表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王をやめよう。-魔王令嬢冒険記録-  作者: A46
Chapter1. 魔王が倒されたので、住所不定無職になりました。
2/9

魔王の素質その2 原野を地平線まで埋め尽くすほどの眷属を持つ

 6年。そう、6年です。

 わたしはもう既に6年間、魔王城でお仕事をしています。


 あれは11歳のとき。母の急死をもって、わたしには「親族」がいなくなりました。


 その数年前に病死した父が教師だったこともあり、貧しいながらもわたしの教育に何よりもお金をかけてくれていた母は、わたしが学校を卒業するまでに必要な学費を残しておいてくれていました。


 しかし、葬儀や手続関係で色々と面倒を見てくれていた親切な——表向きは親切そうに振る舞っていた近所の老夫婦、その実態は親を亡くした11歳の少女をも餌食にする卑劣な詐欺師の術中にまんまとはまり、その学費を全部持って逃げられてしまいます。


 教師であった父に「教育は何より大切だ」と刷り込まれていたわたしは、なんとしても学校を卒業しなければ、そのために学費を稼がなくては、と思い立ち、魔王城で働くことを決意したのでした。


 ここで、一般に魔王城で働くことに対する世間の認識は次のようなものです。


 ① 賃金はとても高い

 ② 仕事もそこまでキツくない


 そして最も重要なのが、


 ③社会的評価が最底辺


 というものです。

 魔王城勤務の社会的評価のわかりやすい相場として、こんなものがあります。



「魔王城での職歴は、同じ長さの投獄歴と同列に扱われる」



 なので、転職は絶望的です。どうにかペルセフォネーお嬢様に生涯お側に置いていただかないことには、わたしはのたれ死んでしまうことでしょう。


 ——どうしてそんな仕事を選んだのかって?


「持ち物がみすぼらしい」というところから始まって入学当初からいじめに遭い、母の死を経験する頃には「いじめられているのが普通」という状況にまでなっていたわたしにとって、魔王城は単なる「やたら給料の高い仕事」にすぎませんでした。


 なにせ、少なくとも学校における地位はこれ以上落ちようがない水準でしたし、失うような信用なんて元々持ち合わせてなどいませんでしたから。


 失うものがない人は、時としてしたたかに動くことができるのですよ。




「タレイア、移動するわよ」


 悲しい過去のことを思い返していると、そうお嬢様が声をかけてきました。


「は、はい、かしこまりましたお嬢様。ですが——どちらへ?」

「街の外の適当な野っ原でいいわ。父様の配下たちに二、三言うことがあるの」

「配下の皆さんに——?」


 そう尋ねると、お嬢様は歩き始めてから口を開かれました。

 それに合わせて、私も足を踏み出します。


「そうよ。配下たちにこれからのことについて指示するの。タレイア、”鈴”は持ってる?」

「はい、なんとかメネラオスさんに持ち出してもらいました」


 鈴。

 その呼び名の通り、握りこぶしほどの鈴をかたどったハーデース一族秘伝のマジックアイテムです。魔王ハーデースの眷属以外にはその音が聞こえないかわりに、眷属であればどこにいようとその音を聞き取ることができます。この特性から、基本的には魔王が配下=眷属を集めるために用いられます。


 ”鈴”を魔王の寝室から持ち出してきてくれたメネラオスさんというのも眷属の一人、いわゆる黒騎士さんです。



 さて、お嬢様の言いつけ通りに街の外の原野にやってきまして、"鈴"で眷属を集めました。


 お嬢様と一緒に、廃屋の屋根の上から集まった眷属たちを眺めてみますと、なるほど、禍々しい限りです。

 黒騎士、黒魔道士、アンデッド使い、霊媒師、協力関係にあった盗賊たち——このあたりまでは人間です——、そしてゴーレムや姿形さまざまな無数の魔物と、それを世話する奴隷たち(といっても、衣食住は保証されていましたし、給料も出ていたようです)。


 それらが、地平線近くまでひしめき合っているわけです。


 今でこそ「壮観だなぁ」くらいにしか思いませんが、一部の魔物はとんでもなく気色悪い外見をしていたり、この世のものとは思えない悪臭を放っていたり(出典:『魔王ハーデース13世討伐記』)なので、6年前のわたしなら消化器官の中のものを全部吐き出して気絶し、その吐瀉物の中に倒れ込んでいたことでしよう。


「集まったわね」


 6年前のわたしが陥っていたであろう状況をあまりにもリアルに想像しすぎて本当に吐きそうになっていたところに、お嬢様の声が響きました。


 ちょっと声を大きくして話しているだけのようにも聞こえますが、魔法によるアシストによって地平線付近の眷属にも同じ音量で聞こえています。


 それにしてもやっぱり、お嬢様の声は吐き気も瞬時に抑え込む、ココロ清涼剤です。歌もお上手なんですよ。


「魔王ハーデース19世の眷属に、唯一の魔王位継承権者である私から、直々に意向を伝えるわ」


 さあ、後々まで語り継がれることになる名演説の始まりです。なんてね。

 ——もしかしたら、本当に、ありえるかも……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