NATI高校での出来事
R-15と出しましたがそこまでの描写ではないです。
・・・ただ、死者は出ます。そこだけご注意ください。
長い話を1話完結の形でまとめてあるため、話が飛んでおります。
0.
ボクは今、ある学校の中にいる。
ボクが今いるクラスは「特別なんとか」っていうクラス。
このクラスにはなんだか、いろいろ特別な能力を持った生徒が集まっているみたいなんだけど、ボク…、そんな能力なんてあったかなぁ…。
キィーンコァーン カァーンコォーン
「これって、チャイムの音か…?」
「なんだか、随分と間の抜けた音ね…。」
「……うーん。先生、遅くない?」
ボクと同じクラスの子達が話をしているのが聞こえてきた。
確かに。随分と間の抜けたチャイムだ。
そう考えていると、突然教室のドアが、バンっと、開く。
「はい!みなさん、さおはようございます。それでは、今月のじゃなかった、今日の出席を、確認しますね~!」
担任らしき人物が教室に入ってきた。
「この教室にいるのは…。」と、配られた生徒用の名簿を見る。
ボクを合わせて13人か・・・。随分、人数少なくないか?
「五十鈴 伊織さんー。」
「はーいっ!」
一番前に座っていた女の子が手を上げる。元気な感じの女の子だ。…いや、とても活発のようだ。
「霧塚 紅夜君―。」
「はい・・・。」
なんか、ムスッとした感じだな。うーん。不良なのか…?
なんだかとっつきにくそうで、話しかけるのが怖そうな男子だな。
「黒羽 志貴君-。」
「はい。」
黒羽…。有名な家系だ。あらゆる方面…、政治や経済を握っている家系。所謂、『大貴族』と言っても過言じゃない家柄。
そこの直系のお坊ちゃんなのかなぁ?この人もいろいろ話すのは気を付けたほうがいいかも。
「小波 アイナ ちゃーん。」
「・・・ハイ…。」
とても可愛らしい声だった。そして同時にどこか儚げな感じの声でもあった。声のする方を見ると、ボクより頭一つ以上小さい女の子だった。見た感じ、ハーフなのか?フランス人形を思わせるような感じの女の子だった。先生が「ちゃん」付けで呼んだのも頷けるな…。
「白峰 聖君―。」
「はい。」
うーん。なんだか苦手なタイプかな。『秀才』という感じだ。よくいる学級委員長タイプかもしれない・・・。
「曽谷町 零さーん」
「はーい。」
曽谷町?随分と変わった名前だな。まぁ、それを言うなら、ボクの名字も同じか・・・。
「千早 風香さーん。」
「はいっ!」
千早…。あの剣道で有名な家か・・・。五十鈴さんよりも随分威勢がいいみたいだな。
こう、気力が満ち溢れてるっていうか…。いかにも「武道やってますっ!」という感じの女の子だ。
「十三宮 トキ君―。」
「はい。」
ボクか…。あれ?さっきの…、曽谷町さんだっけ?なんでこっちをじっと見てるんだろう?
知り合いにいたっけ?
「早崎 手鞠さーん。」
「はい。」
えーっと、早崎ってあの有名な神社かな?早崎神社。何を祀っているのかは忘れたけど…。そこの人っていうことは…、じゃあ、巫女さんなのかな…。
「火室 海人君―」
「へーいっと。」
知らない名前だな。霧塚君と比べると、本当に『THE 不良!』って感じ。
「水城 竜哉君―」
「はい」
こっちは普通の感じの子だ。良かった―。彼とはなんだか仲良くなれそう…な、気がする…。
「美羽 瑠美さーん。」
「ハイ。」
随分、へんな感じがするな。クラスが。
それにしても、眼鏡っ子か。・・・・っていうか、胸デカっ!!…頭。良いんだろうなぁ…。羨ましい・・・。
「村神 俊也君―。」
「・・・。はい。」
なんだか『背中で語る』っていうのがしっくりする感じかな?背がかなり高いけど、何か武道やってるっぽい感じか?
