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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第三章 バルダット帝国編

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能力実験。―1

「――これでいいかな?」


 とりあえず、この前の様に床を創れと言われ、下から闇を引っ張り上げて足場を創る。

 大賢者達は瞳を輝かせながら床へと降りると、興味津々といった風に触り始めた。

 私の声は、既に彼らの耳には届いていないらしい。


「はぁあっ!!!」


 突然、バルーナが床を一殴り。

 ……穴が開いてしまった。


「――弾けろ」


 突然、ロイが床に向かって魔法弾をぶち込んだ。

 ……穴が開いてしまった。


「行き成り何してくれてんの?」


 という私の疑問などお構いなしに、彼等は言う。


「何だ。案外脆いですのね。ガッカリだわ」

「おい!!昨日の硬さはどうしたよ!?本気でやれっ!!」

「……壊した挙句、クレームかい?上級者だね」


 ロイは兎も角、バルーナ素手って……。

 簡易的なものだったとはいえ、こいつら本当常識外れだわー。

 というか、創れと言われたから創ったのに、それを断りもなしに壊した挙句この態度。何この理不尽……。

 私は溜息を吐きながら床を修復すると、魔力を多めに闇へと流し込み、最高強度に練り直した。


「はい、どーぞ。これが今の私の、想像力の限界。吸血鬼っていう名前から色々誤解されがちだけど、その本質は“創造”だ。闇とは即ち無であり、それを操るという事は、無を支配するという事。無から有を生み出せるという事。つまり、無から想像して、有を創造する力。それが、吸血鬼の最たる能力だ」

「想像して、創造する力……。異世人のスキルの性質と、似たものがありますね」

「ふふ、確かにね。でも私……いや、吸血鬼の場合は、飽く迄も闇を操り、無に“有”という意味を与える事しか出来ない。創造されたものは、如何なる姿形をしていようと所詮は闇だ。けれど異世界人は――」

「完璧な無から有の創造だよねぇ。キシシ―」


 床に頬を付けて寝そべっていたクルッカが、笑い声を零しながら棒付きキャンディを噛み砕いた。

 それから、「2本目~」と言って白衣のポケットからキャンディを取り出すと、口に咥える。


「そうですわね。吸血鬼の場合は、無から有を創造するといっても、そこには闇という媒介がある。一方異世界人の場合は、媒介となるものが何もない。その者の能力の性質にも寄るけれど、理を完全に無視した“異能力”」

「異能力?」

「極めて特異且つ珍しい能力の事を特殊スキルといいますが、異世界人以外にもこういったスキルを持って生まれてくる者は極々稀に存在します。そこで、彼らの持つ特殊スキルと差別化する為、異世界人のものを異能力とも呼ぶのです」

「へぇ」


 シーファの補足説明になるほどと頷く。

 確かに、ややこしいもんね。


「おい!!んな事より実験だ実験!!やんぞオラ!!」


 痺れを切らしたロイが叫ぶ。

 我慢のない子だなぁ。

 まぁ、私としても早く帰りたいところだし、別にいいけれど。


「カッハッハ!!おーし、テメーら。床から離れてろ」


 一足先に宙へと浮くロイに倣い、全員お爺ちゃんのいるところまで飛んだ。

 ロイは床へと翳した手の平に、膨大な魔力を込め始める。


「最大威力でいくぞオラァァアアアアア!!!消し炭になれや、糞がぁぁぁああああああっっ!!!!」

「ええー……」


 ボールの様に球体化した魔力の球を、喜々とした怒声と共にドッジボールの如く投げ付ける。

 ……床一面に大きな亀裂が入り、小さいながらも穴が開いた。

 え、マジで?無詠唱でこれ?

 昔は、これに傷を付けれる人とかいなかったのよ?

 700年の間に、進化しすぎじゃない?

 ていっても、700年だもんなー。そりゃ進化するかー。

 鎌倉時代から現代の日本だもんなー。

 麦飯からパエリアレベルで進化するわー。

 そりゃ魔法もエッグベネディクトしちゃうわー。


 ……何百、何千年と生きる超長寿の種族が普通にいるこの世界だと、数百年が軽いものに思えてくる今日この頃。

 私も染まって来たなぁ……。


「カッハッハ!!これでこの程度の破損かよ!!面白れぇなオイ!!カッハッハッハッハ!!」

「……いやいや。十分凄いからね?」


 次からは、雑魚の相手以外は防御壁を二重にしておこう。うん。


「防壁でこの硬さって事はぁ、攻撃力もこのレベルって事ぉ?」

「まぁ、そうなるね。闇を物質化して攻撃する訳だから、その時の硬度もこれが限界という事になる。……さっきまでは、だけど」

「どういう意味~?」

「この能力は、使い手の想像力によって大きく左右されるんだけど、視覚的にイメージ出来る形なんかは想像しやすくても、感覚的な硬さとかって想像しにくいだろう?だからこの場合は、直接刺激を受けて感じてみた方が計り易い。つまり、防御壁が破壊されるたびに、私の持つ硬いイメージが更新されるという訳だ」

