<吸血猫再びⅠ>
今回は短めですね。
本当はこの話はⅠⅡ分けないで書こうと思ってたので
ヒュンッ、ヒュンッ。
風を切る音が聞こえる。
窓を開いた先エルナードの瞳に写ったのは、寒い中、起きてすぐ始めたのか薄着で剣を振るうリノだった。白い息を吐きながら絶えず腕を下ろすその姿は、過去の自分と重なって懐かしく感じさせた。
出会ってすぐのときと比べると、彼女の剣の振りにはキレができていて、自然と口元が緩む。
「オレも頑張んないとだな……」
エルナードはそっと呟いた。
――午前7時。ギルドの会議室にはエルナード含む5人が集まっていた。
「今回は、今後のことについての話し合いをしようと思います」
長机の一番端の席に座るユウカが、司会となって話を切り出した。
「まず、いまセンスくん、ユマちゃん、ヘネスたちが単独で行動しています。あちら側でなにか手掛かりをつかめたら、おそらく帰還して報告でもしてくれると思いますが、こちらも行動しなければなりません。《赤い森》の事もあります。一刻も早く、敵の情報を集める必要があります」
「でもよ、いまはもうヒントがないんじゃねえのか? アルフレットの方も不発だったんだろ?」
ユウカの隣の席に座っていたドレイクが口を挟んだ。
「大丈夫。直接的に情報が得られなかったけど、ニーナの記憶が戻れば、きっと大きな一歩になるはずです」
ドレイクがむっとした表情になった。
「というわけで、エルには、ニーなの記憶のほうを頼むわね?」
「ああ。任せてくれ」
ユウカと向かいに座るエルナードが相槌を打つ。
「でもよ、エルナードは戦えるような状況じゃないだろ?」
またもドレイクが口を挟んだ。
「大丈夫だ。左手でも戦える。それに、ニーナの記憶を取り戻すついでに、腕をどうにかする方法を調べようと思ってるんだ。オレはまだ、諦めてないからな」
「諦めてないったってよ……」
絶えずドレイクはむっとした表情をする。
「とりあえず、始まりから見直してみようと思うから、初心に帰るということで、オレは、今度は『スリューダ』にいってみようと思う」
「『スリューダ』って、エルの故郷の?」
「ああ」
ミルの森の更に奥、山を越えた先の小さな村「スリューダ」。そこでエルナードは姉とともに幼少のときを過ごし、そして剣の腕を磨き続けたのだ。
そこに戻れば何かいい手がかりが、発想の転換があるかもしれない。そう思ったのだ。
それに、記憶がたしかではないが、アイリスもかつてはあのあたりに住んでいる事があったという話をしていた事があったと思われる。もしかしたらニーナの記憶の手掛かりもつかめるかもしれない。
「まぁ、でもそのまえに、1つ仕事を請けたから、そっちに行かないといけないんだけどな」
「「仕事?」」
全員の声が揃い、エルナードに視線が向く。その視線に気付くや否や、エルナードは一歩下がった。
「……ミルの森でのシェアキャット夫婦の討伐。しばらく森のハンターが襲われてるからって」
「なんでそんな仕事請けたの? そんなに時間があるわけじゃないでしょ?」
ユウカが心配そうに言う。
「腕が鈍っちゃってるかもしんないだろ? だから、少しは運動しないと戦えないなと思ってさ。オレ、絶対にもう足手まといにはなりたくないからさ……」
左のこぶしを眺めながら言う。
「パーティメンバーは? 誰と組むの?」
「まだ、決めてない。とりあえずは最近頑張ってるリノが妥当かなって」
――ドタンッ!
ユウカが突然立ち上がる。
「だったら、私と組みなさい。私も久しぶりに頑張っちゃうから」
「ユウカが? 別に構わないが、ギルドの事は誰に任せるんだ? オレだって仕事に行くのに」
エルナードもユウカがついてくるのは嫌ではないのだが、さすがにギルドの事も気になってしまう。
「大丈夫よ。リノちゃんに任せるわ!」
「え? え?」
リノはいきなり自分が会話に登場し、動揺してキョロキョロとしている。
「それは余計に心配なんだがな……」
エルナードは苦笑いで返す。
すると、今度は横から声が張り上げられた。
「ちょっと師匠、それは聞き捨てなりませんよ! 決まりました。私がユウカさんの代わりを務めます! 絶対に見返してやりますから!」
「あ、あぁ」
例の如くエルナードは1歩後退する。
2人のやり取りを見て、ユウカはクスクスと笑っていた。
エルナードは結局、最後までユウカに遊ばれ続けるのだった。