千早さんが一瞬びっくりしてるように感じたけど…。
「以上がこのクラスの生徒さんですね~。ちゃんと揃ってますね!皆さん、これからこの那智高校での高校生活を満喫してくださいね~!・・・あ、自己紹介が遅れましたが、私はこのクラスの担任の『桜導 桜子』です。桜に導くで桜導。桜に子供で桜子です。宜しくお願いしますね♪」
・・・・・・・おい、担任。まずは自分の自己紹介が先なのではないだろうか…。
お互い全くしらない生徒同士だけど、後で聞いたら、ここだけは全員同じ思いだったらしい・・・。
こうして、ボク達の学園生活はスタートしたのだった。
1.
HRが終わると、ボクの前の席に座っていた千早 風香さんが話しかけてくる。前に、曽谷町さんがいるからそっちと話せばいいのではと思ったが、彼女は彼女で小波さんと五十鈴さんと話していた。
「ねぇねぇ。このクラスってなんで13人しかいないのかって知ってる?えーっと…。じゅ、じゅうさんみや君?」
だろうと思った。ボクの名字は読みにくい。
「十三宮って書いて、『とさみや』です…。よろしく、千早さん。」
「ほえー。トサミヤ君ね!改めて、千早風香です。よろしくっ!それにしてもさ、13人って変だよね~?あ、トサミヤ君と同じ数字だね?なんか知らないの?」
「・・・・・そんなこと聞かれても、ボクは知りませんってば…。」
「千早さん。そんな風におっしゃっても、十三宮さんが困るだけですよ?」
その時、横から助けの声が聞こえた。千早さんの横。ボクの左斜め前に座る、美羽瑠美さんだった。
美羽さんは、「美羽瑠美です。宜しくお願いしますね。」と挨拶する。ボク達ももう一度名乗る。
「う~ん。そう言ってもね~。他のクラスはどうなんだろう?」
「他のクラス?」
「うんうん。他のクラス。えーっと、全部で8組まであるんだっけ?」
「そうですね。私たちは0組だそうです。」
「え、0組?」
「はい。」
なんだ、0組って。今まで小中と普通の学校に通ってきたけど、今までそんなクラス一度も見たことも聞いたことも、もちろんその生徒になったことだって無いよ…。
「ゼロ組か~。なんか訳ありなんじゃなねーか?っと、水城竜哉だ。よろしくな。」
と、美羽さんの左に座る水城君。確かに。訳ありのクラスだったら、13人と人数が少ないのもうなずける。
「それより、あの担任。なんなんだろーな。」
今度は、ボクの左隣りの霧塚君も会話に参加してきた。
「霧塚 紅夜だ。あかやといわれることが多いんだが、『こうや』だ。よろしく。」
彼も名乗る。ボクらも名乗り、よろしくと言う。
さっきの続きが気になるのだろう、
「ね、というと?どういうことなの?」
千早さんが霧塚君の先を促す。
「あの担任だよ。お前等も気になったんじゃねぇの?一番最初。」
「一番最初?」
会話に参加している全員、首をかしげる。はて、なんて言ってたか?
「『今月の』って最初言ってたぞ、あの担任。ま、途中で今日のとは言ったが、おかしくねぇか?」
「あ…。」
「あのセンセイ。どこから来たんだろうね?」
不意に、儚げな声、鈴のような声がした。
「小波アイナです。よろしく。」
そこには、小波。そして、五十鈴伊織さん、曽谷町零さんがいた。
「五十鈴 伊織です。よろしく~。」
「曽谷町 零です。」
2人とも自己紹介をする。
「アイナちゃん。どこから来たのかというのは…。」
と、美羽さん。質問された小波さんは、
「さっき、センセイ追いかけたら、どこにもいなかったの…。」
「アタシ達も一緒に探したんだけど、見つかんなくてね~。」
五十鈴さんも小波さんに同意するように頷く。さらに驚かされたのは、曽谷町さんの言葉だった。
「他のクラスはどうかと思ったんですが、見あたらないんです…。」
