表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第三章 バルダット帝国編
204/217

生か死か。

<あらすじ・登場人物まとめ> ※雑です。


●アルバート……レオの父。自身の私兵である、ネズミの亜人アリエルの身体を借り、(ようや)くレオとの再会が叶った。

●レオ……エリザ率いる騎士団を圧倒した後、1階へ移動。精神は未だ安定せず。

●クラウディア……帝国兵団大将。兄である皇帝ブルクハルトからレオの捕縛を命じられたが、アルバートに牽制(けんせい)される。


●エリザ……2階でレオと交戦し、右腕と右脚を失う。瀕死。

●フランク……カジノ経営者。ガドニア国首長の1人。現在、地下の舞台裏から1階に移動。

●ティーナ……フランクの秘書。

●ベティーナ&ダミアン……少女騎士と少年騎士。レオ達を帝都まで連行する際、数日を共に過ごした。現在、フランクとティーナを護衛しつつ、地下から1階へ。

●マリウス……無免許医師。フリードの治療に関わった後、1階へ。

●ルイーゼ……マリウスの侍女。



――今回はレオsideです。

長らく更新止まっててすみません。




 最愛の娘、エレオノーラが高熱で倒れた日から、アルバートの心労は絶えない。


 ――エレオノーラの人格変容。

 彼女は高熱から目覚め、以後、新たに出会った人達には『レオ』と名乗るようになった。

 それはどこか、以前の自分と区別しているようだと、アルバートには感じられた。

 必然的に、ブルーノ医師が推測した、“転生者”という言葉が脳裏を過る。


 しかし、アルバートは何も問わない。

 

 エレオノーラが前世の記憶を持っていたとして。

 純真無垢な、唯の『ノーラ』ではなくなったとして。

 だが、それが何だと言うのか。

 それでも娘であることに変わりなく、その程度(・・・・)のことでアルバートの愛情が薄れよう筈もなかった。


 現に彼女(レオ)は、『ノーラ』の部分も否定しない。

 家族がこれまで通りノーラと呼んでも、拒絶しなかった。

 呼称を『レオ』に変えるよう、家族に言うことも出来た筈なのに――。


 何故か。


 アルバートは、この疑問について考え続けていた。

 勿論、正解など分かる筈はない。

 けれど、せめて、理解しようと努めることは出来るだろう。

 1つの正解を見つけようとするのではなく、無数の仮説を想像するのだ。


 故にアルバートは、可能な限りの自由を娘に与えた。

 今の娘は、どのような思考、行動をするのか。それを理解する為に、観察する(見守る)ことを己に課した。


 結果、分かったこととして。

 娘は殆ど手が掛からない子になっていた。

 “公爵令嬢”という、親にねだれば大抵のものは手に入る立場でありながら、『レオ』は親の力を借りる事が一切なかった。

 比較的大きな買い物と呼べるものが、奴隷のエルを購入した時ぐらいか。

 それ以降は、自力でどうにかしてしまう。

 詳細は不明だが、どうやら自分の資産を持っているようだった。


 アルバートがする事といえば、(もっぱ)ら環境調整である。

 娘が望むままに男児の服を用意したり、奴隷を飼う上での申請・報告など。

 恐らく、アルバートがそれをしなかったとしても、『レオ』は自力でどうにかするのだろうけれど。

 或いは、今よりも早くに家を出ていったかもしれない。

 実際、それが出来てしまう程に、『レオ』は力を持っていた。

 だからこそ、家族に頼ることをしないのだ。


 『レオ』を転生者と仮定して。

 アルバートは、前世での彼女の人物像・生きてきた環境等を想像した。

 まず、今世同様に優しい性格であり、愛らしく、理知的。あと慈愛に満ちている。非常に優しい。少し素直になれないところはあるが、そんなところも愛らしい。――これらは想像ではなく、アルバートの中で確定している人物像である。

 そして残念ながら、育った環境は少なくとも平凡以下のものだろう。誰にも頼れず、期待せず、自分の力だけで生きざるを得ない環境だったのではないか。

 にも(かかわ)らず、転生しても尚、そんな前世の自分に異様なまでの執着を持っている。

 

