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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第三章 バルダット帝国編
207/217

かくれんぼ。

※今回はレオ視点です。



 前世でお兄ちゃんと生き別れたのが、黒沼優美が小学5年生を終える頃。

 正確には、お兄ちゃんが中学を卒業した日だった。

 あれは印象深い出来事だったから、よく覚えている。


 卒業式から帰ってきたお兄ちゃんに、黒沼優美は「卒業おめでとう」と伝えた。

 けれど、お兄ちゃんは冷ややかな視線を一瞬向けてきただけで、返答はなかった。

 いや、すれ違いざま舌打ちだけされたかな。

 その後は……、うん。それだけだね。それが最後の関わりだった。



 ――と、思ってたんだけどね?



 まさか死んでから、こういう形で再会することになろうとは。

 いやはや、人生って何が起こるか分からないねぇ?

 しかし何故、お兄ちゃんは死んでも尚、私に会いに来たんだろう。

 普通、もうどうでも良くならない?

 ぶっちゃけ、黒沼優美はもう、前世で兄のことなど殆ど忘れていた。


 改めて湧く疑問。

 私は小首を傾げ、ジークを直視する。

 対して、ジークは気不味そうな表情で、私の顔色を窺っているようだった。


「くくっ……」


 ちょっと笑えた。

 何、その表情は?

 私を黒沼優美として見てるのかな。

 今の私は、唯のレオでしかないのに。

 

 ああ。

 どうせなら、前世で。

 黒沼優美に会いに来てくれたならね。

 

 いや、違うな。

 黒沼優美は、お兄ちゃんとは別に会いたくはなかった筈だ。

 そして今の私も。


 前世でも、今世でも。

 なんか、色々気持ち悪いね……?



 くつくつと込み上げ続ける笑い。

 それに伴う感情は、不明。よくある事だね。

 フリードに視線を戻し、事も無げに言葉を返した。


「ふふっ。殺しかけてごめんね、フリード。でもまぁ、生きてたんだから良かったじゃん。私も一回君に殺された事あったし、これでお相子だよね?」


 斜め後ろに立つアリエルが「え?」と声を漏らし、ジークもまた「殺された……?」と怪訝そうな表情でフリードを凝視する。

 何だこいつら。反応ワロタ。


「はっ!貴様や私奴が死のうが、そんな事はどうでも良い。肝心なのは、貴様が坊ちゃんに攻撃を向けた事だ。……いいか。もう一度言うが、あれは私奴でなければ死んでいたぞ」

「ああ、そういうこと?死ぬような攻撃を、ジークに向けられたのが嫌だったって事か。オーケー。じゃあ言い直すね?――あの攻撃を受けたのが君で良かったじゃん。私も、君に仲間を殺されかけた事あったし、これでお相子だよね?」


 にっこり笑う。

 これ以上喚くならグーパンしよう。

 といっても、……私がするまでもなさそうだけど。


「貴様……っ、ぐ、ごふ……」

「フリード!」

「ぼ、ちゃ、申し訳、ぁりませ……っ、がふ、ごほごほッッ!!」


 激しく血を吐きながら、床に膝を着くフリード。そんな中でも、ジークを降ろす動作は丁寧だ。忠誠心ってすごいね。

 さっきから脚も震えてたし、流石にもう限界だろう。

 どこまで回復したのかは知らないけど、内臓のような複雑な器官だと、そう簡単には治せない筈だ。

 ……まぁ、怪我の何割かは私の所為なんだけどね?んー、1対9くらいで私の所為かも。あ、1が私ね?異論は認めません。


「フリードってば、そんな状態になるまでよく頑張ったねぇ?というか、ジークもそろそろ限界でしょ。寧ろ、今まで意識を保ってたのが凄いね。目とか見えてる?」


 隣で膝立ちするエルに凭れ掛かりながら、ジークを見遣る。

 その顔色は赤く、呼吸は荒い。髪は、大量の汗でぺちゃんこ状態。

 はい、これはもう見ただけで分かりますわ。高熱ですね。40度は余裕で超えてる。

 私も経験あるけど、前世の記憶を思い出した反動だろうなぁ。

 「うーん」と唸りながら、エルの腕にぐりぐりと頭を押し付けていると、ひょいっと抱き上げられて膝上に座らされた。あー、楽だ……。

 正直、私のあんよも疲れてたから助かる。幼児の体は不便で大変です。

 気が利くなぁ、エル。

 あ、でも、頭はそんな撫でないで欲しい。眠気がすごいくる。なんだろこれ、気持ちが(ほぐ)れるぅ……。


「ふあーぁ……。えーっと……、そうそう、肝心の鬼役(・・)も来てくれたし、話を戻そうかな。んーっと、……ふわーぁ。……ふふ、失礼?まだ子供だから、この時間は眠たくてね」


