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魔王をやめよう。-魔王令嬢冒険記録-  作者: A46
Chapter1. 魔王が倒されたので、住所不定無職になりました。
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魔王の素質その1 親が燃えても取り乱さない

 ああ、燃えている……燃えています。わたしの青春時代の思い出の品々が。


 ベッドも、本も——

 6年前にはからっぽで、でも最近ではモノがぎっしり詰まっていたチェストも——


 多分、跡形もなくなっているでしょう。

 もっとも、建物は石造りなので、ハコだけは残るんでしょうけどね。


 いつのまにか、日が暮れていました。

 気づかなかったんでしょうね、目の前で巨大な建物が盛大に燃えていたわけですから。


 遠くから聞こえてくるのは、お祭り騒ぎの喧騒。

 楽器の奏でる音楽、それに合わせて歌う声、酒を飲み、料理を食べ、盛大に笑う声。


 普通の神経をしていたら、ひとの家が燃えている時に何やってるんだ、ってなりますよね?


 ところがどっこい、街の人々は消火活動もせずに、燃え盛る建造物を眺めながらどんちゃん騒ぎ。


 まあでも、当然ですよね。

 だって——





 今燃えてる”わたしの家”、魔王城ですし。



 というわけで、わたしタレイア17歳、魔王城労働者。家と仕事を失いました。

 唯一の救いは、現金だけはしっかり持ち出せたことですね。


「お嬢様、どうするんですか、これから」


 わたしは隣で魔王城の炎上を眺めている少女——わたしの主にして、おそらく今頃城内で焼死体になっているであろう魔王ハーデース19世の一人娘、ペルセフォネーお嬢様にそう尋ねてみました。


「こう焼かれちゃうと、これもう多分売れないわよね……」

「お城、売っちゃうおつもりだったんですか?」

「当たり前じゃない。魔王じゃなくなったらただ掃除が面倒なだけの無用の長物よ」

「やっぱり、お止めになられるのは変わらないんですね……」


 ペルセフォネーお嬢様は、とても優秀なお方です。

 容姿・知性・武芸のいずれにも優れ、魔王城の城下町においては"Et Persephonee”、つまり「ペルセフォネーのよう」という言葉が「才色兼備」という意味で用いられるほど。お側に仕えていると、本当に実感します。


 ですが、そんなお嬢様の短所をひとつ挙げるならば。


 それは、魔王という仕事に対するやる気が、まっっっっったく無いことのほかに無いでしょう。




 この世界における魔王は一人ではありません。国の面積や人口にもよりますが、だいたい2,3か国から5か国に一人くらいが相場かと思われます。

 ですが、魔王が全然いない平和なエリアがあるかと思えば、広くない国内に5人も10人も魔王が群雄割拠している、ほぼ文字通りの魔境のような国もあったり、まちまちです。


 そして継承制度。先代からの指名、先代の部下たちが選挙し選出、力で奪い取るタイプの地位など多岐に渡ります。わたしの仕えていたところは、比較的オーソドックスな世襲制でした。


 この、わたしの仕えていた魔王の一族。歴代魔王が「ハーデース◯世」を名乗ることから、以下これを便宜上「ハーデース一族」あるいはその魔王統を指して「ハーデース朝」と呼ぶことにします。



 さて、このペルセフォネーお嬢様、ハーデース一族の最後の一人にして、ハーデース朝唯一の魔王位継承権保有者です。

 そして、そのお嬢様が、魔王の位に就くことに興味をほとんど示してこなかったわけです。


 そこに今回の討伐。

 わたしも初めてのことで、古くから仕える黒魔道士さんに聞いた話の受け売りなのですが、これは当分潜伏生活コースだそう。

 お嬢様もそんな地下生活みたいなのは嫌でしょう。わたしだってできれば経験せずに一生を終えたいと思っていました。


 そもそも、普通に考えて、魔王討伐したのに直後に次の魔王が、それも14歳の女の子が即位なんてしようものなら、残党狩りに遭ってあっさりオダブツですよね。晴れてハーデース朝は滅亡します。


「——タレイア?」

 そんな風にして、これからのことについて考えようとした矢先、お嬢様がお声をかけてきました。


「——なんでしょう、お嬢様?」

「ハーデース20世なんて呼んだら、いくらタレイアでもタダじゃ済まないわよ?」

「大丈夫ですよ、仮にお嬢様がそう呼べとおっしゃったところで、しばらくペルセフォネーお嬢様と間違えてお呼びしてたと思います。なにせ、もう6年間のお付き合いですから」


 数秒間の沈黙の後に、「違いないわね」といって微笑むお嬢様。


 こんなこと申し上げたらお嬢様は怒るでしょうが——目の前で実父が城ごと燃えている状況下でそんな風にしていられるメンタル。これ、間違いなく魔王の資質ですよね。

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