 では何故、前世の名ではなく、『レオ』を名乗っているのか。

 カーティス家を出てからでも、前世に近い名前に改名することだって出来た筈だ。

 寧ろ改名した方が、私兵団の捜索からも逃げやすかった筈。


 何故か。


 アルバートは思いを馳せる。

 最愛の娘、『レオ』という少女について――。




***



「――っ、ぅえ゛、ひっく、……の、ら、……ぅぐ、ひっく……」


 一階の玄関ホール。

 嗚咽し、言葉にならない声を発しながら、濡れた瞳でレオを見つめるアリエル――否、アリエルの肉体を借りたアルバート。

 本当なら、泣いた姿など娘に見られたくはないが、今はそのようなプライドどうでもいい。アルバートとしては、1秒でも多く娘の姿を目に焼き付けたい一心である。

 しかも、貴重なドレス姿だ。可愛すぎる。

 視界を歪ませる涙が、これほど憎いと思った事はない。


「ぅわ、マジ泣きじゃん」


 レオから、率直な感想が零れた。

 久しぶりに聞いた娘の声。それも、自分に向けられた言葉だ。

 アルバートは口元を手で抑えながらも、一層の嗚咽を零し続けた。


「っ、ぅふぐゅぅぅぅぅ、……ずびびっ」


 肩を震わせ、鼻を啜るアルバートと見つめ合いながら、レオはぱちくりと目を瞬かせる。

 胸中にあるは、困惑。

 当然だろう。事情を知らないレオにとっては、アリエルがただ本気で泣いているだけの絵面である。


「……へぇ、意外。アリエルってそういう泣き方もするんだねぇ。もっと大袈裟な……いや、演技臭い?なんかそういう泣き方しかしないと思ってた」


 「まぁ、どうでもいいけど」と締め括り、レオは辺りを見回す。

 それから、ゆっくりとアルバートへと歩を進めながら、ふふっと笑った。


「可哀想に。――泣かせたのだぁれ?」


 小首を、傾げる。

 その可愛らしい動作とは裏腹に、周囲に走る戦慄。


「っ、……は、」


 騎士達は、硬い呼吸音を吐き出しては、僅かばかりの息を吸う。

 努めて、静かに。

 混沌とした、形容し難い空気を纏う幼女から、嫌でも目が逸らせない。

 そもそも、体が動かない。指一本でも動かせば、人智を超えた何か(・・)に呑み込まれるのではと、純然たる恐怖が全身を沸かした。


「大丈夫かい?」

「っ!」


 アルバートとは露知らず、その頭を撫でるレオ。

 久方ぶりの娘に触れられ、アルバートの感情は容量を超えた。

 心身共に、震えが止まらない。ついには腰が砕け、膝から崩れ落ちる。


「っ、ぅあ、っ、や゛ざじぃぃ……」

「んー、そっか。大変だったね?よしよし」


 頭を抱きかかえられ、背中をぽんぽんと叩かれる。

 娘に、頭を抱きかかえられ、背中をぽんぽんと叩かれる。


「ッ……!!」


 思考が、一時停止。

 滂沱の涙を流しながら、見開かれた瞳の奥では、娘が生まれてからの幸せな日々が思い起こされていた。





『――ただいま、ノーラ。父様だよー。ちょっと抱っこさせてねー』

『あふっ、あう、あううあ、んーまあ!』

『あああ……!!ノーラが!!なんかたくさん喋ってる!!クレア、ロベルト!!ノーラがなんか、たくさん喋ってるよ……!!』



『――おはよう、ノーラ。父様だよー。今日は母様の代わりに、私とロベルトと遊ぼうか』