 欠伸の連発。目を擦りながら、クラウディアに顔を向ける。

 それに合わせて、エルも自分の体ごと向きを変えてくれた。

 え、何この椅子、めっちゃ便利。まさかの回転式。


「……鬼?」


 眉間に皺を寄せるクラウディア。

 真剣に聞いてくれてるようで何よりです。


「うん。君達が提案に乗ってくれるのなら、――“かくれんぼ”しようか」

「……は?」

「異世界人から伝わった遊びだよ。“隠れ鬼”とも言うね。有名なやつだけど、聞いたことない?」

「それくらい知っている。貴様の意図が分からぬだけだ。……よもや、本当に今から子供の遊びに付き合えと?」

「そうだよ?でも今回のはルールがちょっと違う。鬼から隠れるんじゃなくて、鬼()隠れる。君達みんなで鬼を探すだけだから、簡単でしょ?」

「くくっ。……それで?その鬼というのは、貴様のことか?」

「違うよ?そんな面倒臭い役、私がする訳ないでしょ?」


 意味深に、フリードとジークを流し見る。

 かくれんぼをよく知るジークは、はっとした表情で「まさか……」と呟いていた。

 察しが良いようで何よりです。


「――鬼は、魔族である彼ら2人。場所はこの帝都全域。私が適当な場所に彼らを転移させるから、それを見つけられたら君達の勝ちだ。逆に、鬼に逃げられたら君達の負け」

「転移させるだと?それを私が許すと思うのか」

「それも含めての提案だね」

「はっ!馬鹿正直に、帝都内に転移させるという保障もないであろうが。……回りくどいぞ。はっきり言ったらどうだ?魔族を逃がすのが目的だと」

「く、ふふふ?お優しい想像力だね?本当に逃がすのが目的なら、回りくどいことせずに既にやっているよ。だから、まぁ、その辺りは安心してくれていいよ?遊びが目的な以上、転移させる場所は必ず帝都内に限定するから」

「っ、」


 開きかけた口を閉じ、クラウディアは忌々しそうに奥歯を噛み締める。

 面白い顔だね?


「分かってくれたって事で良かったかな?因みに参加者の制限はないから、国民とかも使っていいよ?時間制限もなし。でも、あまり長引くと鬼が回復して難易度高くなるから気を付けてね?そうなるまでは、弱った鬼をみんなで見つけるだけの簡単な遊びだ。……あ、見つけた証拠として、ちゃんと死体は取っといてね?生きた状態でもいいけど、生け捕りって難しいから多分殺しちゃうでしょ?」


 ジークに視線を送ると、目元をひくひくさせていた。

 面白い顔だね?

 フリードは呼吸するので精一杯なのか、ぐったりと床ばかりを見つめている。つまらな……いや、何でもないです。


「ああ、そうそう!ちゃんと特典も考えてるよ?まずは、――なんと!この遊びに乗ってくれるだけで、私に切断された手足の傷口は塞いであげます!それから、もし君達が勝った場合、――な、なんと!手足が戻らなかった騎士達!全員にっ!私が再生魔法で新しい手足をプレゼント!!今だけの出血大サービスだッ!……え、もうこっちは大出血してますってか?あはははは!上手いなぁ!天才かよ!ねぇねぇ、エル。大出血なだけに、出血大サービス!ぷはははは!!」

「そ、そうね。面白いわね」

「でしょでしょ?」


 エルの笑顔に、哀愁が漂ってるようにも見えなくもなかったけど、見えなくもなかったってことは多分気の所為だろう。

 スーちゃんに顔を埋め込んで、一頻(ひとしき)り笑う。ぷふふー。


「っ、貴様、……再生魔法も使えるのか?手足の再生となると、大賢者レベルの魔法技術だぞ」

「……ん?使えるよ?詠唱が恥ずかしいから、あまり使いたくはないけど」


 深呼吸の後に顔を上げると、見開かれたクラウディアの瞳が、大きく揺れ動いているのを見た。

 それから静かに、手足のないエリザを見下ろしている。

 この場に私情持ち込んじゃうくらいには、やっぱり仲良しなんだろうね。

 私が言うのも何だけど、普通さぁ、ダメだよね。私なんかの話に耳を貸しちゃ。


「いや、本当にお前が言うなって感じだよね~。ぶふふふふ」

「どういうこと?」

「何でもないよ?」


 おっと、思考が口に出てた。

 エルが不思議そうに首を傾げてたので、キョトンとした顔で誤魔化しておく。


「それから、ジーク。君が勝った場合だけど、……そうだね。なんか、私に用があったみたいだし、その話を聞いてあげようかな。それとも、何か欲しい物とかあった?」

「……いや。……これが、お前の答えか」

「ふふふ。……受け身だねぇ?ジークってば、素直な子になっちゃって。どしたの?」


 悲しそうに目を伏せたまま、ジークは沈黙する。

 私は肩を竦め、大きく息を吐き出した。


<はー。……少し、ジークに聞くけれど。黒沼優美が死んだ状況について、お兄ちゃんはどれだけ知ってた?>

<っ、優美、>

<レオだよ。私は>

<あ、ああ。……悪い>


 突然、日本語で話し出す私に、ジークは戸惑いながらも同じ言語で返答する。

 周囲から困惑する空気が伝わってきたけど、気付かないフリをした。面倒臭い。


<……ほとんど、知らない。ニュースで少し、優美が死んだ事件を見ただけで。っ、遺体が、発見されたばかりだったから、全容まではまだ……。でも、……酷い、状態だったって……>


 ジークは苦痛に顔を顰めながら、歯切れ悪く言葉を吐き出した。

 それが何を思ってのものなのか、深くは考えないでおく。


<そっか。という事は、それから間もなくしてお兄ちゃんも死んだのかな。事故死とか?>


 話題を流す。

 雑談混じりに、軽く聞いた。


<っ、…………飛び降り。……弱い、死様(しにざま)だろ>


 僅かばかりの間が生まれ、目を逸らしながらジークは答えた。

 自虐的に、口角だけが上がっていた。


<……そう。……世知辛いね?>


 それだけ返して、会話を終えた。




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