「・・・・・・・・・・」
全員黙る。
ボク達とは別に話していた、黒羽君、早崎さん、火室君、白峰君、村神君もこちらを向いているのがわかった。
・・・その次の行動は…。
火室君と、村神君が同時に教室から飛び出していく。
霧塚君と、白峰君は窓の方に歩み寄り、窓を開ける。
4人は「どこだよ、ここは…。」
とつぶやいていた。
廊下に出た2人はまた教室の中へ戻ってきて、窓際の2人はそのまま外の様子をうかがう。
ボクは、ある事を思い出す。そう、それは、
「ボクは、ここの教室に入った記憶が無いんだけど、みんなはどう?」
そう。この教室に入ったこと。何も覚えていない。
そして、ボクだけなのか。ボクは、自分の名前以外、記憶が無い。
記憶が無いと言っても、基本的な生活を送るのに、不便なことは何もない。
『ボク』にとっての常識は全て覚えている。けど、それを『いつ』知ったのか、『どこで』知ったのか、それらは覚えていなかった。
そして、ボクと関わったはずであろう人のことも…。親のことも家族も覚えていなかった。
突然、教室のドアが勢いよく開く。
「ふん。全員揃っているようだじゃな。それでは、今から講義を行う。」
そして入ってきたのは、初老の男性だった。
「わしは、那智 正。この高校の理事長じゃ。そして、君ら0組の担当教師の一人でもある。」
全員ボーっとしている。それは当然だ。いきなり入ってきたと思ったら、その人は突然、「自分は理事長だ」と名乗り、さらにはボクらの担当教師だとも言う。
「君らは、特別な能力、『異能』を持っているため、このクラスに集まったのだ。全員。仲良くクラスを運営するようにな。」
全員、今の状況がよく理解できないまま、講義は始まったのだった…。
当然だ。「君たちは『異能』を持ってるんだ」っていきなり言われたってなぁ…。
ボクは全く心当たりなんてなかったけど、どうやら何人かは『異能』に心当たりのある様子だった。
2.
あの印象に残る入学式から、4か月が過ぎた。
今は7月。
もうわかっていることだけど、この学園は、ちょっと歪である。
そんな学園でボク達0組、学園では「異端クラス」と呼ばれることが多い。
では、どうして他のクラスについてわかるようになったか。それは、教師から聞いたというのもあるが、他のクラスとの交流もある程度行われるからだ。
0組は、学園の理事長。那智 正の特別な講義がある以外、一般の学生と同じ授業を受ける。科目は英語や数学、古典、科学や歴史・・・。もちろん体育や音楽だってある。体育などの一部の授業は他のクラスと合同で行われることが多い。
最初、ボク達は教室へどうやって入ったのかとか、全く覚えていなかった。それはどうやらボクらの担任である桜導 桜子先生による仕業らしい。桜導先生の異能は≪記憶操作≫と呼ばれるもの。桜導先生はボクらを驚かせようとしただけだったみたいだけど、その異能のおかげでボク達は最初大変な目に遭ったのだ・・・。
この話は、理事長の那智先生から聞いたことだ。そして、その桜導先生の異能の破り方は「認識」すること。ボク達は理事長から、「この異能を使われたことを認識する。そうすると、それは破ることができる。」ということを聞いた。実際に、ボク達は、最初はうまくいかなかったけど、なんとか全員、桜導先生の異能を破ることに成功したのだった。
そんなボク達の目の前に現れたのは、巨大な校舎。3学年それぞれ別々の校舎に分かれていて、それぞれ校舎に500人ぐらいの生徒を抱えている。ボク達0組はその学年の棟とはまた離れた棟にある。理事長によると、僕らの上の学年にも同じようなクラスがあり、ボクらはその先輩達と同じ校舎で過ごすことになったのだった。
