」


 頭をガシガシと掻いて、エルが結ってくれた髪を乱雑に解く。

 指の隙間に入り込んだ異物の感触から、花の髪飾りを思い出した。そういえば、こんなの挿してたっけ。

 オレンジと白の花弁が可愛らしいなと感想を浮かべ、ポイっと放り投げる。それをエルが、すかさずキャッチ。

 あ、いる感じだった?どうぞどうぞ。

 手櫛で髪を整えながら、エルの膝から下りた。

 クラウディアを真正面に捉え、ふふっと笑う。


「……今、何時かは分からないけれど、少なくとも日付は変わってるよね。という訳で、お姫様タイムは終了。魔法が解ける頃合いだ」


 ふふふっと笑い、全身を影で包み込む。

 そこでふと、某キャラクターのセリフが脳裏を過った。


「えーっと、……なんちゃらかんちゃら、メーイクアーーップ!!!」


 うろ覚えである。

 めちゃくちゃうろ覚えである。


「んーと、……あ、そうそう。ある時は公爵家のご令嬢、またある時は可愛らしい、えーっと、幼女。しかしその実態は、……実態は、えーっと、幼女。――誰かさんに代わって、お仕置きよ!!」


 ぐだぐだである。

 影を引っ込めて、「シャキーン!」とそれっぽいポーズを決めてみたけれど、めちゃくちゃぐだぐだである。

 服装は、ドレスから男児の庶民服へ。

 変身というより、寧ろ変身が解けてるけど、そんな些細な事を気にしてたら人生やっていけないよ?


「貴様、何を言っているんだ」


 クラウディアが、真面目な表情でツッコんでくれた。

 後方からも、ジークの困惑した視線を感じる。

 言いたいことはすごく分かるけど、でもこれだけは言わせて欲しい。

 

 ……私も私が、何を言ってるのかよく分からない。


 魔法が解ける頃合いってマジでなんだ。

 解けると見せかけて変身してるじゃんと思いきや、いや、やっぱり解けてたわって、なんかもう自分で自分にツッコミ入れたくなったよね。

 もう早く寝たいです。


「……ふふ、ごめんね?ちょっと今、徹夜明けのテンションなんだ。心境としては、二徹くらいした感覚だよね」


 首を(すく)めて誤魔化しておく。

 因みに、私がアニメとかの知識を微妙に持っているのは、前世の友人――マイの影響だ。

 なので、今滑ったのは1対9くらいマイが悪いと思います。あ、1が私ね?異論は認めません。


「凄いわ、レオ!そういう使い方も出来るのね!」

「うん。エルは手放しで褒めてくれるからいいよね。好き」

「レ、レオ……」


 頬を染めるエル。

 チョロい。


「それじゃあ、クラウディア。そろそろ、かくれんぼの返事を聞こうかな。因みに、2階に落ちてるエリザの手足はね、……わーお。……んー、あはは?これはモザイク案件だね。えーっと……、うん。エリザの手足はね、損傷が激しくて修復は難しいと思うよ?千切れた手足をくっつける治療法は、エリザに関してはほぼ不可能じゃないかな」

「っ、……だろうな。(はな)から期待などしておらぬ」

「ふふ、そう?それなら良かったけど」


 蝙蝠を通して2階の様子を確認したら、エリザの手足が骨になっていた件(笑)

 正確には、食べ終わった後の骨付きチキンのような……、あ、なんかお腹空いてきちゃった。

 というか、エリザの手足よりも凄い光景見ちゃったんだけど。ポアがアウグスト刺してたんだけど。え、君ってそういう子だったの?諸々の意味でモザイク案件だわ。思わずそっ閉じしちゃったわ。


「――で、回答は?」


 小首を傾げる。


「やるか、やらないか。もう十分待ったし、5秒後に返答なければ帰るね?ジークとフリードは置いていくから好きにしな?ちゃっちゃとしようよ。もう待てないんだ。眠いし喉乾いたし、おまけにお腹も空いてきたしでイライラしてきちゃった。君達ってなんなの?こんな幼女にされるがままじゃん。戦意喪失ってやつ?それとも、……ああ。何か、或いは誰かを待っているのかな?時間稼ぎ?じゃあ、あと5秒だけね?いーち、にーぃ、さーん、」

「な、待て、違う!っ、……やる!!」

「ふふ、あはは?だよね。じゃあ、――遊ぼうか」


 にっこり笑う。

 同時に、四方八方へと影を伸ばしたものだから、クラウディアが驚いて剣を構えた。


「落ち着けって。傷口塞ぐだけだから」


 あははと笑う。

 エリザと騎士達の欠損箇所に、影を繋げて魔力を送った。

 1人1人に手を(かざ)して治癒魔法かけるのは面倒臭いので、手抜き&時短テクニックである。荒業だから必要以上に魔力が要るのが難点だけど、私にとっては些事だ。……あ。それと、割と雑になるから、治癒の質も下がっちゃうかな。でもまぁ、味方のじゃないし別にいいっしょ。