「わ~お。本当に出鱈目な種族だねぇ」


 「キシシ―」と笑いながらも、その顔には僅かに動揺が浮かんでいた。

 いつも飄々としたクルッカらしからぬ、珍しい表情だった。


「カッカッカ!!面白れぇなオイ!!つーことは、俺は災厄の化け物を、更に強化しちまったっつー事か」

「ふふふ、どうもありがとう?」


 片手で顔を覆いながら、心底面白そうに笑うロイ。

 何がそんなに可笑しいのだろうか。


「――では、次は私でよろしくて?」


 床へと降りた後、バルーナが胸元に手を当てて、優雅な微笑と共に小首を傾げた。


「硬度を測るのは不毛だと分かりましたし、お次は血液操作について知りたいですわ」

「いいよ?」


 こくりと頷く。

 私の了承を見届けるや否や、バルーナは嬉しそうに手を合わせて「シーファ」と呼んだ。


「……御自分でも出来るでしょうに」


 名を呼ばれたシーファは、怪訝そうな顔で溜息を吐き出す。


「数は」

「20程」

「……多いですね。適当に選んで良かったですか?」

「あら、駄目よ。……うーん、そうですわねぇ?3番庫の……、左から順番にお願い。貴方なら余裕でしょう?」

「簡単に言ってくれますね。……まぁ、そうですが」


 意味の分からない遣り取りを行うシーファとバルーナ。

 それからシーファは、瞳を閉じて何やら意識を集中させると、右手を左側に突き出して、ゆっくりと右へと移動させた。

 その手が一線、横へと移動するに従って、周囲に魔力が蠢く。

 右手が自身の右真横に伸びきったのと同時に、シーファは静かに瞼を開け、魔力が籠った声で一言だけ呟いた。

 

「――来たれり」

「っ!?」


 その瞬間、広間の至る所から魔物が出現。

 といっても、正確には魔物の死体だ。

 色んな意味で、目が点となった。


「これは……?」

「私の作った魔物のゾンビですわ。まだ生命は吹き込んでいないので、今は唯の死体ですけれど。……ああ、ちゃんと防腐魔法と消臭魔法は掛けてますので、臭くはないわよ?逆に、フローラルの香りを付与していますので、香の代わりにもなりますわ」

「いや、別にそこはどうでもいいんだけど……」

「他にも、ローズ、ミント、果物の香りなど、色んな種類のゾンビがいるわ」

「え。種類って、そういう意味の種類なの?」


 ゾンビのタイプとか、そういうのじゃなく?

 芳香剤代わりにゾンビとか、シュール過ぎる……。

 って、そうじゃなくて。

 ……こいつ、ゾンビとか作ってんのかよ。

 中々にサイコパスだな。


「臭いの改善を繰り返してる内に、どうせならいい香りのするゾンビの方が素敵だという事に気付いたのよ。けれど、香りの種類を増やしてみたのはいいのですけれど、匂いが混じって気持ち悪くなるのが難点でしてね。スペースは取ってしまいますが……、保管倉庫をゾンビの匂い毎に分けましたわ」