この那智高校で授業を受け始めて4カ月・・・。
桜導先生の異能を破ったことでみんなはそれぞれ自分の過去などいろいろ思い出したようだったけど、ボクは何も思い出せないでいた。まぁ、世の中の常識の部分とかならちゃんと分かっている。ただ、ボク、「自分」に関わることとなるとよく思い出せないのだ。桜導先生もやりすぎたかと思ったらしく、いろいろケアをしてくれたんだけど、全くダメだった。
もう、それでもいいかと思い始めた。実際、ボクはこの環境にちゃんと馴染めてきている。
それには、このクラスのメンバーについてもわかってきたことが大きいだろう。
加えて、彼らの『異能』についても大体は理解出来てきた。まだ何人かはよくわからない人もいるんだけど・・・。
まず、ボクによく絡んでくる、千早 風香さん。
彼女はやはり、剣道で有名な千早家の娘さんらしい。彼女本人は次女で上に姉と兄2人。それから弟が一人いるらしい。
小さい頃から剣道をやっていて、剣道界だけでなく、武道の世界では千早さんの名前は有名なんだそうだ…。
彼女の異能は、≪風殺陣≫と呼ばれるもの。刀と風を使いこなし、鮮やかに相手を倒すことが出来るんだそうだ…。
ボクはいつもその≪風殺陣≫の餌食にはならないので、どのくらいの威力があるのかはしらないが、彼女の異能の餌食となる人達である、村神君や、霧塚君、火室君に言わせると、どうやらとても『危ない』レベルらしい…。
風香さんによく犠牲にされる一人、霧塚 紅夜君。
彼は怖そうな外見をしているが、意外と優しくて、頼りになる存在である。この0組ではその性格と見た目を合わせて2で割ったからなのか、よくわからないけど、いつの間にか「番長」と呼ばれている。
実家は霧塚というこれまた武道で有名らしい(ボクは知らなかった)けど、本人は家のことは全く話さない。この間、街で買い物をしていたら、霧塚君のお姉さんという人物、霧塚 藍さんと出会った。藍さんは武道ではとても有名な人らしく(当然僕は知らないけど…)同じ武道の世界の娘である風香さんにとっては、あこがれの存在らしい。とてもカッコいいお姉さんだったけど、ボク達はその時の霧塚君が藍さんを見て、あんなに恐れている姿を始めてみたのだった・・・。
彼の異能は≪狂戦士≫というそうだ。本人は過去に何かあったらしくその異能を嫌っているようで、なかなか教えてくれなかったけど、姉の藍さんに異能の名前だけようやく聞けた。そして、同時に「あいつに何か異変があったらすぐ逃げな」という忠告も受けたのだった。
もう一人、風香さんの犠牲となる火室 海人君。
彼は、本当に不良だったらしい。前に通っていた中学では素行を繰り返していたため、停学になることも多かったらしい。何度か退学も経験したということをしれっと言っていた。異能は≪着火≫。なんでもどこでも火を付けることができるらしい。ただ、小さい頃はそれで怪我をすることも多かったようだ。また、その異能のせいでいろいろ問題もあったらしい・・・。黒羽志貴君とよく一緒にいる一人でもある。
そして、風香さんの≪風殺陣≫の猛攻を凌ぐことが、唯一クラスで出来る、村神 俊也君。
村神家は、ボクも知っている。黒羽家の護衛と言われている家だ。村神の家の人たちはものすごく強い。いろんな武術を修めており、どれも達人級だとか・・・。彼はその村神家の者なのだからか、黒羽 志貴君とよく一緒にいることが多い。2人とも、「昔から知ってる」って言っていたから、護衛としてなのか、幼馴染なの、かな?どっちだろうと思って幼馴染なのかと黒羽君に聞いたところ、「まぁ、そんなもんだ」と言っていた。千早さんに聞くと、村神君はその中でも異常の強さらしい・・・。異能は良くわからないけど、あの体術なのかな・・・?
