王都ナミハ1
あけましておめでとうございます。
ダラダラと続いておりますが、徐々にブクマも増えてその度に歓喜しております。
本年もお目汚しですが読んでいただければ幸いです。
皆様にとって本年が良い年でありますように。
ウェルバサル王国の首都となる王都ナミハは、おそらくこの世界での人間による都市の中で最も大きく最も人口の多い都市である。
中央に城を戴き、街は三重の水堀で囲われている。堀とはいえ、その幅は広く水運に利用され多くの船が行きかい都市の動脈としても機能している。各堀の内側に配されている防御壁は5m程度の高さであり、オワリの街を見た後だと頼りなくも見える。
外縁の外堀のさらに外側にも建物が並び、街がさらに拡大しているのが分かる。こちらは外からの防御に最低限の木の柵が設置されているだけだ。城壁の外とはいえ、街のすぐ傍であるため危険は少ないのかもしれない。
タケルたちは装甲車にエンフェルムから借り受けてきた、緑地に白で紋章の描かれたフジ最高評議会の国旗を装甲車の両側に掲げて、王都へと入城した。
魔法で連絡が入っていたためか、儀典官がすぐに城門に現れ、馬車で先導し両脇と背後には警護の騎士が随伴してくれた。
早朝という時間でもなかったため、往来には人通りも多く、露天商なども出て賑わっていたが、この一行が姿を現すと、皆各々の手を止め一行、特に異形の馬に引かれるエルフの旗を掲げた鉄の巨大な馬車を見続けた。
豪華さの点で言えば先導する王室の馬車が上であろう。しかし、並べると分かるその巨大さと、底知れぬ威容は、凶暴な獣がなりを潜めているといったイメージを民衆は敏感に感じ取っていた。
グレイヴは案の定、城に入るのは嫌がったので装甲車の警備を任せた。とはいえ、やることは装甲車の上で寝ることだけだが。装甲車が大きすぎて城内の馬車用車庫に入らないため、その横の日陰に停めたので窮屈さはないようだ。
王に謁見とあっては、色々と準備が必要で、タケルたちも鎧のままというわけにはいかず、着替えることとなった。アルラとヒミコはパーティの時のようなゴスロリ系ドレス、タケルはエンフェルムに借りた礼服を着た。ヒミコに言われ、念のためにショルダーホルスターに拳銃を入れた。
公爵家での事があって相当警戒しているようだ。
謁見は盛大なものであった。むしろ盛大すぎて、こちらが3人しかいないのが申し訳なかった。
それは向こうも同じだったようで、エルフの特使でお姫様が向かっているからには、それなりの人数の使節団が来ると構えていた節がある。
ベルツェビエからの情報が完全ではなかったのか。それとも、こちらの到着が予想よりも早すぎて、情報が行き渡らなかったのか。
なんにせよ、結果として広々とした謁見の間にてかなりのスペースが空白のままウェルバサル王と謁見する事となった。
そこで今度はタケルたちが驚かされることになる。
その玉座に座っていたのは20歳前後の女性だったからである。
いや、下手をすればまだティーンかもしれない。女性というより少女という形容でもしっくりとくる外見である。
金の王冠を頭に載せ、豪華な白のドレスに赤のマントを羽織り、金の錫杖を手にしているその姿は荘厳と言っていいかもしれないし彼女自身は美形と称していい顔立ちだが、多少くせっ毛のブロンドと、年齢からくる幼い顔立ちは、衣装が狙っている威厳というイメージと対極の、アイドルのような可愛さだった。
驚いてはいたが、アルラは立ち直りが早かった。それにどうやら知り合いらしかった。
儀礼的なことは全て任せる予定だったので、その間にタケルは周囲の様子をざっと観察した。
厳かな雰囲気だが、ベルツェビエのような堅苦しさはなく、どことなく穏やかな空気が感じられる。周囲には甲冑を着た騎士たちや、華美な服装の宮廷人たちがひしめき、室内の装飾も贅が尽くされ、その豪華さでこれでもかと圧倒してくるようだった。そういう意味でも質素で実用主義のベルツェビエとは対照的だった。