『とー!とーしゃ!とーしゃ!』

『あああ……!!ノーラが!!父様って……!!そう、父様だ!とうさま!!クレア、ロベルト!!ノーラが私のこと、父様って言ったよ……!!』



『――ほら、ノーラ。ご飯だよ、あーんして』

『や!』

『んー、じゃあこれは?』

『や!』

『ほら、にんじんさん!美味しそうだなー』

『や!』

『……じゃあアイス食べるかい?』

『うん、あいしゅ。あいしゅ!』

『こら、アル……』

『ごめん、クレア。つい……』



『――おや、ノーラ。セバスと一緒に、どうしたのかな?』

『おちゃ、いれるの。とうしゃまに、おちゃ。ノーラがやるの』

『ええ……!?お茶持ってきてくれたのかい?』

『クッキーもどうじょ』

『クッキーも!?ありがとう……!あああ、でもお茶は気を付けて!嬉しいけど、それは私が……!』

『ノーラがやるの!』

『ふふ、大丈夫ですよ、旦那様。アイスティーをご用意しましたので。ティーポットも軽いものです。お嬢様と少し休憩なさってはどうでしょう』

『そ、そうか……。うん、じゃあノーラ、父様とおやつにしようか。お茶、淹れてくれるかい?』

『うん!』

『あああ……!上手に注いでるねノーラ……!!ほとんど零れてない!!』




 ――中略。




 そして現在に至る。


「――おーい。大丈夫?」

「っ!!」


 我に返り、アルバートは顔を上げる。

 至近距離で、レオと視線が交わった。

 反射的に背中へ手を回し、肩に顔を埋めて抱きしめ返す。


 ――やっと、会えた。


 その実感が胸を満たし、アルバートは(ようや)く吐息を零すのだった。


「おや……。よっぽど怖い目に遭ったんだね。可哀そうに」


 アリエルらしからぬ反応に、レオは困惑しながらもクラウディアを流し見る。

 次いで、「もう一度言うけれど――」と言葉を続けた。




「――泣かせたの、だぁれ?」




 先程の問いが、ゆっくりと、静かに響く。

 クラウディアは言葉を吐こうとするが、音のない呼吸が漏れるだけ。

 もうずっと、全身の血は引いており、震える指先を自覚するばかり。

 そして不思議と、母に怒られた幼き日のことが思い出されていた。


 ――ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


 心の内で、幼い自分が謝罪を繰り返している。

 しかし実際の母は、怒った時は怖くとも、善良で優しい人だった。子供に謝罪を繰り返させるような叱り方もしない。

 故にこれは、誇張された記憶である。

 そう理解していても、今のレオを見ていると、何故だか幼心が刺激されて妙な気分になるのだ。

 

 例えば、母が不機嫌だったり、徐々に表情が崩れていく時の緊張感。

 “悪い子”として怒られるのではないか。見捨てられるのではないか。

 そんな不安と恐怖が胸を満たし、その場を動けなくなるような感覚。

 全ての命は母から生まれたのならば、死もまた母によって握られているのではと、そんな錯覚すらしてしまう。


(奇妙な感覚だ……)


 冷静な自分を見つめる。

 脳裏を過るは、アルバートから言われた言葉――“君達ではノーラの脅威になり得ないだろうから”。


(信じ難いが、なるほどであるな。これは確かに、……規格外だ)