その村神君が一緒にいる黒羽 志貴君。
泣く子も黙ると言われる黒羽家の次男。性格はボクの最初の予想(かたい感じ)の斜め上を行っていて、本当はちょーフランク。
彼とは結構良く話すほうなんだけど、他のクラスの人たちや上級生、教師などは黒羽家の人間ということで周りからは結構壁を作られることが多いか、または取り入ろうとしてくることの方が多いそうだ。彼を含め黒羽家は6人兄姉弟妹らしく。家では自由に(もっと正確には自由奔放に)暮らしているらしい。彼は次男と言っていたけど、家族について聞いたら、「兄貴が一人に姉貴が一人、三つ子の弟と妹、それからもう一人弟がいる。姉さんと妹は怒らせると後が怖い。ものすごく怖い。もし会ったら全力で逃げろよ…。」と、言っていた。
とりあえず、この5人かな。今のところ、ちゃんと過去や人となり、異能も含めてよくわかっているのは・・・。
今日は、もうすぐ夏休みということもあって、夏休みどうするかという話しと、その夏休みの前に生徒の前に立ちはだかる巨大な壁。つまり、「期末試験」に向けて話し合いをしようということになった。
那智学園から15分ほど歩くと、大きな街に出る。
そこには大きなショッピングモールなどがある。ボク達は、そのショッピングモールの中にあるハンバーガーショップで小会議を開いていた。
お題は、「期末試験、どう乗り切るか」だ。
・・・そう、そのまんまだ。
「えーっ。皆さんもおわかりでしょうが、もう後、1週間で!期末試験ですっ!世紀末だぁーっ!!」
と、話を切り出したのは、火室君だった。
「全く、火室は・・・。あんたはいっつも寝てるか、さぼってるかだから、こうなるんでしょ?」
と、すかさず五十鈴さんが突っ込む。
「確かにそうだな・・・。寝てても、起きても勉強ということはまずはしないよな。海人は。だからこんなことになんだよ、お前。」
と、学園以外での火室君の生活もよく知る黒羽君の言葉に、「うっ!」とうずくまる火室君。
「海人・・・。いい加減自分で勉強するようにしろ・・・。」
今度は同じように火室君の私生活を知る村神君。
「・・・カイトだけジャナイ。アイナもジュギョウ、よくわからない・・・。」
小波だ。彼女は小波 アイナ。フランス人形のような彼女は、フランス人の母と、日本人の父親を持つハーフ。フランス人形のような容貌を持っていて、クラスは言うまでもなく学年、学園のお人形だ。ずっとフランスで過ごしたきたこともあり、小波の日本語はおぼつかない。年齢もボク達より年下なのかと思っていたら、本当に年下だった。14歳だそうだ。いいのだろうか、これは…?
そんな小波の勉強などを見ているのは・・・、
「アイナちゃん、わからないところはちゃんと教えてあげますから、聞いてくださいね。」
美羽 瑠美だった。
美羽 瑠美。美羽さんはクラスのマドンナ的存在であり、この0組の委員長でもある。
美羽さんが、実際に小波や五十鈴の勉強を見ているのだ。この頼りになる委員長は、このクラスの才媛参謀という立場にもある。なぜ参謀なのかと言うと、これまでわずか4カ月ではあったけど、彼女の出してきた提案はどれも作戦というよりも戦略ともいえるものばかりだったからだ。0組の立役者でもある彼女の異能は、不明。まだ何も言ってくれないんだよね・・・。ボクの予測では、その作略を立てる能力が彼女の異能なんだと思う。
「瑠美―。アイナだけじゃなくて私のも見てよぉー・・・」
今度は五十鈴だ。五十鈴 伊織。彼女の異能は≪音≫。
鈴の音の様な音から様々な50音以上の音を織りなす能力だ。
彼女は、そう。本物のアイドルである。彼女は学業をしながら異能を活かしアイドル活動もしているのだ・・・。
そんな多忙な生活を送っている彼女は、時々学校を休むこともある。
「・・・美羽。小波や五十鈴の勉強を見るのは構わんが、あの馬鹿共の勉強は見なくていいぞ。」
と、白峰君が霧塚君と火室君の2人を指さす。
白峰 聖。このクラスの副委員長を務めている彼は、成績優秀、スポーツ万能の生徒だ。中世ヨーロッパの騎士のような態度をすることが多かったりする彼の異能は、≪聖騎士≫。ボク達0組は通常の授業の他に学園の理事長、那智 正による特別授業が追加されるのだが、特別授業の内容は「『異能』を使った特訓」。その特訓の中には異能者同士の戦いも含まれる。彼の異能≪聖騎士≫は、相手を自分に引き付け、味方に近づけさせないという能力だ。