この部屋に集った人々には驚きの様子が見られないことから、どうやら、突然謁見の対象が代わった訳ではない事が見て取れたが、ではこの少女が女王なのだろうか。それならば先にアルラが教えてくれそうなものだが、驚いたところを見るとアルラも知らなかったようだ。
特に滞りもなく儀式は終わり、親書を手渡す実務協議に場は移った。
協議用の部屋に移動したのだが、こちらも豪華な内装と調度品に彩られていた。
両脇に衛兵が立つ分厚い扉は、防音は完璧だと言わんばかりの重さだった。
こちらに合わせたのか、相手方も3人しかいなかった。
王冠とマントと錫上を外した女王(王女?)と40代くらいの文官風の男、それに警護だろうか20歳くらいの武官風の優男だった。
席に着くと、まずは40代の男が口を開いた。
「遠路はるばるご苦労様でした。改めて自己紹介をさせていただきます。陛下の名代のルフナ殿下とそのお付のフォビッジ、私は顧問官のフィルピエでございます」
アルラが代表して答える。
「労いのお言葉感謝いたします。私は特使のアルラハーシア、こちらは同じく臨時特使のヤマトタケルとその従者のヒミコです」
アルラは怪しげな肩書きでタケルを紹介する。人間がエルフの外交使節なのだから、そのくらいの怪しげな肩書きくらいはいまさらという事なのだろう。
「ところで、私は親書を議長から直接陛下にお渡しするよう申し付かってきたのですが、こちらに出られないほど陛下の容態が優れないという事ですか?」
「ええ申し訳ない。国王陛下は容態が優れないため私とルフナ王女が代わりにお受け取りいたしましょう」
「そうも参りません。これはとても機密性の高く国家を左右する重要な内容です。言うなれば国のトップ同士のお話です。我々はこれを陛下が読まれた時に、ご質問があればそれに答え、お返事をいただく為に参りました。国王陛下の容態が重篤なものでなければ、回復を待ちましょう。どの程度のご様子で? 神官殿の治癒魔術の効果や医師、薬師の見立ては?」
「なんとも申せません。急いで来られた以上、火急の要件でもあるのでしょう。でしたら委任された私たちを信用していただくのが、解決への近道と存じますが?」
「信用とはまた別の問題でしょう。その時間がこうしている間にも過ぎているのです。陛下とお会いするのに数日なのか、数週間なのか、数ヶ月なのかによって判断は変わります。ですから聞いているのです」
「たとえ回復されたとしても、そのような重大な案件であれば、なおの事、陛下のお体に負担がかかるやもしれぬため、先に我らが伺おうというのです。国王陛下の体を慮ればこその申し出です」
「あなたは我々エルフをぐっ!」
アルラは突如、言葉を詰まらせ黙り込んだ。
アルラの左手に重ねられたタケルの右手を感じたからだ。
タケルを見ると、優しい目でアルラを見据え、首を緩やかに左右に振っている。
アルラはヒートアップしていた自らの頭が冷えていくのを感じていた。そして、感情に飲まれかけていた自分を恥じた。タケルが居てくれてよかった。
「アルラ、我々は協力の為に来たんだ。お互いの意地を張るためじゃない。ここは相手を信用しよう」
「ありがとう。そうね、任せるわ。お願いしていい?」
「ああ、拙いところがあったら教えてくれ。私は常識がないからね」
タケルの言葉にアルラが楽しそうに笑う。それはこの場に似つかわしくない柔らかい笑みであり、先程までのアルラとの豹変振りに目を疑うほどだった。
「さて、まずは前提を確認させてもらいたいのですが」
タケルはやんわりと切り出した。
「これからするお話は、本来であれば国王陛下にしかお話ししない内容です。ここにいるお三方はそれを聞く権限があるという事で宜しいですか?」
「その通り」
フィルピエが頷きながら答える。アルラに対してよりは傲岸な答え方になってしまうのは仕方のない事だろう。どうやら王女とそのお付は交渉には口を挟む気がないらしい。
「では、もしこの話が国王陛下以外の耳に入ることがあれば、国家としての信用を失くすこともご理解いただいていると考えて宜しいですか?」
