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オバケちゃんは透明で、人魂みたいな形をしていて、大きさはピカチュ○くらい。当たり前のようにこの部屋に憑いているけれど、実害はないので座敷童のようなモノかと思い、放置することにした。今は目の部分と口の部分が丸くくりぬかれた白いシーツを頭からかぶっている。鏡の前でオバケポーズ ―オバケの真似をして!といったら万人がやるアレ― をとって、ご満悦だ。
「大家さん、ありがとう! オーダーメイドの服をもらったのは初めてなの!」
オバケちゃんのいうところの「大家さん」とは私のことだ。オバケちゃんにとって、この部屋の住人は常に「大家さん」なのだ。
「オーダーメイドの服」というのは私があげた古いシーツ。オバケちゃんの大きさにあわせてシーツを切ってあげただけだ。4等分に切ったので、即席で4枚の服ができあがった。オバケちゃんはそれに自分で目の部分、口の部分に穴をあけた。
「うん、似合ってる。可愛い、可愛い」
適当に相槌をうってやると、オバケちゃんは照れている。
透明だから顔が見えるわけじゃないけれど、全体的な表現? が豊かで、オバケちゃんの考えている事は手にとるようにわかる。
ぽむん、と背中に柔らかな弾力が飛びついてきた。
オバケちゃんは甘えんぼうだ。
前の住人は、よほどオバケちゃんを甘やかしたとみえる。
「ねえねえ、大家さんもお菓子作る? 前の大家さんは、お菓子作ったよ?」
前の住人はお菓子作りが趣味だったのだろうか? かなり女子力が高そうだ。
オバケちゃん、そんな期待に満ちた目でじっと見あげないでよ。
「お菓子? うーん、お菓子はあんまり作ったことがない」
私が正直に答えると、オバケちゃんはしょんぼりしてしまった。
「オバケちゃんはお菓子が好きなの?」
私がきくと、オバケちゃんはうん! と元気よく答える。
あのね、プリンが特に好きなの! 目をキラキラさせて(いや、目が見えるわけじゃないけれど、そんな感じがする)いわれると、なんかもうプリンを作らなくちゃ、と思ってしまう。
私はお菓子作りどころか、料理すらあまりしない。仕事が忙しくて、毎日残業。ビールとつまみで夕ご飯は終了。コンビニ弁当の日も多い。オヤジか、私は。20代の……そこそこまあまあほどほどの乙女なのに。
プリンぐらい、私だって。
見たことも無い前の住人にライバル心(なんの?)を持ち、久しぶりに暇な日曜日、お菓子作りに奮起した。作り方がよくわからなかったので、市販の簡単にできるプリンの元を使ってみた。めんどうなので、小分けもせず鍋ごと冷やしてでかいプリンを作った。
結果、オバケちゃんはものすごく喜んだ。
「これ、すごく美味しい! いつもの茶色い苦いヤツが無くて、すごくすごく美味しい!! 大家さん、大好き!」
茶色い苦いヤツってカラメルのこと? あー、カラメル入れるのを忘れてた……。
でも、オバケちゃんがあんなに喜んでいるから、よしとしよう。私の女子力もまんざら捨てたものじゃない。
勝った!!
私は勝手に前の住人に勝利宣言をした。
しかし、私は前の住人の実力を甘くみていた。
甘ーく。