馬鹿共と言われた霧塚君と火室君は「あぁっ!?」「そ、それは困るっ!!」とそれぞれ違った反応だ・・・。
霧塚君は、「俺は別に誰にも勉強なんて見てもらわなくても平気だ。ガキ扱いするな白峰!」と怒り、火室君は「えぇ・・・。委員長、助けてー。あ、手鞠さぁ―ん・・・。ノート・・・。」と、隣にいた早崎さんに助けを求める。
早崎 手鞠さん。
彼女の実家は『早崎神社』というとても有名な大きな神社で、彼女はそこで巫女をしているそうだ。
彼女の異能は、生まれ持っての才能でもある、≪見鬼≫。用は見えないものが見えるという能力だそうだ。他にもそのボク達が言う『幽霊』を退治することも出来るそうだ。それを聞いていた小波が「オンミョージ。だね。」と、言っていた。早崎さんは「自分にはそれほど力は無い」と言うが、昔から彼女のことを知っているという黒羽君や村神君によると、「そんなことはない。下手すると悪霊を取り憑けられる。」だそうだ。
早崎さんの能力に恐怖を感じたが、アイナの「オンミョージ」と言ったその方にも驚いた。一体、フランスではどんな生活をしていたんだ…。
早崎さんは、「自分でやりなさいよ。」と言って、風香さん達と話している。
火室くんは、「竜哉―。一生のお願いだ。助けてくれ!」と、水城君に助けを求める。
水城君は、「火室。そろそろ現実を受け入れろよ・・・。」と、静かに言った。要するに、「がんばれ。」と。
「がぁーーーーん。」
火室君はテーブルに突っ伏す。
「悪いな、火室。」
と苦笑する水城君。
水城 竜哉。
彼はボクの0組の中で一番の友でもある。水城君は、黒羽君達のことを知っている様だけど、黒羽君は何も言わない。というより、むしろ黒羽君は水城君のことを敵対視しているようだった。村神君いわく、「水城は、志貴の弟で由希っていうのがいるんだが、そいつの友人だ…。」だ、そうだ。水城君の異能は、名前の通り≪水≫を扱うこと。
「とりあえず、期末テスト、頑張んないとね!」
そうやって今回のテスト前の会議を「頑張ろう!」という一言で締めてくれちゃったのは、曽谷町さんだった。
曽谷町 零。
ボクは、彼女を全くと言っていいほど、「知らない」。
話を聞いても、なにも彼女の情報がボクの中に入ってこないのだ。他のメンバーはちゃんと知っている。理解しているらしい。そして、ボクも何度も聞いている。その時は覚えていても、すぐ忘れる。何度も聞いてその時にわかってもいつの間にか「知らない」ことになってしまうのだ。
おそらく、それが彼女の異能なのだろう。でも、どうしてボクだけ…?
そして、ボク。
名前は十三宮 トキ。知っているのは、それだけ。
ボクは何の異能を持っているのかも知らない。
ボクは、自分のことを「知らない」。
このクラスでの一番の異端はボクだった。
3.
ハンバーガーショップでテストの相談をした帰り道。
ボクは、その曽谷町さんと2人だけになった。
「は、はじめてだね。一緒に帰るのって。」
ボクは曽谷町さんに話かける。
「・・・・・・。」
曽谷町さんは黙っている。
「曽谷町さんは、どうしてこの学園に来たの?」
「えっ?」
曽谷町さんがびっくりして顔を上げる。そんなに驚くことなのかな。
まぁ、そんな話をいきなりされても困るか。普通なら。でも、ボクはなんとなく。そうなんとなく気になったんだ。そこが。
「・・・・・・兄を捜しに。」
曽谷町さんはボソッと言った。
・・兄?黙っていては悪いと思って、
「…へぇ、曽谷町さんって、お兄さんいるんだぁ~。初耳だなぁ。いくつなの?」
と言った。
「・・・・・高校一年。」
「同い年なの?」
「・・・・うん。年子なの。兄さんが四月生まれで、私は三月生まれ。・・・・・同じこの那智高校なの。」
「へぇ。そうなんだ~。兄妹ってことはさ、名前一緒だよね?でもわからなかったの?」
「う、うん。」
「へぇ~。そうなんだ…。大変そうだね…。」
そう言って、曽谷町さんの方を見るとなぜか、彼女は驚いた顔をしていた。…あれ?ボク、なんか言った?
「・・・・・・・そっか。・・・・・あの、十三宮君。…私、よるところあるから、先に帰って。・・・・じゃあね。また明日。」
そう言うと、曽谷町さんは学園の方へ走って行った。
なんだったんだろう?どうしたというのだろうか?
「・・・・・・・ボク、何かしたかな?」
でも、いくら考えても、何も思いあたらなかった。
4.