「くどい」
「了解と受け取らせていただきます。では単刀直入に申し上げます。対ミーム帝国において、フジ最高評議会は全エルフとウェルバサル王国との同盟を申し入れる予定です。これを受けていただきたく申し入れに参りました。エルフ側の申し出としては、対帝国に関してのウェルバサル王国軍の大森林の無条件通行権と、ミクリ奪還戦においてのエルフからの戦力供出です。王国側への要求は一つ。ミクリ奪還戦を来春には行っていただきたい。王国側にとっては十分なメリットと考えますがいかがですか?」
王国側の3人が息を飲むのが分かった。
フィルピエは顧問官という地位に就いている。
王の信頼が厚いという事でもあるが、昨今においては王と同等の権力を持っているといっても過言ではない。王の命令は顧問官を通じて発せられているからである。
その信頼は、フィルピエの今までの実績と判断能力に因っている。内政と外交において王の意思を見事に反映させ、この国を繁栄させてきた手腕を買われているのだ。しかし、軍事に関してはややセンスのない事が分かっている。一度大きなミスをしているからだ。それは本人にも分かっており、その方面の判断に必要かも知れぬと思い、フォビッジを同席させている。フォビッジは姫のお付という地位ではあるものの、王家の忠臣の嫡男であり、領地に戻れば一端の指揮官でもある。若輩ゆえに目立ってはいないが、その軍略や指揮官としてのセンスは群を抜いている。もちろん武技にも長け、護衛という側面も十分に満たしてはいる。
フィルピエはこの会談に臨むにあたって、姫とフォビッジに会談の予測を話してある。
おそらく、エルフの使者の来た理由はミクリ陥落に関係している事。そのため最悪のパターンは、エルフが戦火を逃れるためどちらにも関与しない中立の立場を宣言する事。これは専守防衛を維持して森を出ないエルフの行動から考えて、いかにもあり得そうな想定だった。
最悪の想定でなくとも、ただ楽しい雑談と友好を深めましょうというような楽観的な話にはならないだろうと。そのため、この会談の王国側の目的は、対帝国の戦争になんとしてもこちらの陣営でエルフを巻き込むことだった。
それが、向こうからこちらが望む以上の条件で同盟を持ちかけてきている。
話が旨すぎる。何かの罠かと警戒するほどに。
そして、フィルピエは思う。
この男は何者なのだと。
「本当に条件はそれだけですか? 正直な話、あまりにも王国側にメリットが多くて逆に信用できませんが?」
「条件は少なくとも冬までは極秘裏に進めていただくことです。これはエルフにとっても旧来の伝統を破ることになりますので時間が必要です。あと場合によっては、森の中を快適に通行してもらえるように、森の中の街道の整備に資材や労働力で協力して貰う事があるかもしれませんが、その程度です。エルフは平和を望む種族です。人間との共存を求めています。そのための礎と考えていただきたい。もちろん、戦争に関係のない民間の通行や、戦争終結後の大森林の通行に関しては、エルフ側に決定権や通行税の徴収権はあるものとします」
「わかりました。では前向きに考えさせていただきましょう。親書はこちらでお預かりします」
「いえ、親書は直接渡すように言われたことは変わりません。内容をお伝えしたのを信頼の証と考えてもらいたい。親書は国王陛下にお会いできた時に改めてお渡ししましょう。どのみち、ここでお返事をいただくことは出来ないのでしょう? 重大な案件だとは思いますが、エンフェルム卿は国王陛下のリーダーシップに期待をして早急なご返答をお望みです。返答の時間がかかるようであれば、国家の方針を変える必要も出てきますので。しばらくはナミハに逗留いたしますので、その間にご返答頂ければ幸いです」
タケルの言葉の意味をフィルピエは考える。
