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魔王をやめよう。-魔王令嬢冒険記録-  作者: A46
Chapter1. 魔王が倒されたので、住所不定無職になりました。
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魔王の素質その4 波乱の1日も余裕の表情で乗り切る

お嬢様の浮遊魔法で地上に降り、廃屋の調査を始めます。


「使えそうなら、この家をひとまずの拠点にするのもいいかもしれないわね」

「二人の愛の巣、ですねお嬢様」

「あ、アイノス…?何かしらそれは」


お嬢様はこの手の知識には疎いので、しばらくは言い放題ですね。


結局、ドアの鍵を魔法で溶断した上でお嬢様が家の中を、わたしが家の周辺を探索することになりました。


ここは魔王城の街から伸びる街道を外れて、小道を行くとたどり着く小さな村の外れ。遠くに村の灯りがぽつりぽつりと見えてはいますが、辺りはほとんど真っ暗です。


なので、いくつかの光の球を自分の周囲に展開する基礎的な魔法で明かりをとり、家の裏を調べてみました。


すると、裏には薪棚があり、薪が半分弱くらいまで積まれていました。そして、薪割りをするだけなら明らかに不要な、大小さまざまの斧やナタ、ノコギリなどが壁にかかっているほか、丸太も何本か隅に積まれています。木樵(きこり)の家だったのでしょうか。


屋内に使える暖炉があれば、この薪で明かりと暖をとれます。薪を二、三本かついで、ドアを開けてお嬢様を呼んでみました。


「お嬢様ー、薪がありましたよ。暖炉か何かありませんかー?」


すると、真っ暗な家の中から、咳き込むような声が聞こえて来ました。


「お嬢様、大丈夫ですか!?」


とっさに薪を投げ捨てて駆け寄ると、お嬢様が激しく咳き込みながら座り込んでいました。なるほど、かなり埃っぽいです。


「た、タレイア……"アレ"お願いできる?」

「はい、ただいま」


"アレ"。風属性と闇属性をミックスして生成した「埃を消し去る魔法」です。城内のお掃除で重宝しました。


意外でした?わたしだって結構魔法使えるんですよ?戦闘の役には立たないものばっかりですけど。


「空気が綺麗になったわね、ありがと——ほいっと」


わたしがさっき使った光の球を出す魔法も、お嬢様の手にかかれば無詠唱でわたしよりも明るく周りを照らせるのです。


ほとんど室内照明と変わらない明るさで照らし出された室内を見回すと、暖炉もしっかりありましたし、暖炉のそばのロッキングチェアには毛布が畳んで置いてありました。


「毛布がありますね、ほかの部屋とかにベッドってありました?」

「あったけど、木の部分だけよ。カーペットがある分、寝床にはこっちの方がマシかもね」

「そうですか——ですが、ここを拠点にするならしっかりと休めた方がいいですよね。あの村で寝具って買えますかね……?」

「食料もないし、とにかく明日は村に行ってみましょ。今日は疲れたわ。タレイアも疲れたでしょうし、もう寝ましょ」


玄関から持ってきた薪を暖炉に放り込んで魔法に日をつけると、お嬢様はロッキングチェアに置いてあった毛布を広げ始めました。


家である魔王城を追われて、父親を失って、魔王を継いで、それを捨てて、ここに落ち延びて——とても1日の間の出来事とは思えないようなイベントを駆け抜けて、それを「疲れた」の一言で済ます。それも、また魔王らしいですよね。


「お嬢様、横になってお休みになりますか?でしたら私がこの椅子で——」

「タレイアったら何言ってるの。こっちに来て、一緒に一枚の毛布にくるまりましょ。一度やってみたかったの。タレイアだって本当は——そうしたかったんでしょ?」


暖炉の火を背に、毛布を広げて頬を赤らめるお嬢様があまりにも可愛くて、自分でも驚くほどの嬌声で「はいっ!」と言ってしまいました。


毛布は一枚でしたが思ったよりも大きく、密着といえるほどの距離感ではありませんでした。ですが、お嬢様の寝息が聞こえ、またその微弱な風圧を感じ取れる距離であることには間違いなく。


初めてこんな粗末な寝床で眠っているのに、どこか幸せそうなお嬢様の寝顔にキスをしてしまいたい衝動を抑えながら、わたしも眠りにつきました。


おやすみなさい、お嬢様。

ずっと一緒にいさせてくださいね。

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