翌朝。
ボクは、学園への道を歩く。今日は0組の誰とも会わない。
いつもだったら、火室君とか、水城君と会うはずなんだけどな・・・。
教室に入った瞬間。誰とも会わなかった原因がわかった。
「・・・・・・・なんだよ、これ。」
ボクと、曽谷町さん以外の机の上には、花瓶が置いてある。
教卓にもだ。
菊の花が、花瓶に生けてある。
その花瓶の置いてある机のセットになっている椅子には・・・、椅子には・・・。
「・・・・・・・・なんなんだよ、・・・コレッ!!」
千早が、霧塚が、白峰が、小波が、美羽が、黒羽が、火室が、早崎が、水城が、村上が、五十鈴が・・・・、座っていた。
死んだ状態で。
教壇には、桜導先生が立っていた。彼女も、もう、死んでいる。
「・・・なんで、・・・・どうして・・・、こんなことを、いったいだれがっ!!」
誰がって、わかってるじゃないか。もう、決まってるじゃないか・・・・。彼女しかいないじゃないか。
「・・・・・・・・・・・来たんですね。十三宮君。」
――――――曽谷町 零。
彼女が立っていた。
「曽谷町さん・・・。どうして・・・?」
ボクは震える声で曽谷町さんに訊ねる。
「『どうして?』ですって?・・・・・そんなの、わかりきっているじゃないっ!!」
・・・・そんなの、そんなのわかるわけない・・・。彼女は一体どうしたというのだろうか…。
「なんで!なんでこうなるの!?どうして!?・・・私は、…私は、ただ、兄さんと一緒に…。」
彼女は突然、大声で泣きだしながら叫んだ。
なんだ?何が起こってるんだ?
「兄さんと一緒に居たかった。ただ、ただそれだけなのにっ!!それだけなのにっ!!・・・それだけを、それだけを『あの人に』願っただけなのに!!どうしてっ!なんでいつも!なんでいつも毎回毎回こうなるの!?」
曽谷町さんの絶叫が教室に響いた。もしかしたら、校舎全体。いや、学園中に響いたかもしれないと思わせる絶叫だった。
そこに、第3者が現れた。
「零よ。それが、お前の願ったことだろう…。」
那智 正。この学園の理事長。彼自身も異能者である。その異能は、≪願いの成就≫相手の願い、望み全てを叶えるものだ。ただし、それと引き換えに、「彼自身の望みを叶えなければならなくなる」という異能だ。那智は自分の望みを叶えることは出来ないのだ。
「り、理事長・・・・。」
ボクは驚いている。なぜ、この人がここに?今、「願ったこと」って言ったのか?曽谷町さんが願った?兄と一緒にいることを?
兄・・・・?まさか・・・。
「トキよ。なぜ、驚くのだ?・・・妹が兄と一緒にいることを願っているのに、なぜ兄はその願いを拒む?」
理事長は何を知っているんだ?・・・・・ボクは、一体?
そんな中、動きだす曽谷町さん。その手にはナイフ…!?
「兄さんと、刻兄さんと一緒にいられないなら・・・、シンダホウガマシ・・・・!!」
ヤメロ!
その時、何か、ずっとボクの頭の中で引っかかっていたものが取れた、靄が晴れたという方がいいのだろうか、そんな感じがした。
――――――――そうだ、全部、思い出した。
「止めろ、零!!」
―――俺は、零が持っていたナイフを飛ばし、そのまま零に当て身をしそのまま勢いで零の背後に回り、零のうなじに手刀を叩き込む。
「うっ・・・・。」
零は、そのまま動かなくなる。この方が、後が楽だ。
「どうして、こんなことになったのか、説明してもらおうか。那智 正理事長。…いや、こう言って行った方がいいか。…久しぶりだな、爺さん。で、いきなりだが、どうしてこうなったのか説明してくれ。」
ボクは、俺は、十三宮 刻は、思い出した。全て。この目の前にいる人物が誰なのかも。
「ほぉ。思い出したか、刻よ。そういえば、十三宮の天才と呼ばれ、神童とも呼ばれていたな。お前は。さて、わしはお前に勝てるかの…。」
「ふざけるのもいい加減にしろ。爺さん。これは一体なんだ?どうしてこうなったんだ?」
「やれやれ。」