確定するまで言質は取らせないということか。もし返事を遅らせるようなら交渉相手を変えるかも知れぬと脅しているのだ。ベルツェビエあたりに直接交渉されまとまろうものなら、王家の権威は失墜し王国瓦解の危険すらある。最悪、当初の予想通り帝国に交渉の矛先を変えられれば目も当てられない。
ならば彼らを手放すわけにはいかない。
「では、この城にご逗留ください。部屋を用意させましょう」
「助かります。ご好意をお受けします」
タケルは素直に受ける。
ここに来て、初めてフォビッジが口を開く。
「一つお伺いしておきたい。先程、ミクリ奪還戦に際して、エルフより戦力供出の申し出がありましたが、その際の指揮権と戦力規模はどの程度なのか。これを聞いておかぬでは、来春攻勢の計画が立てられません」
なるほどもっともだ。フィルピエはフォビッジを同席させていてよかったと思った。たしかにエルフのロングボウ部隊は強力な戦力だが、どの程度の戦力でこちらの言う事を聞くのかによって大きく戦争計画に影響してくる。
「エルフ部隊は遊撃と考えていただきたい。よって指揮官同士での連携は約束できますが、あくまでエルフ部隊の指揮権はこちらにあると考えていただきたい。ただ、戦力規模に関しては期待していただいて結構。王国側の悩みの種をなくすぐらいには」
フォビッジが問う。
「我らの悩みの種とは?」
タケルは簡潔に答える。
「ドラゴン」
その名を聞き緊張が走る。
「既に聞き及んでいるとは思いますが、帝国側にはドラゴンがいます。おそらくミクリでの戦にも出てくるでしょう。それを我々で抑えましょう」
「バカな! ドラゴンを相手取るだと! 正気の沙汰ではない」
通常ならばドラゴンとは一個軍をもって対処するべきものであり、それでも被害を覚悟しなければならない。最も相手にしたくない敵である。
「我々には可能です。でなければこんな申し出はいたしません」
フォビッジとタケルの間に睨み合いにも似た沈黙が落ちる。
タケルには気負いも迷いもない。なぜなら事実を口にしているからだ。仲間に再戦を希求しているドラゴンがいるのだ。勝敗は別にして抑えることは可能だろう。いや、タケルが躊躇わなければ勝ちもゆるがないだろう。
それを知るアルラも同様に当然の事を口にしているとしか思っていないため平然としている。
ヒミコは最初から今まで表情一つ変えていない。
その揺るがぬ雰囲気に、フィルピエとフォビッジは自分たちが相手にしている3人がただの外交使節ではない事を感じ始めていた。この物言いと態度は、他でもない自分たちにその実力があると確信している者の言動だ。
なんとなく落ちた沈黙は軽い声で破られる。
「じゃあ、小難しい話はここまでね。アルラきれいになったわね。隣の人のおかげかしら?」
ルフナ王女は肩の力を抜いて声をかけてきた。
フィルピエとフォビッジ諦めたように肩を竦め王女を諌める気配はない。
丁度いい水入りと判断したのだろう。
実際、必要な会談は終わっている。
「あなたこそきれいになったわ。人間は成長が早いから見違えるわね」
「ねぇ、あなたオトコなんて眼中にないって言ってたじゃない。どういう風の吹き回しなの? しかも人間よ。どうやって認めさせてここにいさせてるの?」
「教えてあげてもいいけど、教えたら、あなたのお父様の容態とか教えてくれる?」
「それはダメ。わたしこれでも国家のじゅーちんだから」
「まあいいわ。どうせ知れることだしね」
軽くタケルに目で了承を取る。タケルは軽く頷いて同意を示す。
その仕草にも王女は反応する。
「なに、もう連れ添った夫婦みたいじゃない? まさか結婚でもするの?」
「ええ、タケルはわたしの正式な伴侶と認められているのよ。だからエルフと人間の同盟の使者には最適だ、なんて理由で送り出されたわけよ」
この発言には王国側の者は皆衝撃を受ける。
「どうして? どうやったの? 何があったの?」
特にルフナ王女は凄い食いつきだ。これは少女だからという理由だけではなく、同じ姫という立場の籠の鳥が、どうやってそんな自由を手に入れたのかを知りたいというのが大きいのだろう。