「うん。色々思考がおかしい」

「因みに、今回のフローラルゾンビ達は3番庫から。個人的には、5番庫のピーチゾンビがお勧めね」

「最後にゾンビが付いてる時点で、可愛い要素が全て弾け飛んでる事に気付こうか」

「でも――、ピーチゾンビは甘い匂いが強すぎて、大勢呼ぶとちょっと酔ってしまうのよね。今後の課題だわ」

「ねぇ。もっと別の研究しな?あと、人の話聞いてる?」


 頬に片手を当てて、悩まし気に吐息を吐くバルーナ。

 広間に充満してきたこのフローラル臭も、結構キツイものがある。

 ……うっ、酔って来た。


「だから多いと言ったのです……」


 そういう意味だったんかい。

 眉を顰めながら鼻に手を当てるシーファを横目で一瞥しながら、乾いた笑いが零れた。


「それでは始めましょうか。――クルッカ」

「はいよ~」


 シーファに続いてバルーナから指名を受けたクルッカ。

 寝そべったまま間の抜けた返事を返した後、クルッカは咥えていた棒付きキャンディを手に持ち直し、ごろんと仰向けの体勢をとった。


「ふんふんふ~ん♪ふんふふふ~ん♪」


 気怠そうな姿勢で鼻歌を歌いながら、飴をチョークの様に使って空中に術式を描き出す。

 飴の動きに合わせて、空中に魔力が宿った文字が浮かび出すのだから、何とも不思議な光景である。


「ふい~。でーきた~」


 その言葉を合図に、術式が光りを放った。

 そして、……周囲に満ちていたフローラルな香りが、消えた。

 呼吸が、とてもしやすい。うむ。


「クルッカ!?折角の香りを消さないでくださる!?消臭魔法の付与なんて頼んでいないわよ!?」

「だってぇ、臭かったんだもん~。……あ、ちゃんとゾンビ達も動くようにしてるから、安心してね~。キシシー」


 役目は終えたとばかりに、再びうつ伏せになるクルッカ。

 周囲を見回すと、ゾンビ達がわらわらと動き始めていた。

 命令が無いからか、大きな動作は行わないものの、動く死体というのは何とも気持ち悪い。


「もしかして、今のでこれだけの数を?」

「御丁寧に一体一体に掛けてたら非効率的でしょぉ?20体分も同じ術式書くの大変だし~。だからぁ、必要な術式プラスぅ、複製魔法の術式も同時展開させるとぉ、楽ちんになるんだよぉ」

「……ということは、ゾンビ達用に傀儡魔法、消臭魔法、複製魔法を展開させつつ、ついでに広間全体にも消臭魔法の付与ってところか。しかもゾンビに付与した3つの魔法は、一つの術式だけで纏めていた。……ふふふ。複合方法がさっぱりだよ。なるほど確かに天才だ。流石は最年少で大賢者になっただけのことはある」

「キシシー。照れますなぁ」


 私の方が魔力量は上とはいえ、魔法は技術に依存する面が非常に大きい。

 しかし、いくら技術を磨こうが、これ程のレベルに達するには並外れた才能も必要不可欠。

 ……全く。どいつもこいつも、化け物染みてんなぁ。


「それで、このゾンビをどうすればいいのかな?」

「まずは一体、血を操る能力で破壊してみてくださいな。……ああ、リアル感を出す為に、血液は通ったままですわ。私の目標は、より生体に近いゾンビを、ですから」

「リアル感といい、匂いといい、変なところで拘りが強いよね、君。……まぁ、別にいいけど」


 呆れたような顔で溜息を吐き、私は何の動作も無しにゾンビ一体を破裂させた。

 パンッ、という突然の破裂音に、一瞬目を見開かせるバルーナ。

 それから破裂したゾンビの方へと、冷や汗が浮かぶ顔で視線を向けた。


「……予想以上ですわね。リヒトが死骸を見て、仮面の子供を危険視したのも頷けるわ」

「ふふ、ありがとう」

「はぁ……。ゾンビ達には自己治癒力強化の魔法を掛けていたのですけど、これでは無意味ね」


 残念そうに額に手を置くバルーナ。

 破壊しろって言ったのはそっちなので、私は悪くないと思う。


「でも、よく分かったわ。治癒力が追い付かない程の破壊力、という事ね」

「瞬殺するのが主な用途だから、まぁそうなるかな?」

「ふむ……。腕や首が切れてもくっつくレベルの治癒力では、ミンチ状態には対処は不可能だものね。細切れになった状態から復活させる為には、やはり細胞レベルで修復する様な高度なものを……。いいえ、治癒力の強化レベルでそれは無理ね。となると、やはり――」

「おーい、戻ってこーい」


 何かその内、不滅のゾンビ集団とか作り出しそうだなー。

 どれだけ切り刻んでも修復し、疲労も苦痛も感じない、正に恐怖の屍兵。

 とか思っていると、我に返ったバルーナが、勢いよく私へと顔を向けてきた。

 その瞳は、何だかとても……キラキラしていた。


「――貴女、再生力を見せてくださらない?」

「わーお。私としたことが、フラグ立てちまったぜチクショウ」


 しかもこれ、絶対回収されるやつ。

 私は天を仰ぎ見ながら、小さなお手々で額をペチッと鳴らした。



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