この爺さんはいつもこんな感じだ。だから母さんもあんな性格になったんだろうな…。と思った。そこで俺は意識をもう一度那智正に戻す。今は、この爺さんと対峙しているんだ。忘れるな。
「さて、少し、昔の話をするかの。」
「は?」
「老人の思い出話だ。付き合え。」
そう言って、話し始める理事長。
この話を見るのはもう五度目かもしれない。
最初の、事の発端は、曽谷町 零が、理事長室に現れたことだったそうだ。
曽谷町零。本名、十三宮 零。俺の、十三宮 刻の実妹だ。零は小さい頃、十三宮の家にいても、異能が強く『危険因子』と判断されたことで十三宮の奥屋敷に幽閉されていた。そんな零を幽閉していた隔離部屋から引っ張り出したのは俺だ。あの時以降、零は俺の後をしがみついて歩くようになった。その後、両親のある事情により、いったん零と離れることになってしまったのだ。それ以降なんどかは話したことはある。その時の零の名前は、『暁 零』だった。
零は、この那智高校に来れば俺に会えると思い、信じ、この学園に入学した。でも、その肝心の俺は零を覚えていなかった。
その時の俺は、「妹がいたんだけど、妹と同じ名前か~」と、本人を目の前にして言ってしまったのだ。自分でも最悪だとは思う。自覚はある。
その言葉を聞いた零はショックを受け、彼女の異能、≪零への回帰≫という、異能を使い、今へ至るループを生みだしてしまったのだ。その手伝いをしたのが、今俺の目の前にいる男。俺と、零の祖父、那智 正だった。
「思い出話っていうより、事実話して、人の古傷抉ってるようにしか聞こえないんだが…?」
率直な俺の感想。
「そうかの?まぁ、これは変わるかもしれんの。お前が願えば、な。」
「・・・は?代わりに俺が爺さんの願いを叶えろと?…俺、異能わかんないんだけど?」
「そんなわけないぞ。お前も十三宮の人間だからな。どうせ忘れたふりをしているんだろう。全く遥に似よって…。」
ち、バレたか。…懐かしい名前だ。遥。十三宮 遥。俺と零の母で、この人の娘。…もう故人だ。
「刻。わしの願いを話そう。わしの願いは、『異能を持つ者を無くすこと』だ。無くすと言っても、殺すわけではない。もう一度やり直したいんじゃ。異端はわしだけで十分だからの…。」
何も聞いてもいないのに話しだす爺さん。
「・・・それで零や俺な訳ね…。十三宮は『時』を使える異能が産まれることで有名なんだっけ?・・・・わかったよ。俺が『異能』使えばいいんだろう?」
「どうなるかは保障はせんがな。」
「それはこっちの台詞だ。」
爺さんと睨み合う。
「…ま、爺さんの願いは聞けないな。…異能を持つのは俺だけでいい。行くぞ。」
俺は言う。俺が異能を使えば、時間は巻き戻る。零とは違う戻し方だけど。
「・・・そうか。刻よ。この学園。どうだった?」
「記憶ほとんどなかったけど、まぁ楽しかったよ。」
「なら良かった。」
―――――そして俺は自分の異能を使った。
5.
四月。
俺、十三宮 刻は妹の零と共に、那智学園高等学校へと進学することになった。
那智家という十三宮家と縁のある家の高校だ。
クラス分けが張り出されている。
俺は零と同じクラスだ。3組。
良く見ると、かつてのループで一緒だった0組のメンバーの名前が全員ある。
そう。0組は、無い。
俺の異能は、まぁ、役に立ったわけだ。
「兄さん。教室は5階だって。」
と言って走って行く零。零はあの時の事を何も覚えていないようだ。
しばらく歩いて周りを見ると、見知った姿がちらほらあった。
千早が、霧塚が、白峰が、小波が、美羽が、黒羽が、火室が、早崎が、水城が、村上が、五十鈴が、いつもの制服、今着ているのと同じ制服を着て歩いている。
よく見ると、黒羽の横には志貴と似たような感じの男女がいた。話にあった志貴と三つ子という、後の2人だろうか。さらに、早崎の横にはこちらも知り合いらしい女の子が。火室の肩に腕をかけて歩く男子も…。
そっか、俺の願い、叶ったんだ…。
「…俺はこれからも一人、異能で居続けるよ。『異端』は1人でいるから異端。なんだろ?」
問いに答えてくれる者は誰もいない。
…ま、それでいいさ。