「こんな、一度に……」


 塞がっていくエリザの傷口を凝視しながら、マリウスが呟く。

 クラウディアもまた、驚愕した表情で固まっていた。


「はい、終わり~。からの、」


 伸ばしていた影を消す。

 同時に、ジークとフリードに顔を向け、軽く手を振った。

 相変わらず、フリードは(うつむ)いたたまま反応がない。まるで屍のようだ。

 対して、私の行動を察したらしいジークは、慌てた様子で口を開けた。けれど、その言葉が紡がれることはなく。


「かくれんぼの始まり始まり~♪」


 ぱちぱちと手を叩きながら、鬼役の2人を転移させた。

 ――刹那、


「チッ」


 ジークが残した「待っ――」という一音を切り伏せるように、無音の剣筋が線を描いた。

 虚空に舌を打つ、銀髪の騎士。

 身なりと髪色の特徴から、恐らくは騎士団長かな。だとすると、名前は確かアロイス・クライン。

 一応、それくらいは調べといたんだよねー。これだけ大掛かりな作戦なのに、騎士団のトップが外されるとかないだろうし、それなら作戦当日に動きがあるかなって思うじゃん?

 それにしても、初めましてなのに殺伐としてるの辛いなぁ。


「惜しい!あとちょっとだったね?」


 親近感を持ってもらおうと、ガッツポーズを送ってあげた。

 次は頑張って?

 ……あ、睨まれた。もうやだ怖い。


「アロイスッ!!」

「はっ!」


 既に距離を詰めていたクラウディアが、アロイスと共に剣を振るう。

 標的は、もちろん私。

 幼女相手に、大の大人が二人(がか)りとか酷くない?


「やらせない」


 アリエルが静かに呟く。

 次いで、私とエルを守るように、周囲に暴風が吹き荒れた。

 なるほど、台風の目ってこんな感じかー。

 因みにシロは、数歩離れた距離にいたので、安全圏には入っていない。風で毛並みが面白いことになっている。


「くっ、」


 クラウディアとアロイスの剣戟を受け流しながら、苦悶の表情を浮かべるアリエル。

 自身に風の膜を張り、暴風の影響を最小限にしてるみたいだけど、帝国軍のトップを2人同時は流石にキツイだろうなぁ。


「っ、ノーラッッ!!!」


 悲鳴染みた声色で、アリエルが叫んだ。

 何事かと思い後ろを見遣れば、高速で飛んでくる刃のような何か――あ、間に合わねぇ。

 瞬時に、エルが私を抱きしめて包み込む。


 ――不味い。


 影で防壁を創ってる最中……だけど、待て待て待て。脳がテンパってる。あと1秒はかかる。正確には2秒弱。あー、無理。やっぱ判断速度が鈍ってる。初動に時間かかったクソが。というかエル、私を庇うなよ。私と違ってエルは死んだら終わりなんだから、あーもうマジか死んだわコレ。とりあえず一回死んで、後でこいつらも全員殺そう。世界消そう。一旦ちょっとリセット。うんそうしよう。世界そのものがなくなれば、エルが死んだ事実もなくなることない?そしたら、一緒に消えるまでエルを守るよっていう約束が破られたと言う事実も無くなる訳で、というかさ、思ったんだけどなんかもう世界消せばもう全部解決じゃね?っていう真理に気付いて今もうめっちゃ自分で驚愕してるわスッゲ今の自分、頭の回転速度半端ねぇ。死ぬ前に走馬灯過るっていうけどこんな感じの速度――


「お嬢~!!っ、ぁ?」



 ――ザシュッ!



 エル越しに、クロの背中が見えた。

 かと思えば、血飛沫が舞う。


「っ、ごふっ!……なん、だ、コレ?……お嬢、は?」

「後ろにいるよ?」


 激しく血を吐きながら、こちらを振り返るクロ。

 その腹部は大きく裂かれ、飛来物がめり込んでいた。

 思わず、目を瞬く。

 どうやら、咄嗟に自身の血を固めて、飛来物を体内で止めたらしい。すごい反射神経と荒業だ。

 クロの場合、闇よりも血の操作の方が上手いのかもしれない。

 いやー、思わぬ才能を覚醒しちゃったねー。今日だけで何回か死んだだろうし、その中で何かコツみたいなの掴んでたのかな?


「ありがとう、クロ。今夜のMVPは間違いなく君だ。世界を救った英雄。後で好きな物何でも買ってあげるね?」

「……?なんかよく、分からなぃ、けど、……ごふっ。……何度も死んで、たま、るか……」

「わ、わわっ!?く、くく、クロード、さん……!」


 腹部には飛来物を、腕にはポアを抱えたままの状態で、クロは勇ましくも床に倒れた。

 そしてそのまま、……息を引き取った。

 今はゆっくり寝かせてあげようと思います。



次回でケリがつきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久し振りに読んだのに情緒が溢れ出て止まらないんですが! 兄妹の対面どうなってしまうのかずっとハラハラしていましたが、なるほど、確かにこうなるよな〜と。それからレオちゃんの安定具合が流石過ぎ…
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