 クラウディアは大きく呼吸をし、レオを見据える。

 そう、レオ(・・)である。

 恐怖心が対象を大きくしていたが、目の前にいるのは6歳の幼女。

 ならば精々笑ってやろうと、クラウディアは努めて口角を吊り上げた。


「貴様――」


 言いかけて。

 されど、その言葉はそこで止まる。



 ――スパン。



 何やら、風を切るような音。

 クラウディアの声が誰かに届くよりも早く、自身の鼓膜が大きく震えた。



「ッ!?……うぁあ、あ脚、脚がぁぁあああああ――ッッ!!!!」

「ぎゃぁぁあああああああああッ!?!?」

「ぅ、がッ!!なん、で、俺の脚が!!いでぇぇええ!!!」


 数多の絶叫。

 張り詰めた緊張感は一変し、恐慌状態へ。

 気付けば、レオとアルバートを取り囲んでいた騎士達が、床に崩れ落ちていた。

 皆、両脚の大腿部より下がない。

 切断されたそれらは、幾本かは勇猛にも直立し、その他多くは持ち主の傍で転がっている。

 そんな赤の中央で、レオは自身の影から生えた一本の(つた)をうねらせながら、変わらずの笑みを浮かべていた。


「く、ふふふふふ?……なーんだなんだなんだ、みんな喋れるじゃん。ずっと黙ってるから、どうしたのかと思っちゃった。無視は良くないよ?先に仕掛けてきたのも君達だし、アリエル泣かしたのも君達だし、全部全部君達が悪いのにさ。自業自得というやつだね。ほら、2階にエリザ達来たでしょ。あれもさー、仕方ないよね。こっちだって戦わざるを得ないじゃん。そんなん、楽しくなってきちゃうに決まってるじゃん。不可抗力だよこれは。正当防衛だよこれは。――だよね?」


 首を、大きく傾げるレオ。

 クラウディアは目を見開いて、レオの発した“エリザ”という言葉に喉を震わせた。


「っ、……き、さまは、2階にいたのか……?」

「ん?」

「レオ……いや、――エレオノーラ・カーティス。答えよ」

「……」


 その名を呼ばれ、瞬きするレオ。

 傾げた首がゆっくりと起こされ、



「ぷはっ!!!!」



 吹き出される笑い。


「あっははははははははははは!!……く、くくっ、ぷふふーーーーーーーーっ!!!」


 レオは腹を抱え、一頻り笑い声を上げた。


「ふ、ふふふ、くくくくくくっ、はー、…………いつから知ってたの?」


 上がった口角とは対照的に、下がった声色。

 レオの影を足場にしたまま、黒い蔦が天井高くまで伸びていき、その尖端を大きく膨らませた。

 ふわふわと空中に揺れる様は、まるで風船のようである。


「もしかして、最初から?少なくとも、皇帝は知ってそうだよね。そうじゃなきゃ、国家機密の作戦に、初対面の私達を関わらせる筈がない。大方、魔族かどうか確かめて、討伐するのが目的かなとも思ったけど、本命は私だったか。正体がバレるのは想定内とはいえ、何かに利用されるのは気分悪いよね。……あーあ、私ってば何に利用されちゃうのだろう。身代金目的かな。いやいや、皇族がそんな安っぽいことしないか。とすると、戦争目的?何かしら、取引材料には使われそうだよね。あー、人間って怖い。本当に怖いわぁ。でも、そんなこと言っちゃダメだよね。君達だってお仕事な訳だし。こんな夜遅くまでお疲れ様です!うっす!でも私も、簡単に利用されるほど安くはないのですわ。お嬢様としての誇りを貫いてみせますわよ!……みたいな?あはははははは!!はい、パーーンッ!!」


 風船が破裂し、中身(・・)が落下していく。

 それ(・・)は酷くしなやかな、一本の棒のようであった。

 周囲に散らされる赤と共に、無機質に、無抵抗に、唯々静かに舞い落ちる。



「っ、エリザぁぁあああああ―――――ッッ!!!!!」



 その名を叫びながら、クラウディアは歪んだ表情で足を動かした。

 床に落ちる寸前で抱き留め、愛しき彼女を見下ろす。

 右腕と右脚が欠損したその姿に、クラウディアの瞳が絶望に揺れた。


「くふふ?なんか気になってたみたいだし、それ、返すね?」

「あ゛、っ、エリザ……!」

「大丈夫。多分まだ生きてるから、希望を捨てないで?いやー、今思うとね、悪い事しちゃったなって少し反省してるんだ……。だからこうしてお返ししてる訳で。……流石にさ、右腕と右脚はダメだったよね。バランス悪くて動きにくくなっちゃうし、右腕と左脚とかにすべきだったかも……。本当にごめんね?」