アルラはルフナ王女の質問を受け付けながら、タケルとの出会いからの物語を語って聞かせた。
ただ、ドラゴン退治の細部に関してはハイランドの新聞に載っている事に合わせた。後で齟齬があると面倒だからだ。先に新聞のゲラを読んでおいてよかった。何が幸いするかわからないものだ。
「へぇー」
ルフナは興味深げにタケルとヒミコを見る。他の二人も観察しているが、王女ほど無遠慮にはなれない。
冒険者とは多種多様な者たちなので、そう言われれば納得もするが、タケルは全く魔術師というイメージではないし、ヒミコも剣士というイメージにそぐわない。どちらかと言えば、ヒミコがどこかの貴族の令嬢で、タケルがお付の者という方がまだ想像できるのだが、実際には主従関係すら逆である。
「ねえフォビッジ、あなたから見てヒミコって強いの?」
「少なくとも只者でない事は分かります。移動する時に体幹が全くぶれていませんし、姿勢が乱れない。そして動作に無駄がないだけでなく、常に主人の死角をカバーして盾になれる位置取りをしています。武術の達人でもヒミコ殿の域には及ばないかもしれません」
「じゃあさ、二人が戦ったらどっちが勝つの?」
「分かりませんが、公平な試合ならヒミコ殿に分があるでしょう」
少し考える間をおいて返ってきたその答えにルフナだけでなくフィルピエも驚く。
フォビッジにここまで言わせる戦士が王国内にどれだけいるだろうか。
当然、ルフナの次の言葉は予想できる。
「ねぇ、二人で試合して見せてよ」
ルフナは無邪気に予想通りの言葉を発する。
それはそうだ。フォビッジにここまで言わせる戦士の実力を見てみたいのはフィルピエですら同じ思いだ。むしろ、当のフォビッジですら望んでいた気配がある。彼ほどになれば本気になれる相手というのは得難いものだ。
ヒミコはこの会談で初めて動く。タケルへと首を向けたのだ。それまでは置物のように微動だにしていない。
タケルは考える。ヒミコは人を傷つけることが出来ない。だが、ここでこの試合を受けて勝つことが出来れば、エルフがドラゴンに匹敵する力で援護するという先程の言葉に信憑性を与え、同盟締結の後押しとなるだろう。
「タケルどうするの?」
ヒミコが聞く。全員の視線がヒミコの主人であるタケルに集まっている。
タケルはルフナ王女に向かって言う。
「ヒミコには敵以外を傷つけない誓いを立てさせています。ですから試合は木刀での寸止め形式で良ければお受けいたしましょう」
「いいわよ。フォビッジはそれでいい?」
「構いませんが、全力を出したいので、できれば屋外での実戦形式でお願いします」
「じゃあ、時間もいい事だし、昼食を挟んでお昼3時頃に試合開始にしましょ。楽しみだわ」
「私は本気を出して勝ってもいいのね?」
ヒミコがタケルに問いかける。
「ああ、存分にやってくれ」
そこで、タケルは違和感を感じる。いつもならヒミコはこういう会話は電脳リンク回線でするものだが、そういえば会談中もヒミコ先生のワンポイントアドバイスが飛んでこなかったな。
タケルの表情から予測したのか、声量を落としてヒミコが答える。
「この部屋には防諜が施されているの。多分部屋の壁に金属を張り巡らした上で、波を阻害するECM系の技術が施されているのね。魔法による外部からの盗聴防止のためでしょ。だから今はリンクが切れた状態なの」
なるほど、とタケルは納得した。科学はなくとも魔法があるか。もうすこし魔法に詳しくなる必要があるな。
「食事の用意が整いましたのでどうぞ」
フィルピエが皆を昼食へと案内する。
フィルピエは今、午後の予定をどうキャンセルするかに頭を悩ませていた。王女の我侭で始まったこの二人の試合を是非とも見たいのだ。フィルピエは自分に軍才がないのは分かっているが、だからこそ武というものに憧れていた。おそらくこの試合は武を志すものなら何を置いても見たいものの筈だ。それを見る好機に恵まれたのだ。逃す手はない。
彼は今、自分の内政の才能を自分のスケジュールを空ける為にフル活用していた。