 申し訳なさそうに眉尻を下げ、小首を傾げるレオ。

 刹那、空気が叫喚(きょうかん)する。



「っ、――ぅあ゛ああああああぁぁぁぁぁああああ゛あ゛ッッ!!!!!」



 物陰からベティーナが飛び出し、半狂乱になりながらレオへと剣を振るった。

 しかし、剣先がレオの脳天に直撃する間際、辺りに風魔法が吹き荒れ、硬質な音と共に剣戟が防がれる。


「ダメでしょう。そんな物騒な物、幼子に向けるだなんて」


 泣き腫らした顔に似合わず、その声は冷静で。

 アルバートは短剣1つで、ベティーナに応戦する。


「……おや」


 レオは目を瞬かせ、その様子を見つめた。

 僅かに逡巡しながらも、直ぐにまた笑みを浮かべるレオ。


「ふふふ。一度くらい殺されても良かったけれど、アリエルに防がれてしまった。残念だったね、ベティーナ。というか、帝都までの道中、仲良くやってたのに酷いじゃないか。もう少し情とかない訳?エリザは葛藤してくれたよ?く、ふふふ?」

「貴、様ぁぁあああああああああ゛ッッ!!!」


 激昂しながら、荒々しい剣戟を重ねるベティーナだったが、アルバートによって全てを弾かれる。

 驚愕であった。

 短剣1つで易々と応戦され、それが良くも悪くも、ベティーナに僅かばかりの冷静さを戻らせた。



「――静まらぬか雑兵(ぞうひょう)がッッッ!!!!!!」



 クラウディアの一喝。

 場は一瞬で沈静化し、ベティーナもまた後方に跳んで口を閉ざした。


「そこの小娘。私の指示なく動くとは、いい度胸であるな。……後で覚悟しておけ」

「はっ!申し訳ありません!」


 険しい表情で敬礼するベティーナを見遣り、次いでクラウディアは大広間の奥へと視線を向ける。


「マリウス。死ぬ気で生かせ」

「……やれやれ。今日は患者が多い日ですね」


 大広間から、マリウスとルイーゼが姿を現す。

 ついでに廊下の方からは、レオを興奮気味に見つめるフランクと、彼の秘書であるティーナ、少年騎士ダミアンの姿もあった。


「ふふ。気付いていたけれど、みんな覗き見るのが趣味なんだねぇ?それにマリウスは、やっぱりそっち側かぁ」

「すまないね、レオちゃん。騙したかった訳ではないんだけど……」


 マリウスは、横たわるエリザの傍に移動した後、眉尻を垂らしながらレオに謝罪した。

 レオは微笑みながら首を振り、「気にしないで?」と一言。

 それに対して、「ありがとう」と返すマリウス。

 互いに表面的な言葉を吐き合い、マリウスは施術に移る。

 そこで、奇妙な現象に気付いた。


「……え?」


 思わず、マリウスは眉を顰める。

 開いたままのエリザの傷口から、何故だか血が止まっていた。

 はたと目を見開いて、レオの周囲に転がる騎士達を見遣る。

 彼らもまた死に瀕している筈だが、よくよく見ると、両脚を切断された割には出血量が少ない。


「レオちゃん、これは一体……」

「ふふふ。……ねぇ。ここからが私の提案なのだけれど、聞いてくれるだろうか。君達は、彼らの命か、私の提案か、――どちらを選ぶのかな」


 愛らしい幼女の声で、悪魔のような甘言が紡がれる。

 その場の全員が、レオに視線を注いだ。

 死に瀕した多くの騎士は、諦めかけていた生の可能性に心を揺さぶられる。


 次いで、



 ――ドッカァァアアアアアアアンッッ!!



 爆裂音と断末魔の叫びが、一階のどこかで響いた。


「おや。……ジークが来たみたいだね」


 そう小さく呟いて、レオはくすりと笑うのだった。




今月中に、もう1話更新予定です。

面白かったら「いいね」ボタンお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 父様、感動の再会!!\(*´ `*)/ 淡い日々の想い出からの落差が凄い。思わず目かっ開きました。この勢いが最高です。ありがとうございます。 [一言] ジークとの再会も楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